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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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コラボ
~Cross storys~
  episode of cross:呼吸

巨人から数百メートル離れた河原の上。

その上に、お世辞でも優しいという言葉から程遠い降ろし方で放り出されたレンはイテッ、と思わず言ったのと同時に目が醒めた。

周囲にはゼェゼェと肩で息をする男達四人。

「ど、どうし───……ッ!」

どうしたの皆?と言い掛けた時、体に電流が流れたような痛みが走った。

骨が軋み、血流が逆流するような気がする。

げほっ、えぇほっ、と咳き込み、その声でやっと半自動操縦状態だった四人がこっちを見た。

「おお、レン。良かった、起きたのか」

ホークが疲れの色を隠ることができない声で、しかし嬉しそうに言ってくる。

それに苦笑を返してから、レンは口を開いた。

「あれから、どうなったの?あの巨人は?」

それに口を開いたのは、隅っこで寝転がっていたゲツガだった。

「逃げたよ。あのヤロウ、二十五層の時より遥かに強くなってやがる」

「そう………」

顔を落とすレンの顔が歪んだ。見られたくなかったのだ。

この醜い表情を。

体の奥底からあふれ出してくる憤激を押さえられない、この表情を。

───また僕は………助けられたのか。

涙が目尻に盛り上がって、たちまち視界がぼやけてくる。

涙がまなじりから音もなく落ちて、地面の砂利の上に小さく円を形作る。

悔しさが込み上げてきて、意味もなく叫び出したい衝動に駆られるが言葉を成さない。ただ金魚のように口をパクパク開閉させるだけだ。と突然、レンの後頭部に軽い衝撃が走った。

振り向くと、拳を振りぬいた体制で固まるゲツガがいた。

「な、何?ゲツガにーちゃん………」

「何じゃねぇ。お前のせいでどれだけ皆が死にかけたと思ってんだ」

「……ぁ」

慌てて四人を見回す。

四人の装備は皆、耐久度危険値を示してところどころほつれたり刃こぼれしたりしている。呼吸も荒く、顔色も心なしか悪かった。

「ご……ごめん………」

しょんぼりと頭を下げるレンに、今度はセモンが声をかけた。

「レン、確かにキミにも個人的な事情があったかもしれない。だが、それだからこそ約束してくれ。もう二度とあんなことは止めてくれ。作戦ってのは、全員が生き残るためにあるものなんだから」

「…………………………………」

こくり、と無言で頷くレンの頭をホークが優しく撫でた。そんなホークに、今度はシキが口を開いた。

「ホーク、さっきはこのバカが一人で突っ走っちまって、作戦立てる余裕もなかったが、今だからこそ訊ける。あいつの弱点はどこだ?」

無言でレンの頭から手を離し、顔を引き締めたホークは、もう《情報屋》としての顔になっていた。

「ああ。はっきり言おう。クォーターボスっつーのは、弱点がないんだよ。これははっきり分かってることだ。だが、まるっきり付け入るとこがないって訳じゃねぇ。さっきもそうだったように、攻撃動作直前に攻撃した時の、行動不能(スタン)に陥る確率が異様に高いんだ。そこに全員で一斉攻撃をかけられれば………」

「倒せるって訳か?」

「…………断言はできない。さっき言ったように、あいつ自体のステータスが異常に高いんだ。一番の問題はそこだな。あのブレスと強攻撃をかいくぐって、いかに多くの弾幕を張れるか………」

神妙な顔で黙り込む一同。

とくにゲツガは先刻、レンとホークを守るためにメイスによる攻撃を受けてしまっている。あの衝撃はとてもじゃないが一人で耐えられるものではないことは、骨身に染みて解かっているのだろう。

加えて、あのだだっ広い攻性化範囲(アグロレンジ)だ。

あれほどの広さならば、範囲外からのレンの鋼糸(ワイヤー)による攻撃はギリギリ届かないだろう。

通常、ボスより一段階ほど出来が良いクォーターボスの思考シークエンスは厄介だ。その基本的思考は単純、援護タイプの早期排除だ。

これは安易そうに見えて、その実非常に厄介だ。

援護タイプなどと言うと大層に聞こえるが、詰まるところ自身から遠い位置にいるプレイヤーを優先して無差別に襲い掛かるのだ。

つまり、遠い位置というのは、HPを磨り減らしてポーションで回復しているプレイヤーも、ということだ。

援護役のレンにとって、あのアインクラッド第二十五層フロアボス《ジェネラル・ザ・デュアル・ジャイアント》ほど集団戦で戦うに嫌な相手は居ないだろう。援護役に回ろうとすればするほど、周りのダメージディーラー達が負う傷も深くなることだろうし。

ホークが難しい顔をして頭を悩ましている。

ぶつぶつ何か呟いて、空中に指で何かを描いている。今、ホークの頭の中では様々なことが渦巻いているのだろう。

私情で言いたいことは山ほどある、だがこの場で一番の参謀役としてそんなことは、とてもじゃないが言えないのだろう。

「……OK、やっぱり役回りは変えられない。だが細かい変動はちゃんとするぞ。まず、レン。お前は今までと変わらない奇襲&援護役。セモンは小回りがきく分、レンに集中気味の攻撃をカットしつつ隙が出来たら攻撃してくれ」

「うん」

「あぁ、わかった」

レンとセモンが、揃ってこくりと頷く。それを見届けてホークが言葉を続けるために口を開いた。

「次に、アタッカーは俺とシキだ。シキは基本的な方針としては、あまり無理をせず地道にヒット&アウェイを狙ってくれ。俺はまぁ、できるだけ削れるように頑張ることにするよ。ゲツガは、辛いだろうけどタンク役を頼む」

「わかった」

「おうっ」

シキとゲツガが頷いたのを確認し、ホークは最後に、と言って真剣な顔で全員の顔をゆっくりと見回した。

「皆、これだけは絶対に守って欲しい。短期決戦をしようとしないでくれ。あくまでゆっくり、別に映画みたいにタイムリミットがあるわけじゃないし、HPを大事にして長期決戦を目指そう…………!」

「「「「おぉーっ!!!」」」」

五つの拳が、天に向けて突き上げられた。










「ゴォオアアァァァアアアアアァァーッッッッ!!!」

ヴゥヴヴンンン!と風斬り音をともなって、刀身だけで五メートルはあろうかという大剣が振り下ろされてくる。その材質は、青銅だろうか。

返り血のようなものがこびり付きすぎていて、材質が何か非常に分かり難い。

だが、その感じが逆にその刀身に異様なまでの迫力を付与している気がする。

それと比べたら、爪楊枝くらいにしか見えなさそうな己の愛剣をただ無言で、セモンは振るう。すぐさま、とんでもない衝撃。

本気で足を踏ん張っていないととてもじゃないが、すぐさま吹き飛ばされそうだ。

ぎり、ぎり、と愛剣《ソード・オブ・アマノムラクモ》が過剰すぎる圧力に悲鳴を上げるように軋む。

一瞬の刹那、どうにか大剣の軌道をズラすことに成功した。

恐ろしい威力を含んだ刀身は、紙一重で掠めて背後に流れた。

掠った頬が、ジッと言う音を立てて熱を持つ。背後で轟音を立てて、巨人の大剣が地面に深い傷跡を穿った。視界の端に浮かぶHPバーが、音もなく二、三パーセント減少した。

「………ッ!うおぉぉああぁぁぁーっっ!!!」

衝撃に軋む体を必死に回転させ、遠心力をブーストした攻撃を敢行する。

黒い巨人の胸元に、真一文字に真紅の傷が付く。空中に真っ赤なパーティクルが飛び散り、音もなく消えていく。

砂利で若干足場に不安がある地面の上に着地する。

すぐさま、唸っている巨人の再起を待たずに挑みかかる。剣をライトエフェクトが包み、腕が見えない手で動かされたように加速する。

《アラブル・スラッシュ》

丸太みたいな足が、ソードスキルの威力に押されたように…………数ミリ動いた。

「動かねぇー!!」

ボディバランスが弱いと踏んだが、そもそもの体重が桁違いのため、小揺るぎともしない。

まるで巨大な大岩でも素手で殴っているような感触だ。破壊不能(イモータル)オブジェクトの感触。頭の裏側辺りに、嫌な感じの汗が浮かんでは消えていく。

やけに体が重い。

足も、磁石のように地面に引っ付いているような気がしてくる。

無駄なことを意味もなくやっているのではないか、そう思えてくる。

とうとう漆黒の巨人は一時のスタンから解放され、雄叫びとともに戦斧を持った腕を振り上げた。

───次弾が来る!!

そう思って身構えたときに、スン!と巨人の目の前を何かが横切った。

目には捉えられないくらい細い、しかし禍々しい圧力を放っているもの。

ガァアア!!!と巨人が顔を覆って蹲った。その光景に咄嗟に後ろを見ると、数メートル後ろに居たレンがにっと笑うのが見えた。

それに片手を上げて応えながら、セモンの意識はもう巨人のほうへと戻っていた。

そこでは早くも背後から攻撃していたゲツガ、シキ、ホークがそれぞれの得物を、漆黒の球体みたいになってしまったボス《ジェネラル・ザ・デュアル・ジャイアント》に突き立てていた。ちらりと球体の右上に浮かぶHPバーを見る。

四段重ねのそれは、たった今レッドゾーンに突入するところだった。

───まだ、あんなに………

脳裏でこだます、そんな声。

その弱気な声を振り払うように、セモンは頭を軽く振った。余計なことは考えない。それが、そのことが結果に繋がるのだから。

「行くぞ!!」

「「「「おぉ!!!」」」」

返ってきた声がきっちり四つということを確認し、セモンは足に力を込める。

脳裏に浮かぶのは、少し肩が出ている騎士装束の少女と、相棒の男。

帰る、絶対に。

いかなる手段をもってしても、何が何でも、帰る。

また一つ決心をし、セモンは一歩を踏み出した。

自らの居場所へと帰るがために。










永遠と思えた戦闘の後、アインクラッド第二十五層フロアボス《ジェネラル・ザ・デュアル・ジャイアント》がその巨体を四散させた時、それを素直に喜べるものは誰も居なかった。

ただただ全員が地面に寝っ転がって、天を仰ぐことしかできなかった。宵闇だった陽光は完全に地平線に沈んでいて、辺りはもう真っ暗闇の中に沈んでいる。

ぜぇ、ぜぇ、と。激しい呼吸が初夏の空気の中へと消えていく。

戦闘の中では、いつ滑るかと思ってひやひやするだけだった砂利が、こんな時だけは冷たくて気持ちが良い。

火照った体が、ぐんぐん冷えていくのを感じる。

「みん……な、無事…………か?」

息を整えていたシキが、誰ともなく声をかける。

幸いなことに、すぐにあちこちから声が返ってくる。それを聞き、シキ。

「よし。じゃあどうする?もう行くか?それとも、暗くなってきてボスも出ないようだし、明日にするか?」

「………ごめ……明日に……」

返ってきた声の幼さで、レンだと判る。

確かに彼の年齢で、この短時間で体力と精神を回復させるのは難しいだろう。今日はほとんど死と隣り合わせの戦闘を連続で、ほとんど休まずに続けていたのだ。疲れるのも当然なのかもしれない。

他の三人の声にも張りがなく、シキ自身も疲れていたので、わかった、とだけ呟いてシキは右腕を目に押し当てる。薄暗闇の視界の中で、右隣からゲツガの声がした。

「なあ……、シキ」

「なんだ?」

「……ホントに…帰れると思うか?」

「………………………………」

「今まで考えないようにしてきたけどさ。ポーションにも限界がある。回復結晶だって、全部で三個しかない。正直に言って、今の戦闘を続けていたら…………」

口をつぐんだゲツガの代わりに、今度はホークが口を開いた。

「確かに、な。道具(アイテム)も、俺たちのHPも決して無限じゃない。絶対にいつか、ゼロになる時が来る。アイテムは道具屋で買えばいいが、HPは売っちゃあいないんだよな」

「ああ。だが今は、そのアイテムすらも道具屋で補充できない。問題は、その状況の中で、どうやってあのクソヤローを倒すかってことだ」

セモンが、口を開いた。

「奇襲攻撃はどうなんだ?あいつは見た目特徴からしても、相当自分に自信を持ってる。奇襲から一気にHPを削れば、逆上して冷静さを欠くことができるかもしれない」

「セモン、忘れたのか?あいつには翼があるんだぞ。二メートルそこらしか浮けない飾り物の物だったらともかく、あれで五十メートルでも飛ばされてみろ。どっから奇襲を仕掛けられるんだ?出て行った途端に、あのレーザー浴びて即死だろうな」

「じゃあ………」

《情報屋》ホークは、静かに首を縦に振った。

その瞳は、上を見上げていたが、シキにはもっと遠く、ずっと先を見つめているようにも見えた。

「ああ。奇襲も、消耗戦もダメ………。そうなったら、残る戦い方は一つしかなくなった」

シキは一人思う。その瞳は───

「真正面からの、短期決戦」

何を映しているのだろうか、と。










陽が沈む。

薄れ行く意識の中、ボロボロまですり減らした精神を休ませる中、彼らは何を思うのだろうか?

 怒り?

 悲しみ?

 苦しみ?

 戸惑い?

それとも─── 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「これはまた………意味深な終わり方だったねぇ」
なべさん「そーなんだよなぁ~。この頃読んでるラノベがキノの旅くらいしかなかったからな」
レン「そりゃあ………ガンバ?」
なべさん「なんで!?なんでそんな眼でこちらを見ていらっしゃるのでせう!?」
レン「だって、ねぇ?」
なべさん「ねぇ?じゃねぇ!!同意するか!」
レン「LINEでも芸風が分からないとか言われてたし………」
なべさん「それ関係あるのか!?」
レン「あるでしょ。あ、LINEグループに入りたいという方はどーぞ~♪カオスしか属性がないような気がしますが、それでも楽しいですよー」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
──To be continued── 
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