ブルース
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第三章
「そして油断もするなよ」
「その上で悲しませたり心配させるなっていうんですね」
「そういうことだ、いいな」
「わかってます、それは」
「悲しませる位ならな」
それ位ならというのだ。
「ブルースから降りるなりしてな」
「パイロットもですか」
「まあ、そこはな」
どうかとだ。若松の口調がここで少し変わった。
言うのに躊躇する感じだ、だがあえて言ったのである。
「国防のこともあるけれどな」
「パイロットもまた、ですからね」
「ああ、空の護りだからな」
パイロットも彼等が乗る機体も国防の要の一つだ、だから迂闊に降りることはという考えもある。だが若松は躊躇しながらも言った。
「迂闊な判断じゃな」
「パイロットを降りられないですね」
「けれど心配させる位なら、って思うとな」
それならというのだ。
「操縦に迷いが出るだろ」
「ですね、精神的に」
「だからそれならな」
「パイロットを降りることもですな」
「奥さんを心配させる奴に国が護れるか」
こうした考えもあった、若松はあえて出した。
「そうも考えられるからな」
「だからですか」
「まあ一概には言えない話だ」
パイロットを降りることはというのだ、しかし。
若松はこのことだけはだった、暁羅にこう言った。
「ただ、絶対に悲しませるな」
「家族をですね」
「ああ、奥さんもな」
今の彼の家族をだというのだ。
「心配させるな、いいな」
「わかりました」
暁羅は若松の言葉に頷いた、そのうえで今は基地の中の控え室に戻りコーヒーやチョコレート菓子を口にしつつ仲間達と共にくつろいだ、そして。
暫く経って暁羅に朗報があった、それは。
「おお、そうか」
「はい、男の子です」
今はデスクワーク、航空自衛隊の幹部の服を着ている中で若松に述べた。
「生まれました」
「そうか、よかったな」
若松はその話を聞いて笑顔を見せた。実に優しい笑顔だ。
「御前も父親か」
「まだ信じられないですけれど」
「ははは、それはこれからだ」
「これからですか」
「俺もだ、女の子が三人いるがな」
若松の子供達はこうした構成だ、女の子ばかりなのだ。
「最初の娘が産まれた時はまだな」
「実感なかったんですか」
「なかったよ」
そうだったというのだ。
「最初はな。けれどな」
「徐々になんですね」
「ああ、徐々にな」
「実感出来るものなんですね」
「そうなんだよ、だから御前もな」
「これから少しずつですね」
暁羅は若松の話を聞きながら言った。
「そういうことですね」
「そうだよ、とにかくよかったな」
「ですね。女房も喜んでます」
「奥さんが一番嬉しいだろうな」
この辺り男と女で違う、産むということはそれだけ大きいのだ。
「やっぱりな」
「みたいですね、女房もにこにことしてます」
「そうか、それでな」
「それで?」
「子供も出来たから余計にな」
どうかという話になった、若松はこれまでの満面の笑顔から少し真剣なものも入れてそのうえで言ったのである。
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