ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第10話 遭遇
リュウキは村を隅々まで見て回って調べた後、村の一軒家にて、部屋を借りる事にした。
値段は一晩85コル。初心者には分らないと思うが、一般的な宿屋表記である《INN》と書かれた宿泊施設より少し値は張るが、使い勝手は下手したら天地の差があるといっても過言ではないのだ。
そこは、お茶・ミルク・ハーブティの飲み放題。風呂にキッチンつき。ベッドも中々広くて良い。
「………。とりあえず、まあ こんなもんか?確かに穴場と言った場所だな」
リュウキは、ベッドに座る。座ってみる感じ、ベッドの固さも丁度いい。でも、どうしても思う所はあった。
「やっぱり、爺やが用意してくれたベッドや飲み物の方がいいよ……。爺やは何してるのかな……?」
リュウキはベッドに寝ころがって、天井を眺めた。木造の建築物だ。筋の1つ1つまで再現されている。見た事の無い天井だ。
「ふぅ………。デジタルの世界……。オレのいるべき世界……。還ってきた世界」
でも、リュウキはいつかは、こうなるかなと思っていた。心の中でそう思っていた。……だが爺やがいてくれたから、現実に戻っていた。仕事だけでは、きっと現実世界に留めてはいなかったと思える。
帰るのは身体のメンテナンス。その為に戻るくらいで、後はコチラ側の世界。
「爺や……」
でも好きなときに戻れないと言うのは辛い。《戻らない事》と《戻れない事》。その差が、その違いが本当によく判った。……本当に。
「おやすみ……なさい」
リュウキの目から一筋の……涙が流れ落ち…。その涙は、直ぐに砕け散り 空気中に光る粒子となって漂い、消えた。
この場、この瞬間。SAO屈指の実力者であるリュウキの顔ではなく、……親を恋しがっている少年の姿に戻っていたのだった。
その日は、とりあえず1時間だけ睡眠をとった。そして、夜中の3時に行動を開始した。
「さて………。」
装備ウインドウから片手剣を取り出す。
「アニールブレード+3……まあ、これで十分だろう。1層程度なら」
リュウキはそう呟く。そして、一通りの上下、脚全てを装着後、扉を開けた。
「おや……? 夜遅くにお出かけですか?」
この宿泊施設を経営しているNPCである老夫婦が声をかけてきた。時間によってセリフが代わってくる仕様だ。そして、時刻は夜中だから心配もしてくれた。
「ええ。その……」
その佇まいが、このお爺さんの方の雰囲気が……なんだか似ていた。爺やに。
「いってきます」
リュウキがそう言うと笑顔で答えてくれた。だから……気持ちよく出て行けることが出来ていたのだった。
~ウィンドルの村・西フィールド~
リュウキはある地点に立ち、そして目を瞑った。
「……一歩……二歩…。」
目を瞑り……歩きながら歩数を数える。そして次の瞬間。
「三ッ!!」
三歩目を踏み出した瞬間だ、“がぁぁ!”と複数の唸り声と共に、ウルフ達が突然現れた。
「ふむ……。やはりそう言う類のトラップか」
リュウキはモンスター達を、見渡しながらそう呟いた。攻撃を躱しながら、その数を冷静に数える。
「3……4……、計6匹か」
数え終えると、リュウキは剣を抜き出し、器用に手で円を描くようにまわした
「さて……。武器の性能、お前達の性能の最終チェックをさせてもらうか」
ニヤリと笑うと不敵にも動かずに複数のウルフ達を迎え撃っていた。
丁度同時刻、リュウキと同じ場所で。
「………あれ?」
リュウキが複数のモンスターと戦うそれを見ていた者がいた。その人物はフードで顔をすっぽりと覆い。表情は見えない。そして、性別も特定が難しい。さっきの声色から女性では無いかと思われる。
「……ねぇ、お姉ちゃん。あの人を見て!」
もう1人のフードをかぶっている人物に慌てて言った。
「……どうしたの? レイ。ああ……私達みたいな戦いをしてる人いたんだ」
そう呟くと……、姉の方は首を振った。
「私達には関係ない事よ。さぁ、行くわよ」
そう言うと、背を向けた。
「違うの。あの人の周りにいる狼が……、す、すごい数なんだよ!」
「えっ…?」
振り向きもう一度そちらの方を見た。確かにさっきは草原の木々や葉で隠れて見えてなかったが……。
確かに、その周りにはウルフがいた。ボアと違って、動きが素早く、複数で狙われたら危険な相手だ。
それが……。見える範囲で4匹以上いた。
「ね……ねぇ! お姉ちゃん! あの人、助けないと! 危ないよっ!」
フードを被ったプレイヤーの内の1人が慌ててそう言い剣を取り出した。
「ッ。待って」
あんな危ないところに1人だけいかせられない。この時、彼女は強く思っていた。
危ない所に妹を一人で行かせる事はしたくない。
だって、私の……家族なんだから。とても、大切な……妹なんだから、本当なら、妹だけでもはじまりの街でいて欲しい。私は……あの街でゆっくり腐っていくのは嫌。たとえゲームで死んでも、……負けたくない。
妹が死んでしまうのだけは絶対に嫌なのだ。ゆっくりと腐っていく事よりもずっと嫌だった。
「私も行くから。1人じゃ危ないでしょう!」
「う……うんっ」
2人は意を決して、走り出した!だが、次の瞬間だった。駆け出そうとした瞬間だ。ウルフ達は硝子が砕ける様な音を響かせながら、砕け散っていた。
それを……目の当たりにした2人は。
「ッ……!え?ええ?どうやったの……?今。あ、あっという間に……」
唖然……という言葉は今使うんだろうと感じていた。
「……………。」
もう1人の……姉と呼ばれていた人物は、目を逸らさずに見ていた。見えたのは ウルフがあの人に跳びかかってきて……。そして、次の瞬間には砕け散っていた。目にも止まらない攻撃なのだろうか……?
その姿を暫く見ていたら。あの人物がこちらに気が付いたようだ。
(……何10mも離れて、尚且つ木々で生い茂っているのに? それに薄暗いのに?)
どうやって気が付いた?そう思うまもなく。その人物は、消え去っていった。
「……なんだったの? あれ……幽霊?」
「さぁ……わからない。でも、何であっても……私達がする事、それは変わらないでしょう」
もう1人にそう言う。安心、したようだ。目の前で誰かが砕かれる瞬間なんてみたくないから。
「………そうだね。私もわかる。お姉ちゃんと同じ。だって……だって……」
服の端をぎゅっと握りしめた。
「私はおねえちゃんをずっと見てたんだから……。ずっと一緒にいる」
「レイ……」
2人はそして、草原へと去って言った。
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