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ラグビー

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第三章

「実は」
「あっ、海面の上昇ですね」
「それですね」
「これは南洋全体の問題ですが」
 今話すのは深刻な話である。
「温暖化の影響か海面が上昇していまして」
「それで、ですね」
「国自体が水没しそうなんですね」
「その危険があるんですね」
「はい、そうです」
 こう彼等に話すのだ。
「これからどうなるか不安ではあります」
「何とかしないといけないですね」
「国が沈んだら洒落にならないですからね」
「そうですね。まあそうした話は置いておきまして」
 それでだというのだった、深刻な話は置いておいて。
「ラグビーですが」
「それですね」
「戦いの舞ですね」
「戦いの前には必ず舞う」
 この辺りの風習である。
「それをラグビーにも取り入れてますが」
「ですから戦うんですよね、スポーツで」
「それって後で遺恨が残るんじゃ」
「俺達そのことが本当に疑問なんですけれど」
「スポーツの遺恨って厄介ですからね」
 それこそ本当にややこしいことになる、彼等は野球やサッカーからそのことを知っていてバランガに話すのである。
「マウンドに国旗立てるとか」
「スケートパフォーマンスするとか」
「観客席でヒトラーの息子とか」
「遺影もありますよ」
「そうした極端な例は普通ないのでは」
 バランガは国際的な常識からこのことはどうかと言った。
「やっぱり」
「まあ普通はないですけれどね」
「けれどそうしたことにつながるんじゃ」
「スケートの仇をサッカーで、とか」
「俺達の場合は歴史や政治がスポーツにってことですけれどね」
 今の話とは逆のケースだ、しかし逆もまた真なりである。
「ですからやっぱり」
「あるんじゃないですか?」
「試合の前に戦いの舞とか舞うと」
「戦争をするんですよね」
「だったら」
「ではそれを御覧になって下さい」
 笑顔で言う彼等だった。
「私達のラグビーを」
「全てはそれからですね」
「それを見てからですね」
「はい、そうです」
 何につけてもまずはそれからだった、そうして。
 日本から来た学生達はバランガの試合を観ることになった、言うまでもなく彼はトンガのチームに参加している。
 対するはニュージーランドのチームだった、こちらはメンバーこそコーカロイドだがその受け継いでいるものは。
 マオリ族だ、やはり南洋系である。
 彼等はラグビーグラウンドでお互いに対峙してそれぞれの戦いの舞を舞う、その独特の舞をだ。
 それを見てだ、留学生達は言った。
「やっぱりなあ」
「明らかに戦うよな、これから」
「今からそれを宣言してるよな」
「スポーツの気がしないよな」
「そうだよな」 
 こう観客席で言うのだ、青い空の下で。
「スポーツに勝敗は付きものだからな」
「勝っても負けても戦いだから遺恨残るだろ」
「バランガさんは全然大丈夫っていうけれどな」
「本当にそうかね」
「日本があの国相手にそんなのやったら国全体で切れるよな」
「あの国が切れない筈ないだろ」
 ここで彼等が念頭に置いている国の話が出た。
「あの国だとな」
「ああ、切れるよな」
「切れてどれだけ暴れるか」
「大使館前で変態さんが出て来るぜ、それこそ」
「生きた雉食うだろ」
「いや、日の丸を食い千切るおっさんが登場するだろ」
「火で燃やすだろ」
 そうした奇行が行われるだろうというのだ。 
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