ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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コラボ
~Cross storys~
episode of cross:紹介
アインクラッド第二十層の地形は、植物方のモンスターがいる植物生い茂る森林地帯と、下の上くらいの鉱石が採掘される山岳地帯の二つに分けられている。
まあ、アインクラッドの地形の中では、大分オーソドックスなほうだ。
だが、この二十層が得意な点を一つ上げられるとしたら、その地形の分け方であろう。
まず、二十層の中心部、四人が今しがた命からがら逃げ出してきた【サンカレア】の街がドンと居座っており、その周りには綺麗に円形状に見晴らしの良い草原が広がっている。
更にその外側には、背の高い古木と絡み合うツタ類が織り成すジャングルめいた森林エリアがある。
そして、そこから幅三十メートルはあろうかという川のように見える波つき湖がある。この湖は、ぐるりとフロア全体を円状に流れている。
綺麗なドーナツ状のそれの向こうには、標高七十メートルはあろうかという山々が軒を連ねている。その山肌には緑は全くなく、荒涼とした岩肌のみが広がっている。
荒れ果てた鉱山という設定のそこには、採掘場である洞窟が無数に開いている。
その正確な数は、マップ上にも正確に載っていない。大小様々、解かっているだけでも数百にも及んでいる。
「っはあァ……ッ!」
半ば肺の中身を丸ごと吐き出すようなため息をつきつつ、ゲツガは岩石でできた洞窟の壁に背中を投げ出した。次から次へと起こる、訳の分からないこと全てに疲れていた脳が休息を求めて喘いでいる。
「大丈夫か?」
隣に同じように体を岩壁に押し付けて座っている学ランのような服を着た少年が言った。
それに頷き返すが、正直なところ、これが夢ではないのか。まだ眠っているのではないか、とか思ったりしているので、あまり大丈夫とは言い切れないかもしれないが。
「まったく、どうなってんだ?人が消え、それからメチャクチャ強いボスの突発的出現だと?」
その向こうに座る、萌黄色のコートを着た男がぼやく。
それに応えたのは、少しはなれたところに横たわっていた男だ。
「ボスの出現自体は……イベントってことだよなぁ。しかもあのボスの強さから見る限り、年イチとかのでかい奴だな。だがNPCはともかく、プレイヤーまで強制転移させるなんてこと、あったことがない」
今度は、紅衣の少年が力なく首を振りながら答えた。
「イレギュラー、だね。全部」
はぁ、と重いため息が五人の口許から漏れ出る。だが、萌黄色コート男が楽観的な口調で言った。
「ま、なんとかなるだろ」
「そう、だな。……そう言やぁ俺、皆のこと知らないんだけど。俺はゲツガってんだ」
ゲツガがとりあえず自己紹介すると、傍らに居た学ラン少年が言う。
「おぉ、ひょっとしてお前が《白い弾丸》か?」
「そうだ。お前は?」
「俺はシキだ。知ってっかな。《直死の魔眼》」
その名前は聞いたことがある。
チートと言えば聞こえは悪いが、いわゆるバグスキルを使って前線を駆ける有名なプレイヤーの二つ名だ。
それを聞き、萌黄色コート男も身を乗り出してきた。
「俺はセモン。《神話剣》って呼ばれてる」
「俺は、ホークだ。ま、情報屋をやってる」
「あ、じゃあ《鼠》の弟子ってのは……」
「あぁ、たぶんそれ俺のこと。そっかー、やっぱ師匠すげーな。こんなとこにもお得意様が………」
そして最後に、残った紅衣の少年を全員で見る。
見張り役を買って出ていた少年は、突如訪れた静寂に驚いたようにこちらを見、次いでああ、と頷いた。
「僕の名前はレンホウ。レンって呼んでね」
レンホウと名乗ったその少年が自己紹介したのと同時に、ホークと名乗った情報屋がはっと顔を上げた。
「……思い出した………。血色のフードコートに暗闇色のロングマフラー。……《冥王》………」
えっ、と全員が驚きに硬直した。思わず、こんな子供が!?と思わないではいられない。レンと名乗ったその少年のほうも、ゲツガ達のそんな反応にも慣れてしまっているのか、しっかり外を見ながらもロングマフラーをフリフリ揺らしながら薄く苦笑している。
やがて、不思議とゆっくりとした口調で、ごくごく日常の中の会話のように、レンと名乗った少年は言った。
「……そうだよ。確かに、僕の二つ名は《冥王》。だけど、今ここではそんなことは関係ない。あいつを殺さない限り、この層からは出られはしない………。それで充分じゃない?」
殺す、という言葉に一瞬ドキッとしたが、最後のほうの言葉で呑まれかけた精神が現実へと戻ってくる。
今この場にいる全員が陥っている状況が、改めて脳裏に鮮明化される。
セモンと名乗った男が、言った。
「………そうだな。今は、俺らが何者かなんてどうでもいい。目の前のことに集中しないとな」
その言葉に、ホークといった男が若干場にそぐわないのんびりとした声で言った。
「だがよぉ、いくら強いっつっても相手は一体だろ?この面子と人数だったら、イチコロじゃね?」
「……それがそうも行かないみたいだよ、ホークにーちゃん」
外を覗いていたレンが、一転して緊迫感を入り混ぜた声で言ってきた。
その声に反応し、全員がレンの近くに集合してゴツゴツとした岩肌の影から外を見た。そして気付いた。緩くカーブする、川のような湖の彼方に軽く霞んで見える背の低い草が生い茂る平原に異形の影が現れ始めていた。
しかも、決して一体だけではない。見える位置だけでも、軽く十体はいるだろうか。
その姿形にはまるで統一性がなく、でっかい虫のような形をしたものや、完全な人のようなものもいる。あえてそれらの接点を挙げるとしたならば、その全てが例外なくサイズが桁違いにデカいことだろうか。
その体長や全長は、平均三、四メートルはあるだろうか。
デカい。
アインクラッドに存在するモンスターの中でも断トツに大きい。これほどの体を持つモンスターの種類は、この鋼鉄の魔城の中でも一つしかない。
「ボスモンスターか………!」
シキと名乗った学ラン少年が、砕けんばかりに噛み締めた歯の狭間から軋るような声を出す。
「………見える範囲でこれだけの数っつーことは、全部で相当な数ってことだぞ」
「それに、全部が全部見覚えがある。恐らく、これまで攻略してきた全ボスモンスターが出現してんだろうな」
「…………………………………」
空気が、やけに冷たかった。
夕闇の色を帯びてきた陽光が、初夏の温い空気に当たってオレンジ色の光を辺り一辺に撒き散らしている。
じとっとしたものが背筋を這い回り、訳もなく体が細かく震え始めた。それを止めたいとゲツガは心の底から願ったが、意に反してその震えはだんだんと深く、大きなものになってきた。
訳もなく、上を仰ぎ見た。固い岩盤だけが見える洞窟の天井を。
あるいはその先のものを。
───ユキ
脳裏に浮かんだのは自分を慕ってくれる、一人の少女の姿。自分が護り、そして自分が死ねない理由。
その姿の向こうで、ゲツガはあることを思い出した。
それは、このイベントのタイトルだ。
そう、つまりはそういうこと。始めから仕組まれていたのである。
あの時、ユキは確かにこう言った。
そのイベントのタイトルは《守護霊達の亡霊》って言うんだって、と。
「さぁってと、んじゃ行きますか。居場所に帰りに、さ」
セモンが静かに言った一言で、空気がより一層鋭く研ぎ澄まされたように感じられた。
全員がゆっくりと首を縦に振る。
いまや完全に隔離されてしまったここの外に、置いてきたものがあるのは、ここにいる全員に共通した唯一のことかもしれない。
顔を見合わせて、淡く、力なく苦笑する。
どうやら、置いてきたものに苦労しているのも共通しているらしい。次第に頭が痛くなってきた。
ざりっ、と靴底が岩と少しの砂が堆積する地面を捉える。
その音はきっちり五人分合って、訳もなく同一感を強調してくれる。
視界にまず飛び込んでくるのは、大きな甲虫のボスだ。何と言うか、黒光りする角が艶やかに陽光を拒否して光り輝いている。
鋭いかぎ爪がついた六本の四肢は、振るわれただけで一撃死しかねないような凶暴な光を放っている。
「ホーク、あれはどこだ?どこにある?」
皆と同様、岸壁に手を突いていたシキが静かに、隣に立っていたホークに問う。
その瞳は、その甲虫型モンスターからまるでぶれない。まるでスコープを覗く狙撃手のように、狙うべき獲物を間違いなく狙う目。
その表情を一瞬ちらりと見、ホークは口を開いた。
「あれは確か、四十一層のボス《コーラル・ネプチューン》だ。弱点は………」
すっ、とホークは人差し指を伸ばし、《コーラル・ネプチューン》なるカブトムシを真っ直ぐ指差した。
「頭だ」
「「「「なるほど」」」」
ホークの情報屋としての情報を信じ、一同そう言ってじっとカポカポ歩くカブトムシを見つめ、見つめ、見つめたら───
「どこにあるんじゃあっ!!」
ゲツガがそう吼えた。確かに、と一同も同意する。
そう。洞窟の出口から見える《コーラル・ネプチューン》には、およそ頭と呼べる器官が見えなかったのだ。本来のカブトムシならば頭のあるべき箇所には、鋼鉄のごとき黒光りする装甲があるだけで頭のごときものが全くと言っていいほどに見えない。
「確かにこの位置からは見えない。だが、位置的には普通のカブトムシの頭と同じトコについてる。ただ、硬ってぇ殻に隠れてるから、相当姿勢を低くしないと見えもしないぞ」
「わかった」
レンが静かに言った。
「作戦通りってことでいいんだよね?ホークにーちゃん」
「ああ」
そこで、ゲツガがいたって平静に、のんびりと口を開いた。
「よし、じゃあ行くか」
何の気負いもなく放たれたその言葉に、皆が苦笑する。
だが、実際ゲツガの言葉通りだった。そうだ、たったそれだけのことなのだ。ここにいる全員の感覚で言えば、ちょっとその辺りの店にお使いに行くようなものなのだから。
「ああ、行こう」
「うん。《お使い》に、ね」
レンの言葉に、再び全員の顔に苦笑が浮かぶ。そして皆の足が動き───
一歩を踏み出した。
後書き
なべさん「あい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「今回も転だねー」
なべさん「まぁそーだね。フロアボス総登場ですからな」
レン「でも五十層までなんだろ?」
なべさん「いえす。さすがに九十層クラスは無理ゲーだからね」
レン「あと、ラスボスの口調が禁書の一方さんって、散々LINEで言われたね」
なべさん「それについては激しく否定しよう!確かにモデルは禁書キャラだが、一方さんではなく麦野さんだ!まあ確かに似てるっちゃ似てるけどね」
レン「まあね。はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー♪」
──To be continued──
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