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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第百十八話 最高の再戦になりそうだな

 第二回戦の勝者は皆の予想通り、ヤーヴァスになった。
 相手は『大剣のドーマ』と呼ばれるほどの強者だったが、ヤーヴァスには一歩及ばず敗北を喫してしまった。


 そして第三回戦。
 『黄金の鴉』のガシューと対決するのは、ノーブルという人物。
 彼はギルドパーティ『角のある妖精(ホーンフェアリー)』の実力者らしい。
 本来なら良い勝負を期待してしまうカードだが、闘悟達はそんなふうに観戦することはできなかった。
 それはもちろんカイバの件があったからだ。
 ヤーヴァスを倒すため、カイバの妹であるヨッチを誘拐してカイバを脅した。
 だがそれは苦しくも、闘悟によって阻止された。
 その誘拐事件の中心的人物がガシューだった。
 残念ながら証拠が無かったため、ガシューを捕らえることはできなかった。


 そんな人物の試合だ。
 良い試合になる理由が思いつかない。
 そして、舞台にはまずガシューが現れた。
 だがいつまでたっても対戦相手であるノーブルが現れない。


「どうしたことでしょうか? もうすぐ時間になります! このままノーブル選手が来なければ、ガシュー選手の不戦敗となります!」


 そして、ついに時間が来てしまい。
 結局はガシューの勝利となった。
 観客達からは、期待した試合を見れなくて不満の声が漏れているが、それ以上に衝撃を受けていたのは闘悟達だった。


「……ミラニ」
「分かっている」


 ミラニはそう言うと、部下を呼び何かを伝える。


「トーゴ様?」


 クィルが不安そうに尋ねてくる。
 闘悟とミラニのただならぬ雰囲気を感じて恐怖を感じたのかもしれない。
 クィルに言おうかどうか迷ったが、周りを見ると、他の者達も説明を要求している顔だった。
 ニアの顔を見ると、彼女は軽く頷き、説明の許可を得る。
 闘悟は皆を前にして言葉を放つ。


「時間もねえから、手短に言うぞ?」


 皆は闘悟の言葉に注目する。


「多分、ノーブルの不戦敗はガシューの仕業だ」


 他の者も、カイバの件を知っていたので、確信は無いが感づいていたのだろう。
 あまり驚きは見られない。
 それでもクィルは悲しそうな表情をする。


「で、でしたら、ノーブルさんは一体……?」
「……さあな、その調査をミラニの部下に頼んだ」


 クィルにはそう言ったが、闘悟の中では最悪の事態を一考(いっこう)してしまっていた。
 誘拐などという卑劣な行為を平気でし、何食わぬ顔で大会に参加するような輩(やから)だ。
 対戦相手を大会に参加できないようにすることなど、何の罪悪感もなくやってしまうだろう。
 もしかしたら、相手を死においやってまでも、それを成そうとするかもしれない。
 やがてミラニが戻って来て、周りの反応を見た彼女は、闘悟に近づき聞く。


「話したのか?」
「ああ」


 ふとクィルを見ると、未だに暗い表情をして顔を俯かせている。
 相当ショックだったようだ。
 まさか自分の父が主催する大会で、そんな非道なことが立て続けに起こるとは信じたくなかったのだろう。
 だがノーブルの件は間違いなくガシューの仕業だ。
 闘悟の勘がそう言っている。
 ミラニもそう思っているようだが、それを確かめるためにも、部下達に調査を依頼したのだ。
 ノーブルの消息と、その原因についてだ。


 舞台の上に一人ポツンと建っているガシューを見下ろす。
 すると彼がこちらに顔を向けてきた。
 そしてフッと含み笑いをしてきた。
 間違いなくその意識は闘悟に向けられている。
 勝つためなら何でもしますよと言わんばかりのガシューの顔つきに、オレは目を細め、無意識に呟いていた。


「上等だ。絶対後悔させてやっからな」





「さて、行くか」


 闘悟は不意に声を出す。
 その声が向けられた相手はミラニだ。


「ああ」


 もうすぐ第四回戦が始まる。
 闘悟とミラニの試合が始まるのだ。


「あ、あの……お二人とも頑張って下さいです!」


 どちらを応援していいか分からず、クィルは心に浮かんだ言葉を彼らに託した。
 他の者達からもそれぞれ激励を受ける。


「トーちゃんも、ミーちゃんも、頑張ってねぇ~!」
「ふふふ、楽しみに拝見させて頂きますね」
「お~! ふたりとも、お~だぞぉ!」
「気をつけて……ね?」
「私の分……じゃなかった、と、とにかく良い試合を期待してるわよ!」


 ニアとリアは笑顔で言い、ハロは言っている意味は分からないが、ガッツポーズを作っているので、激励だろう意味を込めてると判断できる。
 ヒナはいつもと変わらない無表情で、ステリアは失言しそうになって慌てながら送り出してくれる。 そして最後にまた、クィルがエールを送る。


「お怪我はなるべくなさらないで下さいです!」


 彼女の言葉に、それは無理っぽいなと思いながらも、皆の思いに応えるように、二人は確かに頷きを返した。
 そして二人は、ともに舞台へと向かって行った。


「さあ! 第三回戦は残念ながら不完全燃焼になりましたが、その分、この第四回戦は盛り上がること間違いなしでしょう!」


 モアは意気揚々(いきようよう)とした雰囲気で言葉を放つ。


「トーゴ選手とミラニ選手! この二人は皆さんの期待に応え……いや、期待以上のものを見せてくれるはずです!」


 おいおい、そこまでハードル上げられたら少し困るぞ?


「何と言っても、今大会一押しの注目選手同士の対決です! 私も手に汗握ってます!」


 いや、知らんがな。
 モアの感想は正直どうでも良かった。
 隣にいるフレンシアも、目をキラキラさせて好奇心溢れる瞳を闘悟に向けている。
 毎回興味深い試合をする闘悟の闘いを、その両眼に焼き付けておこうとしているのだろう。
 今度もまた、とてもそそられる試合をするだろうと確信しているに違いない。


 ふと観客席の方を見ると、カイバ親子の姿も見えた。
 向こうもこちらの視線に気づいたようで手を振ってきた。
 どうやら闘悟達を応援しに来たようだ。
 妹のヨッチも元気に応援してくれているようなので、誘拐の後遺症などはなさそうで安心した。


「さあ! 言葉で何を言っても仕方が無いでしょう! ここから先はバトルで語って頂きましょう!」


 お、どうやら始まるようだな。
 でも……。
 そう思い目の前にいるミラニを見据える。
 まるで歴戦の強者(つわもの)のような雰囲気を醸(かも)し出している。
 変な気負いなども無く、全身に魔力が充満しているのが分かる。
 準備は万端(ばんたん)だということだ。


 どうやら、前回闘った時とは比べるべくもない。
 こりゃ、気を引き締めてやらなきゃな。
 ミラニはそんな闘悟の視線を受け止めず、目を閉じて精神を集中していた。


(今日、私は強くなれたのか……本当の意味で分かる)


 ミラニも以前の闘悟との模擬戦を思い出していた。


(あの時は、あっさり負けた。たとえあの時、全力を出していたとしても敵わなかっただろう。だが今日は……正真正銘、全力の私を奴に見せる)


 以前闘った時は、確かにそれなりの実力は出していたが、魔法も下級のもので、剣術も本気を出してはいなかった。
 だがその時の全力でも、闘悟には傷一つつけられないだろうと判断した。
 その判断は間違ってはいないだろう。
 そして……………………恐らく今日も勝てない。
 自分が成長しているように、闘悟もまた成長している。
 差は少しは縮まっているかもしれないが、もともとの差が大き過ぎる。


(勝てない……だがそれでも、私は勝つつもりで挑む。それが我が師の教えでもある)


 相手に勝つのではなく、自分に勝つ。
 それがミラニの根本にあるものだ。


(だから、全力で向かう!)


 瞬間目を見開き闘悟を睨む。
 その視線に気づき、同様に視線を合わせる。
 魔力が待ちきれないといった感じで、空に立ち上っていく。
 いいぜ、見せてもらうよミラニ!
 闘悟もまたミラニの全力に応えようと決心する。


「いいですか? 本戦第四回戦! それでは……」


 闘悟とミラニは互いに構える。
 観客達からも息を飲む音が聞こえてくる。
 それだけ静まり返っている。
 皆が始まりを今か今かと待っている。
 そしてモアの声が始まりを告げる。


「始めぇぇぇっ!!!」

 
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