| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

役者は踊る
  第十五幕 「学園最強の変人達の末路」

 
前書き
簪はユウと友達になった!フラグは別に立ってませんがね。取り敢えずこの二人はくっつくとかくっつかないとかは別にして一緒にいる事が増えると思います 

 
前回のあらすじ:仲を『結う』青年


「・・・・・・やるねぇ」
「・・・・・・そちらこそ」

IS学園中庭。多くの見物客に囲まれたその中心地に、二人はいた。
2人を除いて誰も声を発しない。否、場の重圧に負けて発することが出来ないでいた。
生徒会長の実力を知るものはジョウの人間離れした実力に舌を巻き、ジョウの実力を知るもの――この場には一夏くらいしかいないが――は彼に本気を出させた楯無に戦慄している。
既に“決闘”が始まってから30分は経っただろうか、状況は互いに全く無傷で息一つ切らしていない。それだけ長い間戦っているのになぜ、と思うかもしれないが、それは二人の戦いを見ていれば自ずとわかる。

「・・・ふっ!!」
「・・・ッ!!」

2人が同時に動く。互いに一瞬のうちに間合いギリギリに踏み込む。
手を出し、互いに互いの手を避け、絡め、捌き、打ち払おうとし、フェイントを入れ、足を伸ばしてはすんでの所で相手の動きを回避する。素人目には見えないが0,1秒にも満たない短い間に実に複雑怪奇な読み合いと崩しを織り交ぜたイニシアチブの奪い合いが行われ、これ以上のリスクを避けて再び距離を取る。
それは一瞬のミスが命取りになる、紛う事なき真剣勝負。
全神経を正面の相手だけに集中させた二人にはもはや周りの事など見えてはいない。


(なんて男なの・・・!この私相手にここまで“掴ませない”なんて・・・!!)

内心で楯無は歯ぎしりをする。更識流は“攻撃的な柔の術”、相手の力を利用するだけではなく自ら近づいて一撃にて無力化することこそが真骨頂なのだ。故に何時如何なる時や場所でもどのタイミングでも相手を投げ飛ばせる状況を作り出すことに関しては、他のどの流派より飛び抜けている。先手であろうと後手であろうと相手を捉えてねじ伏せる更識流を以てして、それでもこの男一人を捉えられない。30分という余りにも長い時間を掛けてなおその糸口すら掴めない。
癖を掴んだと思ったら罠。隙を見せたと思ったらそれも罠。戦いの中で更識流の本質を見抜いたのか、徹底してこちらを誘い出す戦術を取っている。それでいて攻めの手も守りの手もそつがなく、結果として予断を全く許さない状況が続いている。

成程どうして、天才を自称するだけの確かの実力がこの男にはあった。
しかも、楯無の見立てではそれだけではなかった。

(更識流の動きを学習するため態と攻めに消極的になっている・・・?本気で来ればこの拮抗が持つかどうか・・・)

楯無は半ば確信めいたある思いが膨れ上がっていた。この戦い、本気で勝つには“殺す気”でいかなければいかない。しかし男子生徒達はあくまで守るべき護衛対象、下手に傷をつければ後後面倒なことになりかねない。いっそ降参するのも手か・・・?だが生徒会長たるもの、これだけの生徒の面前で無様に膝をつくわけにもいかない。どうする・・・?勝って終わらせるのがベスト・・・しかし更識流を極めた私の本気とは殺人技も同じ。手元が狂えば・・・



楯無が立場と現実のジレンマに挟まれている中、ジョウは逆にこの状況を純粋に楽しんでいた。

(フェイントにも罠にも引っかからねえな・・・俺の反応速度にもきっちりついて来てるし
隙あらば投げようという気も満々・・・いいねぇ、これだけマジな戦いは久しぶりだ)

どうやら実戦というものをそれなりにこなしているようだ。それでいて才能もあり、それに胡坐をかかずにきっちり鍛えてある。あの独特の(ジョウの見立てではおそらく)柔術自体もかなり優れた技術だ。これはもしかしたら千冬以来の“全力”を出せる相手かもしれない。楯無の動きには慣れてきたが、あちらもこちらの動きに慣れつつある。そういうセンスも彼女の優秀たる所以かもしれない。・・・っと、今回の目的はあくまで別だったな。
ついつい目的を忘れて楽しみたくなってしまうのを堪えながらも正面を見据え続ける。しかしどうしたものか。ケリをつけたくもあるが、彼女の柔術には学ぶべき点がまだありそうだ。もう少し・・・もう少しこのまま続けようか・・・
と、楯無が口を開いた。

「埒が明かないわね・・・」
「ん・・・確かにな」
「私、焦らすのは好きでも焦らされるのは嫌いなの。そろそろ本気出してくれてもいいんじゃないの?」
「う~ん、アンタみたいな綺麗なレディに頼まれたとあっちゃあしょうがねえな」
「あら御上手♪そんなこと言われたらこっちも“本気”にしちゃうわよ?」
「はっはっはっ!そりゃ結構、男として冥利に尽きるね!」

冗談交じりにけらけら笑うジョウに、楯無も妖艶な笑みで返す。
彼の目的は未だにわからないけれど、(よこし)まな考えではなさそうであることは何となく理解できた。最初に生徒会室を訪れた時の彼と今の彼とでは、今の方が自然体でいる。事実、今も軽口をたたいて笑うというあの時決して見せなかった態度を見せている。
――決めた。本気を出し、彼を下す。あれだけの実力なら多少のダメージなど何とかするだろう、という信頼を込めて楯無は殺気を全開にする。相対する彼も空気が変わったのを感じ取ったかプレッシャーを増大させる。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

まるで彼らの周囲だけ重力が増したかのような錯覚を覚える取り巻き。中には感じたことのない威圧感に晒されて震えている者さえいる。誰もが本能的に“次で最後だ”と感じ取る。
はらり、と誰にも気づかれずに木の葉が一枚落ちてゆく。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

一夏が唾を飲み込む。箒がこれからの光景を目に焼き付けようとばかりに見つめる。本音と虚が今まで見たこともないほど不安そうな目線を楯無に送る。
ひらひらと舞う木の葉がゆっくりと二人の目の前へと舞い降りてゆく。


「・・・」

「・・・」


2人の目が同時に細まる。極限まで研ぎ澄まされた集中力が刹那を那由多へと変えてゆく。0コンマ001秒以下の世界。意識が無限に引き伸ばされる世界。相反する世界が混ざりあう。
そして、舞い散る木の葉が地面に―――








「いい加減に・・・しなさぁぁ~~~~~!!!」

ばちこぉぉぉん!!!

「へぶらいっ!?」

「暴れちゃ・・・駄目っ!!」

ばちばちばちぃっ!!

「あへんっ!?」


突如背後から現われた闖入者たちの容赦ない一撃に二人は昏倒した。一人は漫画に出てくるような巨大ハリセンに張り倒され、もう一人は容赦の無いスタンガンの直撃を受けて痺れている。


「はぁっ・・・はぁっ・・・もうっ!いつも人様に迷惑かけちゃダメって言ってるでしょ!!」
「な、何をするユウ!これはお前の為の―――」
「言い・・・訳しない!!」

ばちこぉぉぉん!!

「あばどんっ!?」
「か、簪ちゃん・・・!?ど、どうして・・・」
「・・・タレコミがあったから。そんなことよりも、あっちで今から説教」
「そ、そんな・・・いやでも待つのよ楯無!これは簪ちゃんと二人きりになるまたとないチャンス――」
「お説教はユウにしてもらう。喧嘩両成敗」
「せっかく簪ちゃんと話せたのにぃぃーー!!」


そこに現れたのは両者の弟と妹だった。さっきまでの真剣さは何処へやら、泣く子も黙りそうな一騎打ちをしていた恐ろしい二人は最早見る影もない。そこにいるのは最早唯の駄目兄と駄目姉。二人合わせてダメダメ人間である。抵抗も虚しくあっという間に芋虫の様な簀巻きにされた二人は連行されてゆく。

ずるずるずる・・・

「あっ待って簪ちゃん、自分で歩けるから、ちょっと引きずらないで!?」
「・・・皆を怖がらせた罰」
「そんな殺生な!?」
「皆さんどうも身内がご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんでした!
 ・・・ホラ行くよ!今日という今日は説教夜通しフルコースなんだからね!」
「ま、待ってくれ!これにはマリアナ海溝より深ーい訳がなぁ・・・あっ頭擦れてる!もうちょっと愛のある運び方を!」
「そ、そうなのよ簪ちゃん!私たち二人はとっても深い懊悩の末にこの決闘を・・・」
「「口答えしない!!」」
「「・・・ハイ」」

似た者同士かお前ら、と突っ込みたくなるが誰も突っ込めない。余りにもかっこ悪くて呆気ない決着。4人が見えなくなり、台風一過の後には金縛りの解けた見物客と儚げな木の葉一枚が残された。
ついでに翌日から学園内で「本当の最強はあの二人じゃね?」という噂が流れ、弟妹最強説がまことしやかにささやかれるようになったりするのであった。







再び生徒会室。そこには正座した駄目姉と駄目兄がずっと座らせられていた。
そんな二人を見つめる弟と妹。まるで養豚場の豚を見るような冷たい目で二人を見下ろしながら、その片割れ――ユウが口を開く。

「で?いい加減何をしようとしてたのか白状する気になった?」
「あ、それ私も気になるわ。結局教えてくれなかったし・・・」
「お姉ちゃんは黙ってて」
「そんなひどい・・・・・・ハッ!いまお姉ちゃんって言った!?も、もう一回!もう一回お姉ちゃんって呼・・・」
「・・・えい」

ばちぃっ!!

「あっふんっ!?」

楯無と簪はさっきから割とこんな感じである。ある種もう打ち解けていると・・・言えるのだろうか?少なくとも姉の方は自重率が限りなく下がっているように見える。

「ハッハッハッ!妹に頭が上がらないでやんのー!」
「うっせー糞虫が・・・いいからさっさと吐け」
「ゴメンなさい調子乗りましただから俺をそんな目で見ないで!!」
(他人の事言えないじゃない・・・)

正座から見事な土下座へと形態移行したジョウを“愉悦”と書かれた扇子を広げながら楯無が笑い、そして再びスタンガンを食らっている。・・・さっきから思っていたが、簪ちゃんは意外と物騒な子のようだ。

「怒らずに最後まで聞いてくれるか・・・?」
「内容による」
「・・・あのな。俺は朝のお前の様子を見てこう思ったんだよ」

口ごもりながらジョウは事の始まりを語りだした。楯無も今度は茶々を出さずに静かに聞いている。

「お前はさ、世界で最高に人がいい奴だ。頼まれたらNOと言えない位な。
だからお前はあの勧誘の嵐に晒されたときこう考えたはずだ。
“ここでどこかの部を選んでしまったら、わざわざ勧誘に来た他の部の人に申し訳ない”・・・ってな」
「・・・!」

ユウの身体が固まる。それは確かに、少しだけではあるが考えたことだった。
ユウの反応を見たジョウはやっぱりな、と言わんばかりの表情で話を続ける。


「普通の奴ならそんなの唯の自意識過剰で片づけられる。だが残念ながら、今のお前の影響力は国家レベルまで膨れ上がっちまった。感じなくていい所まで責任を感じるようになっちまってるんだ」
「そんなことは・・・」
「絶対に無くはないだろ?」
「・・・」
「だからお前は選ばなかった。選ばれなかった部の悲しむ顔が見たくないとか無意識に考えてな。だが・・・それじゃお前のやりたいことが出来ねぇじゃねえか。お前の意志は何処へ行くんだよ!・・・そう思ってな。そしたら食堂で会った女子が教えてくれたんだ。生徒会なら勧誘を強引にでも押し切ることが出来るってさ」
「だから一騎打ちを?」
「ああ。勝ったら“ユウへの勧誘活動を止めさせて、ユウ自身の意志で部活動を決められるよう保護して欲しい”って頼むつもりだった」
「・・・・・・」

この人は馬鹿だ。それだけは間違いない。この一件でどれだけ人間に迷惑をかけたかも分からない。それでも、彼が弟のために行動を起こしたことも間違いない。そして――それは本人なりにしっかり弟の事を案じての行動だったことは、もはや疑うまでもない。まったくこの人は・・・そんなことを言われたら怒るに怒れないじゃないか。


「・・・そういう事なら普通に頼んでくれれば引き受けたのに・・・ねぇ?」
「ここの会長は根性捻くれてるって聞いてたからな。

 ついでにやたら強いとも聞いたからこの機会に是非手合わせしてみたくなって・・・」



・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・・・なるほどなるほど。つまりこんな騒ぎにしたのは結局のところ兄さんのごく個人的な事情だった訳だ・・・フーン?」
「あ、いや、ちち違うぞ?この方が後腐れないとかいろいろ考えての事だぞ?」
「へー。そう」
「そんなジト目で見ないでくれ!」

ちょっと感動した僕が馬鹿だった。結局のところこの兄は馬鹿で戦闘狂で、自分の都合のいい訳に弟の事を持ち出していたわけだ。みるみる内に兄さんの顔が青ざめていく。そうだ、自分の行ったことの愚かさを存分に思い知るがいい。握りこぶしに有らん限りの力を込め、ユウは叫びながら盛大にそれを振り抜いた。

「兄さんの・・・大馬鹿やろぉ~~~~!!!」
「ぎゃぁぁぁ!待って話を聞いはぐべびほぼ!?」

その後、ジョウはその身勝手な行動についてを、楯無は(立場的には)一般生徒相手に殺人技を使おうとしたことを延々と説教され、その説教は就寝時間直前まで続いた上に翌日に反省文まで提出させられたという・・・


「大体兄さんは昔から身の振り方というものをくどくどくど・・・ちょっと楯無さん!?貴方もですよ!!」
「更識家当主のくせにそうやって個人的な感情で動いてくどくどくど・・・ちゃんと話聞いてる?」

「「ゴメンなさいもうしません許してくださーい!!」」
 
 

 
後書き
「こうしたら見やすいよ!」的なアドバイスは歓迎してますんで、偶にはコメントくれると嬉しいです 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧