夢遊病の女
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第一幕その四
第一幕その四
抱き締めてからまた言うのであった。
「私は死んでしまいそう」
「死にそう?」
「あまりもの喜びで」
そうなってしまいそうだというのだ。
「そうなってしまいそうだわ」
「テレサもアミーナと一緒に」
「幸せになりましょう」
こう話していると。ここでアレッシオが出て来て言うのであった。
「アミーナ、おめでとう」
「アレッシオ」
「僕も祝福させてもらっていいから」
「是非」
アミーナは彼にも満面の笑みを受けていた。
「そうして下さい、貴方も」
「僕は歌を作ったんだよ」
「歌をなのね」
「そうだよ、歌をね」
それをだというのだ。
「今周りの村々から音楽ができる人達を集めているから」
「そういえば貴方も」
「僕も?」
「リーザとなのね」
ここでリーザを見た。彼の横にいる彼女を。
「幸せになるのね」
「そうだね」
アレッシオは確かな笑顔でアミーナのその顔に頷いた。
「それはね」
「今度は貴方達なのよ」
「そうなろう、リーザ」
アレッシオはリーザに顔を向けて言う。
「今から」
「まだよ」
だがリーザは不機嫌なままであった。その顔で憮然として返す。
「それは」
「まだだというのかい?」
「そうよ、まだよ」
そうだというのだ。
「それはね」
「そんな、僕はもう」
「貴方がよくても」
ここでもアレッシオに対して冷たい。
「私はまだなのよ」
「君は何故そんなに冷たいんだ?」
「冷たくはないわ」
それは否定した。
「ただ」
「ただ?」
「今は無理なのよ」
そうだというのである。
「今は。私は」
「何故なんだ、それは」
「心がそうなっているからよ」
それが閉じているからだというのだ。
「今の私は」
「それじゃあ何時かは」
「何時かなんてわからないわ」
何処までも冷たい。今の彼女は。
「とにかく今はね」
「これは暫くはないわね」
テレサはそんな二人を見て一人呟いた。
「アレッシオには可哀想だけれど」
「おお、来られたぞ」
「遂に」
また村人達が声をあげた。今度は村の入り口を見てだ。
「公証人さんだ」
「それではいよいよ」
「どうもです」
初老の落ち着いた紳士がやって来た。彼を皆で迎えるのである。
「お待たせしました」
「いえ、今はじまったばかりです」
エルヴィーノは穏やかな笑顔でその初老の公証人に告げた。
「ですからそれは」
「気にすることはないと言って頂けるのですね」
「はい、そうです」
まさにその通りだというのだ。
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