利口な女狐の話
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第一幕その三
第一幕その三
「いい名前だろう?」
「どうせその名前も人間が名付けたものでしょう?」
しかしビストロウシカはそれを聞いてもこう冷たく返すだけだった。
「そうなのでしょう?」
「確かにそうだが」
それは彼も否定しなかった。
「しかしいい名前じゃないか」
「人間のつけた名前よ」
「だから駄目だというのか」
「そうよ。駄目よ」
まさにそうだというのだった。
「それに犬ってきたら私達を虐めるし」
「それはあんた達が悪さをするからだろうが」
「私達はただ大好きな鶏を食べるだけよ」
まさにそれだけだというのだ。
「それの何処が悪いのよ」
「悪いよ。いいかい、日本という国の狐はね」
「日本?そんな国があるの」
「ここよりずっと東にあるらしい」
ラパークは子供達が親から聞いて話していたことを彼女に話すのだった。
「そこの狐は何でも豆から作った食べ物を揚げたものが好きらしい」
「変なもの食べるのね、その国の狐は」
「あんたもそうして野菜を食べたらどうだ?この国の狐も」
「野菜は食べてるわよ。これでも菜食主義者なのよ」
森で話したこととそのままだった。
「言っておくけれどね」
「しかし鶏も食べるんだろう?」
「それが悪いの?」
「悪いから怒られるんだよ」
あくまでこう言うラパークだった。
「そうじゃないか」
「違うわよ。あんたにはわからないのね」
「わからないって何がなんだ」
「それがわからないから駄目なのよ」
「何だっていうんだよ」
話はここで中断となった。そしてここで。
「あっ、これがなんだ」
「そうなんだよ、これがだよ」
「お父さんが持って来てくれた狐ね」
この家の子供達だった。急にビストロウシカ達の前に来たのだ。
「可愛いね」
「そうだね」
「毛並みなんて」
「こらっ、触らないでよ」
触られて不機嫌になるビストロウシカだった。
「折角整えた毛づくろいが乱れるじゃないの」
「人間の子供はそうなんだよ」
ここで横からラパークが言ってきたのだった。
「そうやってべたべた触るものなんだよ」
「私は触られたくないのよ」
自分のことを主張するビストロウシカだった。言う間にもべたべたと触られ身をよじって逃げようとして憮然とした顔になっている。
「そんなの嫌よ」
「嫌でも飼われてるからには」
「飼われるのだって頼んだ覚えはないわよ」
「それでも飼われてるからには」
「だから嫌だって言ってるのよ」
話している間にもまだ子供達は触ってくる。それにいい加減頭に来てだ。
「いい加減に死なさいっ」
「うわっ!」
男の子の手を噛んだ。軽くである。しかしこれで子供達が泣いてしまった。
「狐が噛んだ!」
「噛まれたよ!」
「やられた!」
「何っ、狐が!?」
「噛んだだって!?」
それを聞いた管理人とその妻が出て来てだ。彼女を殴りつけた。頭をぽかりとやられてさらに不機嫌な顔になる。機嫌はいよいよ最悪なものになりそのうえで丸くなる。その彼に対して今度は鶏達がやって来て言うのだった。この家に飼われている鶏達だ。
「何やってんだか」
「全く」
「あんた怒られたいの?」
こう言う彼等だった。
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