めだかボックス 〜From despair to hope 〜
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第20箱 残された者たち
それは後日の事.
【人吉家】
家の中が騒然としていた。
主に泣き叫ぶ声……。
そうその泣き声は善吉のものだった。
「…ええ… そういう格好で…最後にいなくなった日には…幼稚園の服を…はい…よろしくお願いします。」
瞳先生が電話しているのは…
警察にだった。
なぜなら……。
善吉は、部屋で蹲るように膝を抱えていた。
「うっ…うっ… りゅっ…りゅう…く…ん… りゅうくん…」
善吉は夜通し泣き続けていたのだ。
善吉の泣き声は収まりつつあったが、 流れ出る涙がとまる事は無かった。
それに、善吉の泣き声が収まったのは、ただ…泣き叫びすぎて、声が嗄れてしまい出にくくなってしまったからだ。
その泣いている理由は唯1つ…
「どこに…いっちゃったの… りゅ…くん…」
そう、劉一の事。
≪人吉劉一の行方不明≫
それが理由だった。
善吉と劉一は殆ど毎日一緒だった。
めだかちゃんと劉一の遊び……その時間を除いては殆ど。
毎日を一緒に過ごしたんだ。
……最早友人であり、親友であり……善吉と劉一は兄弟同然だった
それが……たった一夜で、壊れてしまった。
生まれた絆が……爆ぜてしまったんだ。
膝を抱えて動かない善吉。
そこへ瞳さん、お母さんが傍に来た。
「善吉……。 今必死に皆で探しているから!大丈夫!きっと直ぐに見つかるわ!安心して。…ね? 大丈夫!あの劉一君だよ?きっと大丈夫!だから、信じて。大好きなりゅうクンの事、……ね?」
瞳お母さんは善吉の頭を撫でながら慰めた…
でも…彼女自身もも心配でいても立ってもいられない状況だったのだ。
彼の、劉一の優秀性、 異常性は誰よりも彼女が知っていたんだ。
子供とは思えない学習能力の高さ…知性の高さ…そして身体能力…
全てにおいて、大人にも引けを取らない。
寧ろ対抗できる大人の方が少ないと思える程のものだった。
2歳児、幼い子供が…だ。
そして、その身体能力と相余って……
とても優しい。
いつも友達の事、善吉の事、めだかちゃんの事、そして 皆の事を、第一に考えてくれている。
心配をかけるような事は決してしなかった。
悪く言ってしまえば、幼さが足りないと思っていたが……。
劉一クンは、それで良いって思えたんだ。
その子が、何の音沙汰も無く姿を…消すなんてありえないんだ。
何か理由があったとして…
それは善吉には内緒だったとしても… 私には絶対に言う。
そういう子なのだ。
だから、失踪の理由は1つしかない。
≪十中八九… 何かに巻き込まれたのだろう≫
「さっ!善吉…!元気出して!ご飯!たべよっ! っとその前に…手を洗わなくちゃね?ほらっ!」
そう言い、善吉の手を優しく包み込み洗面所へ連れてゆく。
そして、その日は善吉が笑顔になる事は無かったが、涙は何とか止められた。
瞳お母さんは、必死に明るく振舞い、寂しさを拭い去っていたから……。
善吉が寝静まった後。
「劉一…………。」
1人になったその時だけ…
人吉瞳は。
心配する…母親の顔に戻っていた。
もう1人の息子の事が……。
あの笑顔が。
初めて会ったあの時の乾いた表情から、変わっていった笑顔が……。
頭の中から離れない。
「必ず……。見つけて……。ちゃんと叱ってあげるんだからね……。勝手に何処かいっちゃいけないんだから……。」
そう呟き、家の外。
夜の闇へと歩き出していった。
そして、同日同刻。
【黒神家】
それは 人吉家よりもはるかに慌ただしい……
「そうだ!何としてもだ………何としても探し出すんだっ!」
こちらも…電話で誰かと話をしている。
黒神家の執事をしていた男性だ。
劉一が行方不明となったことは、もう既に黒神家にも伝わっていたようだ。
「そうだ!!全員出てくれ!頼む……なんとしても…劉一を探してくれ!!」
めだかちゃんが激を飛ばしていた。
辺りにいる使用人全てに子供が駄々をこねる様に……。
必死の形相で叫んでいた。
「……劉一… 何処へいったんだ… 私に黙って…」
今でこそ、平静を装ってはいるが…彼女も、善吉と同様…
一晩中泣いていたのだ。
そのめだかちゃんの雰囲気には変態さえ 近づけない程のものだった。
「必ず… 見つけ出すから… 私に勝ったままなんだ!お前は!それに… 約束した… 大人に……高校生……で… お前の…答えを聞いてないんだ!私は……好……ッ!!好きなんだっ!大好きなのに……答えを聞けて……いないじゃないか……っ。」
まだ、涙は涸れてはいない様だ…
その瞳は薄っすらと…滲んでいた。
後ろから見ても解る。
めだかちゃんはまた涙を流しているのだろうと。
そんなめだかを後ろで見ていたもの…
それは……
「……今のめだかちゃんには、 何言っても聞かないだろうね。 ……それ程、彼の事が心配なんだ。勿論僕も心配だよ……。何せ…彼は僕の妹の恩人なんだから。 ………嫉妬しちゃうけど。」
まぐろさん、彼も劉一の事を心配していたのだ。
だからこそ、黒神の一族にも彼は呼びかけている。
「……泣いているめだかちゃんなんて見たくないな。」
彼の行動理念は【妹】。
妹の為ならば、何でもしよう。
だからこそ……。
「……全身全霊、全力で彼の行方を追おう。」
そして、別の部屋。
その場所は図書館の様な部屋。
そう……くじらの部屋だ。
「けっ… なんだよ… アイツ… 私にあんな説教みたいなことしといて……… いなくなってるじゃねえか!!残されたものは…っとか何とかって、言っていた癖に………アイツ……。」
ここはくじらの部屋…
いつもどおり禁欲に勉強しているところだった。
彼に出会って…
彼女も家族と食事したり、会話したりと…
徐々に心を開くように…なって言ったのだが…
彼の、劉一の失踪を聞いて……再び以前の彼女に戻ったようだった。
「くそっ…なんでこんなに嫌な思いをするんだ…!! 」
目から何かが出てくる。
涙だと言う事は知っていた。
だが、なぜ出てくるのかがどうしても解らなかった。
「くっ……そう……か。………これが、不幸…なのか? ククク… 」
くじらは、その涙を拭う。
その表情は狂気に満ちたかのような表情だった。
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人吉劉一の行方。
それは……一般警察や、人吉家……彼女の勤めている総合病院でも有志を募り、黒神グループも捜索に関わった。
だが……皆の懸命な捜索の成果も上がらず。
彼の行方はわからなかった。
それは何年…何年立っても、彼の生死すら分からない。
そして… 長い長い月日が流れた。
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