IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐
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第一章 『交差』 ‐暴風の竜騎兵と紅の姫君‐
第3話 『はじめまして』
――『互いを知る為の方法、友達になる為の方法とは簡単である そう――互いに一歩踏み出して名前を呼べばいい』
――最初は1歩でいい、前を見て、相手を見て『他人』を知ろうとすればいい
――それだけで、人はそれまで他人だった誰かを知ることが出来る。
『はじめまして』、その一言で――人はわかりあえることもあるのだ。
そして今ここにも、『はじめまして』から始まろうとする少年と少女の人間関係があった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの後、俺と彼女は駆けつけたエディさんによって救助され、急いでその場から離脱、無事に自宅に到着した。
ただ、俺も彼女も怪我の具合が結構酷かった為、帰宅早々傷の治療や着替えから始まった。
彼女の着替えをどうしたかと言えば――エディさんの『奥さんと娘さん』のものだったものを使用したようだ。
そして今、治療と着替えの終わった俺と彼女は、自宅のリビングで隣同士で座っており――正面には、エディさんの姿があった。
「さて…色々聞きたいことが山ほどあるが……ユウ、何があった?それと――彼女は誰だ?」
多くの問題や話はあるだろう、だが――その中でも俺が最も問題となると考えるのが『彼女』だ。
とりあえず俺は、朝出かけて"Tempest_Dragoon"を話していたように凍結封印するために約束の場所に持っていったが――そこには取りに来るはずの『ハリソン・ラーロング』の姿はなく、数人の黒服姿だけがあった事。
そして、"Tempest_Dragoon"を奪おうとした黒服達と戦闘中に彼女が乱入――そのまま自分と彼女が戦闘になり、その戦闘中に"Tempest_Dragoon"が反応を示し、緊急時だったのでダメ元で起動した所、搭乗者登録をされてしまい自分の『専用機』になってしまったという事。
"Tempest_Dragoon"に乗り、彼女と戦闘――互いにダメージを負いながらもなんとか決着し、そして現在に至るという事を話した。
全てを話し終えると、エディさんは「ふむ…」と呟くと彼女の方を見ると
「それで君――ユウと戦闘を行った、というが一体何者なんだ?事と次第によっては、君に対する処分も考えなければならん」
「エディさん!彼女は――」
「ユウ――少し黙っていなさい」
俺はそのまま、拳を握り締めたままソファに座りなおす。
すると、彼女が口を開いた
「私は――アリア、アリア・ローレンスって言います――お兄さんに撃墜されるまでは――殺しの『エージェント』として動いてました」
その時、俺は彼女の名前を初めて聞いたと思った。思えば、戦闘中はそんな余裕が無かった。
「なるほど、君が――……すまない、殺しのエージェント、という事は誰かに依頼されてユウを襲ったのか?」
「いいえ、違います――確かにあの黒服の人達については依頼で殺しましたが…お兄さんについては、私個人の意思です」
「個人の意思――というのは?」
すると、少しだけ間をあけてチラリと俺のほうを向く
俺は1度彼女に対して頷くと、彼女も『うん』とだけ返してきて、頷くとエディさんに話し始めた。
あの戦闘中に、何があったのか――彼女、アリアはどうして俺を殺そうとしたのか、そして――自分を殺して欲しかったということを
全て話し終えると、エディさんは複雑な表情をすると、再び口を開いた。
「…死にたがり、か――だが君はユウに負けたんだろう?君は、先程ユウに殺して欲しかったと言っていた。それなのに何故生きている?」
「それは…お兄さんが、私に止めを刺さなかったからです。『生きていよう』って――お兄さんが、止めを刺さずにそう言ってくれました」
そう、俺が彼女に言ったのは『間違っている、だから生きていこう、正しく間違っていこう』という事だ。
――俺は、彼女を…アリアを殺したくなんて無かったのだ。
どことなく、俺に似てたから。IFの俺だと、思ったから。
「仮の話だが――アリア・ローレンス、と言ったね――君は、ユウに助けられて、それでこれからどうするつもりだ?」
すると、アリアは俯きながら暫く沈黙すると
「正直な話、わかりません――お兄さんに負けて、あそこで死んで全てが終わる筈だと思っていたら、お兄さんに『生きろ』って怒られて――でも、私にはわかんないんです。今まで『殺す』事でしか生きてこれなくて、自分を表現できなくて、それ以外の事が何も、分からないんです…」
――彼女をあそこで俺が殺していれば、今彼女は苦しむことは、悩む事は無かったのか?
ふと、そんな事を考えてしまう。
――じゃあ、あの時俺は『殺さなければならない状況』でも彼女を殺せたか? 答えはNOだ。俺は――『彼女は間違っている、だから助けたい』と感じたから彼女を助けたんだろ?だから――全ての責任は、俺が取らないといけないんだ。
俯くアリアを横目で見ると、俺は
「エディさん」
「何だ、ユウ」
俺が発言することが予想外だったのか、アリアもこちらを見る
「――全ての責任は、俺にあります。"Tempest_Dragoon"の凍結失敗、そして『男でありながら』あの機体を起動させてしまった事。――彼女を『俺の勝手』で助けてしまったこと 全ては、俺の責任です――もし何かの処罰をするなら、彼女ではなく俺に…」
「お兄さん!?」
エディさんはこちらを睨むと、俺はその目を見る。いつもの温厚な感じとは違い、威圧感が混じった、怖くなるような目線――だけど、俺が全てなんとかしなくてはいけない事なんだ、ケジメとして俺がしなくちゃいけない事なんだ――
「ユウ、責任を取る――と言ったが、どうするつもりだ?」
「…"Tempest_Dragoon"については、自分にどうすることもできません。ですから――必要なら俺を解剖なりなんなりしてください。彼女については――俺が責任を持ちます。彼女は俺が責任を持って保護します。もし解剖って話になって俺が死ぬようなことがあれば、彼女を――」
俺の言葉は最後まで続くことは無かった
「待ちなさい、ユウ――話が飛躍しすぎだ。解剖?彼女を処分?何を言ってるんだお前は――言ったと思うが今回の"Tempest_Dragoon"については政府や軍部ではなく、私個人の事情だ――確かに起動させたことや彼女については話をする必要はあるが、ユウ――お前を解剖したりどうこうしようというのは無いよ」
「いえ、しかし俺は――」
エディさんはため息をつくと
「話がややこしくなる前に、結論から言おう…彼女については保護するのは確定事項だ。何故なら――彼女も"Tempest_Dragoon"に関わってしまったからだ、そして――関わってしまった以上、もう後戻りはできんよ」
そのままエディさんは彼女に 「君をどうこうしようという気はないから、安心しなさい」 と言うと
「だが、責任はユウ――お前にとって貰う。彼女の保護と面倒はお前が見なさい――それから、お前についてだ」
「俺、ですか――?」
テーブルの上に置いてあったお茶を一口飲むと、エディさんは言葉を続けた
「ユウ、お前は恐らく『彼女』――ローレンスさんの事が一番の問題だと思っているのだろうが、それは違う―― 一番重要な問題は、…お前と"Tempest_Dragoon"だ」
「俺と、コイツ――?」
ふと、俺は首から提げている剣と翼を模ったネックレスを見る
「…お前たち二人が治療やら着替えやらしている時に調べたが、まずローレンスさんのIS――"ブラッディ・リーパー<血を狩る者>"は機動特化型の第三世代IS――ローレンスさん、君はこのISをどこで入手した?スペックを確認する限り―― 殺しのエージェントであった君がこのような代物を持っているとは思えない」
すると、アリアは迷った後、口を開いた
「…ある依頼の時に、報酬として貰いました――フランスの裏組織の重役の暗殺と、とある研究所の破壊――それで、その報酬としていつも通り口座にお金をと思ったら、私の前に現れたんです」
「現れた?一体誰が?」
「…篠ノ之 束 です」
その言葉に俺とエディさんは驚いていた。
篠ノ之 束が彼女の前に直接現れた?つまり――その暗殺と研究所の破壊を依頼したのは『篠ノ之 束』だ。
そして彼女に直接ISを渡したのも篠ノ之 束だろう――しかし、何故?
「…篠ノ之 束が言ってました。『才能と力があるのに勿体無い、『それに君には資格がある』だから報酬と一緒にこれをあげる』とかなんとかで――それで、渡されたのがこの子――"ブラッディ・リーパー"でした」
彼女はそう言って、彼女のISの待機状態のチョーカーを指差した。
「…謎は多いが、どうして君がISを持っているかは大体わかった――さて、ユウ…次はお前についてだが」
エディさんは、真剣な目で俺を見ると
「話したと思うが…今まで"Tempest_Dragoon"が自分の主だと認めて、言う事を聞いたパイロットは一人も居ない――最も、テストパイロット以外はその力欲しさに無理に乗ろうとして暴走――死亡した訳だが…"Tempest_Dragoon"は君が起動させた際、暴走せずに命令を聞いていた――これは、今までになかった事態だ」
"Tempest_Dragoon"が今まで多くのパイロットを殺してきたのは知っている、だけど――俺にはコイツが悪意のある機体だとは思えなかった。
『直感』と言ってしまえば終わりかもしれないが、人を殺すような機体がわざわざ搭乗者を労わるだろうか?そして――尋常ではない加速をしている中、俺に『負荷がそこまでかからない』ようにするだろうか?
わからないことだらけではあるが、今どうこう考えても仕方が無い――恐らく、エディさんが言いたいのは
「俺が"Tempest_Dragoon"を起動させ、コイツを制御してしまった――それどころか自分の『専用機』となってしまった事。何より問題なのが――男である俺が『IS』を起動させた という事ですよね」
そう、本来ならば『ISは男には動かせない』のだ。
ISは兵器としては素晴らしい性能を持っているが、最大の欠陥を持っている――それが、『女性にしか扱うことが出来ない』という事だ。
その最大の欠陥が、今の社会――『女尊男卑』の社会を生んでしまった。
だが、『男』である俺がISを起動させてしまった、それも――『軍用』ISともなれば、これは下手をすれば世界のパワーバランスを壊しかねない事態だということは俺にも理解できた。
大きすぎる力は災いを呼ぶ――ましてやそれが、世界のバランスを壊しかねないなら尚更だ。
今、俺は『本来ならばありえない』状況に陥っている。
自覚が無い訳じゃない、俺だって軍属で――今まで世界の黒い部分なんて沢山見てきた。
だからこそ、コイツの力は危険すぎると思った。凍結しなければ、封印しなければならないと思った。
だけど――今その力は目覚めてしまい、俺に従っている。ある意味では最悪の事態だ。
「そうだ――男であるお前がISを起動させてしまった、という事に一番の問題がある。そして――もしそれがフランス政府や軍部、いや…世界に知れてしまったらどうなるか」
結果は見えていた。
恐らく全世界の軍事勢力や各国、それだけではなく『裏組織』と呼ばれる連中も俺を確保しようと動くだろう。
『男性操縦者』の有用性。それを考えれば、例え一国が全力で動くにしてもおかしくはないし、『それなりの見返り』もあるんだろう。
モルモットにしてよし、交渉材料にしてよし、使い道は山ほどある――そして、それに媚びる連中も出てくるだろう。
たちまち世界は混乱して、災いが降りかかる――俺が恐れていたのは、これだ。
『またこの空が赤く染まる』。自分の愛する空が、また戦場になって――赤く染まる それが、一番俺の忌避していた事だ。
「…正直な話、例外的な事態過ぎて――自分でもどうするべきか判断が出来ません」
散々考えた結果、俺が出せたのは――結局分からない、とう結論だった。
『それでも』何か出来るのではないか、方法はあるのではないか――と考えても、自分で考え付く方法、実践可能な方法では――どうしようもなかった。
そんな俺に、エディさんから助け舟が出された。
「――今回の事態については、私にも責任がある。元はといえばその機体は私自身の責任だった話なのだ…私はユウ、君とローレンスさんをどんな形であれ巻き込んでしまったのだよ――そしてこの事態だが、既に手は打ってある」
「手は打ってある、というと?」
するとエディさんは立ち上がり、机の中から書類を出してくる
「まずはユウ、お前についてだ――このまま放置すれば、遅かれ早かれ確実に世界が君を捕らえようとする 『お前がISを動かした』という事はあの戦闘の痕跡から――バレる可能性はある、だから…私が考えたのは、開き直ってしまおうという事だ」
「は?」
「え?」
俺と彼女はエディさんの『開き直る』という発言に対して唖然とした。
開き直る――というのは、どういう事だろうか?
「いっそ開き直って、お前のIS――"Tempest_Dragoon"について世界に公表して『男性操縦者』である事も公表する、だがそれだけではない」
エディさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべると
「さっきも言ったが、恐らくそんな事を公表してしまえば間違いなく世界はお前を確保しようとする――だが、そんな事態が発生するなら『そうすることができない状況』を作ってやればいいんだ」
――そうすることが出来ない? つまり、何かしらの抑止力で俺に干渉することを簡単には出来なくする、という事だろうけど…
「エディさん、話が見えませんが――」
「ふむ、賢明なお前ならわかるかと思ったのだが――つまりだ、『どこかの国や団体、企業に所属してしまえばお前には手出しは簡単には出来ない』そういう事だ」
――確かに、そうしてしまえば簡単には干渉できなくなる。
『男性操縦者』だと公表する前にどこかの企業や団体に所属してしまえば、各国は動こうにも動けない。
もし動いてしまったり、何かしらの問題を発生させてしまえば――その所属する企業に対しての『宣戦布告』となるだけではなく、社会的・世界的にも立場が不味くなるからだ。
つまり、抑止力だ。この場合、『俺』という存在に対して『企業』というバックをつけることで、世界や各国に対しての抑止力とするのだ。
――『もし、うちの企業に所属する 月代悠 に何かあればただじゃ済まさないから覚悟しろ』
簡単に言えばこういう事だ。
「…ですが、俺には企業に対するコネも力もありません。ただの空軍パイロットに――そんな力ありませんよ」
「手はもう打ってある――まず、フランス政府や軍部と繋がりがある企業はアウトだ。企業に所属しても、そこから政府や軍部に干渉されかねん。だからお前には、ある企業に所属して貰うおと思う」
「ある企業、ですか?」
するとエディさんは、テーブルの上に置いた資料の中から1枚を取り出して、俺と彼女に見せる
「ネクスト・インダストリー社――名前くらいは、聞いたことあるだろう?」
確かに、知っている――ネクスト・インダストリー社は世界的に有名な企業であるからだ。
日用品から軍事兵器、IS関係の事業までしている世界的大企業だが、変わり者の企業としても有名である。
本社があるのはフランス、だが――フランス政府や軍部、そしてIS企業のデュノア社に対して一切協力をしていない。
しかしこの企業の作る製品はとにかくコストパフォーマンスがよくて、品質もかなりいい――たまに気が狂ってるとしか思えない商品を出すが…
そして、このネクスト・インダストリー社に対して――各国や他の企業は簡単に手出しは出来ない。
『世界的な大企業だから』と言ってしまえばそこまでだか、他にも理由がある。
まず――技術的な問題。このネクスト・インダストリー社の技術力は凄まじく、その技術や提携協力を欲する企業は多いのだ。
ただですら変わり者の企業なのに、機嫌を損ねてしまったら――それまで技術協力などをしていたとしても打ち切られる。そう考えたら手出しはできないのだ。
次に、この会社の持つ力の強大さ――この会社の社長『レオン・ハルベルト』はかなりの有名人だ。
世論からは『篠ノ之 束に並ぶ天才』と称され、彼自身の技術力は非常に高い――そして、そのバックも驚異的だ。
技術提携している企業は勿論、彼の知名度と人徳、そして彼に魅せられた他の有力企業が全面的に彼に協力している――バックについても完璧なのだ。
「ネクスト・インダストリーならよく知ってますよ――超有名企業ですからね、ですけど…それがどうかしたんですか?」
「…ネクスト・インダストリーが『IS産業』に着手して、質のいい製品を作っているのは知ってるだろう? だが――『IS自体』は製作していない」
知っている、ネクスト・インダストリー社は量産型のISを生産していないが、その技術力で非常に高性能かつコストの安いIS用の兵装を作っている。
「そして、あの会社自体は『自社製かそれに該当する量産型IS』を作りたいと考えている――そこで、お前の存在だ」
「…企業にバックについて貰う対価として、条件付で俺自身の稼動データとある程度の『テンペスト』自体のデータを渡す、つまりはそういう事ですか」
するとエディさんは頷くと
「ああ、その通りだ――少なくともあの会社ならユウをモルモットにしたり解剖したりはしないだろうし、『彼』がそれを許さないだろうからね――」
そこで俺は気になった。
エディさんは ネクスト・インダストリー社 について知っているのだろうか? 『彼』と言っているが――まさか交友があるのだろうか?
「エディさん、聞いてもいいですか?」
「何だ、ユウ」
「話を聞く限り――エディさんはネクスト・インダストリー社と繋がりがあるように思えますが…」
「あぁ…あの会社の『レオン・ハルベルト』は知ってるな?」
「はい、あの企業の社長…ですよね?」
「彼は、私の昔の教え子でな――彼が空軍時代に私の元で部下として働いてくれていたのでな」
その言葉に唖然とする、ネクスト・インダストリーの社長が教え子だと!?
この人――どこまで人脈あるんだ…
そう思うと同時に、呆れてため息が出る
それを考えると、ぞっとすると同時に『色々な意味で身内でよかった』と思った
「…彼に話はもう通してある、彼自身は『そちらの条件を全て飲む事を前提に君達には当企業に属して欲しい』と言ってきている」
手の早い…俺と彼女が治療と着替えをしている内に、そんな事まで――確かにこちらの条件を全部飲んだ上で『保護』名目で企業に所属させてくれるなら、これ以上いい案は無い――
ん…待てよ?
今エディさんはなんといった? 『君達』と言わなかったか?
「あ、あの――エディさん」
「何かな、ローレンスさん」
それまでただ話を聞いていた彼女が突然口を開いた
「アリアでいいです――今聞き間違いではなければ…『君達』と言いませんでしたか?」
そうだ、確かにエディさんは『君達』と言った…それはどう言う事だろうか?
「あぁ――ユウとアリアさん、『二人で』ネクスト・インダストリー社の所属になってもらう、という事だよ」
俺だけではなく彼女までも企業に所属する――大体予想は付くが、恐らくは
「…"Tempest_Dragoon"に関わってしまった、からですか?――だから彼女も各国や企業からの手から護らなければならない、そして――彼女の神域とも呼べる『近接戦闘技術』のデータと、<ブラッディ・リーパー>のデータの採取――違いますか?」
「その通りだ――"Tempest_Dragoon"に関わってしまった以上、アリアさんを無防備にする訳にはいかない。だからこそ、企業という後ろ盾だ――そして企業も、アリアさんのデータを欲しがっている、二人を保護するためにはこれ以上の方法は無いと考えるが――」
軍用ISである規格外の"Tempest_Dragoon"に、その操縦者にして『男性IS操縦者』の俺。
そして――神域とも呼べる近接戦闘技術と、殺しに関しては天才的なセンスを持つ彼女に、彼女の高機動特化のIS<ブラッディ・リーパー>
俺と彼女の戦闘データとISの稼動データを対価に、『ネクスト・インダストリー』に所属する。下手にモルモットにされたり、彼女には失礼だが――拷問や酷な事をされるより、遥かにいい選択肢だと思う。
メリットとデメリットを考えても、圧倒的にメリットが高すぎる――特に『企業の後ろ盾を得られる』というのは有難い話だ。
そう考えた末に、俺の結論は――決まっていた
「…エディさんが言うように、確かにこれ以上の方法はないと思います――俺自身は、その話に乗らせて頂きたいと思います――俺がコイツ…『テンペスト』を起動させて、そして力を得てしまった以上、俺には責任があります。その責任と義務は、俺が背負わなければなりませんから――」
そう、あまりにもこの"Tempest_Dragoon"という力は強すぎるのだ――強すぎる力は純粋なる暴力、力を持つものはそれを理解していなければならない。
だけど、その暴力は時として、『可能性』にもなる――俺は、コイツを…"Tempest_Dragoon"を信じてみたい、可能性に賭けてみたいと思った。
「俺自身は構いません、ですが――君は、どうする?ローレンスさん」
彼女は少しだけ考えた後、考えが纏まったのか
「――私は、本当はあの時死ぬと思っていました。だけど今、『生きろ』と言われて生きてます。前に言われたみたいに…人の可能性とか、光とか――そういうのはまだよくわからない。けど――今の私は少しずつでもいいいから、色んな事を学んでみたい、見てみたいと思うから――私も、その話に乗ります」
彼女自身にも考えるものがあって、そして決意があったようだ。
「それから――」
すると彼女は、ジト目で俺の方を見ると
「…いい加減、『彼女』とか『君』、とか――後『ローレンスさん』とか言うのはやめてくれませんか? アリアでいいです――今度からはアリアって呼んで下さい、私も『ユウ』と呼びますから――それに」
彼女は うーん… と考えて、ポンッと手を打つと
「ユウは私を 『 キズモノ 』 にしたんですから、その責任は――取って貰いますから」
何かを納得したかのように、笑顔で俺に対してそんなえげつない言葉を放った。
「…ユウ、どういう事かね?」
背筋にゾクッと怖気が走る――次の瞬間にはガシッと物凄い力で肩を掴まれた
苦笑いをしながらエディさんを見ると、そこには――鬼も泣いて逃げていきそうな、エディさんが居た
「はっ…ええと、エ、エディさん!?」
「ユウ――まさか、君は彼女を撃墜した後無理やり彼女を――ちょっと、頭を冷やす、いや…折檻と修正が必要のようだね?」
「違います!断じてそんな事してませんッ! 」
すると普段の笑顔でエディさんはアリアを見ると
「アリアさん、ユウはアリアさんを『キズモノ』にしたのだね?」
「ええと… はい、確かに私はユウにキズモノにされました。 すっごく痛かったですけど…ちゃんとユウは、その後私に優しくしてくれました」
ちょ、待っ――違う、間違っているぞアリアッ――その言い方は誤解を呼ぶ!そんなの、そんなの間違ってるぞアリア!
そういえばアリアは今まで『殺す事で自分を表現』してきたから、表現がちゃんと理解できてないんじゃないか――?
となると絶対アリアは悪意はなくて、さっき言葉を選んでいたのは――そういう事かぁぁぁああ!
アリアに声をかけようとしたが、それは叶わず――俺の首根っこはエディさんに掴まれた
「そうかそうか…アリアさん、暫くリビングで寛いでいてくれるかな?ちょっと私とユウは――男同士の話し合いをしなければならないようだ」
「――? は、はい…わかりました」
「飲み物とかは自由に飲んでもらってていいからね――さあ、行こうかユウ」
ヤバイ、このまま連れて行かれると多分かなりヤバイ、下手をすると一生物のトラウマになる――ガチギレのエディさんなんてもう嫌だぞ!?過去に一度トラウマになってるんだからな!?
「ちょっ…待って…エディさん、誤解…」
首根っこを掴まれたまま、俺は何とか誤解を解こうとするが――それは無意味で
「ユウ、過ちを気に病むことはない――ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ…君もいい年だろう? さぁ――話をしようか」
あぁ――ダメだこれ、終わった…
俺はそのまま力尽きると、ズルズルと引き摺られて隣の部屋の奥に連れて行かれた。
ちなみに、『修正』と称して1時間に及ぶ『お話』をした後――「弁明はあるか」と聞かれて本当のことを話すと、エディさんは
「そうだったのか――私はてっきり…いや、私とて人の子だ。ははは…」
とだけ言っていた。誤解は解けたが、代償として――俺は一生物のトラウマを得てしまった。
その日、後日『ネクスト・インダストリー社』に言って手続きをする事を決めた後、アリアを寝室に案内して俺も部屋で眠りに付いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――『出会い』とは唐突なものである。それがどんな形、どんな時、どんな結末であれ、出会いは訪れる。
――『翼を得た少年』の信じる心に触れ、少しずつ変わっていく『血濡れの姫君』。 そして『血濡れの姫君』と出会うことで、自分自身を見つめなおし、彼女の力になろうとする少年。
どことなく似ていて、違う二人――二人は今、新たな力と覚悟、そして『夢』を手に歩き出した。
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