とある碧空の暴風族(ストームライダー)
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出会い
Trick03_なんだこの炎は!!
「追いついた!」
西折信乃は路地を抜けて白いワゴン車に乗り込む男の姿を見た。
その車からは子供の泣き声の混じった悲鳴がかすかに聞こえた。
距離にして200メートル。西折が追いつく前に車は発進した。
(車が加速する前に止まってもらう!)
インラインスケートの速度を上げ、車を追い越して、そこから・・
「路地を出ましたわ!」
「子供はどこにいるの!?」
テレポートを使い現れた白井と黒子。
直後、熱気を感じて道路の方を見ると、そこにあったのは道路を横切るように上がった
“燃え盛る炎の壁”だった。
炎の壁にぶつかりそうになった白いワゴン車がハンドルを切り、急ブレーキをかけたのか
スリップして道路の端へと止まった。
止まった場所はちょうど道路脇に植えている木の間に挟まるようにして止まり、
車は身動きが取れない状態になっていた。
(よし!)
西折は走った車を無事に止めるために狙って車を木の間にスリップするように
仕向けた。
自らの足に着けている装置を使って。
「なんだこの炎は!!」
「なんで追手がもう来てるんだよ! 100万円で能力者相手じゃ割に合わねぇ!!」
「ガキなんて放って逃げっぞ! 殺されてたまるか!」
止まった車からは焦ったように次々に出てきた3人の男たち。
誘拐犯には他にも仲間がいたようで車で合流していた。
「こっちの二人は任せて!」
「西折さん! そちらに向かった1人をお願いしますの!」
犯人確保を優先し、御坂と白井は犯人の一人を西折へと任せた。
3人の男たちがそれぞれの傍を抜けて逃げようとしていたが
「このガキどけ!」
相手の後ろにテレポートして跳び蹴りをして
「引っこんでろ! 邪魔だ!」
ナイフを取り出して向けた瞬間に感電させ
「発火能力者か知らねえが俺らの邪魔ブラベッ!」
殴りかかってきた男が言い終わる前に頭を蹴り抜いた。
瞬殺で3人の誘拐犯が地面へと倒れ込んだ。
(やばい! 俺も逃げないと!)
3人の死角となっていた車のドアから1人の男が出てきた。
気付かれないよう音を立てずに走った男、だが・・
(しまった! ガキを人質にすれば! でも車からはもう離れているし・・ん?)
目に付いたのは2人の少女。先程自分達が出てきた路地の所で、2人は肩を大きく上下して
息を整えていた。
「すごいですね」
「一瞬で終わっちゃった」
つぶやいたのは初春と佐天。走ってきたので息が荒い。
ブレーキの音を聞いて急いできた二人だが、ちょうど男たちが襲いかかって倒れ込む
瞬間を見た。
その光景に目を奪われていると
「ちょっと大人しくしてもらうぜ!」
2人に迫りくる男がいた。男からは明らかに悪意があり、初春と佐天は
本能的に恐怖して動けなくなってしまった。
「きゃーっ!」
悲鳴の方を見ると初春と佐天に掴みかかろうとする男がいた。
「初春! 佐天さん!」
「しまった!? なんとかしないと!」
御坂は電撃の槍を、白井はテレポートの演算を始めた。
しかし、二人が行動するよりも先に、襲いかかった男の姿が消えた。
次に聞こえたのは壁に何かが激突する音。
「危なかったですね」
「「え?」」
襲われかけた2人は、恐る恐る目を開けた。
2人の前にいたのは足を振り抜いたポーズを取った西折だった。
音がした方を見ると襲いかかった男が倒れる。
先程の音から考えて壁に激突したのだろう。
「怪我はないですか?」
「は、はい、大丈夫です。佐天さんはどうですか?」
「私も大丈夫」
「それはよかった」
安堵する2人。しかし、白井と御坂は驚いていた。
西折は私達の後ろにいたはずだっだ。
佐天たちとの距離は10メートル。男が2人を襲うまで1秒の時間もなかったはずだ。
(距離を一瞬で移動しましたの!? やはりあの方はテレポーター?)
「風紀委員の・・テレポーターの方」
「は、はい!」
「誘拐犯の拘束は任せていいですか? 私は子供の無事の確認をします」
「わかりましたわ! お任せください!」
白井は突然呼ばれて驚いたようだが、西折の頼みは風紀委員の仕事なので
快く了解した。
西折は車へと向かった。ちょうどその時に車のドアが開き子供が出てきた。
縄で縛られていなかったために自分で出てきていた。
特徴の通り、子供は赤い髪をした、
そして顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにした女の子だった。
西折は子供に近付き、膝を付いて同じ目線になって優しく話しかけた。
「≪氏神ジュディス≫ちゃんだね?お兄さんは君のお母さんに
頼まれて探しに来たんだ。
恐い思いをしたみたいだけど、もう大丈夫。お母さんの所に帰ろう」
「お"母ざんは、ヒック。私のごとな"んで、嫌いだもん。探すはずないよ、ヒック」
涙のせいでちゃんとしゃべれず、少女は嗚咽を交えながら言った。
「こんなことないよ。周りの大人はジュディスちゃんは家出と考えたみたいだけど
お母さんは『誘拐だから急いで探して』ってお兄ちゃんにいったんだよ。
そんなお母さんが嫌いと思ってるはずないよ。
けんかしたら、ちゃんと仲直りしないといけないし、
ジュディスちゃんはいい子でしょ? だから帰ろうよ、ね?」
「う・・ヒック! うわーん!!」
それを聞いて安心したのか、西折に抱き付いて大きな声で泣きじゃくるジュディス。
西折は優しく受け止めて頭を撫でた。
御坂達はそんなジュディスを優しい目で見ていた。
「この子を親の所に連れていきます。すぐに戻りますから」
「ち、ちょっと!? 何を言ってますの!? 事件の関係者が勝手に・・・」
焦る白井が言い終わる前にジュディスを抱えたまま立ち上がった西折。
インラインスケートで滑り、ビルの角を曲がって見えなくなった。
「お待ち下さい! 警備員への事情聴取が、あれ?」
追いかけてビルを曲がった白井だが、西折の姿はなかった。
「どこに行きましたの!? 隠れる路地や建物の入口もありませんわよ!?」
********************************
警備員が到着して誘拐犯6人を連行した。
路地の中で動かなくなっていた2人は腕を強制的に動かすと、意識を取り戻したように
『動いた!?』と喜びの束の間、すぐさま手錠をかけられた。
「事情聴取を始めますが、関係者の全員いますか?」
「実は・・もう一人の殿方がいるのですが・・」
若い警備員1人と御坂達4人が集まっていた。
白井は風紀委員として被害者を引きとめられなかったことに負い目を感じているようだ。
「その人は?」
「えーとですわね、あの「ここにいますよ」・・へ?」
いつの間にか西折が白井の隣り立っていた。
「うわ!?」
「女の子が出す声じゃないですね」
白井の叫び声に、ふざけた口調で言う西折。
「いつ戻ってきましたの!? あなたが飛び出して行ってから20分も
経っていませんのよ!?」
「頑張って走ってきただけですよ。
事情聴取は私がしますから皆さんは帰っても大丈夫ですよ。
もう、暗くなってますし危ないと思いますから気をつけてくださいね」
「あの、一応全員から話を聞かなければ行けないんですが・・・」
話に割り込んで警備員が注意するように言った。
警備員は関係者の話をまとめて上部へと報告しなければならない。
そのために、嘘や間違いがないように関係者の全員の話を統合しなければならない。
もし一部の人を返すことがあっても、現場にいた風紀委員は残って事情聴取を受ける。
風紀委員は学園都市の保安維持をしているのでその証言力は一般人よりも
重要だからである。
「私の通ってる学校がこういう所なんですが・・」
西折はポケットからあるものを取り出して警備員に見せた。
それは学生書だった。
「!! あ~、あの学校の生徒ですか! それなら君一人で大丈夫ですね」
「え? どういうことですの? 風紀委員の話は聞かなくても
よろしいですの?」
「ええ、こちらの方が通っている学校ですと、生徒というだけでが証言力ありと
学園都市で決められますから、今回はこの人だけでも問題ありません」
風紀委員は試験や実地訓練を全て通過して学園都市から認められる役職だ。
それを学校に生徒というだけで風紀委員と同じ権限、信用を持っていることは
白井にとっては少し不愉快な話だった。
思わず声を挙げた白井。そして、その疑問を出そうとしたが
「門限とか大丈夫ですか? 常盤台中学は門限が厳しいと聞いたことがありますよ」
声に出す前に西折の言葉が白井の疑問を吹き飛ばした。
「そうでしたわ!! 失礼ですがお言葉に甘えさせてもらいますの!!!」
「ちょっと、どうしたのよ黒子。急に「今日は寮監様が見回りに来る日ですわ!」
・・・えぇ!?」
「急いで行きますわよお姉様! 初春たちも早く!」
「白井さん、私達は門限は関係ないような気がしますが・・西折さん、私達も
失礼します。佐天さん行きましょう」
白井たちに続いて帰ろうとした初春だが、佐天はぼ~っとして反応がなかった。
ただ西折を先程から見続けているだけだった。
「佐天さん! もう行きますよ! では失礼します!」
「え! あ! ちょっと初春!!」
初春は佐天の手を引いてその場を去って行った。
「気をつけて帰ってくださいね~」
そんな4人に信乃は呑気に言った。
「それにしても風紀委員と同じくらいの証言力がある学校ってどういう学校なんです
かね? 気になります」
と、初春は帰り道に3人に尋ねた。
「お姉様、あの方、西折さんの学校とはどこですの?」
「私もわからないわ。再会したばかりだし、あまり話してないのよ」
「まさか!? 常盤台と同じで貴族が通う学校だったりして!?」
「初春、妄想も大概にしたほうがいいですわよ。あの方の服装はそういった感じでは
ありませんでしたし、常盤台も貴族が通うというわけではありませんわ」
西折の服装は普通の私服と言えた。そこから“貴族”や“高貴”の単語は全く出てこない。
完全に初春の妄想だった。
「で、でも! 敵も一瞬で倒しちゃってかっこ良かったですね!
佐天さんもそう思うでしょ! ・・佐天さん?」
先程から上の空が続いている佐天。その顔、いや頬は少し赤かった。
「佐天さん!」
「はい! なに?」
「西折さん、かっこ良かったですね」
「うん、か・・・かっこ良かった・・」
「佐天さん大丈夫ですか? 顔が赤いですよ、熱があるんですか?」
「き、今日は色々あって疲れただけよ! だだだだ大丈夫だから!!」
「本当ですか? でも昼間は銀行強盗を捕まえましたし。今日はすごい一日でしたね」
「残念ながら初春。わたくしとお姉様はまだ終わっていませんわ。今から急いで寮へと
戻らなければなりませんの」
「そういうことだから、私達はここで」
「はい、また遊びましょうね~!」
立ち去る白井と御坂に向かって手を振る初春。
その隣では今日のことを思い出してまた顔を赤くした佐天がいた。
「西折・・信乃さん・・」
誰にも聞こえない声で佐天はつぶやいた。
つづく
後書き
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。
皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
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