DQ3 そして現実へ… (リュカ伝その2)
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強き人
<リムルダール>
「おい!何だ、その『星降る腕輪』ってのは?それも特殊なアイテムか?そんな弱い女が持つより、そいつに勝った強い俺様が持った方が有効的だ!それも貰おうか」
ハツキから黄金の爪を奪い取ったナールは、些か自惚れてしまっており、周囲の者の感に触る事甚だしかった。
勿論リュカもその1人。
「あ゙ぁ?…何だキサマ…何調子こいてんだコノヤロー!」
一瞬の内にリュカから怒気が発せられ、アルル達はナールの運命を哀れんだ…心の隅で『ざまぁー!』と呟きながら。
「当然だろうが…強い者が強い装備を纏うのは、自然界の摂理だ!おら、それを渡せよ!」
しかし、この馬鹿にはリュカの怒気など感じる事など出来ず…また元来よりKY体質の様で、怒ったリュカ相手に遠慮がない。
「ふざけんな馬鹿!これは俺の所有物だ。ハツキに貸してあっただけで、元々は俺の物だ!…そんなにこれが欲しいなら、俺を倒してから所有権を主張しろ馬鹿!」
リュカはハツキをビアンカに託し、ゆっくり立ち上がると星降る腕輪をナールの目の前にチラつかせ、彼の物欲を刺激する。
「お前はさっきの勝負を見てなかったのか?俺様の実力は十分解っただろう!?それなのに俺様に勝負を挑「うるせーな!俺はお前なんぞどうでもいいんだよ…お前こそこの腕輪が欲しいんだろ?俺と勝負るのか勝負らないのか…ハッキリしろ馬鹿!」
「けっ!面白いじゃネーか…やってやるよ!お前もさっきの女同様に瞬殺してやんよ!」
「瞬殺?…お前言葉の意味を知らないのか?15分もかかってハツキを倒したじゃねーか。そう言うのは瞬殺とは言わないんだ馬鹿!」
「う、うるせー!そんなことどうだっていいんだ…人の事を馬鹿馬鹿言いやがって!馬鹿って言うお前が馬鹿なんだよ!」
リュカに口論では勝てぬと悟ったナール…子供じみた口撃でリュカの口を封じようと試みる。
「はぁ~…喜べ馬鹿。お前は僕が出会った馬鹿の中で、最高に馬鹿だった奴を抜き、ナンバー1に躍り出たぞ!キング・オブ・馬鹿」
だが勿論、リュカの口を封じる事など出来る訳もなく、いたずらに傷口が広がって行くナール…
「よ~し…そんなキングにサービスしてやろう!」
小馬鹿にした口調を止めることなく、ハツキの腕に装着しようとしてた星降る腕輪をナールに投げ渡し、見下す様に言い放つ。
「それは星降る腕輪…装着した者の素早さを大幅に増幅するマジックアイテムだ。僕と戦うにあたり、それの装着を許可しよう!…さらに黄金の爪も装備して良いぞ」
そこまで言うとドラゴンの杖を地面に突き刺し、反対側のドラゴンの頭部分を右手で包む様に握ると、ナールに空いた左手を向けて言い続ける。
「更にハンデだ。僕はこの杖から右手を離さないし、杖は地面から離れない様に戦ってやる…もし杖が地面から離れたら僕の負けで良い。どうだ…優しいだろ?」
「くそっ、ふざけやがって……だ、だったら俺様もサービスしてやるよ!」
馬鹿にされ頭に血が上ったナールが、勢いで口を滑らした。
「そうか。じゃぁルールとして、お前は僕が『100』数える内に攻撃を仕掛けなければ負け…攻撃さえ仕掛ければカウントはリセットされ、また『100』の内に攻撃すればいい!僕はこの場から動けないのだから、このくらいは当然だよな?ダラダラと戦いを長引かせても意味ないもんな!?」
ナールはリュカに渡された星降る腕輪を装着し、自身の素早さが大幅に上昇した事に驚き、そして強くなった様な錯覚に陥り、勝った気になってリュカに嘯いた。
「どうやらお前はどうしても負けたい様だな!?いいぜ…その条件で相手してやんよ!」
ナール本人も、自身にとって素早さが唯一の欠点と自覚していたので、その欠点を補填出来る星降る腕輪を是が非でも手に入れたく、血の気が全て頭に登りきってしまっている。
「ご託はいい…さっさとかかってこい…」
リュカは右手を地面に垂直に立てた杖の上に置き、左手でナールに向けて小馬鹿にする様に手招きをする。
「テメーの自信に満ち溢れた鼻っ柱、ポッキリとへし折ってやるぜ!」
リュカの挑発を受け、先程までとは比べ物にならない素早さを駆使し、左右へフェイントを織り交ぜたステップで移動し、後方の死角からリュカの手にする杖を蹴り払おうと突進するナール…
(ヒュッ!)(ドゴッ!!)
しかし杖まであと数センチの所で、リュカの強烈な後ろ回し蹴りが炸裂!
完全に捉えたと思っていたナールは、モロに蹴りを腹部に受け、血を吐き散らしながら10メートル程吹き飛んだ!
「1.2.3.4.…………………」
吹き飛んだナールの方へ振り返りもせず、大きな声でカウントを始めるリュカ。
「28.29.30.31.…………………」
しかしナールは完全に気を失っており、大声で響くリュカのカウントなど耳に届いていない。
「55.56.57.58.…………………」
生死が気になったティミーが、倒れているナールに近付き顔を覗き込む。
どうやらナールは完全に意識を遙か彼方へ飛ばしてしまってるだけで安心すると同時に、鼻持ちならないこの男が、白目を剥いた情けない顔で気絶している事に、思わずガッツポーズをする正義の勇者殿…
「97.98.99.………………100!」
リュカは少しだけ間を空けてから『100』をカウントし、最後まで倒れるナールに目を向けることなく、リムルダールの町へと無言で入っていった。
アルル達も慌ててリュカの後に続き、町へ進入して行く。
気絶する馬鹿から黄金の爪と星降る腕輪をティミーが取り返して…
リムルダールの宿屋に部屋を取り、各自荷物を割り当てられた部屋に置いて併設する食堂へと集まる。
一通り注文を済ませ、食事が来るのを待つ間に、ハツキが泣きそうな声で絞り出す様に囁く。
「私……もっと強くなりたいです……私……あんな馬鹿には負けないと思ってました……でも…私の実力じゃ…………」
俯くハツキに視線が集まる。
「リュカさん!私もっと強くなりたいんです!だから私を鍛えてくれませんか!?…女として見てくれなくていいです……私…リュカさんの愛人をやめます……だから…お願いします…一人の武闘家として、私を鍛えてください!」
愛するリュカへの思いを断って、己の強さを求めるハツキ…
俯き弱々しい呟きも、終わりには決意に満ちた力強い口調へと変化し、瞳に強固な輝きを宿してリュカを見つめている。
そんなリュカへの思いを込めたハツキの言葉を聞き、一気に視線がリュカへと向けられ、彼の答えを待ち侘びる。
「………ハツキ………君は弱くないよ。思っている程、弱い存在ではないよ。ただ……」
何時もの優しい口調で『ただ…』と付け加え、瞳を閉じて思い更けるリュカ。
『ただ…』何であるのか、皆が待ち続ける。
後書き
無事アイテムを取り戻せました。
でもハツキの心にはトラウマが残っちゃったかな?
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