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とある六位の火竜<サラマンダー>

作者:aqua
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とある土曜日

本日は土曜日。普段なら学生たちは思い思いの休日を過ごす日である。しかし柵川中学の生徒は午前中の今現在、授業の真っ最中だった。

「…すぅ……すぅ……」

そして神谷蓮は絶賛爆睡中。体のいたるところに怪我の治療痕が残っている。

「……すぅ…すぅ…」

そして、教室の真ん中あたりで絶賛爆睡中なのは松野奏太。松野にも少しだが治療痕がある。事情を知っている佐天と初春が2人が寝ているのに気づいて苦笑いするが先生はもう起こすのも諦めたのか普通に授業を進めていた。

「……おっ、時間か。じゃあ今日はここまで。」
「……うーん……終わった……?」

チャイムがなり、先生が出ていくと生徒が帰り支度を始める。その音で目が覚めたのか、蓮が目を覚ました。

「終わりましたよ。」
「思いっきり寝てたね~。良く眠れた?」
「おかげさまで。システムスキャンで授業潰れたからだかなんか知らないけどなんで週6で学校来なきゃいけないんだよ……」

蓮が眠そうに目をこすりながら愚痴る。だが、充分睡眠はとれたようだ。徐々に意識がはっきりしてくる。

「まぁまぁ。午前中で終わりでよかったじゃないですか。」
「まあね。よし、準備終わり。帰ろっか。」
「う~ん……」

初春になだめられながら蓮が準備を終えて立ち上がると佐天がなにか考えている。

「佐天?」
「なんか帰るのもったいないなぁ……」
「え?」

不思議に思った蓮が声をかけると佐天がそんなことを呟く。それと同時に蓮の脳内で鳴り響く警告音《アラーム》。疲れている蓮は帰りたいのだが嫌な予感しかしない。

「よしっ!どっかに遊びにい」
「あっ!そうだ!俺、今日はちょっと用事があったんだ!!というわけでさきに帰」
「遊びに行こう!」

佐天の言葉を遮って言い訳をした蓮だが、その言い訳をさらに遮って佐天に提案されてがっくりと項垂れる。

「いいですね!行きましょう!」
「いや、だから俺は…」
「神谷も行くよね?」
「……はい。」

初春が佐天の提案にのり、まだ言い訳を続けようとする蓮だが佐天に訊かれて諦める。あんな笑顔で訊かれたら蓮には断れない。

(おっかしいなぁ……今日はゆっくり休むつもりだったのに……)

「ん?どっか行くの?」

蓮が心の中でため息をついていると、たった今目を覚ましたらしい松野が帰り支度をしながら声をかけてきた。

「今から遊びに行くんだけど松野も来るか?」
「いや、昨日の神谷とのアレで疲れてるから今日は家でゆっくり…」
「そうかそうか!暇なら一緒に行くか!佐天、松野も行くってさ!」
「分かった!じゃあ遊びにレッツゴー!!」
「ちょっ…!俺は今日は……って押すな、佐天!!」

家でゆっくりする計画が崩れてちょっと機嫌の悪かった蓮が松野を巻き込み、4人は教室から出ていった。





「神谷……!!俺は今日は家でゆっくりする予定だったのに……」
「俺だってそうだったっての!」
「だからって巻き込むなよ!」
「佐天と一緒にいられるんだからいいだろ?」
「そういうことじゃねえよ!」

前を歩く佐天と初春についていきながら、蓮と松野は口喧嘩をする。もちろん前の2人には聞こえないように小声でだ。

「一昨日からいろいろありすぎて疲れたまってるってのに……」
「昨日だけじゃなかったんだ……」
「佐天達も同じはずなんだけどな。なんであいつら元気なんだよ……」

蓮に少し松野が同情していた時、少し離れた所でなにか大きな音がした。

「な、なに!?」
「凄い音でしたね…」
「あっちからだな。行ってみよ!」

音に驚き、音の方に向かう4人。そして、音がしたと思われる場所に着くと御坂がいた。空を見上げてなにかぼーっとしているようだ。

「御坂さ~ん!」
「あっ、みんなどうしたの?」
「こっちからなにか大きな音がしたんですけど……」
「え?あ、ああ……あはは……」

佐天と初春が声をかけると不自然に笑って誤魔化そうとする御坂。

「ん?そこの路地裏……松野、行ってみよ。」
「うん。」

そんな御坂の様子を疑問に思いながら、蓮と松野は見つけた路地裏に入っていく。そこにあった行き止まりには想定外の光景。

「「うわぁ……」」

電気によるものだろう。辺りは焦げてボロボロ。しかし、なぜか一部が綺麗なまま残っていた。まるで何者かが攻撃を防いだように。

「どう思う?」
「攻撃したのは十中八九御坂さんだろうな。誰がどうやって防いだのかまではさすがに分からないけど。」
「御坂さんってあの常盤台の超電磁砲《レールガン》だよね?そんな人の電撃を防ぐって……」
「まぁ、こればっかりは考えても分かんないな。なんかあったら御坂さんが言ってくれるだろうし、初春と佐天には黙ってよう。」

そう言って蓮と松野は3人のところに戻ると、早速佐天に声をかけられる。

「どう?なんかあった?」
「いや、特になにも。」

蓮の答えを聞いて、御坂が安堵の息をついたのは気のせいではないだろう。

「じゃあ、あの音はなんだったんでしょう…?」
「そ、そんなことよりみんなどこ行くところだったの?」

慌てて話題を変える御坂。明らかに怪しいが佐天達はあまり気にしないことにしたらしい。

「あたし達は特に行き先決まってないですけど……」
「ちょっ!佐天!?行き先決めずに歩いてたの!?」

歩き損じゃないかと項垂れる蓮。そんな蓮に構わず話は進む。

「仕方ないじゃん。決まってなかったんだもん。御坂さんはどこ行くんですか?」
「私?私は黒子にプレゼントを買いに。」
「プレゼント?」

御坂の言葉に首をかしげる初春。初春の記憶では誕生日とかではなかったはずだ。

「私と黒子がルームメイトになって、いろいろあって掃除させられてからちょうど1ヶ月なの。」
「いろいろの部分がすごい気になる……」
「そうだったんですか。じゃあ、あたし達もプレゼント選び手伝いますよ!」

アバウトな説明を聞いて佐天がそう申し出る。

「いいの?」
「どうせ行く場所なかったしいいですよ。ね?」
「はい!みんなでプレゼント選ぶの楽しそうですし!」
「もうどこでも行きますよ。」

初春と蓮がそう答え、松野が苦笑いしながら頷く。こうして御坂が加わって5人はプレゼントを選びにデパートのセブンスミストに向かって歩き出す。

「そういえば松野。」
「なに?」
「お前のレベルって何なの?」

歩きながら蓮が松野に訊く。クラスで周りの人に聞いたレベルが信じられずに松野に確認したのだが、

「レベル?レベル2。異能力者だよ。」
「「レベル2!?」」

松野の答えに佐天と初春が声をあげて驚く。昨日の蓮と松野の闘いを見ていない御坂は不思議そうに口をひらく。

「どうしたの?レベル2だからって驚くことないじゃない。」
「だって、松野は神谷と互角に闘ってたんですよ!?」
「えっ!?神谷くんってレベル5よね?」
「まぁ、一応そうですね。」

佐天から教えられて、知っているはずのことを確認してくる御坂に蓮は苦笑い。

「あれは神谷が手加減してたからだよ。いいから早く行くよ。」
「あっ!ちょっと待ってよ!」

誤魔化すように早歩きになった松野を佐天と初春が急いで追いかける。その松野の様子を不自然に思いつつも蓮が3人を追いかけようとすると

「ねえ、神谷くん。」
「なんですか?」
「松野くんの話ってホント?いくら手加減したからってレベル5がレベル2にそんなにボロボロにされるとは思えないんだけど……」

御坂に呼び止められて振り向くとそう訊かれる。真剣な表情で蓮は答える。

「クラスの人にも訊きましたけどシステムスキャンの時点では間違いなくレベル2ですね。でも、昨日の感じだとレベル4並みの能力でした。」
「でも、そんな短期間でレベルが上がる訳が……」
「ないですね。てか、上がってたまるかって感じです。」

蓮も御坂も今はレベル5だがもとはレベル1。レベルを上げる大変さは分かっている。だからこそ、この状況を誰よりも不自然に感じている。

「だったらどうやって……」
「神谷!御坂さん!置いていきますよ~!!」

御坂が真剣な顔で考え込んでいると先に行った佐天が大きな声をあげながらこちらに向かって手を振っている。

「今行く!…まぁ今考えても仕方ないですよ。なにかあったら松野から話してくれるんじゃないですか?」
「……そうね。考えても仕方ないわね。」
「2人とも早く~!!」
「ちょっと待てって!…御坂さん、行きますよ。」

なにか不自然さを感じながらも、とりあえずは佐天達に急かされるままに蓮と御坂は歩き出した。





「……うん!これにしよう!じゃあ買ってくるね。」

そう言って御坂が会計をしに行く。セブンスミストに着いて、御坂が選んだプレゼントは可愛らしいウサギのついたTシャツ。御坂を待つために蓮達は休憩スペースに入る。その時、蓮の携帯がなる。

「先生、どうしたんですか?」
『ツリーダイヤグラムの使用許可申請の結果が来たよ。予想通りの回答だが。』
「……確認したいので今からそっちに行っていいですか?」
『ああ、待っている。』

蓮は通話をきる。そして近くにいた松野に声をかける。

「悪い、松野。ちょっと用事できた。」
「え?おい、ちょっと神谷!!」

走り出した蓮を止めようとする松野。走り出した蓮の表情は怒りに染まっていた。怒りを向けられた松野が思わず身震いしてしまうほどの怒りに。

「買ってきたよー。ってあれ?神谷くんは?」
「なんか用事があるっていきなり……」
「なんか雰囲気が変じゃありませんでしたか?」
「分かんないけどなにかに怒ってるような……」

御坂が帰ってきて蓮がいないことに気づく。しかし、誰も蓮がいなくなった理由が分からない。

「なにかお礼しようと思ってたのに……。まぁ後でなんか奢ればいっか。佐天さん達にもお礼になんか奢るよ?」
「えっ、そんなのいいですよ。楽しかったですし。」
「あっ!でも私、常盤台の寮が見てみたいです!」

初春が御坂に提案する。目がキラキラしているのは初春のお嬢様に対する憧れによるものだろう。

「それはいいけど……」
「あっ、そっか。それじゃ松野さんが入れませんね……」
「俺は帰るから気にしなくていいよ。行ってきな?」

御坂の視線から察した初春が松野に気をつかって他のことにしようとするが、松野はそれを苦笑いで止める。

「ホントにいいの?なんかごめんね。」
「ううん。今日はもともと休むつもりだったし。楽しんできてね。」

申し訳なさそうな3人にそう声をかけて松野は家に向かい、3人は常盤台の寮に向かった。





「失礼します。」

蓮は扉をあけて室内に入る。雑多なイメージのある研究者の部屋とは違い、綺麗に片付いた部屋。その奥の机の所にパソコンに向かっている白衣の女性がいた。その女性は蓮には目もくれずに2人の間にあるテーブルを指差す。

「結果ならそこだ。まぁ、内容はいつも通りだが。」

蓮はソファに座り、書類を手にとる。そこに書かれていたのは、そのような事実は認められないために使用許可はだせないというもの。

「………」
「どこへ行く気だ?」

立ち上がり、部屋から出ようとした蓮を女が止める。

「我慢の限界です。上の奴等を潰してきます。」
「やめておけ。」
「こんなの学園都市上層部がグルに決まってるじゃんか!!」
「死ぬだけだぞ。」
「俺はレベル5だ!そんな簡単には殺られない!」
「恐らく暗部も絡んでくる。レベル5もいないとは限らない。勝ち目があると思ってるのか?」
「じゃあどうしろって言うんだよ!!いつまでもあいつらをあのままにしておけないだろ!」

怒りに任せて叫ぶ蓮。いつの間にか敬語もとれてしまっている。しかし、怒りに染まっていた表情が泣きそうに崩れる。

「……どうすればいいんですか、木山先生……」

蓮の表情を見ると、白衣の女性、木山春生《きやまはるみ》はため息をついて蓮に言う。

「落ち着け。焦ってお前が死んでしまっては意味がないだろう。あの子達が起きた時に見たいのは神谷、お前の笑顔だろ?」
「でも……」
「大丈夫だ。今、ツリーダイヤグラムに代わる演算方法を考え付いた。」
「本当ですか?」

木山は頷く。そんな木山のおかげで蓮は落ち着きを取り戻す。

「じゃあ、任せます。なにか協力できることがあったら言ってください。」
「くわしく訊かないのか?」
「先生を信じてますから。俺も陸もみんなも。」

じゃあ失礼します。そう言って蓮は扉から出ていく。木山はそんな蓮を、レベル5であり、自らの教え子であり、置き去り《チャイルドエラー》。唯一実験を逃れた神谷蓮を複雑な心境で見送った。





その夜、御坂が白井とともに明日プール掃除をするはめになったと佐天からの電話で聞いた蓮は御坂に同情するしかなかった。

 
 

 
後書き

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