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久遠の神話

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第四十四話 不老不死その五

「携帯のメールを見たが」
「はい、中田さんのことです」
「俺も読ませてもらったよ」
 当然高橋にもそのメールは送っていた。それで彼もこう上城に対して言ってきたのだ。
「彼が剣士として戦う理由はね」
「ああした理由だったんです」
「悪人じゃないとは思っていたけれど」
「ご家族の為だったんですね」
「滅多にできることじゃないよ」
 高橋はこう言って中田のことを認めて褒めた。そしてそうした根拠もまた上城と工藤に対して述べたのだった。
「それはね」
「家族の為に戦うことはですか」
「うん、人はどうしても利己的な一面があるし」
 まず言うのはこの面だった。
「それにね」
「それに?」
「そんな状況になったら諦めるよ」
「普通はですか」
「うん、そんな回復が絶望的な怪我をしてね」
 そしてだというのだ。
「自分が最後の一人まで生き残らないと助けられないなんてね」
「絶望的だからですか」
「うん、諦めるよ」
 普通はだというのだ。
「相当意志が強くないとね」
「相当、ですか」
「そして彼はね」
「その強い意志があるんですね」
「だから戦うんだよ」
 剣士としてだというのだ。
「強いからね」
「心が強いからですね」
「うん。自分一人が戦って罪を株っても家族を助けられる」
「そうならだと思って」
「戦えるなんてできないよ」
 高橋はこう言って中田に尊敬の念すら抱いた。
「普通はね」
「そうですね。命懸けですし」
「物語ではよくあってもね」
 家族の為に命を賭け己が罪を被るというのは主人公にありがちな設定だ。しかし現実でそれがよくあるかというとだった。
「実際にはね」
「できないですよね」
「上城君はそういうことできるかな」
 高橋は具体的に彼に問うた。
「若しご家族が大怪我をしてね」
「意識もなくして回復も絶望的になって」
「それで戦えるかな、死ぬかも知れない戦いに」
「それにですよね」
「殺し合いだから自分が相手を殺す場合もあるよ」
 それで罪を受けることも考えられた。それも充分に。
「そうした道を選べるかな」
「それは」
 上城は高橋の問いに口ごもった。それでこう言ったのだった。
 顔は自然に俯いていた。そのうえでの言葉だった。
「出来ないです」
「そうだね。普通はね」
「人は殺したくないです」 
 上城が中田と同じ選択を選べない第一の理由はそこにあった。
「それに。死ぬのもやっぱり」
「当然さ。死ぬのが怖くない人間なんてね」
「あまりいないですよね」
「俺もだよ。正直に言うとね」
 死ぬのは怖い、高橋もそうだった。
 彼はそのことを笑って話してだ。そのうえで上城にも言ったのである。
「怖いよ、死ぬのは」
「そうですよね」
「誰だって怖いんだよ。普通の人はね」
 工藤も高橋の横で無言で頷く。そしてだった。 
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