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夢遊病の女

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第一幕その八


第一幕その八

「ということは」
「四年前に亡くなられたあの」
「あの方にはよくしてもらいました」
 伯爵はここでも昔を懐かしむ顔になった。
「とてもです」
「そういえばあの方は」
 テレサが思い出した様に述べた。
「御子息がおられました」
「ああ、そうだったな」
「そういえば」
 村人達もここでこのことを思い出したのである。
「今はどうしておられるかな」
「何も聞かないな」
「そうです」
 また言う伯爵だった。
「私はその子息に便りを送っています」
「そうなのですか」
「では御子息は」
「はい、その方は生きておられます」
 こう村人達に話す。
「それは私が保証します」
「それでは御子息は何時こちらに」
「こちらに戻られるでしょうか」
「近いうちに」
 微笑んで村人達に対して述べた。
「戻られますよ」
「そうですか。それでは」
「その時を楽しみにして」
「そうだな」
 そんな話をしていたのだった。ここで羊小屋から羊達を連れ戻すバグパイプの音が聞こえてきた。それが村の中に響き渡ったのである。
「ああ、もう日が沈むな」
「そうだな」
「早いものだな」
 村人達はそれを聞いて言い合った。
「それじゃあ後はだ」
「帰ろう」
「そうね」
「出るからな」
「出るとは?」
 伯爵は村人達が急に怯えた様子になるのを見た。そうして怪訝な顔で彼等に問うた。
「一体何が」
「亡霊が出ます」
 テレサが怯える顔で彼に話した。
「それがです」
「そうなのです」
「これが」
 他の村人達も彼に話すのだった。
「それで早く家に入らないと」
「祟られますので」
「恐ろしい話だ」
 伯爵はそれを聞いて述べた。
「それは。しかし」
「しかし?」
「それは本当のことですか?」
「そうです」
「恐ろしいことにです」
 村人達はまた彼に話した。
「夜になるとです」
「夜になると」
「夜の闇に空は暗く」
「定かならぬ月の光の中にです」
 こう彼に話していく。
「遠い雷鳴の陰気な響きと共に丘から野原にそれが出て来るのです」
「それが幽霊なのですか」
「はい、そうです」
「それがです」
「だらりと下がった白い布に包まれ髪を振り乱し」
「燃える目をしています」
 そうした亡霊だと話していくのだった。
「もやや風に吹かれた雲の様で」
「それが出て来るのです」
「まさか」
 伯爵は彼等の話をあまり信じてはいないようであった。見ればいぶかしむ顔をしている。
 
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