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レッスン

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第三章

「そうしませんか?」
「エクソシストか」
「カトリックの教会に頼んで」
「そうするか」
「若しくはインチキでない霊能力者か」
 こうした人の話も出した、とはいってもインチキでないという前提であることは絶対としてだが。
「そうしますか?」
「そうだな、誰か呼んでな」
「何がいるのか見てもらって」
「それでどうするか決めるか」
「そうしましょう、本当に悪魔だったら大変ですから」
 こうハンバーガーやコーラを飲み食いしながら話して決めた、そしてオーナーはすぐに知り合いの神父、彼はカトリックなので都合よくそちらに頼んでだった。
 そうした立場の人に来てもらった、来たのは一人の年老いた神父だった。
 神父はオーナーとコーチに連れられてその教室に入った、その前にレストランに招待されたがこれは仕事の前だからとやんわりと断られた。
 その近代的なバレエ教室を思わせる綺麗な床と鏡の教室を見てだ、神父はすぐに二人に対して語った。
「いますね」
「やっぱりそうですが」
「いますか」
「はい、います」
 その静かな灰色の目に穏やかな光をたたえて語る。
「間違いなく」
「それでどんなのがいるんですか?」
 コーチは神父にその背中を見ながら問うた。
「悪魔ですか?マニトーですか」
「どちらでもありません」
 神父はコーチが挙げたそうした存在はすぐに否定した。
「そうした存在ではありません」
「そうなんですか」
「今のところですが」
「今のところ?」
「はい、今のところはです」
 この時点ではと、言葉が限定された。
「邪悪な存在ではないです」
「そうなんですか」
「これは情念です、言うならば生霊です」
 この教室にいるのは何か、神父は二人に具体的に話した。
「生霊の類がいます」
「生霊ってあの、ですか」
「身体から魂が出て来ているものですね」
「そうです、東洋ではよく見られるものでして」
 日本にも多い、雨月物語においては妻の生霊が浮気をする夫の前に出たという話もある。吉備津の釜である。
「それがここにいます、それも一つや二つではなく」
「ここには生霊が大勢いると」
「そう仰るんですか」
「はい、この教室で踊っている人達の中にはより上手になりたい、ここからプロのダンサーになりたいと思っておられる人もいますね」
「実は俺もです」
 コーチ自身が言って来た、右手を挙げて。
「実は元々ブロードウェイにいまして」
「そうだったのですか」
「はく、そこで前まで踊ってたんですが」
 それが、というのだ。コーチは己の過去をあえて話した。
「足首を怪我しまして。後遺症はないんですが」
「それで、ですか」
「あそこは厳しいですからね、一瞬でも怪我で出番がなくなると」
 それで、だというのだ。
「落ちます、それでブロードウェイからこっちに流れてきました」
「そうでしたか」
「まあ食っていけてますけれどね、オーナーに拾われて」
「ですがそれでもですね」
「ええ、今でもブロードウェイには未練もありますし」
 コーチは己のことを話していく、それはいささか苦いものでもあった。
「もっとダンスを上手く踊りたいって思ってますよ」
「それですね、貴方も持っておられます」
「こうした考えをですね」
「それ自体はいいものです」
 悪くはないというのだ。 
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