ソードアートオンライン アスカとキリカの物語
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アインクラッド編
黒と白の剣劇
前書き
こ、更新が信じられないほど遅くなってスイマセン!
大学生活って忙しいんですね・・・・・・まさか1ヶ月もかかるとは自身の事ながら驚きです。
大学生活は自由な時間が増えてヤッホーイ! だと思っていたのに・・・・・・コホン。
ま、まあ少し閑話的な扱いの回ですが、どうぞよろしくです!
ではっ!
「やっぱりタンクプレイヤーで固めてスイッチを繰り返して少しずつダメージを与えるべきだ」
「この層のボスは高火力型だ。不用意に責めるのは危険だろ。時間をかけて倒すべきだ」
と、〈血盟騎士団〉や〈聖龍連合〉などの大規模ギルドの団員から意見が飛ぶと、
「でも、攻撃力に偏っていて防御力、HP総量はたいしたことがないんだろ。時間をかけて相手に攻撃を行わせて、タンクプレイヤーに負担を掛けるより、短期決戦をした方が安全だ」
「それに、タンクプレイヤーが固まっていたら、俺たちが攻撃しにくくなる」
と、ソロプレイヤーや小規模ギルドのメンバーから意見が返される。
そんな平和な会議が行われていたのは、ほんの20分ほど前までだ。
今では、
「俺たちタンクプレイヤーがいないと、ボス戦が行えないんだぞ! 身勝手に動くソロプレイヤーは自重しろ!」
「そっちだけで経験値やアイテム全部かっさらう気なんだろ! そんな都合の良い案が通るかよ!」
なんて、お互いにかなり遠慮のないことを言い合っており、果てには、個人的なやっかみまで飛ぶ始末。
アスカは目の前の光景を冷静に半ば呆れながら観察しながらも、適宜自分の意見も主張する。
最初は自分が全員を制御しないと、と思っていたが、10分ほど前に諦めた。
隣では〈血盟騎士団〉団長ことヒースクリフが落ち着いた様子でその喧噪を見守っている。
ここまで騒がしい状況に眉1つ動かさない不動の姿はある意味尊敬に値する。
・・・アスカとしては、団長から仲裁に入って欲しいところだが。
広場反対側後方に控えている〈月夜の黒猫団〉の面々は初めて目にしたのであろうボス攻略会議中の暴言混じりの騒動を見て驚いているのか、全員が口をつぐんでいる。
そして、〈風林火山〉のリーダークラインや、エギル、それにソロプレイヤーキリトは反対側前方で果敢に言い争っている。
慣れているという点なら第1層から参加しているキリトはこのような光景、見飽きるほどだろうが、仮にも女性がいい年した男性プレイヤーと一緒に暴言を吐くのはどうなのだろうか、とアスカは思わなくもない。
「はあ・・・・・・」
時は第40層の超絶硬度の亀型フロアボスとの死闘を終えて、2ヶ月。
最前線は第48層――二度目のクォーターポイントである五十層間近に進んでいた。
今日は迷宮区のマッピングを終えてボス部屋を発見したので、ボス攻略会議を主街区の中央広場にて行っていたのだが、攻略組内で意見の食い違いが発生。
最初はお互いに落ち着いて自身の意見を口にしていたが、気がつけばこの有様だ。
実は意外とよくあることなので、そこまできにすることでもない。
が、アスカとしては、こんな無駄な騒ぎに時間を割くことが一番の無駄だと思う。
しかしながら全員ヒートアップしている状況ではさすがのアスカでも鎮めるのは難しい。
それに、どちらの主張も間違っていない。
この層のボスは前述されている通り、高火力型。
第40層のボスの真逆。どちらかと言えば、26層のボスと似ている。
大規模ギルド側の主張は、
“相手は高火力型。一撃でもくらえば危険なので、万全を期すためにもタンクプレイヤーを大量に配置して、長期戦で確実に倒すべきだ”
と、いうもの。
対して、ソロプレイヤーや小規模ギルド側の主張は、
“相手は防御力、体力共に平均より下。下手に攻撃に耐えることを考えるより、集中攻撃で短期決戦に望むべきだ”
と、いうものだ。
リスクだけを考慮すれば・・・・・・正直、五分五分である。
どちらにもある程度のリスクはあるが、ボス戦なんてリスク無しに行えるはずもない。
じゃあ、どちらか適当に選べば良い、なんて解決策がありえないのは、アスカの眼前の光景を見ていれば誰でも分かる。
つまり、お互いに互いの利益を欲しているのだ。
大規模ギルド側は大勢のタンクプレイヤーを敷くことで、自分のギルドの多くの団員に経験値を与えることができ、且つ、人数が多いおかげで、ラストアタックボーナスを狙える可能性が高まる。
ソロプレイヤーや小規模ギルド側は、タンクプレイヤーが少ないので、短期決戦でダメージディーラー中心に経験値が偏るようにしたい。ついでに、自分たちの攻撃回数が増えるのだから、ラストアタックボーナスの確率も高まる。
どちらの意見も間違っていないので、どちらかが相手に譲るしかない。
が、そんな紳士的行動が取れているのなら、10分前には会議が終了している。
そもそも、ネットゲーマーに紳士的態度など必要ない。
「団長、どうしますか?」
アスカが隣に立つヒースクリフに訊ねると、右手を顎に添えて答える。
「ふむ・・・これ以上話し合っても進展はなさそうだな。・・・仕方ない、強引な手だが、デュエルで決めるくらいしか方法が残っていないだろう」
ヒースクリフの声は決して大きくはなかったが、アインクラッド最強の剣士が放つプレッシャーがなせる技だろう。気がつけば全員が静聴していた。
ヒースクリフに代わりアスカが声を張る。
「それでいいですか?」
どこからも文句はでなかった。
誰もが、話し合いで解決できないことをこの20分間の論争で学んだらしい。
「それでは、こちらからは俺が出ます。団長、良いですか?」
「うむ。任せる」
〈聖龍連合〉の方から抗議の声は出なかった。アスカに一任してくれるらしい。
アスカが一歩前に出ると、反対側のプレイヤー達が後退りした。
アスカは攻略組においてもトップクラスのレベルを保持している。
そこに(本人としては不本意だが)、〈閃光〉、〈狂戦士〉、〈血盟騎士団副団長〉の貫禄も加わっている。
誰もが、アスカに勝てる自信がないのだ。
――――1人を除いて。
「じゃあ、俺がやろうかな」
いつ何時通りの不敵な笑みを浮かべて歩み出たのは〈黒の剣士〉ことキリト。
ソロプレイヤー側もキリトの強さを十分すぎるほど理解しているのだろう。
任せた、とでも言わんばかりの視線を送っている。
アスカも、キリトが出てくることを半ば予想していた。
「いいのか?」
「もちろん。これが一番手っ取り早いと思ってたところだ」
ニヤリ、と片頬をつり上げるキリト。
負ける、なんて微塵も思ってなさそうだ。
「場所はどうする?」
「ここでいいだろ。移動する時間がもったいない」
「分かった」
だが、アスカとて負ける気など無い。
視線を交え、2人は装備点検のため一度背を向け合った。
――かくして、〈閃光〉VS〈黒の剣士〉のデュエルが決定した。
お互いに装備チェックを行うために10分ほど時間を取った後、すぐにデュエルを始めることにした。
あまり時間を取られたくない、というのは建前で、多くのプレイヤーがこの2人の戦闘を早く見たいのだ。
攻略組同士のデュエル、更に言えば、攻略組においてもトップクラスの2人の戦闘だ。
興味のない方がおかしい。
アスカが細剣を腰に装備している間に広場中央を取り巻くプレイヤー数は明らかに増えていた。
どうやら、情報が広まったらしく、最前線に観光目的でやって来たプレイヤーまで見に来ている始末だ。
何人かが記録結晶を構えているのが確認できる。
はあ、と溜息を付きながらも、アスカは広場中央まで足を進めた。
反対側ではキリトが装備を整えながら、心配そうに声を掛けてきている〈月夜の黒猫団〉の面々に大丈夫、と言いそうな顔で受け答えしている。
結局、第40層ボス戦後、キリトとサチの間にあった溝はすっかりと消え去り、元の良好な関係に戻ったらしい。と言っても、アスカからすれば元から仲の良い友達にしか見えなかったのだが。
キリトはソロプレイヤーとして活動し続けることを選んだ。
理由までは聞いていないが、〈月夜の黒猫団〉の面々もあっさりと承諾していることから、きっとアスカの知らぬ事情が関係しているのだろう。
それを聞き出そうなどとは思っていない。
――まあ、『ひとりで戦う』なんて格好良いことを言っていたが、サチの料理ってNPCレストランの百倍美味いよな、と言って、2日に1回は夕飯に誘われてご馳走になりに行って、そのままの流れで宿代が浮くからと、2日に1回はサチの部屋で寝泊まりし、そのままの勢いで、パーティー組んだ方が戦闘の効率が良いからと、2日に1回は一緒にマッピングをしているらしい。
正直、サチからその手の話をメールで聞いたアスカからしたら、もうギルドに入っているとか関係ないよな、と疑問を浮かべずにはいられない。
まあ、両者が満足しているのなら部外者たるアスカには何の文句もないのだが。
大ぶりの片手剣を背中に吊ったキリトが準備を終えたようで、アスカと対峙する。
「んじゃ、よろしく」
「楽しそうだな」
「そりゃ、まあ。閃光殿と闘える機会なんて中々ないからな」
戦わずに平和に会議が終わってくれることを望んでいたアスカからしたら中々に嬉しくない発言だ。
「俺は楽しくないけどな」
言いながらウインドウを操作。
デュエル申請をキリトに送る。
もちろん【初撃決着モード】。
キリトがイエスボタンを押したようで、アスカとキリト両者の中間地点でカウントダウンが始まる。
キリトが背中から大ぶりの直剣を引き抜き、だらり、と下げて構える。
アスカは細剣を正中線に構えた。
先ほどは楽しくない、なんて言っていたが、アスカもこのデュエルの相手がキリトであることは嬉しい。
良い機会だ、と思った。
40層ボス戦で気づいた、未だに微かに胸の内に秘められている、この気持ちを封じ込める。
もう一度、冷徹にボス攻略を進める自分に疑問を持つことがないように。
この気持ちを打ち消そう。
ボス攻略という大義に個人の感情が入る余地などない。
そんなこと許されない。
心の中で大きく、戦いの炎を燃やす。
しかし、頭は氷の如く冷静に働かせる。
場の喧噪が聞こえなくなり、集中力が極限まで高められ――――
ついに、カウントダウンが0になった。
――【DUEL】
先に動いたのはアスカ。
攻略組最速の敏捷値を最大限使ったダッシュ。
周りの空気を押しのけるように距離を詰めて、その走った速度を上乗せし、体を捻った力をも加えた突きをソードスキル無しで3発放つ。
対人戦においてソードスキルを使用するのはかなりのリスクがある。
なぜなら、発動後に必ず技後硬直時間があるからだ。
ハイレベルな剣士との戦いにおいて、その隙は致命的だ。
それは、目の前にいるキリトとて無論例外ではない。
左に2発。右に1発。
通常技ゆえにシステムアシストを得られないので、速度は遅いが、システムが自動で動かすソードスキルに比べれば、照準を正確に定められる。
左にはなった2発を避けても、最後の一撃は回避できない。
しかし、キリトは最初の2連撃を避けると、最後の一撃は剣を横に強振して弾いた。
アスカの使う細剣は対人戦においてかなり有利な武器だ。
なぜなら、モンスターに比べて、目で攻撃を見て捉えるプレイヤーにとって、剣先一点しか見えない突き技はパリィが異常に難しいのだ。
基本的にはステップ回避をするしかないのだが・・・キリトは事もなげに防いでみせた。
ここまで完璧に弾かれたことに驚きつつも、やはりキリトなら、と期待通りの動きに少しだけ闘争心がざわめく。
危なげなくパリィを行ったキリトが振るった凄まじい速度の直剣がアスカの体に迫る。
ステップで回避しつつ、適宜剣先で軌道を逸らして体に当たらないようにする。
アスカの細剣では、重く、威力の高いキリトの直剣をソードスキル無しで弾き返すのは難しい。
4回連続でステップ回避すると、キリトの体制がわずかばかり崩れた。
間隙を見逃さず、アスカはすかさずソードスキルを発動。
避ける暇がないと判断したのだろう。
応えるように、キリトも刀身に水色のライトエフェクトを光らす。
「はああっ!!」
「せああっ!!」
細剣カテゴリソードスキル4連撃〈カダラプル・ペイン〉と、片手剣カテゴリソードスキル4連撃〈ホリゾンタル・スクエア〉が真っ向から衝突した。
凄まじいエフェクト光が迸り、お互いにノックバック。
靴底で床を滑りながら、10メートル近く後退した。
お互いに被ダメージはなし。仕切り直しだ。
観客もいつの間にか無言になっていたが、そのことを聴覚が認識するより先に、アスカは再度距離を詰めるべく走り出した。
この時すでにアスカの胸中は好敵手と剣を交える喜びだけで満たされていた。
戦闘は10分にも及んだ。
いつしか、アスカもこの勝負を楽しんでいた。
お互いの剣尖の応酬に、キリトだけでなくアスカも笑みを浮かべていた。
さすがに全ての攻撃を完全回避し続けるのは無理で、不可避的削りダメージで両者のHPは少しずつ幅を縮める。
今までデュエルを何度かしたことがあったが、ここまで長く、互角の勝負を行ったのは初めてだ。
観客が固唾を呑んで見守る中、しかし決着の時はあっさりと、予想外な展開で訪れた。
両者のHPが4割と少し削られ、一発でも攻撃を与えたら終わる状況。
至近距離でお互いがお互いの挙動に集中力の限りを尽くして見極めていた、その時。
「ふっ・・・・・・!!」
ブン! と、キリトの左手が柄を握り込んだ形で霞むような速度でアスカへと繰り出された。
キリトは片手剣士だ。右手で得物を持っている以上、左手では〈体術スキル〉の技しか使えない。剣を振り下ろしてくることなんて不可能だ。
アスカがそんなことを冷静に判断したのは、左手の動きに反応して細剣を振った後だった。
あまりに真に迫った演技に、体が勝手に反応してしまった。
ハイレベルな戦いにおいて致命的な隙。
無論、それを誘ったキリトが見逃すはずがない。
無防備なアスカの体をキリトの剣が一閃した。
ウィナー表示がふたりの中間地点に表示されると同時に、観客がどっと沸いた。
デュエルはキリトの勝利で幕を閉じた。
約束通り、ボス戦はソロプレイヤーのダメージディーラー中心で組まれ、キリトがまたしてもラストアタックを獲得したのは、予定調和だろう。
――そして。
アスカは、自分の胸に秘める思いを、偽りだと断ずることができなくなりつつあることに、気付きつつあった。
後書き
いかがでしたか?
原作ではさらりとこんなこともあった、としか書かれていなかった2人の決闘シーンを書いてみました。
感想指摘等、よろしくおねがいします!
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