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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百三十七話 捕虜の人々

 
前書き
前半はルビンスキーの話です。後半が捕虜収容所の話になります。 

 
宇宙暦793年 帝国暦484年 3月2日

■フェザーン自治領  アドリアン・ルビンスキー

「自治領主閣下、シャフト大将からの連絡のありました第二イゼルローン要塞ですが、映像を見た限り10年かかるのは間違いないようです」
「そうか、では当初の予定通りに進める事にしよう」

「はい。しかし一寵姫の影響がここまでの事態を発生させるとは些か不振に思います」
「ボルテック、そうなると他に要因があるはずだが、何かあるのかな」
ボルテック、すぐに解らない様ではまだまだだな。

「後考えられるとしたら、皇女の影響かもしれませんが、幼すぎます」
「しかし、皇女も中々の人物だとの噂もある」
「しかし、高々10歳ですから」

「確かに、そうは言えるが、皇帝が娘可愛さに変わった可能性も考えられなくはない」
「そうですな」
「まあ、グリューネワルト伯爵夫人に注目し皇女に関しては暫し様子見としておこう」
「はっ」

ボルテックが去った後、ルビンスキーは一人ペントハウスでウイスキーを飲みながら考えていた。

ボルテックにああは言ったが、高々一寵姫の存在がこれほどの改革を生むのであろうか、ほかの考えられることと言えば、皇女の存在か、しかし高々10になった程度の小娘が果たして何かできるのであろうか。しかし競馬場で的確な判断を行ったとの話もある。

しかし、グリューネワルト伯爵夫人との会食では婦人の弟の嫌いな物ばかりを出して辟易させたとの話もある。子供らしい嫌がらせとも言えるのだろうが、何か引っかかる。しかし10でそこまでの知恵が回るであろうか、あるいは側近の指図のせいかもしれない。

うむ、疑わしきはとことん疑うのがこの世界の生きていく為の術だ、運の良いことに帝国歌劇団なるものを発足させるために、帝国各地から人材を集めるようだ。ここは手の者を潜り込ませることにしよう、誰かよい者は居ないであろうか、早急に探すこととしよう。


帝国暦484年 3月2日

■オーディン ノイエ・サンスーシ 小部屋 テレーゼ・フォン・ゴールデンバウム

「という感じで、黒狐は私や私の近辺に手を入れてくるでしょうね」
黒狐《ルビンスキー》の考えを私なりに推測してケスラー達に伝えておく。
「そうなりますと、殿下の御身に危険が迫るやもしれません。早急に対策を練りませんといけません」

「その方面はそちらに任せます。私の方は暫く子供らしく我が儘でもごねて煙に巻きますよ」
「その方がよろしかろうと、存じます」
「ええ、歌劇団に入り込むネズミは、駆除せずに泳がせて遊んであげてね」

「宜しいのですか?」
「解っているネズミの方がよほど楽ですからね」
「解りました。呉々も殿下は無茶をなさらぬようにお願いいたします」

「ええ、それと捕虜収容所の件は頼みます」
「御意」


帝国暦484年 4月1日

■ローエングラム大公領 捕虜収容所   アーサー・リンチ大将

俺がエル・ファシルで捕虜になってから早5年か、今俺は皇帝の娘ローエングラム大公の領土内にある捕虜収容所の最高評議会自治委員長をしている。昨年からこのローエングラム大公領に捕虜収容所が建設され、悪名高い帝国各地の矯正区から次々に捕虜や拉致市民が送られてくる。

今までであれば、同盟軍捕虜は犯罪者として矯正区に放置され、生きようが死のうが個人の才覚一つという地獄のような場所へ捨てられていたのであるが、皇帝の改革により、捕虜にも慈悲をという事で、この捕虜収容所が設立された。

その際俺は、請われて捕虜収容所最高評議会自治委員長へ任命され、各地から解放された捕虜の面倒をみることになった。送られてきた当初の捕虜達は皆目が死んでおり、やせ細り髭も髪の毛も伸びておらずに太いのは関節だけで、すっかりやせ細っていた。着ている物もボロボロの服ばかりで、とても軍人に見えない状態であった。

我々はまず、健康状態の把握に勤め、軍医や帝国側から派遣された医師や看護師の手を借りて栄養状態や病気の有無を調べなければならなかった。我々エル・ファシルで捕虜になった者達は、当初から捕虜収容所で過ごしてきていたため、彼らのような悲惨な目に遭っていなかった為に、当初は他の捕虜から敵のような目で見られ、攻撃も受けたが我慢して献身的に過ごした結果今では打ち解けるようになった。我々も彼らも同じ同盟人であるのだから。

捕虜収容所の生活は矯正区の人間にしてみれば天国と地獄の差だとのことだ。確かに話に聞く矯正区は地獄と言えよう、この収容所は大きな島一つを丸ごと利用しそこの中ならばどこへ行こうと自由であり、田畑もあり、娯楽施設もある。

まるで、同盟軍捕虜収容所のような大らかさであり、アバウトさでもあろう。ここまで捕虜収容所が変わったのは、皇帝の手により反乱を起こした貴族が粛正されそれに荷担していた内務省や社会秩序維持局が解体されたことも要因だと、帝国側の収容所所長から聞いた。

その際に、貴族が所有していた矯正区や拉致市民を助けて、この収容所へ編入できるように皇帝が尽力したそうだ。この話を聞いて、捕虜の中には皇帝陛下万歳と叫ぶ者も出る始末だ。概ね捕虜の間では、皇帝や皇女に関しては悪感情を持つ者が少なくなってきている。

やはり、正確な報道が捕虜に対しても成されて居ることも一因かもしれない。それによると皇帝は元々改革思考であったが、門閥貴族によりそれをできなかったが、今回の反乱でそのたがが外れ、尤も強烈な反対組織であった、社会秩序維持局が消え去った事でこれをなしえたのである。

帝国市民もこの皇帝の壮挙を挙って好意的に見ているようだ、反対しているのは門閥貴族の連中だとの事で、皇帝が手に入れたり、皇帝に協力的な貴族の星系では、全ての矯正区が廃止された上で捕虜は全てこの地へと移送されてきているが、門閥貴族の領土にある矯正区は未だ廃止されずに残り、多くの同胞が塗炭の苦しみを味わっているのだ。

早急に彼らの解放をしてもらわなければならないが、帝国側担当者の言うことには、『皇帝陛下におかれてもそのことを大変憂慮なさっている』のようなニアンスで話してくる。この状態で言えば、敵は皇帝ではなく門閥貴族と言うことにな訳だ、フリードリヒ4世であれば、あるいは和平も可能かもしれない。尤も門閥貴族を倒すことが最大の前提であるのだが、それが出来るのは何時になるのだろうか?

その前に我々が捕虜交換で帰国することもあり得るのだが、出来れば皆で帰国したいものだ。最近になって本国との間にフェザーン自治領経由で手紙や慰問袋などが届くようになり、兵達や拉致市民の間で安堵感が広まっていて、彼らは口々に『これも皇帝陛下の英断のおかげだ』と話している。

かく言う私の元にも妻と娘から手紙が届き、大きくなった娘の写真を見ながら、ホロリとしたものだ。多くの同胞が同じ思いをしている。帝国側も捕虜交換を行いたいらしいがタイミングの問題も有るそうで、具体的なものまで進んでいないようだ。

同盟軍捕虜や拉致市民の間には、銀河帝国は変わりつつある。このまま行くなら戦争をする必要もなくなるのではないかと考える者達も大勢出始めている。またこの事を本国に伝える者達も大勢いるが、果たして本国でその言葉が通じるのであろうか?

本国では憂国騎士団などの強硬派が焚書などを行い気勢をあげていると、新しき来た同胞達や家族からの手紙で知っている。奴らは気勢をあげるだけで決して戦場へ赴く事がないそうだ。所謂扇動をしているだけのようだ、エル・ファシルで逃げた俺が言うのも烏滸がましい事だが、市民を戦場へ送り出しながら自分たちは安全な場所に隠れている事は許せない事だ。

些かヒートアップしてしまったな。何はともあれ今日も農奴から解放された拉致市民がやってくる。まずは彼らに支給する生活物資を準備せねばならないだろう。忙しいがやりがいのある仕事だ。


帝国暦484年 4月10日

■ローエングラム大公領 捕虜収容所   さる拉致住民

私達家族が帝国の人狩りにあい農奴として攫われてから早10年、牛馬の様に働かされ死ぬ思いをしながら今日まで家族で生きてこられた。同じ時期に攫われた人達の中でも殺されたり病死した人も大勢いるのだから、私達は幸運だったとも言えよう、しかしまさかこんな日が来るとは思わなかった。

今まで私達はリッテンハイム侯爵の荘園で働かされてきた。朝日の出とともに起き、畑に行き夕方暗くなるまでこき使われてきた。子供達も同じで単純労働をさせられ、教育すら受けられない。少しでもノルマが悪いと監視係が電磁鞭を容赦なく振るうのだ。食事も粟、稗、麬などまともな物では無く雑穀の雑煮だけ、育ち盛りの子供達は池や小川で取った蛙や小魚を貪るように食べていた。

そんな地獄の毎日が死ぬまで続くのかと、人生を悲観していたが、リッテンハイム侯爵が皇女暗殺未遂事件に関与したとのことで、全農奴の解放が命じられ我々も解放されたのだ。解放が命じられた後、従来からの帝国農奴と我々のような同盟から連れ攫われてきた者達と分けられ、連れてこられた。

当初は帝国では同盟人は犯罪者であるから別の地で再度農奴としてこき使われると言う噂も流れ悲観していたが、ここへ来て驚きに耐えなかった。この地、ローエングラム大公領はテレーゼ皇女殿下の私領であり、この地に同盟捕虜や拉致市民の収容所が建設されていたのである。

しかも悪名高い矯正区と全く違い、監視されているとはいえ我々に自由と生活の安定をもたらしてくれたのだ。食事も確りとした、パン、スープ、チーズに肉類など夢のような食事であり、子供達は大喜びで食べている。しかも自治委員会が有り、その委員長にはエル・ファシルの英雄で捕虜になっていた、アーサー・リンチ大将が就任していたのである。とは言っても私もここへ来て初めてエル・ファシルの事を知ったのだが。

ここへ来てから、皆の死んだような目は希望に満ちあふれた目に変わりつつある。なんと言っても皇帝陛下と皇女殿下が、非常にお優しい方であり帝国臣民の為にいろいろなさってくれている。そして我々にも人並みの生活を与えてくれたのだ。多くの捕虜や市民は敵は門閥貴族であり、皇帝陛下は敵ではないと思ってきている。私もその考えには賛成している。願わくば早く国に帰りたいが、今の皇帝陛下の元であれば、このまま帝国に居るのもよいかもしれないと思う私が居る。  
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