その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)
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第38話 誰が為に戦う(4)
前書き
例の如く長くなってしまったため、予定を変更して分割したままで投稿いたします。
「バカ、バカ、バカぁ――」
矢の様に一直線に、最短距離を飛びながらリリーは嘆く。
純吾がフェイトの元へ行った。そこで彼がとれる手段は限られている。彼女に襲いかかるジュエルシードの衝撃を防ぐということだ。
だがしかし、それにあたっての有効なスキルなどリリーは知らない。更に言うなら、フェイトがジュエルシードに近づきすぎていたら? あまつさえ、握りしめて封印作業をしていたら? そこからどう彼女をかばうというのだ
そうなれば、フェイトの身を守るために純吾がとれる手段は一つしかない。そして、仲魔にさせればよいそれを、純吾は自ら進んでするのだろう。あの日、人質となった少年と、自分達を守ろうとしたように―――
「どうして、そんな事ばかりするのよぅ――」
目の端から涙がこぼれ、置き去りにされるように後ろへと飛ばされて行った。
防がなければ。何としても、その手段をとる事は防がなければならない。
もう純吾が無茶をするのを見るのは嫌だ。もう純吾が傷つくのを見るのは嫌だ。
もう二度と、自分がいない所で純吾が傷つくのは、嫌だ。
「ジュンゴオオオォォォーーーーっ!!」
いたっ!
光柱の直前でフロストエースと共に現れた純吾をリリーは見つけた。知らず手を伸ばし名前を叫んだ。無茶をしないでと、私を置いていかないでと、願いを込めて叫んだ。
純吾が顔を上げる。リリーの叫びが聞こえたからだ。
只でさえリリーは彼より高い所にいて、純吾はニット帽を目深にかぶっているから表情は読めないが、僅かに見える目がいつもより大きく開いているのが見えた。間に合ったんだと、純吾を見つけた事でリリーの顔が僅かにほころぶ。
けれども、
「――――ね、リリー」
純吾が何かを呟き、リリーへ向かって携帯を掲げる。
全身がゾワリとした。待って。此処まで来てお願い、それだけはやめてと更に手を伸ばした。
「だ――」
しかし彼女の願いは直前で届かず。リリーの意識は、そこで強制的に途切れさせられた。
◆
痛い、痛い、痛い―――
私は今、祈るように跪きながらジュエルシードの封印作業をしている。少しでも暴走の余波を漏らさないように、両手で握りこみ封印魔法を使いながら。けれども、防御魔法なんて無いかのように、ジュエルシードから漏れ出た魔力は私の体力を削る。
正直に言って、かなり状況はまずい。
(フェイトっ! あたしの魔力も使っていいから、なんとか持ちこたえてちょうだいよっ!?)
使い魔のアルフから念話と一緒に魔力が届いた。けど、やっぱり焼け石に水だ。封印魔法の効率は確かに上がったけれども、それでもこのままでは私の体力が尽きるのが先だろう。
そして体力が尽きれば、封印魔法はおろか、防御魔法による拘束も無くなったジュエルシードは辺り一帯を破壊し尽くすんだ。
(……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい)
自分でも気付かないうちに、そんな弱気な事を思ってしまう。
だって、私達の都合で暴走させたジュエルシードを御しきれなくて。その結果、何も関係のない人達まで巻き込むことになってしまって。
私達はなんて無力なんだろうって、そんな事実をまざまざと見せつけられてしまうのだから。
(フェイト! しっかりしておくれよぉ。このままじゃジュエルシードの封印どころか、あんたの安全だって――)
アルフが私の弱気を察知して励ましてくれる。
けど、ごめん。もう、耐えられそうにないの。ジュエルシードが私の手の内で激しく暴れている。今にも防御魔法を完全に貫通してきそうなんだから。
あぁ、けれども。
(悔しいなぁ…)
後少し。後少しだけ封印魔法に力を注ぐことができたら、この状況を変えられるかもしれないのに。そこに手が届かない事が悔しくて、巻き込んでしまった人たちに申し訳ない。
あぁ、あぁ。本当に、何でもいい、誰でもいい。この状況を、無関係な人を傷つけてしまいそうなこのジュエルシードを封印する力を、私にください――
「ヘケトっ! ネコショウグン!――!?」
その時、後ろから力強い声が聞こえてきた。そして何が来たのかと判断できないまま、身体に一瞬の浮遊感を感じ、地面に尻もちをついてしまう。
「フェイトっ!?」
声の方を向くと、狼の姿のアルフが走ってくるのが見える。
えっ、どうしてアルフがいるの? さっきまで防御魔法の魔法陣の中で、姿なんて見えるはずないのに。じゃあ、私防御魔法の外に? じゃあ誰が今、防御魔法を代わりに展開してるの?
顔を正面へ、防御魔法を展開している方へと向ける。
そこにいたのは、私より背の高い、さっきまで私達と戦っていたはずの男の子。
「…今なら、封印に全力を注げる」
首だけを後ろに向け、囁くような声で男の子が言った。
確かにその通りだろうけど、それよりもまず、私の中に疑問が渦巻いた。どうやって私とあなたの位置を入れ替えたの? あなたに不思議な力があるのは知ってたけど、ジュエルシードに防御魔法もなしに耐えられるはずなんてないはず。
あなたと私達はさっきまで争ってたはずなのに、どうして助けてくれたの?
「急いで」
けれども男の子はそんな私に答えてはくれなかった。短くそう言い残すと顔を正面に戻し、ジュエルシードの衝撃を全身で抑え込むように抱え込む。
「災厄より世を救う、人々の盾たる“英雄”の力を汝らにっ!」
その時、アルフとは反対の方向から凛とした男性の声が聞こえ、同時に、光が男の子や私に降り注いだ。
これは…、今まで受けた傷の痛みが和らぐ。それに、身体から力が湧いてくるような。思わず、ジュエルシードの衝撃を防いでいた手の平を握ったり開いたりしてみた。うん、これならいける。
けれども、一体誰がこんな事を? いいえ、状況からしてあの男の声の人だろうけれど、一体この力は何? 本当に、彼の使い魔は多くのレアスキル使いが揃っているとでも――
「――そこな娘御」
そんな時、あの男性の声がもう一度聞えて来た。声のする方へ顔を向ける。
そこにいたのは一匹の黒い猫。私より少し小さい位の大きさで、鎧兜に、背中には紅くて猫を模した印が描かれた旗指物を身につけている。そんな猫が、手に持った軍配を掲げながら私に話しかけてきた。
「反水不收,后悔不及(水反りて収まらず、後悔及ばず)!」
強い口調でいきなり私を叱咤した。意味は理解しきれなかったが、この使い魔が真剣に、私に何かを訴えているのが分かる。体の中に渦巻いていた疑問が消え去り、意識が彼に完全に向いた。
「なしたい事があるが故に、そこまで御身を傷つけたのであろう! 我が主とて同じだっ! 街の皆を、娘御を助けたいと御身を投げ出された、その御覚悟を一秒とて犠牲にしてくれるなっ!!」
そして知った、彼がどうしてこんな行動をとったのかを。
…色々と、言いたい事、聞きたい事がまた生まれる。けれども彼が言った通り、まずはジュエルシードを封印しないといけないと決意する。
男の子――ジュンゴが、自分の身を盾に私にくれた時間を無駄にしないために。
私は彼の背中に守られながら、再び封印魔法を使う。少しでも早く暴走が収まるように、目の前の彼の傷が、少しでも小さいもので済むように祈りながら、持てる限りの魔力を封印魔法に注ぎ込んでいった。
◆
段々と天を突く光の柱が短くなっていく。それと同じくして、ジュエルシードの暴走も収まり、放つ衝撃や光が段々と小さくなっていった。
「ん…。良かっ、た」
光が収まったジュエルシードを手のひらに握りしめたまま、純吾は満足げに呟く。けれどもそこで体力の限界が来たのか、そのまま倒れ込んでしまう。
カランとその手からジュエルシードが零れ落ちる。
本来なら青い輝きを放つはずのそれは、まだらに鈍く光る、赤い色をしていた。
同時に現界させるほどの力を保つ事ができなかったのか、駆け付けようとした純吾の仲魔が消えた。最後に見せたその顔は、ヘケトにしてもネコショウグンにしても、忸怩たる思いを滲ませるものだった。
「あ…、じゅ、ジュンゴ!?」
「ジュンゴ君っ!?」
その代わり駆け寄ったのは、封印魔法を終えたフェイトと、結界を保ち終えたなのはだ。フェイトは魔法陣を前に跪いていた身体を起こして、なのはは空から急降下して純吾の元へと駆け付ける。
しかしそれを押しとどめたものがあった。気絶した純吾のズボンのポケットから漏れた、紫色の光だ。普段なら白い光を放っているはずのそれが地上に召喚陣を描き始め、純吾の力なしでは現界できないはずの仲魔が、彼の傍に現れた。
「リリー…さん?」
現れたのは純吾の意志で送還されたはずのリリーだった。純吾のすぐ傍に現れた彼女は少しの間何をするでもなく、倒れた純吾を立ち尽くしたまま見下ろす。
それからリリーは彼の横に座り、上半身が膝の上にくるように抱いた。気絶した純吾の頬を愛しそうに、優しく撫でた後、直前までジュエルシードを握りこんでいた彼の手を取った。
「ジュンゴったら…。板前さんになりたいんでしょう? なら、手は大切にしなきゃだめよ」
ぽつりとそう呟いて、その手を持ち上げ、自分の額に押し当てるリリー。瞬間白く、見ているだけで安らぎを覚える光が彼女達を包み込んだ。
フェイトとなのは、それにアルフやユーノですら、その光景を前に動く事は出来ない。彼、彼女には、今目の前に移るこれが、とても犯し難い、神聖な儀式の様に見えたからだった。
やがて光が収まり、二人が再び姿を現す。その時フェイトとアルフは、抱きかかえられた純吾の傷が殆ど回復している事に気が付いた。
けれど、それに驚きの声をあげる間もなく、フェイトの方へ何かが投げつけられる。反射的にそれを受け止めたフェイトは、自分の手のひらに血濡れのジュエルシードが収まっているのを見つけた。
「これは」
「…今回は、あなたのものよ」
「なっ、ふざけてるのかいあんたっ!? あれだけ戦ったのに、ジュエルシードがいらないっていうのか!?」
平然と、今回の騒乱の元であるジュエルシードを放棄するリリーにアルフが怒りと、反発の声をあげた。
その声にリリーは初めて視線を純吾から彼女へと移す。見返したアルフが見たリリーの顔は、何も読み取ることのできない、能面のような顔。それはほんの少し前までの自分の主である、フェイトを見ているかのようにアルフには思えた。
「だって、今回それを封印したのはあなた達。私達は、本気でそれを奪い合うからこそ、誰が封印したかをちゃんと考えるべきじゃないかしら?
……ジュンゴが今起きてても、多分、私の意見に賛成してくれるわ」
本来の笑みからは程遠い、口の筋肉を釣り上げただけの表情を張り付けて、リリーは言う。そして、純吾に同意を求めるかのように、彼の頭を持ちあげ、自分の頬と重ねた。
「…それに」
リリーは言葉を続ける。しかし、少し前とは様子が違っていた。
「ジュエルシードがいらないか、ですって? …いらないに決まってるじゃない。それがあったせいで、この街はこんなに危険になってしまった。それがあったせいで、あんた達なんて厄介者がこの街に来た」
本音を吐露すればするほど、何もなかった彼女の目に光が戻り、顔に感情が戻ってきたのだ。
しかしそれは普段の陽気な彼女に戻ったことを意味しない。もっと別の、いつもより大きな気持ちが、彼女の中を支配していく。声は段々と大きく、そして不安定に揺れていく。
そしてたまった感情は、唐突に爆発した。
「……それがあったせいでっ、今もジュンゴがこうやって傷つかないといけなかったんじゃないっ!?」
リリーは叫ぶ。陽気な大人の女性、冷静で頼りになる純吾の相方、それらいつも彼女の顔を覆っていた仮面をかなぐり捨てる。髪を振り乱し、こぼれ出た涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、感情のままに叫び続けた。
「何が願望を叶える道具よっ! そんなものがあっても、私の願いはかなわなかった! ジュンゴがっ、ジュンゴがもう無茶なんかしないで、平和に過ごしてほしいってだけなのに!? 無茶をしてもっ、私が身代りになれますようにってだけなのにっ!! そんな願いですら叶えてくれなかった!?」
彼女が口にしたのは、願いと呼ぶほど大きな事ではない。この街のどこにでもありふれている、誰かが誰かを思って行動したいという思い。ただ、それだけのものだった。
「ジュンゴもジュンゴよっ!!」
不意に非難の矛先は、己の主へと向かう。けれどもそれは非難ではない。もっと自分を大切にして欲しいという、祈りをこめた叫びだった。
「あの世界から抜け出せたのに! 力の事を隠せばもう、誰かのために戦わなくったって済んだっていうのに、どうして、ジュンゴは戦おうとするのっ!? どうして、自分を身代りにしてまで誰かを守ろうとするの!?
もう誰のためでもない、自分のために生きてもいいっていうのに、どうして、いつまでも違う人のために戦い続けるのよぉぉお!!!」
胸に抱く純吾に覆いかぶさる。まるで、彼を外界から守る様に身を突っ伏して、リリーは嘆き続けた。
そんな彼女を前にして、その場にいる全員が声をあげることも、動く事もできなかった。
ただ、フェイトやなのは達の目には、そんな彼女がまるで、暗闇の中で親とはぐれ、心細くて泣いているような、一人の女の子の様に見えて仕方が無かった。
後書き
~仲魔紹介~
【神獣】ヘケト(Lv13)
力:8 魔:10 体:7 速:4
スキル:ブフ、騎士の精神、瞬転の舞(種族特有スキル)
氷無効、雷耐性、火・魔弱点
エジプトの水の神。蛙そのものか、蛙の顔をした女性として描かれ、多産と復活を司るとされる。
【英雄】ネコショウグン(Lv31)
力:11 魔:17 体:8 速:11
スキル:なぎ払い、パワーチャージ、聖騎士の精神、英雄の印(種族特有スキル)
魔力無効、物理耐性、衝撃弱点
道教において祭られる占いの神。中国でも、安南方面で祭られていた。元々は毛尚書という人物を祭っていたとされるが、毛(mao)が猫(mao)と読み方が同じなため変化していったと考えられる。また、アニメ版では純吾の仲魔として登場したことも記憶に新しい。
途中の中国語は「後悔先に立たず」の元と考えられるもの。『後漢書』光武帝紀上に書かれている。
~スキル紹介~
【英雄の印】
英雄種の悪魔が使える。使用直後から次の行動順まで、使用したチームの受けるダメージを30%軽減できる
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