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メフィストーフェレ

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第一幕その二


第一幕その二

「抑え切れない知への熱望が彼を不幸と焦燥に駆り立てていますが」
「若い頃だな」
「そうです。彼はです」
 ここでメフィストの言葉は醒めたものになった。
「そのまま出来るなら人を超えたいのでしょうが」
「人をですか」
「そうです、人をです」
 そうだというのだ。
「どんな学問でも限りはあります。どれだけ思おうとしてもです」
「それには気付かないのか」
「私はそんな彼にです」
 ふとファウストに興味を抱いた言葉である。
「網にかかるようにできますが」
「出来るならすることだ」
 声はこう言ってきた。
「それならだ」
「それでは」
 メフィストはそれを聞いて我が意を得た顔になった。そのうえでまた述べた。
「では私はそうしましょう」
「好きにするがいい」
「さて、主の御考えはわからぬが」
 メフィストはそのことへの詮索はあえてしなかった。ただし企む笑みはそのままであった。
「それでもよい。それでは早速仕事にかかるとしよう」
「さてさて、どうなるか」
「面白いことになってきたけれど」
「最期はどうなるかな」
 天使達メフィストがバイオリンケースを手に取ったのを見てからまた話した。
「それで」
「一体」
「天使達の声はだ」
 メフィストはその彼等の声を聞きながら呟いた。
「どうも肌に合わないな。長い間聞いているが」
「そういう君だってかつてはここにいたじゃないか」
「そうだよ」
「それでも今はそうなんだね」
「帰る時ではないからな」
 その天使達への返答である。
「だから今はな」
「何だよ、つれないね」
「そんなのだと」
「最後の審判まで待ってるなんて」
「決まりは決まりだ」
 メフィストは端整に述べた。
「最後の日まで私は同志達と共に地上に留まる」
「じゃあその日まではね」
「こうして付き合いを続けるんだね」
「律儀だね」
「律儀なのは私と同志達の絶対の戒律だ」
 天使達に対しても礼儀正しい。
「だからだ。それは破らない」
「約束には厳しい」
「それはいいことだね」
「では今から行って来るとしよう」 
 こう言ってであった。
「それではだ」
「じゃあね」
「また会おうね」
 こうして彼は天界を降りてそのうえで地上に向かう。向かう場所は帝国の街フランクフルトであった。そこに向かうのであった。
 フランクフルトの酒場は賑やかである。重厚な樫の木の酒場は質素であるがそれでも頑丈であり椅子もテーブルも独特の雰囲気を醸し出している。
 その中において様々な者達がビールにソーセージを楽しんでいる。ビールにしても黄金のものもあれば黒のものもある。誰もが木の杯の中のそれを愛していた。
「酒こそは永遠の友人だ」
「これがなくて生きていられるものか」
「まず飲まなくてはな」
 こう話しながら飲んでいく彼等だった。
 
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