ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第13話 元βテスターの真実
リュウキとレイナは、パーティを組む事はできた。
2人と言う人数を考えればパーティと言うよりは《コンビ》と表現した方がいいだろうか。
リュウキは、軽く噴水広場を見渡した。殆どのプレイヤー達が分散し、固まっている。其々でパーティ申請が終了している様だ。
「……どうやらキリトも、相手が見つかったようだな」
リュウキは 見渡していた時、キリトを見つけ、そう呟いていた。
キリトの相手も、こちらと同じ数のパーティ……コンビだ。キリトは普通の装備だが、キリトのパートナーの相手はリュウキやレイナのように頭まですっぽりかぶっている為、表情は見えないし、人物像も判らない。
「………似たもの同士だな」
この場に同じような姿をしている人物が3人いる。だから、別に目立っている、不自然、と言う訳でも無いようだ。
「ッ………」
リュウキの暫定的なパートナーであるレイナは、リュウキに隠れるように、キリトたちが視界に入らないようにしていた。
レイナは、リュウキが周囲を見渡していたのを見て、自分も同じように眺めていた様だ。……そして、キリト達を見て 突然隠れた。リュウキは何故そんな行動を取るのかは判らないが、その視線や仕草は判った様だ。そして追求はしない様だ。
「よぉーし! 皆、そろそろ組み終わったかな?」
ディアベルは、周りを見渡して、炙れているメンバーがいないのを確認してそう言った。問題ない様だ。だから、更に話を進めようとしたその時。
「じゃあ話を「ちょぉーまってんか!?」ん?」
話に割り込む様に、1人の男が声を上げた。ディアベルの声が響いた時に、やや歓声も出ていたのだが、それが止まる。 会議が始まった最初から、全体を見渡せる様に一番上に立っていた男だ。
所々角の様なものが生えている……?いや、固めているみたいだ。はっきり言ってしまえば変なヘアースタイル。サボテン髪の男は、階段を一気に駆け下り、ディアベルの前へと言った。ディアベルの美声とは正反対の濁声で唸る。
「ワイは《キバオウ》ってもんや。BOSSと戦う前に言わせて貰いたい事がある」
そう言うと、睨みつけるように周りを見渡していた。突然の乱入にもディアベルは顔色1つ変える事はなく、余裕溢れる表情で答える。
「何でも、意見は大歓迎さ。よろしく頼むよ」
あくまで笑顔を絶やさないディアベルを見て、盛大に鼻を鳴らすサボテン頭。リーダーといっていいディアベルからの了承をもらった事でか、更に一歩前に出た。
「今 こん中に、今まで死んで逝った1000人に! 詫びを入れなアカン奴おるはずや!」
キバオウは、周囲、集まったプレイヤー達全員に指をさす様にスライドさせながら、濁声で叫んだ。
「詫び? 誰にだい?」
背後で噴水の縁に立ったままのディアベルが もうすっかりと様になった仕草で両手を持ち上げた。キバオウは、振り返る事なく、憎々しげに吐き捨てる。
「決まっとるやろ! ナイトはんもよぉわかっとんのと違うんか?」
そう言うと同時に、ディアベルの方をチラリと見た。
ディアベルは勿論、低くざわついていた約40人の聴衆の皆は、理解した様だ。キバオウが何を言わんとしているのかを。
「ッ………。」
そして、それは勿論、キリトも同様にだった。NPCが奏でる夕暮のBGMだけが静かに流れるこの場。普段であれば、街と言う場所に相応しいBGMであり、夕暮ともなれば、穏やかに、一日の終わりを連想させる音楽が流れ出て、少なからず精神を和やかにさせてくれるのだが……、この場の空気は更に重く、沈みかかった。
「キバオウさん……。貴方が言っている奴らというのは……もしかして、元βテスターだった人たちの事……かな?」
十中八九、九分九厘、間違いは無いだろう。だが、それでも、キバオウの口から訊く為、確認するようにディアベルが聞いていた。その表情は先ほどよりも厳しい。
「決まってるや無いか!」
キバオウは、背後の騎士を一瞥してから続けた。
「β上がりどもは、こんクソゲームが始まったその時に、初心者を見捨てて消えよった! 右も左も分らん9000人以上の初心者を見捨てて、な! それに奴らは、旨い狩場やら、ボロいクエストを独り占めにして自分らだけ、ポンポン強ぉなって その後もずーっとしらんぷりや!」
そう言うと、再び周囲に睨みを利かせた。
「こん中にもおるはずやで! β上がりの奴らが! そいつらに土下座さして! 溜め込んだアイテムや金をこん作戦の為に軒並みはきだしてもらわな! パーティメンバーとして! 命は預けられんし! 預かれん! そう言いたいんや!」
仁王立ちをするかのように、最後にそう周りにはき捨てた。 まさに名前のとおり、牙のひと噛みにも似た糾弾と言えるだろう。 が、勿論。というか間違いなく、名乗り出る者は皆無だった。誰ひとりとして、黙して語らずだ。
キバオウが思っている事、吐き出した言葉。実際にそう思っているプレイヤーは必ずいるだろう。それが、ネットゲーム経験者ならば、なおさらの事だ。自分達がレベルをあげるのに時間が掛かっているのに、別の奴ら……元テスターは簡単に上げている。
簡単に言えば嫉妬の念が強い。
従来なら、それだけの事なのだが、今回は死人が大勢でているのだ。……つまりはこのキバオウと言う男は初心者ビギナーの気持ちを代弁するように言い、そして仲間につけ、尚且つ、その経験者達の貴重なアイテムもあわよくば手に入れようとしている。それは狡猾かつ、利己的な考え方だとも取れる。
だが、キバオウの言い分には確かに一理はあるだろう。初心者という立場を考えれば、異常事態となった今、彼らを支えて導く者も確かに必要だと思える。
だが、誰がいったいそんな聖人君子の様な真似が出来ようものだろうか? β出身者たちも、無論生きるために必死だったには違いないのだ。このゲームが、デスゲームだと分ったその時から。
だけど、1つだけ、容認出来ない事があった。……容認出来ないのは1人の男。
キバオウは勘違いをしているのだ。重大な、勘違いを。
「………1つ、発言いいか。騎士さん」
フードをかぶった男。……リュウキは すっと、立ち上がった。隣で座って 状況を静観していたレイナも突然の挙手と発言に、目を見開かせていた。
「……ああ、構わないよ。」
ディアベルは、自身の気持ち的に騎士の事を名に呼ばれていたが、今はふざけて答えられるときではない。だから……厳しい表情のままだった。立ち上がったのは、白銀のフードを被っている男だと言う事程度を認識し、促していた。これは、この議題はBOSS戦前にはあまり歓迎すべき議題ではなかったから、今後のことを考えているのだろう。
ここで、リュウキの事を少しだけ説明しておく。
彼は、本来率先し全面的に前に出て行動をしたり……、更にこんな大勢の前で、目立つような発言したり、する様な男ではない。
従来より、こう言った手合いの者は……、感情論になってしまうのだが、はっきり言って大嫌いだったのだ。
言い分は、最もらしい事を言っているだろう。賛同してしまう者だって、少なからずいる筈だ。それが、キバオウと同じ境遇、即ち初心者であれば誰しもが抱いている疑念、疑惑だから。
だが、それはただ群集を誘導しているだけだ。
……何も真実を知らないで、手前勝手な判断を振りかざして。皆の事を考えて言っているように錯覚すると思うが、この手の者は決してそんな事は考えていない。間違いなく、嫉妬心から来ているモノだろう事が判る。
だからこそ、……リュウキを立たせたのだ。
「そっちの……キバオウって言ったか? アンタ……その情報は何処で得たんだ?」
リュウキは立ち上がって、キバオウにそう聞いた。
「? いったい何の情報のことや?」
キバオウは、鋭い目つきのままそう聞く。その鋭い目つきから判る。相手が何を言ってきても、言い返すつもりの様だ。
「『元βテスターが、強くなって後は、知らん振り』……だったか? 何故それがお前にわかるんだ……? 元βテスターから、訊いた……とは言わないよな?」
深くフードを被っているリュウキの素顔はだれも見えない。だが、少なからず言葉に怒気が感じられた。キバオウは気づく様子もなくただ言い返していた。
「そんなもん、言わんでも決まっとるやろうが! こんクソゲームが宣言された後! 大体の初心者は、あの場を動く事さえ出来んかった。状況を把握しようとしたりが精一杯や。それ以外は、蹲ったり、叫んだりしとるもんもおった! フツウは大混乱や、いきなし、デス・ゲームや、言われたら それが当然やろ!? それがフツウや! それがどぉや? ワイは確かに見たんや! あの場から何人も慌てて立ち去っていく奴らをな! フツウならあん場に残ってこれからの事やら、なんやら、全部 説明していくのが筋っちゅーもんやろうが! それが経験者の勤めっちゅうモンやろ!」
キバオウのその独白ははっきりしている。つまり典型的な自己中心的な考え方だ。勝手な自分の考えを相手に押し付け、植え付けようとしている。
「…………」
大体のキバオウの性質を把握。判りきっていた事だが、裏を取る事が出来たリュウキは、黙ったまま、懐に手を入れ、そのフードの裏側に縫い付けられた衣嚢の中に収められた一枚の紙を取り出した。
「なんや!? オマエひょっとして、b「これは、あまり出したくなかった情報だが……」なんやと!?」
キバオウは、リュウキのことをβテスターだと睨んでいたが、最後まで言い終える前に、先にリュウキが切り出した。そして、取り出した一枚の紙をディアベルの方に投げた。まるで 手繰り寄せているかの様に、正確にディアベルの手元にその一枚の紙は到達する。
「……これは、いったいなんだい?」
ディアベルは、その紙を受け取るとリュウキの方に視線を向けて訊いた。リュウキは、軽く視線を下に向けつつ、答える。
「本来は言うつもりはなかった。………彼らの尊厳を傷つけると思って、出さなかった。……だが、こうなった以上は真実を教えた方がいいと思ってな。悪者にするのは、忍びない。 騎士さん。すまないが読んでみてくれないか」
リュウキの言葉に何かを感じ取ったのか、ディアベルは深く頷くと、受け取った紙を広げた。その紙に書かれている情報は、凄く少ない。だけど……、その内容が驚愕だった。
ディアベルは、内容の大きさに思わず口が開かなくなりそうだったが、何とか口に出す事が出来た。
「全死者……1009名。その内の、βテスターの数……219名!?」
「「「「!!!」」」」
ディアベルが、驚愕するのも無理はない。思わず絶句し 言葉が出てこなくなりかけたのも、無理はない。それ程の衝撃であり、その内容を訊いた40ものプレイヤーは全員、絶句していたのだ。
βテスター出身。
その連中は、少なくとも初心者達より遥かに情報を持っているだろう。立ち回り方、そして勿論キバオウが言うような特になるイベントクエスト等。
そして、何よりも戦闘回数。
HPが己の生命値である以上、経験がものを言うのは間違いない。βテスト2ヶ月間という経験がまるで無かった事になっているかの様だ。
――……そのメンバー達が、多くの元βテスター達が死となってしまっているのか?
誰もが言葉を失ってしまった。だが、キバオウだけは違う。
「んなわけあるかい! テキトーな事言うとるんやろ! 元βテスター1000人中219人やて?「違う……!」何ッ?」
キバオウの言葉を遮って、ディアベルが続きを読み上げた。
「βテスターは、全員で825人参加している。だから……825人中の219人だ」
動揺を隠しながら、読み上げるディアベルも大した精神力だと思える。
何せ、元βテスターはその元βテスター全体の約25%。そして、死者の全体で約20%に上るのだ。
キバオウが言っていた言葉。その信頼性は薄れる事実だ。確かに、何名かはそう言ったプレイヤーもいるだろうが……。元βテスターの4分の1ものプレイヤーが命を落としている事態なんだ。……だから、安易にそう言って良いものでは無い。
キバオウの言葉に心を揺さぶられたプレイヤー達の認識が変わり始めていたその時だ。
「だから、それの情報事態がデタラメなんとちゃうんかい!」
等のキバオウは全く信じれないようだ。《元βテスター=憎悪の対象》と言う図式が彼の頭の中で完成されており、それを覆す事が出来ない様子だ。
リュウキは、軽くため息を吐いた。
「……なら直筆のサインを見てみろ。……それで、もう判るだろう」
リュウキはそう答えた。『それで全てがはっきりする』と。ディアベルは、情報誌の右下の隅に押された印を見て、リュウキが言っている意味を理解した。
「これは、……アルゴ。あの情報屋のアルゴのサイン」
そこには有名な情報屋の名前が記されていたのだ。鼠のアルゴの名前は、この世界では有名だ。まだ1層目だと言うのに、有力な情報を発信しているアイツだから。
「アルゴ……鼠のアルゴ。……オレ、知っているぞ」
「ああ……料金は高いが、かなり信頼できる情報屋の……」
「アイツを知らない奴なんか、ここにいないんじゃないか……?」
「それに、アイツのなら、十中八九……」
周りのメンバーは、この情報が信じられるようだった。そして、改めて唖然としていた。経験者達が大勢死んでしまっているのが事実なのだから。
「最後に付け足そう。このゲームは最早、元βテスターとか、過去の情報を知っているとか、そう言う有利性、アドバンテージは一切通用しない仕様になっていると考えた方がいい……。自分の脚で眼で、身体で感じた情報が命だ。……生き延びる為に、……果てには、このゲームをクリアする為には、何が必要なのか……。それを真剣に話し合った方が言い。BOSS攻略の話し合いも大切、だがな。……BOSS事態も初見だ。警戒する事に越したことはない」
リュウキは最後にそう言って、ゆっくりとその場に腰掛けた。
その姿を見ていたレイナは、少し腰を浮かし リュウキの傍に寄った。
「……ちょっと意外かな」
傍に寄ると、レイナがそう呟く様に、リュウキにだけ聞こえる様に言っていた。
「あなたは、……そう物事はっきり言うタイプ……だったの? それもこんな大勢の前で?」
レイナが意外に思った事はその事だった。この場所で彼を見かけた時、基本的に遠巻きに観察する様に、全体を見守る様にしていた。率先して前に言ったり、ディアベルをはやし立てたりする様な事はせず、一歩退いて見ていたんだ。だけど、その印象は さっきのやり取りで一気に吹き飛んだ。
「……今回だけ……だ」
レイナの言葉を訊いてリュウキは、ただそう言ってそっぽを向いた。自分でも判っている。こんな大勢の前でこんな事をするなんて、考えてもいなかったから。
「…………ふふ」
そっぽ向く彼を、リュウキを見てレイナは改めて思った。
先ほどのやり取り、キバオウの凄みにも全く介せず、そして有無を言わさぬ迫力を感じたんだけど……今の仕草は、さっきとは大違いだ。
――……何処か、ギャップがあって何か面白い。……と言うより可愛いかな。
改めて感じたリュウキの印象がそれである。
「……なぁ、オレも1つ発言良いか?」
リュウキが座った数秒後に、今度はスキンヘッドの大男が手を上げた。
「ああ……構わないよ」
ディアベルは、返事をした。それを聞いて大男は頷くと。
「キバオウさん。オレの名はエギルだ。……オレも、1つさっきの銀の彼の発言に付け加えたい。この《ガイドブック》。知っているか?」
エギルは、リュウキの名前を知らない。名乗っていないからだ。だからフードの色で彼のことをそういったようだ。
「なっ……なんや! それくらい知っとるわ! 道具屋においてあったヤツやろ? それが何や!」
キバオウはバツが悪くまだ、リュウキに対し……睨みをきかせていたが、もうどこ吹く風。何を凄んでも何も感じていない、というより見てすらない。
そんな空気を感じつつ、エギルは続ける。
「このガイドは、オレが新しい村や町に着くと、必ず道具屋に置いてあった。……しかも無料配布。ここにいる皆も世話になっただろう?」
ガイドブックを片手に、エギルはそう言った。βテスター達を憎悪した理由が、《ウマい狩り場》や《ボロいクエスト》と言った代物、即ち《情報》。
この世界では何よりもそれが重宝される。故に信頼できる情報を発信しているアルゴの名がそれ程までに轟いているのだ。
「……確かに、凄く役に立った」
エギルのガイドブックを見て、キリトの隣に座っているプレイヤー。キリトがパーティメンバーとして申請した者がそう呟いていた。
キリトは……、少し違う。驚愕、と言う表情だ。
「な……っ タ、無料だと……? あ、あんにゃろ! オレからは500コルもとったくせに――……」
……何やらキリトには有料にした様だ。随分といい性格をしているのである。
そして、ガイドブックを其々のプレイヤーが取り出し、改めて見だしたのをエギルは確認すると。
「しかし、いくらなんでも情報が早すぎる、そう感じた。 オレは、こいつに載ってモンスターやマップのデータを情報屋に提供したのは、常に俺たちよりも先を言っていた《元βテスター》達以外にはありえないと思っている。……そして、更に驚いたのはこっちだ」
続いて、エギルはアイテムストレージから、もう1つの少し大きめの本オブジェクト化し、この場に掲げた。
「これは、道具屋に置いてある無料のガイドブックとは違う。皆も知っている、さっき彼が公開してくれた、情報の発信源、《鼠のアルゴ》から、直接買い取ったものだ。……値ははったが、この1層目に関しては、モンスターのありとあらゆる情報が記してあった。その特質すべき危険性。クエストについてもそうだ。その詳細が記されていたよ。あまりに細かに書かれているから、正直半信半疑だったが……、いくつか、試してみた所、間違いのないものだった。正直、金銭価値以上のものだったよ。……オレは、これに命を助けられたと言っても良い程だ。致死性トラップと言っていいフィールドの説明もあったしな」
そのエギルの言葉に、場が騒然とする。
「それほど、なのか……?」
「たしか、あれって、1000コルだろ? 情報にしては、高過ぎって思って、買わなかったけど……」
「マジかよ……、それ程の物だったのか……?」
その本に、皆が興味を持っていったようだ。エギルが言うように、値は張るからこの場で持っている者はいなかった。購入した人、エギルがレビューをしてくれているんだ。この場で嘘を言っているようにも思えない。
「……流石に、第1層のBOSSの情報はまだ無かった。それでも、第1層については絶大だと思う。……この本に関しては、見たいやつには後で見せてやる。勿論金銭なんか取りはしない。オレが言いたいのは、……これ程の代物があったのにも関わらず、この1ヶ月で1000と言う沢山のプレイヤーが死んだんだ。その理由はオレは、彼らがベテランのMMOプレイヤーだったからだとオレは考えている。自身の経験だけでプレイし、引くべき点を見誤った。だから、彼の言うとおり、オレも今後の事を真剣に話し合った方が良いと考えているんだがな?」
エギルが占める様に言い終えたが、最早皆に異論等は無かった。全員が賛成した様に、無言で頷いていた。
「うぎぎ………。へん!」
キバオウは、もう何も言えなくなってしまったようだ。
「……勝負、あったみたい。たまに、ああ言う人、いよね。不幸にあったら皆で一緒に不幸になろうって言う人。先を征く者だけが果たせる役割もあるのに……」
黙りこくり、バツが悪そうに腕を組んでいるキバオウを見て、そう呟いていた。
「……だな。それにしても、あの本はオレもスゴイと思った。……まぁ 多分、アイツ……だろうな」
「?」
キリトも相槌を打ちつつ、そう言っていた。あの情報本はキリトも勿論持っている。お買い得だと言う事は、アルゴ自身から聞いている事だったし、情報源に関しては心当たりがあったからだ。
「…………」
キリトの隣にいるパートナーであるフードを被った女性はその後リュウキの事を見ていた。そして、その隣にいる同じ様にフードを被っているプレイヤーも。
「それにしても……、アイツ。まさか……?」
キリトは遠くから見て、そして話を聞いて、感じて……、あのフードの男がいったい誰なのか判った。裏を取った訳じゃないけれど、殆ど間違いない、と。
でも、判らない事もある。
それは、あの男の正体について、自分の考えが正しかったとして、そうだったとして。アイツは、何故フードを被っているのが判らない事だ。あまり目立つ事を嫌う事はそれなりに付き合いも長いから大体察している。……でも、あそこまではしてなかったからだ。
色々と考えていた時、ディアベルが話を進めた。
「皆……貴重な発言を感謝している。そして、キバオウさん。キミの言いことも理解できるよ。オレだって、右も左も分らないフィールドを何度も死にそうになりながらたどり着いたんだ。でも、そこのフードの彼やエギルさんの言う通りだと思う。……今は前を見よう。元βテスターだって、……いや、元βテスターだからこそ、その戦力はBOSS攻略の為に必要なものなんだ。君の言うように、彼らを排除するようなことをして、結果BOSS攻略が失敗したら何の意味もないじゃないか?」
流石は、騎士を自称する事はある。こちらの言葉は実に爽やかな弁舌だ。責める様な気配は全く見せず、且つ反論の余地の無い案を伝えていた。
さっき程のリュウキの情報を聞いて驚愕してはいたが、その表情は既に息を潜めていた。
今日一番聴衆の皆が頷いていたのだ
「ふ……フンッ!もお かまへん……」
キバオウは、その言葉を最後にもう黙した。これ以上話に口出ししないと言うかのようにだった。
「さて……それら ふまえて再開する。実は、先ほど 例のガイドブックの最新版が発行されたんだ。……エギルさんの本にも載ってなかったBOSSの情報が掲載されているガイドブックが」
その言葉に場が響めく。ガイドブック、と言うよりは《アルゴの攻略本》と言う名前の方が定着があるのは豆知識だ。
「……そして、目玉のBOSSの情報だが、この本によると、BOSSの名は《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。そして、《ルインコボルト・センチネル》と言う取り巻きがいるらしい、それとBOSSの武器は斧とバックラー。4本あるHPバーの最後の1本が赤くなると、曲刀カテゴリーのタルワールに武器を持ち替え……攻撃パターンも変わる……と言う事だ」
ディアベルが、攻略本を読み上げた。
「なるほど………同じ、だな」
リュウキはディアベルの話を聞いてそう呟いた
「……え? 同じって?」
レイナが反射的に聞いていた。彼が呟いていた言葉が聞こえたからだ。
「………いや、こっちの話だ。何でもない」
「なんでもない事無いと思うんだけど………。うん 無理には聞かないよ」
「……ああ、助かる」
「ん……」
少し不満はあったけれど、追求はしない様にした。
そして、その後も攻略本に記載されている内容を数点を説明した後。
「……さて、攻略会議はここまでだ。さて、最後にアイテム分配についてだが、金は全員で自動均等割り、そして、経験値はモンスターを倒したパーティのもの。アイテムはゲットした人のものとする。異存は無いかな?」
その言葉に皆、異存は無いようだった。
「よし……それでは 明日の朝10時にここを出発する。……では! 解散!!」
その宣言の後、其々のパーティが解散していった。
一悶着あった攻略会議だが、無事に終了したのだった。
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