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メフィストーフェレ

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第四幕その二


第四幕その二

「このことを忠告させて頂きます」
「別のものをか」
「しかし」
 ここでメフィストは顔を顰めさせて言うのであった。
「ここはです」
「ここは?」
「今一つ合いません」
 こう言うのである。
「どうも」
「どうもですか」
「そうです。ブロッケンで魔女達と共にいるとです」
「その方が君の性に合っているのかい」
「私は神聖ローマの風土が合っていますね」
 そちらの方だという。彼の言葉である。
「はっきり言いまして」
「帝国の方がかい」
「イタリアもそうですがギリシアには馴染みがありません」
「縁がないのかい」
「やはり帝国です」
 そこだというのである。
「どうもです」
「そこなのかい」
「ですから」
 さらに言う彼だった。
「ここの香りも好きにはなりません」
「花や香油の香りも」
「あのハルツ山のごつごつとした匂いに刺激の強いタールや樹脂の匂いの方がです」
「ああした香りの方がいいのかい?」
「博士は違いますか?」
「私はこの方がいい」
 そうだというのである。
「イタリアも好きだが」
「帝国の人間はイタリアが好きですね」
「それは否定しないよ」
 はっきりと答えたファウストだった。
「正直なところね」
「イタリアのあの晴れやかな空も爽やかな風も好きではありません」
「帝国のあの寒く暗い世界がいいのかい」
「そうなのですよ。私が」
「そんなにいいものか」
 ファウストにはわからない話だった。それで首を傾げさせていた。その彼のところにである。
「ようこそ」
「魔神ね」
「北の国の」
 川の精霊達が二人のところに来た。そのうえで声をかけてきたのである。
「そこから来たのね」
「ようこそ」
「そちらの奇麗な方は」
「ファウスト博士という」
 メフィストはやや勿体ぶった口調で精霊達に彼を紹介した。
「帝国の高名な学者だ。
「学者さんなのね」
「見たところ立派な方だけれど」
「そう、そしてだ」
「そして?」
 メフィストは精霊達に対して問う。
「エレナ王妃は何処かな」
「王妃様だったら」
「パンタリス様と一緒にいるけれど」
「あれ?」
 小舟の方を見るとだった。彼女はいなかった。パンタリスもである。
「どちらに?」
「どちらに行かれたのかしら」
「私はここに」
 するとそこにであった。そのエレナが出て来たのであった。優雅な微笑みを浮かべてそのうえでファウストの前に来ていた。
 
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