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八条学園怪異譚

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第三十話 神社の巫女その六

「このお嬢にはな」
「やれやれね。これはスキンシップよ」
「褥を共にしたいことを否定しない相手にそう言われても信じる者がいると思うか?」
「今はこれ以上しないから」
 あくまで今は、である。
「私は嘘は言わないから」
「巫女だからだな」
「そうよ。とにかく今からね」
 どうするかというと。
 愛実と聖花を交互に見てそして告げた。
「やっとって感じだけれど行くわよ」
「はい、それで中を確かめて」
「解放して下さいね」
「このまま私のお部屋に連れて行きたいけれどね」
 今も酔った状態で好色そうに言う茉莉也だった。
「まあその前にね」
「泉かどうか確かめたら帰らせてもらいますから」
「お部屋で何をするつもりなんですか」
「決まってるじゃない。お布団敷いてね」
 それからの展開は言うまでもない。
「それで三人でよ」
「本気ですよね、それ」
「本気で言ってますよね」
「いいじゃない。まあとにかく今から入るから」
 茉莉也は二人に再びこう言った。
「それじゃあね」
「はい、わかりました」
「今から」
 三人で倉庫、蔵と言うべきかも知れないその中に入る。そこには様々な埃が被った古いものが左右に堆く積まれていた。
 古文書や神社の儀式の道具等も見られる、その中を見回して。
 茉莉也はこれまでとうって変わった真剣な面持ちで二人に言った。
「ここは泉じゃないけれどね」
「ここもなんですね」
「そうじゃなかったんですか」
「ええ、違うわ」
 このことを告げたのである。
「ここはね。ただ」
「ただ?」
「ただっていいますと」
「面白いものが多いわね」
 こう言ったのである。
「古いものが多いわ」
「そういえば年代ものみたいなの多いですね」
「色々と」
「鏡とかね」
 丸い鏡もあった、その表面には埃が被っている。
「あるわね。この鏡は二百年ものかしら」
「二百年ですか」
「出してもいいけれど」
 だが、というのだ。
「その時はちゃんと洗わないといけないわね」
「鏡ってどういう洗剤を使えばいいんですか?」
 愛実は怪訝な顔で茉莉也に問い返した。二人は何時の間にか解放されている、そのうえで個別に倉庫の中を見回していた。
「マジックリンですか?それとも食器洗いの」
「塩水よ」
「お塩ですか?」
「そう、鏡っていうのは人を映し出すじゃない」
「はい」
「あんた達も知ってると思うけれど魂を映し出すものでもあるのよ」
「そういえば吸血鬼って」
 愛実は映画で得た吸血鬼の知識を話した。
「鏡に映らないですね」
「死人だからね」
 それが理由だった。
「幽霊もそうよ」
「鏡って特別なものなんですね」
「鏡の中の世界との出入り口でもあるから」
 よくある鏡の中に引き摺り込まれるという話の元である。
「使うにあたってはね」
「塩水で洗わないといけないんですね」
「そう、お塩は邪なものを清めるものだから」
 伊達に巫女ではない、茉莉也はこのことは真剣に語る。 
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