変人だらけの武偵高
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1話
前書き
この小説にはキャラ崩壊要素が含まれております。もしかしたらあなたの大好きなあのキャラがとんでもない変態になってる可能性があります。
その辺りを了承した上でお読み下さい。
尚、スマートフォンでの投稿になるのですが、スペースが一文字分になるように調節出来なかったので、大変見苦しいのですが文頭の空白が抜けております。どうかご容赦下さい。
最悪の目覚めだ。
喧しく鳴り続けるインターホンの音で覚醒した遠山キンジは、日課である朝の星座占いを見るまでもなく今日は最悪の一日であることを確信する。
キンジはオカルトの類を信じてはいない。が、自身のジンクスーー最早習性と言っていいそれを守らなければ落ち着かない性質があった。そのため彼の朝食は決まって、たっぷりとピーナッツバタークリームを塗ったトーストとブラックのコーヒーである。
そんなある意味几帳面とも言える彼のジンクスの一つは、寝起きに日光を浴びながら大きく伸びをすることなのだが、今日はどうにもそれが叶いそうもない。
きっちりと閉じ切った、窓ガラスの向こうの雨戸を見て、キンジは沈鬱な気分になった。
キンジは普段、雨戸を閉めて眠る。これも彼の癖ではあったが、ジンクスではなかった。
例えるなら虫除けみたいなものだ。余計なものが自分のプライベートゾーンに入ってこないための、いわば防壁だ。
萎え気味の気分を払拭すべく、胃に何かーー当然、トーストとコーヒーなのだがーーを詰め込もうと、キッチンに向かう。その際、玄関から何かを叩くような音が聞こえたが、気に止めなかった。
朝食が出来上がると、時計を確認しながらそそくさと口に運ぶ。不本意ではあるが、キンジは遅刻の常習犯だ。加えて今日は新学期初日。間違っても遅刻する訳にはいくまい。
キンジは部屋に戻り、畳まれていた制服に着替えようと、寝巻きを脱ぎ掛けたところでーーどこからかの視線に気づく。
そういえば、何やらうるさかった玄関からの音もいつの間にか消えている。
キンジは机の中を弄り、シンプルな黒い箱のような機械を取り出した。それを、部屋の隅々に翳す。
自分のベッド、枕元の辺りで。ピーッと、無機質な機械音が鳴った。
またか。諦めの念を隠さぬまま周辺を探ると、よく見なければ分からないくらい小さなカメラが設置されていた。カメラ部分を見ると、カメラの向こうからこちらへの視線を感じ、気味が悪くなった。
それをティッシュにくるんでゴミ箱に放り捨てて、キンジは疾く着替えを済ませた。
さて、準備は完全に整ったのだが。向こうも準備は万端だろう。
キンジはリビングから動けないでいた。何しろ、廊下に出た時点で彼女には勘付かれてしまう。
前に聞いた時話では、彼女は「キンちゃんレーダー」なる迷惑極まる感覚器官を有しているらしく、ある程度の距離近付くとあらゆる挙動を察知するという。キンジ限定で。
仕方ない、応援を呼ぼう。
キンジはケータイを開いた。
着信履歴、719件。
キンジはケータイをそっと閉じた。
止めよう。彼女の電話に出てないのに、他の人間に電話したなど知れたら、そいつがどうなるかわかったものじゃない。
キンジは諦めて、彼女との対面を覚悟した。かつて死地に向かう時よりも、胃が持たれる思いだった。
玄関の覗き窓から、そっと外の様子を確認する。が、何故か何も見えなかった。
大人しく出よう。静かに深呼吸して、キンジは扉を開けた。
固い感触。
「あいたっ! もお〜、急に開けないでよキンちゃん!」
「お……おう。悪い、白雪」
謝らなくてもいいよ、と額を赤くした星伽白雪は微笑んだ。
キンジの通う東京武偵高の防弾機能付きセーラー服は今日も乱れがない。強いていうなら、彼女の持つ豊満な胸が(主に男子生徒の)風紀を乱しているくらいだろう。
長い黒髪のてっぺんに白いリボンをちょこんと乗せた、大和撫子を体現したような日本風美少女である。
キンジ曰く、変人だらけの武偵高の中でもトップクラスの変人ーーらしいのだが。表面上は、とてもそうは見えない。
「今日は自分で起きれて偉いね、キンちゃん! でももう少し寝てても良かったんだよ? 私が起こしに行ったのに」
「いつまでもガキじゃないんだ、そんなことする必要はない。というより今すぐ止めろ俺の成長のためにも」
「ええー、そんなぁ」
こんな美少女が、朝から部屋に迎えに来てくれる……男なら一度は憧れるシチュエーションだ。が、キンジの表情は優れない。
原因は、すぐに分かった。
「ところで」
一言。
何の気も無い、ただ一言。そう言えるかも怪しい会話の繋ぎ程度の一声で、キンジの顔から血の気が引いた。
そして白雪の瞳からハイライトが消えた。
「何でインターホン押したのに出なかったの?」
「あんなに何度も押したのにピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンって1086回も押したのにねえ何で電話も出てくれないのずっとずっと掛けてたのにキンちゃん起きてたよね分かるよだってずっと見てたもん朝のテレビの占いも見てなかったよね大丈夫?良ければ私が占うよ?ていうかテレビの占いなんてそもそも見る必要ないよね私がなんとしてでもキンちゃんの運勢を最高にしてあげるんだから占いとか意味ないよねそういえばインターホンも聞こえてたよねだってずっと聞いてたもんねえ何で?どうして?キンちゃんは私のこと嫌いなの?嘘だそんなことある訳ないだって私はキンちゃんがこんなに大好きなのにああキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃん好き好き大好き愛してるキンちゃんのためなら何だってできるキンちゃんのためだったら星伽も潰せる先生だって殺せる犯罪者を一匹残らず皆殺しに出来るだから愛してキンちゃん私をいいでしょキンちゃん手を繋ごうキスしよう触れ合おう子作りしよう幸せな家庭を築こう?」
キンジ は 逃げ出した !
「あれ?キンちゃんどこ行くの?ああもう遅刻しちゃいそうだもんねああ必死に走るキンちゃんかっこいい素晴らしい360°から撮影して部屋中に隅々まで写真を貼っておきたいああでも先に捨てられた分もう一個カメラ設置しなきゃ……」
白雪は、腰に備えた日本刀ーー銘を色金殺女のその剣で、ドアを両断した。
キンジは知らない。部屋に無断侵入されているのは知っているが、その方法までは知らない。
鍵を閉めてもチェーンを掛けても窓を閉めても雨戸を閉めても指紋認証を付けても部屋に入れる方法なんて、考えるだけ無駄だと思ったからだ。
まさか、扉を真っ二つにされ、後でそれをくっ付けていたなんてーーそんな魔法みたいな方法なんて、及びもつかなかったに違いない。
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