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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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序章 『交差』 ‐暴風の竜騎兵と紅の姫君‐
  第8話 『晩餐会』

――差し伸べられた手、それによって助けられた『太陽の少女』は『二人』の背中を追う
『可能性』を信じ、今度は自分の力で、自分の意思で――二人の横に立ちたいと彼女は望む。

『再開』とは突然に訪れる。二人もまた『彼女』と再開し、そして――『可能性』に魅入られし者と出会う。

その出会いが、『二人』ではなく『三人』に変わるとは――まだ二人は、知る余地も無かった


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――『ネクスト・インダストリー』での一件から数日後、『デュノア社』主催の晩餐会の当日になった。俺とアリア、そしてエディさんにレオンさんはそのにやってきていた。

会場に到着して、俺は少しだけ驚いたことがある、晩餐会の会場が――ホテルなどではなく、『デュノア家』だったのだ。

つまり、『シャルロット』の実家だ――そして俺は周りを見渡すが、大企業が主催している晩餐会の割りに、そこまで人は多くなかった。

推測ではあるが、恐らく――『デュノア』との関係者の中でも、それなりに信用されているか重役しか招待されていないのだろう。

周囲を見渡しながら、俺は考える――あの時『ジェームズ・デュノア』が言っていた『大事な話』とは何か、そして俺とアリアに会いたいとはどういう事か。

内容から考えれば、俺とアリアが『IS保有者』だとバレてそれに対しての揺さぶりか――だが、そうするという事は『ネクスト・インダストリー』に対する宣戦布告とみなされるだろうし、それに…レオンさんは『ジェームズ・デュノア』についてはそんな事をするような人物ではないと言い切った

考えても仕方ない――ひとまず、警戒だけはしておこうと俺は思った。

今回、この晩餐会に出席するにあたり当初の予定とは違った事があった――それは、アリアのISである"ブラッディ・リーパー"の改修が間に合わなかったのだ。

『晩餐会に間に合わない』と知らされたのは、一昨日の事だ。レオンさんから直接連絡があり、俺とアリアで『ネクスト・インダストリー』にあるIS関係の開発室で"ブラッディ・リーパー"についての話を聞いた。

改修を担当した研究責任者とレオンさんに聞くと 『予想以上に改修・強化する部分があった』のと…もうひとつは、変な理由があった。

どうやら俺のIS、『テンペスト』――"Tempest_Dragoon"がリミッターや予定していた蓄積プログラムを登録する際に『駄々をこねた』らしいのだ。

俺自身、何かの冗談かと思ったが――レオンさんが嘘を言うとは思えない、聞けば『蓄積プログラムを入れようとするとエラーを吐き出して『管理者権限』で実行しろ』とウインドウを出し『リミッター』を掛けようとすれば、アクセスを完全に拒否して一切のアクセスを禁止、『管理者でなければ許可できません』とウインドウを出したそうだ。

で…その管理者というのが俺だ。前にレオンさんが言っていたように本当に『テンペスト』は俺以外の言う事は聞かないようで、直接俺がテンペストの調整に携わる事になってしまった。

それが原因でアリアのISの改修が遅れたのと、そして――アリアのIS自体にも問題…というよりは、調べて判明した事があった。

アリアのIS"ブラッディ・リーパー"は第三世代高機動特化IS――主に近接兵装と圧倒的な機動力で相手を圧倒するという機体だ。
彼女のISのスペックデータを見て分かった事だが、前に俺と戦った時に使用していた『死神の鎌』のような兵装しか詰んでいなかった。

そしてレオンさんが調べたところ――兵装を拡張・強化するための領域にかなりの余裕があるのと、『機能していない』ある兵装が発見された。

発見されれたのは"Nightmare Mirage"<悪夢の蜃気楼>という兵装だった。調べる限り、非常に強力なジャマーで、特に対ISに対しては相手のISの機能妨害をも可能な兵装らしい。
何故今まで存在が不明で使用できなくなっていたのかは調べたそうだがわからなかったらしい。

彼女の機体の特性である『高機動近接殲滅型』というコンセプトを崩さないために、搭載されていたのは全部で彼女が使用していた『死神の鎌』に酷似した武器と、その妨害兵装のみで、余っている拡張領域も兵器を追加する事は不可能らしいので全て処理能力と機動力の向上に当てる事になった。

『テンペスト』についての予定していた工程は、俺が本社に行き直接作業をすると大人しく作業をさせてくれた所か、『テンペスト』自体がプログラムの入力をやろうとするなどしてくれたお陰ですぐに完了した。あまりの『テンペスト』の態度の違いにレオンさんや開発部の責任者は驚いて、そして呆れてもいた。

『男性IS操縦者』という事で検査や俺自身のデータも取られたが、機体自体は予定より早く調整が完了したのだが…アリアの機体は予想以上に時間がかかると判明し、晩餐会までには完成させる事ができないという事態になっていた。

なので、今日は俺だけがISを身に着けてきている――といっても、大企業の晩餐会という事でそれなりの正装での参加となり、俺自身はタキシード姿での参加となった為、待機形態であるネックレスは見えないように服に下に隠してある。
無論、レオンさんやエディさんもそれなりにしっかりとした正装で、アリアもそうだ。

晩餐会の会場、デュノア家に着いた時点では、まだ俺やアリアは『私服』姿だったため、会場の更衣ができる部屋を借りて着替えをした。

着替え終えて、レオンさんとエディさんは例の『大事な話』をデュノア社社長『ジェームズ・デュノア』と極秘に行うために、別行動となった。
そして俺は、アリアと合流するために事前に合流の約束していた場所で彼女を待っていた

「しかし…結構遅いな」

既に約束の場所に到着して30分、だが未だにアリアとの合流は出来ていなかった。

――ちょっと時間が掛かりすぎている気がする、何かあったのか?

まさか、やはり『デュノア社』の罠で自分と彼女が分断した隙を狙って、彼女に何かしたのか?もしそうだとしたら――クソッ、どうしたら…

少なくともここには『デュノア』以外の人間も居る、そして未だに俺が『男性操縦者』である事はごく一部の人間しか知らない、そして――この場に武器も持ってきていない。
まさか全て『デュノア』の思惑通りで、今日ここで俺とアリアを確保する気なのだろうか――


そんな事を考えながら、俺は焦っていると



「――ごめん、お待たせ」

考えに耽っていた俺に声が掛けられる。そして、声で分かった――アリアだ。
俺の考えすぎだったらしい、先程まで考えていた自分がまるで馬鹿みたいだと思いながら俺は彼女の方を向いた、そこには――


「いや、大丈夫だ、それよりこれから――」


俺の言葉は、最後まで続かなかった。目の前の、アリアの姿を見て言葉を奪われてしまったからだ
彼女と自分、エディさんの3人で生活するようになってわかったが――客観的に見てもアリアは容姿が非常にいい、大げさかもしれないが、テレビや雑誌のモデルが自信を失うくらいにはいいと思う。

セミロングの金色の髪、茶色の少し気が強そうな目――どちらかといえば、『綺麗』という分類に入るだろう。

客観的な評価としてもそうだが、俺自身としても――彼女は綺麗で、かわいいと思う。少なくとも、彼女が『殺し』を生計にしていたエージェントだと信じられなくなるくらいには。

今、目の前に居るアリアは…普段の髪型に恐らく晩餐会用に用意したのだと思われる黒のイブニングドレス、それに合わせるようにネックレスや幾つかのアクセサリーをつけていた。

――素直に言えば、普段私服で居る彼女と比べると新鮮で、そして純粋に『綺麗』だと思った。

暫く言葉を失って黙ったままの俺を見てアリアは『あー…』と言うと

「…やっぱり変、かな。 ドレスとかそういうの着慣れてなかったから――前の仕事とかでも、こういう会場では要人警護とか、後別の事がが多くてスーツ姿とかだったから慣れなくて…」

「あ――いや、違うんだよ、そのさ…うん、よく似合ってると思うよ お世辞とかそんなんじゃなくて純粋に」

俺は彼女の言葉で我に返ると、とりあえずは――自分の思った事を言ってみた。『純粋に綺麗』だと、そう思ったから

「ん…ありがと、着慣れてないとやっぱり不安とか感じちゃうから気にはしてたんだ――ありがと、ユウ それで…これからどうするの?」

自分達は楽しんだり社交をするため、ましてや飯を食うために今日来た訳ではない。
俺とアリアにとっての最重要案件は『デュノア社社長』との面会、そして彼が言っていた『話』につて聞くためと、レオンさんが持ちかけられた『提案』の真意を知るためだ。

「そうだな――デュノア社の社長が言っていた『話』というのは、多分まだ時間が掛かると思う――先にエディさんとレオンさんが社長と会談してるみたいだしな…」

「私とユウは、他の招かれてる人みたいに――ここに社交や楽しみを求めてきてる訳じゃないからね、なら…エディさんとレオンさんから連絡あるまで適当に待機してる?」

確かに、それがいいかもしれない。恐らくデュノア社の社長は俺が『IS』を使用できる事を知っているか、政府が隠蔽したあの時――俺とアリアが殺し合いをした一件について何か掴んでいるんだと思う。
そう考えるのだとしたら、罠や襲撃を考えてどこかで待機しているのがいいのかもしれない、そう考えた

「確かに、そうしたほうがいいかもしれないな――なら、最初に通されてた部屋で連絡があるまで待機して――」

「あれ? ――ユウさん、アリアさん!」

部屋で待機しようとアリアに言おうとした時、自身の背後から声を掛けられた。そしてその声は――聞き覚えのある声だった
振り向くと、そこにはドレス姿のシャルロットが笑顔で手を振っていた

確かに『デュノア家で晩餐会』と聞いた時点でシャルロットと会う可能性は考えていた。彼女も『デュノア』の人間で、社長の子供でもあるのだ――
だが、俺は先日のシャルロットと親父さんの電話の内容からシャルロットは『出席しない』と考えたのだ。
もし、デュノア社の罠や策略であるならこちらとしては手荒な方法も取らなければならないかもしれない。
だから、巻き込む可能性を考えればできれば出席しないでいてくれたほうがよかったのだ。
まだデュノア社が何かしようとしている、と決まったわけではないが――警戒しておく事に越した事はないのだから。

自分の頭の中で多くの事を考えながら、俺はそれを表に出さないようにしてこちらに向かってくるシャルロットに笑顔を向けた

「どうして二人がここに?――もしかして、お父さんが招待状でも出したの?確かフランス空軍の部隊の人が知り合いとか言ってたんだけど…」

「あー…まあ、そんな所だ。君の親父さんから俺の保護者――『エディさん』って言うんだけど、エディさん宛てに招待状が来てさ、それで今日ここにいるんだ」

「そうなんだ――うーん…アリアさん、凄く綺麗だよね…普段着だけでも十分綺麗だと思うのに、こうしてドレス姿見せられちゃうと、僕自信無くすなぁ…」

「私自身、あんまりドレスは着慣れてないんだけどね――シャルロットも、そのドレスよく似合ってると思うけど」

今のシャルロットは、アリアと同じようにちゃんとした正装で、オレンジ色のドレスを着ていた。
確かに、彼女に明るい色、特にオレンジ色は似合っていると俺は思った。

再会できたというのは確かに嬉しい、だが――立ち話もなんだし、それに…どこにデュノア社や金や権力の亡者たちの目があるかわからない。

彼女は『デュノア社の一人娘』だ。そして今日ここに招かれているのは重役で、彼女の存在を認知している奴等――その中には、彼女に取り入って何か企む奴だって必ず居る。

「っと…立ち話もなんか悪いな――シャル、今から俺とアリアは部屋に戻ろうかと思ってたんだけど、何ならシャルも来るか? もし何か予定があったりしたら悪い、そっち優先してくれ」

すると彼女はまるで太陽のような笑顔を浮かべて嬉しそうにすると

「うん!じゃあ是非お邪魔させてもらおうかな――えっとね…沢山話したいことがあるんだ、それと――言いたい事も」

「はは、ちゃんと全部聞いてやるさ――じゃあ行くか」

そう言うと、俺たち3人は部屋に戻った



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


場所は変わって、デュノア社の社長――『ジェームズ・デュノア』の自宅にある自室。
そこには普段の日常とは違い、厳重な警備と警戒の元にあった。
そしてその中で、3人の男が『ある話』をしていた。

部屋に通されて私、『レオン・ハルベルト』が最初に思ったのは――『厳重すぎる警備だ』という事だった。

部屋の前には恐らく『彼』の側近で信頼の置いていると思われる、屈強な黒服が3人見張っており、見た限り――この部屋の盗聴対策や『会談』の邪魔となる障害の要素はほぼ排除されていた。
そこで私が思ったのは、恐らく――私の予想以上に重要な話ではないのかという事だ。

――『大佐』は『ジェームズ・デュノア』と顔見知り程度の関係だとは言っていたが…気がかりだ。何故私だけではなく、大佐まで今日この場に呼んだ――?

考える事が多くあるまま、私と大佐は部屋に通されて、そのままソファを勧められて座った。

私には考えがあった。あの時の電話の内容から、この男――『ジェームズ・デュノア』はあの二人について何かしらの手がかりか、確信に近いものを知っていると私は予想した。
『ジェームズ・デュノア』という人間については、私はあまり知らない、だが――彼のやってきた功績と『ビジネス』という面における彼は『律儀』な人物だと私は評価していた。

もし、もしもだ――あの二人について何かしらの手がかりを掴んでいて、何かの脅しや二人の邪魔をするようであれば、私は――全力で彼を潰す。社会的にも人間的にも、冷徹だと言われようとも全力で彼を潰す。

あの二人は私に示してくれたのだ、『可能性』と『信念』という希望を。そんな私の希望を――若い希望の炎を年の行った人間の理屈で、消してなるものか。

そして、最初に話を切り出したのは――彼だった。


「まずは、はじめまして――デュノア社社長『ジェームズ・デュノア』です。今日はわざわざお越し頂いてありがとうございます」

「気になされないでください――それで、電話にあった『話』というのは?」

次の言葉次第では、私の取る行動は決まる――そう考えた

「そうですね、ハルベルトさん――電話でお話ししていた重要な案件の前に…プライベートな事で申し訳ないが話しがあるんですよ  ――ルヴェル、久しぶりだな」

彼は大佐に話しかけると、大佐はそれに対して無表情で

「ああ――久しいな、ジェームズ こうして会うのは久しぶりだが…昔話をする、という訳でもないのだろう?」

大佐は真剣な目つきで彼を睨み付けた。それはまさに――大佐の異名である<疾風の戦鬼>の目であった
そんな大佐に対して、彼は怯む事無く正面から言葉を放った。

「その通りだ、ルヴェル――私の気になる事は1つだ。 単刀直入に聞こうか…『お前は何を知っている?』そして、『何を考えている?』」

「――言っている意味がわからんな」

「では分かりやすく言おうか――先日の郊外の森であった一件、それに貴様が関与しているのは知っている。そしてあの場で『IS』による戦闘が行われた事もな――これを見ろ」

すると彼は、数枚の分析データをテーブルの上に置いた

「それは私が極秘にあの現場を調べ、そしてそこから得た情報をまとめたものだ――そこにあるように、あの跡は実在している通常兵器で残るようなものではない、だから私はISを疑いその点で調査をした――そうしたら、『あの場にあった遺体』からISが使用されたとわかったよ」

追加でまた幾枚かの書類をテーブルの上に出すと、彼は続けた

「あの場で発見された『遺体』は全て無残な姿だったが――なんとか情報を得る事ができたよ。 そして得られた情報は『死んだ人間など居ない』という情報だった」

「――それで?」

「まだシラを切るか、確実に存在していた人間が『死んだ』のに、『死んだ人間は居ない』という事になっていたのだぞ?――死んだその人間達は存在しているのに『存在していない』そういう事になっていた人間だ――結論を言ってやろう」

今度は彼が大佐を睨み付けて、『その言葉』を言い放った

「あの場所で何かがあって、そしてこの結果が示す事――奴等は『亡国機業(ファントム・タスク)』では無いのか?そう考えれば――私の知っている情報全てのピースが一致する、何ならもっと調べた事を吐いてやってもいい、ここまできても――シラを切るのかルヴェル」

彼のその言葉に対して、大佐は暫く目を瞑るとため息を吐いた


「…ジェームズ、貴様の知っている最大の情報は何だ?」

「――お前が、推測だが…『IS』を保有している、しかもそれはただのISではない。違うか? そして、お前は今あの殺しの天才と言われたエージェント<ブラッディア>を保護している―― 一緒に来ていた『アリア・ローレンス』という彼女がそうなのだろう?」

更に、と付け加えて彼は続けた

「お前の養子――『月代 悠』が今回の一件に関わっている可能性があるという事も、全てが推測の域を出ないが…『お前は何か重要な事』を知っているということを」

部屋に暫くの沈黙が流れる。そして――口を開いたのは、大佐だった

「ジェームズ、この部屋の防音や警備は完璧なのだろうな?」

「…無論だ。私が考えうる中で最高の警備とセキュリティを張って、私自身がチェックしている」

「そうか――これから話す事は極秘事項だし、聞いてしまったら…お前は逃げられなくなる。 お前に娘さんと奥さんがいるのは知っている。下手をすれば二人を巻き込むぞ、それでも――話を聞くか?」

「ッ…例えそうだとしても、私は――お前から聞かなければならない。そして何があっても今度は――私は妻と娘を守り通してみせる、どんな事があってもだ」

大佐はそのまま「負けたよ」と言うと私に向かって

「――レオン」

「何でしょうか、大佐」

「…ジェームズは多分、真相に近づいてる。それにコイツは『私達側』の人間だ――あの事を話そう、二人の事を」

「よろしいのですか…」

「いずれどうせわかることだ――なら今、全てを語ってしまおうじゃないか」

そうして大佐は、彼に対して全てを話した。私も出自を知らないあの機体、"Tempest_Dragoon"についての詳細は語らなかったが、ユウ君に"Tempest_Dragoon"を凍結させようとして、それから何があったのか――そして『男性IS操縦者』という事を話した。

「何かあるとは思っていた、だが――彼が、『月代 悠』が『男性IS操縦者』だと――!それが事実だとしたら、彼の力は――彼の存在は世界を壊すぞ!?」

「わかっているさ」

「何故だ――世界を滅ぼしかねないのだぞ、『彼』という存在は世界にとっては完全な『イレギュラー』だ…それなのに、何故――お前はそこまで落ち着いていられる」


「――あの子が、『アリス』と『ヒサト』の息子だからだ。 そしてあの子は強い、全部あの子は知っているのさ。自分がどんな力を持っているのか、あの子が好きな『空』を飛ぶための力は―― 一歩間違えば世界を破滅させるという事を。だがそれでもと言い続けて、あの子は『ISの可能性』を信じ続けている。私はな――」

私の正面で、彼が息を呑むのが分かる。大佐は言葉を続けて

「ユウ――あの子の『可能性』に魅入ったんだよ。そして賭けてみたいと思った――未来を、今の世界を変えてきっといい方向に世界を連れて行ってくれるんじゃないかと、私はあの子の可能性と覚悟を見てそれを感じた。だからだよ」


大佐は真剣な目で、彼にそう言い放った。
そうだ――私も大佐と同じで、あの二人…特に『月代 悠』という存在の『覚悟と信念』、そして自分がどんな存在か、自分の『翼』はどれだけ危険な力か理解したうえで『それでも』といい続けてあがき続ける彼の『強さ』に魅入った。

私も彼と、そして――彼の隣に居る『アリア・ローレンス』という二人の『可能性』に心奪われた。託したいと思った、人の――人類の未来を。若く強いあの二人に、託したいと思った。
それ以上に理由が必要だろうか?確かに…ビジネスや現実という面ではナンセンスな考え方だ――だが、そんなものを全て覆してしまうほど、二人は強く、気高かった。


「…負けたのは、私も同じさルヴェル」

「何?」

そう言った彼は、口元に笑みを浮かべていた

「何故ならば――私も彼、『月代 悠』という少年の『可能性』に救われて、魅入られたのだから――確かに、お前の話を聞いて驚いた。信じられないとも思った、だがな…そんなもの全て吹き飛ばすような『彼』の存在――私もそれを信じたいと思ってしまっていて、魅入ってしまっているのだよ。だから――私の負けさルヴェル」

「ジェームズ――」

「…今の話しとは関係ないが、私はな――『二人』に救われたんだよ。『彼』の『可能性』という強さが、私の娘を変えてくれて――そして私達夫婦さえ変えてしまった」

「まさか…娘さんとの関係が」

「察しの通りだよ――ふとしたことでうちの娘と『二人』が出会い、二人が娘を変えて――そこから私達は『分かり合う』事ができた、『家族』になれた――だが、確信が持てなかったのだ…本当に信用するに値する存在なのかと。だから全ての真相を確かめて、そして聞きたかった――本当に『二人』には『可能性』があるのかと。そして、よくわかったよ――『二人』はやはり、信ずるに値する、私の全てを託すに値する」

「何を言っているのだ…?ジェームズ、貴様は一体何を――」

スッキリしたような表情で、彼は今度は私の方を向く

「――ハルベルトさん」

「…レオンで結構ですよ。デュノアさん――貴方もまた、彼らに魅せられたのなら、そして詳しくは存じませんが大佐のお知り合いでしょう?なら――私の事はレオンとお呼び下さい」

「なら――レオン、当初の『大事な話』をしよう…私『ジェームズ・デュノア』からの提案として――これを見てくれ」


そうして彼は厳重に保管された書類を取り出し、テーブルの上に置いた――そこには

「『ネクスト・インダストリー社』と『デュノア社』の提携提案書――これは」

「レオン、我が社――『デュノア社』が今経営危機に陥っているのは知っているだろう?そして…その理由も」

「第三世代以降のISの開発、そしてその技術が安定せず他国の企業に対してIS開発という面では遅れを取っている…からでしょう?」

「その通りだ――だから前は一度別の案件で協力を断られたが今改めてお願いしたい――『ネクスト・インダストリー』と『デュノア』、その2つの会社の間で協力関係を結んで欲しい」

驚いた、まさかこんな話が持ち出されるとは予想外だったからだ。
過去に一度、デュノア社とは別件で技術協力の話があったが――政府の中に存在する一部の汚いハイエナ共が後ろで噛んでいると分かった瞬間、私はすぐさまその話を蹴った。

だが今、今度は『デュノア社』が単機かつ直接話を持ってきている。

「…ビジネスという面での話しですが、こちらにとってのメリットは何ですか?まずはそこからでしょう」

「デュノア社の保有する全技術協力と公開、そして――IS開発における技術情報と『ラファール・リヴァイヴ』の全情報の譲渡、これならどうでしょうか」

私は耳を疑った。彼はなんと言った?つまり『全面的に技術協力して量産ISのデータも譲渡する』という事だ、私信じられないと思った。

つまりそれは、社運全てを賭けた上での提案なのだろう――確かにIS技術という面でまだ安定していない我が社を考えれば破格ともいえる条件だが…彼は一体、何が目的なんだ?

「逆に聞きましょう――あなたの目的は何ですか?それだけの条件をこちらに提示するのですから、それなりのリターンを考えられているのでしょう?」

「私が要求するのは――まずは貴社の技術力。こちらが全面協力する対価として、貴社にも技術協力をお願いしたい」


当然だろう。相手も技術をこちらに寄越すといっているのだからその条件は当たり前だ。だが――まだあるのだろう




「そして、貴社と当社で『仏蘭西国企業連』を結成し――私も、『デュノア社』も二人に協力させて欲しい。無論二人に対する全面的なバックアップだ どうだろうか」

唖然とした。彼の言っている内容は――まるでリターンになっていないからだ。
確かに、自社と彼の会社との間での技術提携というのはメリットだろうが、それはこちらとしても同じ事なのだ――ましてや、量産型ISのデータが得られるなら圧倒的にこちらのメリットが大きい。
そして、唖然としている私に対して、彼は続けて言葉を放った。

「私も二人の可能性を、未来を切り開くその希望を信じたい。そして、二人は信じるに値する人間だ。レオン、君もそうだろう?二人の可能性に魅せられて未来を託した――それと、私も同じだよ」


なるほど――つまり、彼もまた魅せられたのだ。未来を作り切り開く強く、気高く――無限の可能性の力に。
私は、笑うと彼に対して言った


「貴方の覚悟、そして想い…確かに私に伝わりましたよ――『デュノア社』と『ネクスト・インダストリー社』の提携、その提案…受けましょう」


私は心の中で思った。私も、大佐も、そして彼も――もう若くは無い。これからは若い世代の時代だ。
ならば、自分達の心を動かし、諦めかけていた老いぼれの心に再び炎を灯し可能性を示してくれた若い二人の背中を自分達は押すだけだと。


『私達』の力を持って、二人の――若き可能性の炎を決して消させない、守りきってみせると。



――諦めかけていた『大人達』の心に再び未来を信じる炎が燃える。 そうさせたのは、若き『可能性』の申し子達。 大人達は誓う、『未来を作る希望を決して消させない、なくしてなるものか』と

『仏蘭西国企業連』、『二人』を信じた大人達の希望を、未来を、全てを託したその存在は大きな力となって『二人』を支えていく。


――しかしこの時、彼等は知る余地も無かった。近い未来全てを震わせ世界を動かす『あの出来事』があるという事を

それでも、と叫び続ける『二人』はその未来に何を望むか、何を願うか。
『二人』の新たなる出会いもまた、刻々と近づいてきていた。

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