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気合と根性で生きる者

作者:康介
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第六話 エクリプスの選択

 
前書き
 まず一つ、ご愛読者様の皆様に謝らなければなりません。

 更新が一ヶ月も遅れて、本当に申し訳ありませんでした!!

 すぐに投稿出来るかとも思ったのですが、イラスト描いているとなかなかうまくいかず、更にスランプが続いてしまいこうなってしまいました・・・・・・。
 
 そしてご愛読者様の皆様に今回もお礼を。

 まず最初に、新たにお気に入り登録していただいた八名様、本当にありがとうございます! これからも執筆を頑張りますので、どうかこれからも変わる事無くご愛読の方をよろしくお願いいたします!

 そして二つ目は、話別ごとに評価し、作品自体を評価してくださった方、本当にありがとうございます! これはとても執筆の際に励みになりました! 新たにお気に入り登録が増えた件も励みになりましたが、それと同じくらいに励みになりました!

 そして最後に、ある時期に日間ランキングが何と17位に豹変していました! これは単に、ご愛読者様方がいてこその賜物! 本当にありがとうございます!

 それでは、今回はある面白い物が見られます。それをお楽しみに。

 それでは、本編をどうぞ。
 

 
「お初にお目にかかります。サンドラ=ドルトレイク様。私は今回、この催し物に招待していただいた〝エクリプス〟リーダーのマーシャルと申します。以後、お見知りおきを」

 いつもの胡散臭い営業スマイルと丁寧語。現在、勝は〝火龍誕生祭〟運営本陣営の謁見の間へと足を運んでいた。理由は、招待された側とコミュニティの代表として挨拶をする為である。

「初めまして。東の最小の巨人〝エクリプス〟の名はこの北にも響き渡っています。たった四人の人材での急成長と発展、更に上層にすら足を運び依頼を遂行したその実力。それを纏め上げる貴方には、尊敬の念を抱いております」

「いえいえ。私なんか、まだ箱庭に来て一ヶ月ばかりの若輩者です。北のフロアマスターであるサンドラ様に尊敬されるような、大層な人物ではありません」

 尊敬の念を抱いている。そうサンドラに言われて、勝は表には出さないが本当に驚いていた。何せ、あの北のフロアマスターから尊敬されていると言われたのだ。つまり、白夜叉と同じ地位の人間に尊敬されているということだ。これに驚かなければ、それは上層以上の者かよほどプライドの高い者だけだろう。

「今では〝エクリプス〟というコミュニティの名は、既に上層にすら注目されるほどです。謙遜なさることは、何一つありません」

(そ、そんな事になっていたのか!?)

 あまりにも発展が早すぎる――勝は内心で舌打ちをしながら、表ではいつもの営業スマイル。ある意味、コミュニティの中で一番傍若無人な勝自身が忙しいのかもしれない。

「――今更だが、其方の旗印を確認させてもらいたい。偽物を名乗っているとも限らんしな」

「マンドラ兄様、流石にそれは失礼では――」

「おっと、そう言えば私は何度も顔を変えて表にも出ないから、リーダーとしての顔が売れていないんでしたね。いやはや、これは大変失礼いたしました。何分、表に出るのが苦手な性質でしてね――と、そうそう。これが我ら〝エクリプス〟の旗印です」

 そう言って、勝は自分の〝エクリプス〟としてのリーダーの正式な服装である男性用の着物の帯の一点を指で指し示す。





 それは、背景が黒――恐らく、夜空か宇宙を指し示すもの。辺りにある白い点は、きっと遠くに見える星だろう。右下に見える黒く染まった太陽――日食に加え、その中心にはEの文字。そして最後には左側に狼がその日食している太陽に飛びつく絵。

「・・・・・・これが、旗印?」

「はい。――とはいっても、本拠地に一度掲げたきりですので、確認何てものは出来もしませんでしょうが」

 営業スマイルに苦笑を混ぜながら、勝はさぞ面白そうに言ってのける。そして事実、〝エクリプス〟は旗揚げした当時以来、この旗を一度も掲げたことが無い上に、このコミュニティはつい一か月程前に出来たものだ。〝エクリプス〟の旗印など、寧ろ知っている方が珍しいくらいである。

「・・・・・・まぁ、いいだろう。サンドラ、そろそろ時間だ」

「――あっ! す、すいません。大祭の主賓としての仕事がありますので、話はここまでということで、何か重要な要件がありましたら、また後日に」

「っと、貴重なお時間を申し訳ありません。私も、今回は主賓のサンドラ様に挨拶をしようとしただけですので、今回はこれで失礼して、大祭を楽しむことにしようと思います。それでは、失礼いたします」

 そう言って、勝は北のフロアマスターであるサンドラとの挨拶を終え、暇つぶしと思いこれから始まるギフトゲーム〝造物主達の決闘〟を見学しようと、そのゲーム会場に向かうのだった。

「・・・・・・気を付けろ、サンドラ」

 マーシャルこと勝が部屋から出て行った後、不意にマンドラがサンドラに話し掛ける。

「あの〝エクリプス〟リーダーのマーシャルとかいう男、何か得体の知れないものを持っている。ギフトなのか、それとも素なのかは分からんが――とにかく、気を付けた方が良い」

「・・・・・・・・・・・・・・・分かりました」

 サンドラにも思う所があったのか、長い沈黙の後に首を縦に振った。

 ――この疑いが後に大災を招く事など、まだ誰も知る由は無かった。









「ふぅ~、生き返るわ~」

 おやじ臭い声と溜息を吐きながら、マーシャルこと勝は〝サウザントアイズ〟支店の温泉に入っていた。無論、白夜叉からの許可は取っている。

「あ~・・・・・・本当にどうしようかな、今後の方針」

 打倒白夜叉(太陽神)とか掲げてみたものの、名ばかりが広まって人員が全く増えないと来た。今、本拠(使っていないので無いにも等しい)が複数の魔王にでも襲われたら、確実に負ける。同盟締結したとはいえ、〝ペルセウス〟では個人の特出した力がそのリーダーのルイオスの持つアルゴールの悪魔以外に無いのが欠点だ。〝ノーネーム〟とのギフトゲームにも、そのせいで負けたと言っても過言ではないだろう。

「・・・・・・早めに〝太陽石〟手に入れた方がいいのかなぁ・・・・・・」

 あれをへパイトスの神格で加工したとすれば、恐らく太陽にまつわる全ての武具の疑似品を作ることが可能だろう。そうすれば、今の最小コミュニティという特性を最大限まで生かすことが出来る。

 しかし、肝心の〝太陽石〟の入手方法を、実の所勝は全く知らないのだ。適当に太陽神を潰すなどと言ったが、その太陽神にも何処に行けば会えるのやら・・・・・・。

「――白夜叉さんに聞いてみるしかないか」

 思い立ったが吉日だ。そう思い、勝はすぐに風呂から上がろうと立ち上がった瞬間に――

『待て待て待て黒ウサギ!! 家主より先に入浴とはどういう了見だいやっほおおおおお!』

『きゃああああああ!!』

 ――隣の湯銭から、何やら聞いたことのある賑やかな馬鹿騒ぎが聞こえてきた。聞いたことのある、というか完全に白夜叉である。

「あ、白夜叉さーん! 丁度良い所に来ましたね~!」

『ぬっ? おお! もしかしてマーシャルか! おんしもこちらに来て一緒に――』

 湯銭に浸かったまま向こうの湯銭へと話し掛けると、白夜叉からのおかしな勧誘。そして言葉が途切れたとほぼ同時に床に桶が転がる音。十中八九、黒ウサギに桶を投げられたのだろう。

「白夜叉さん? とりあえず単刀直入に質問あるんで、質問よろしいですか?」

『う、うむ・・・・・・は、話すがよい』

 声が弱々しくなっている所を見るに、どうやらそれなりのダメージは食らっているみたいだ。しかし、勝には知ったことでは無く、気付いていないふりをして質問を続ける。

「〝太陽石〟って、何処で手に入りますか~?」

『ぬぅ・・・・・・これはまた、難しい質問をしてくるのぅ。――〝太陽石〟は、基本的にそれが採取できる鉱山か、太陽に関係のある神格持ちの者のギフトゲームに勝てば手に入る。しかし、どうして〝太陽石〟なのだ?』

「それはもちろん、今手に入りそうな強力な疑似の武具を精製できる材料が、それだけだからですよ~」

 答えると、白夜叉は「なるほど」と納得したのか暫く沈黙する。

『・・・・・・まぁ、おんしらの実力と結束力なら問題無かろう。今度私が直接、おんしらの為のギフトゲームを用意しよう。――上層での』

 白夜叉の最後の言葉に、勝はニッと口端を吊り上げる。

「ははっ! それは楽しみですねぇ。期待していいんですよね? 白夜叉さん」

『存分に期待しておれ。本拠で久しぶりに開催するギフトゲームなのだ。腕によりをかけて主催するとしよう』

「おっと、それではこちらも全力で、お相手するとしましょう。それでは、私はこれで失礼します。また後で、談笑でもしましょう」

 それを最後に言って、勝は温泉から上がり来賓室でのんびりしようと、そっちに足を運ぶのだった――









「ねぇ、白夜叉。今話していたのって、一体誰なの?」

 マーシャルが湯銭から出て行った後、不意に飛鳥がそんなことを訊く。

「あぁ、あやつはコミュニティ〝エクリプス〟中最弱であり最強のリーダー、マーシャルというやつでの。あやつとは良く仕事の絡みが多く、二日に一度の割合で会っているのだ」

「え、〝エクリプス〟でございますか!?」

 白夜叉の話を聞いて、急に驚きの声を上げる黒ウサギ。白夜叉は「うむ」と短く答えると、飛鳥がまた頭に疑問符を浮かべる。

「・・・・・・何? そのエクリプスって、そんなに凄い所なの?」

「それはもう! 設立わずか1か月半にも関わらず、この最下層から今では上層にまで行き来しているメンバー数たったの四人の東の最小の巨人とまで言われるコミュニティでございます! 正体不明のリーダーのマーシャル様、事務と交渉担当の人当たりの良いピエール様、戦闘能力では他と逸脱したガルム様とエレン様! 彼らは皆、最初はギフトゲームをして名を上げていたみたいですが――出て僅か数日あまりで七桁全てから出禁を言い渡され、それからはギフトゲームでなく、〝サウザントアイズ〟からの依頼によって名を上げていった、全く新しいタイプのコミュニティなのですよ!」

 黒ウサギからの熱い紹介に少々気圧されながらも話を聞く飛鳥。一つだけ分かったことは、相当に凄いコミュニティだということだけで、1か月半で最下層から上層まで行き来したというのは――頭で理解しても、感覚として捉えることが出来なかった。

「黒ウサギの紹介で大体わかったけど――白夜叉。そのマーシャルっていうリーダーの方が最弱で最強って、どういうことかしら?」

 こちらに押しよる黒ウサギを手で押さえながら白夜叉に訊くと、白夜叉は「うぅむ・・・・・・」と何やら返答に困ったような声を上げて、

「――まぁ、あやつはアレだ。その場に居る者の強さによって、あやつの強さが決まるのだ。そこらに居る奴と戦えば、おんしたちから見れば弱く見える。しかし逆に、あやつが私と本気で戦うとなると――四桁以下で、あやつに及ぶ者は私以外に誰も居なくなるやもしれん」

「・・・・・・つまり、戦う相手に比例して強くなる、と?」

「まぁ、分かり易く言えばそうなるのう。――それがただの戦う相手に対してだけの比例ならばな」

 後半は聞こえない様に、ボソリと呟く白夜叉。黒ウサギはコミュニティの理想論を語っていて聞いておらず、飛鳥にも当然その呟きは聞こえなかった。

「はてさて。あやつはこれからどう出るのか」

 白夜叉は一人楽しそうな笑みを浮かべながら、その後は温泉をゆったりと堪能するのだった。









「ふぅ~。それにしても、本当に今日は疲れましたよ~」

「それだけで疲れていては、コミュニティのリーダーとしてこれからやっていけませんよ」

 マーシャルこと勝は今、来賓室にて例の女性店員との世間話をしていた。

「まぁ、そうだねぇ。――それと、〝ノーネーム〟が呼ばれた理由ってどうせ、魔王退治とか何かでしょう?」

「概は正しいです」

 そっかぁ~、と他人事の様にニコニコと仰向けに寝転がりながら言い、そして次の瞬間には――

「よっし。ちょっと〝サウザントアイズ〟の方から伝えてもらえる事出来るかな? 今すぐ全員集合って、内の主力二人に」

「――ッ! エレン様まで、召集すると?」

 一瞬、女性店員が驚いた顔を見せる。しかし、それにかまわず勝はマイペースに話を続ける。

「うん、そうですね~。だって僕、その子と面識がゼロなんですよ? 流石に四人だけの少数精鋭でそれは不味いかな~、なんて思いまして、今回はそれも兼ねて魔王討伐の手助けとチームワークの強化を頑張ろうと思ったんですよ。――まぁ、そう言う訳ですので、お願いしていいですか?」

「――はぁ、分かりました。こちらで伝えておきます」

 諦めた様な溜息を吐き、女性店員は首を縦に振る。勝は「ははは」と声だけで笑いながら、今の容姿のその細い糸目を少しだけ開けて、

「いやぁ、助かります。――ほんっと、楽しい祭りになりそうですねぇ」

 ゾクッ、とその時に女性店員の背中に悪寒が走った。

 不気味に少しだけ開いた糸目の奥に潜んだ何か。何を考えているか分からないその表情。その二つのせいだろう。女性店員が、悪寒を感じたのは。

「――本当に時々、貴方を恐ろしく思います」

「はは。そんなん、ただの幻ですよ。少し休んだ方が良いんじゃないですか?」

「・・・・・・・・・・・・そうですね。伝えた後、ゆっくりと休ませてもらいます。では――」

 そう言って、女性店員は来賓室を後にした。勝は起き上がって座禅を組んで座り、精神統一の為に瞑想を始めた――風に見せて、内心では考え事を始める。

(これからどうするか、だよね。魔王が本当に現れたなら倒してもよし。傍観もよし。出来ればその魔王ごとうちのコミュニティに引き入れたいけど――十六夜さんの目を盗んでそれは、難しいだろうし・・・・・・いっその事、表だって派手にやっちゃおうかな)

 正直なところ、白夜叉が居る時点でその機会も少なさそうには見えるのだが――それは逆を言えば、白夜叉に付いていればその機会があるということだ。それで一度小手調べをさせてもらえるように交渉すれば――きっと、上手くいくだろう。

(それに、その場合はすぐ近くに白夜叉さんが居る。そうなれば、僕の勝利は揺るがない。よし、白夜叉さんと行動を共にしよう)

 根拠のある確信。勝は最後に行動方針を決めると同時に心の中で頷き、そして瞑想の型を崩そうとした時――

「誰だテメエ」

 不意に、聞き覚えのある自称、粗野で乱暴で快楽主義と三点揃った男の声。

 声のした正面を見てみると――やはりというべきか、そこには逆廻十六夜が座っていた。更に周りを見てみれば、黒ウサギ、ジン、飛鳥、耀と〝ノーネーム〟の主要メンバーが勢ぞろいな上に、セットで白夜叉と見知らぬとんがり帽子の小人まで付いてきていた。

「・・・・・・それって普通、座ってから訊くことなのかなぁ・・・・・・」

 どうやら、面倒事はこれからのようだった――









 〝ノーネーム〟の主要メンバーと白夜叉が温泉から上がり来賓室に到着したとき、そこには見知らぬ先客が静かに座禅を組んでいた。

 整った顔と黒い髪、見た目からして歳の頃はせいぜい十代前半か――あるいはレティシアや白夜叉の様に子ども化している人間以外の生物。何故そう思わせるのかと言えば、彼のその特徴的な糸目が原因である。落ち着いた雰囲気に見せて、考えの全く読めない人物。座禅を組んでいるだけで、瞑想をしているのかどうか分からないほど、見事な糸目なのである。その上に無表情とくれば、その考えを読めと言うほうが無理な話ではあった。

 一言で言えば――そう。怪しい人物、だ。

「誰だテメエ」

 マイペースに十六夜は一人席に着いてからの質問。

 声を掛けられて反応したのか、彼は開いているのかいないのか分からない糸目で十六夜、そして周囲を見てから――

「・・・・・・それって普通、座ってから訊くことなのかなぁ・・・・・・」

 困ったように苦笑を浮かべながら、頭を掻いた。

「まぁ、其方が全員席に着いたら、話しましょうか」

 そう言ってどうぞ、と手でジェスチャーすると、今まで固まっていた白夜叉と十六夜以外の全員が来賓室のテーブルの前に正座する。

 それを見て準備は整ったと確認するとコホン、とわざとらしく咳払いをして、話を進める。

「どうも、初めまして。僕はコミュニティ〝エクリプス〟リーダーのマーシャルといいます。以後、よろしくお願いいたします」

「え、〝エクリプス〟でございますか!?」

 バンッ、と机を叩いてマーシャルという男に顔を近づける黒ウサギ。先ほどの温泉同様に、かなりハイテンションだった。

「ぜ、是非私にも貴方の様な問題児様方を纏め上げる方法を教えてくださいませ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・? え、えーっと・・・・・・」

 ポリポリと人差し指で頬を掻きながら、困ったような表情で一応周りにその糸目で目配せをしてみるマーシャルなのだが――反応は何も無し。きっと、全員に今の発言を無かったことにされてしまったのだろう。

「し、白夜叉さん。うちのコミュニティって、問題児だらけのイメージあったりするんですか?」

「いや、寧ろ七桁全ての店で〝エクリプス〟自体がたったの数日でギフトゲームへの出禁を命じられたのだ。メンバーが問題児と見られるのは、当然であろう」

「・・・・・・さいですか」

 頼みの綱として白夜叉に訊いてみたが、どうやらそういうことらしい。〝エクリプス〟の評判はどうやら、色んな意味で轟いているらしい。

「ど、どうか私にご教授を!」

「ご、ご教授って言われてもなぁ・・・・・・」

 正直に言えば、マーシャルはこれまで〝エクリプス〟を統率したことなど一度として無いに等しかった。何故なら、ピエール以外の全員に今まで一度たりとも命令を出したことが無いからである。

(・・・・・・さては、あの二人か?)

 ガルムとまだ会ったことの無いエレンという少女。可能性としてはこの二人しか考える事が出来ない。――というか、オーディンの眼を木端微塵にした時点で断定されたようなものである。

「・・・・・・野放しでいいんと違います?」

 正直に言えば、教えられることは今自分がやっていること以外に何一つとしてない。事実、彼は一人のメンバーと全くコンタクトを取らず、命令もせずにずっと放置し続けているのだから――

「の、野放しにしたら、それこそこの問題児様方は何をしてしまうか――ふぎゃっ!?」

「おいおい黒ウサギ。それじゃあまるで俺達が手のかかるガキみたいじゃねえか。訂正しろやコラ」

「そうね。十六夜君の言うとおりだわ。訂正を要求するわ黒ウサギ」

「二人に同意」

 と、十六夜から耳を引っ張られ、他の二人に非難される黒ウサギ。まさにその通りの正論を言っているのだが、生憎この三人の問題児に正論などというものはよっぽど重大な事でない限りは通じない。それは黒ウサギがこれまで、三人と一緒のコミュニティに居て実感したことである。

「――とりあえず、話進まないんで、そろそろ本題に入ってほしいんだけど・・・・・・」

「ふむ・・・・・・それでは皆の者――」

 すうっ、と白夜叉が空気を吸い込むと、たちまち来賓室内が沈黙に包まれる。やはり、白夜叉には何かしらの威厳のようなものがあるの――

「今から第一回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

 ――だと思いたい。

「始めません」

「始めます」

「始めませんっ!」

 白夜叉の提案に悪乗りする十六夜と、それを速攻で断じる黒ウサギ。

「・・・・・・僕、帰ってえぇか? そろそろピエールを迎えにいきたいし」

 その光景を見て時間の無駄だと思ったのか、マーシャルは唐突にそんなことを言い始める。

「いや、これはおんしにも話せばならんことなのだ」

「結果だけ聞くとかではダメなんか?」

 掴みどころのない口調で喋るマーシャルに対し、白夜叉は「うぅむ・・・・・・」と唸り、数十秒ほど考えて、

「・・・・・・よかろう。ただし」

「あ、そうや。言い忘れるところやった」

 白夜叉の言葉を遮り、コロコロと口調を変えて割り込むマーシャル。その言葉の続きが気になるのか、白夜叉も静かに聞く体制に入ると同時に――

「うちの問題児二人が襲来する魔王倒したら、それはもう恨みっこなしっちゅうことで頼んます。二人とも多分血の気盛んな元気っ子やさかい、ちょっとした弾みでやんちゃもすると思うんや。その時は大目に見てもらえると助かります。――まぁ、そういうことや。ほな、さいなら」

 そう言い残し、白夜叉の最後の言葉を聞くこともなくマーシャルは来賓室から出て行った。

「ったく、不気味な野郎だな」

 十六夜の言葉に、その場に居た白夜叉と黒ウサギ以外の誰もが首を縦に振る。どうやら、〝ノーネーム〟からのマーシャルという人物の印象は相当悪いらしい。

「まぁ、悪い奴ではないのだ。これからも会う機会があると思うが、おんしらも出来るだけ仲良くしてやってほしい」

「ハッ、悪い奴ではない、ねぇ・・・・・・本当にその通りかもな」

 十六夜が白夜叉の言葉に含みを籠めてリピートすると、白夜叉は何も言う事が出来ずただ苦笑していた。

「それでは改めて――第一回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

「始めませんってばこのお馬鹿様ぁぁぁ!」

 スパァーン! と今日もハリセンの一閃。どうやらこの会議は、まだまだ続く様なのであった。









「お、こんな所におりましたか」

 夕暮れに染まる町景色が見える塔の頂上では、四人の影があった。

 一人は、軍服を着た短髪黒髪の男。また一人は、露出度の高い布の少ない白装束を纏う白髪の女。もう一人は、白黒の斑模様のワンピースを着た少女。そして最後に、細い糸目をした思考の読めない少年。

「・・・・・・どうだった?」

 無機質な声で少女が少年に問うと、少年は胡散臭い笑みを浮かべて、

「向こうは既に何かしらの会議を行っておりました。また、襲来してくるともう予言されておりますで。――まぁ、ゲーム進行には差障りないので大丈夫かと」

 敬語で喋っている筈なのに、何故かそちらの方が上に感じられる威圧。少年以外の三人は身構えて警戒心を高めながらも、少年に続けざまに訊く。

「――本当に、白夜叉を倒してくれるのでしょうね?」

「ははっ。何の為に、うちの主力呼ぶと思っとるん? アンタ等如きの為に、あの二人を呼ぶ筈がないやん」

 刹那、少年は塔の頂上からするっと真っ逆さまに飛び降りる。それと同時に、少年が今しがたまでいた所には黒い――まるで死を連想させるような風が舞っていた。

「――言い方には気を付けることね。でないと、本当に死ぬわよ?」

 少女が言い終えると同時に、塔の頂上の下から笑い声が聞こえてくる。見てみると、少年はただ単に飛び降りたのではなく、飛び降りると同時に塔の側面に張り付いていた。

「まぁまぁ、今のは僕が悪かったって。――とはいうても、たかが五桁の魔王や。うちの主力二人が揃えば、恐らく四桁までは訳なく倒せる。そっちも、それをよう考えて貰わな困る」

「ふん。七桁の貴方に言われたくないわよ」

 それもそうか、と少年は相槌を打って再び塔の頂上まで登る。相変わらずその糸目は閉じられたまま、胡散臭い笑みを浮かべているのは、もはや言うまでもないだろう。

「ま、僕らは白夜叉さんと戦えればそれでええねん。一度あの人の戦力は分析せな、こっちも戦い様があらへんし」

「――随分と、軽く乗ってくれるのね。いくら白夜叉を倒すのが目的とはいえ、それでは〝サウザントアイズ〟との交渉云々が出来なくなるわよ?」

 少女が忠告すると、少年は「ははっ」と心底楽しそうに笑い、夕日の方を見ながら言った。

「それは絶対にない。何なら、全財産賭けてもええで? 何故なら僕らは、もう既に目を離したらアカン存在なんよ。目を離せば、どんな戦力を引き連れるか分からんからな。だからこそ、白夜叉さんは僕らを目の届く場所に置きたがる。これは自分が倒されたくないからとか、そういうのじゃない。東の四桁以下最強のフロアマスターとして、秩序を守る為や。せやから僕らを切り捨てる、または目を離す時は――あの人が、フロアマスターを辞任したときだけやで」

 ――理には適っていた。しかし、不確定要素はまだ残っている。

「貴方自身が倒される可能性を、考えたことはないの?」

 少女の問いに、少年は肯定の意味か首を縦に振る。

「それは僕らから目を離すより有り得へん。僕と白夜叉さんが戦ったら、東、西、南、北の四つのうちどれかの更に四桁あるうちのどれかが修復不可能なまでに壊滅するで? そこの生命も根絶やしにして、な。白夜叉さんがそれほどの力を持っていれば、当然僕にもその力は回ってくる。その力同士がぶつかれば――そうなるのが道理ってもんやろ? 最強のフロアマスターとして、それは絶対にやっちゃいけん行為や。逆を言えば、僕が表だって大暴れしてる時は白夜叉さんに討伐される恐れもあるんやけど――今回は、最下層やし、僕も目立った行動はせん。白夜叉さんが僕を討伐する大義名分には、もうちょっと付け加えがいる。つまり、僕が白夜叉さんにマークされることがあっても、白夜叉さんと戦う事はないっちゅうことや。これは僕が乱さない限り崩れることの無い平行線。せやからアンタ等は、自分の心配をしとき」

 少年の言葉は、実際に実験して行動に移し、それを明らかにする――いわば証明に近かった。少年が言う白夜叉の人物像はほぼ間違いなく正しいし、それが正しいとなると他の憶測も9割9分は正しいことになる。

 計算高い少年だ、などと三人は思いながら、同時に彼が東の最小の巨人とまで言われたコミュニティのマスターであることを、改めて痛感させられる。

「――にしても、まさか太陽に恨みがある者集まれ、っていう召集の一番に来たのが魔王様とは・・・・・・いやはや、本当に驚いたで」

「それを発信したのが、まさか〝サウザントアイズ〟の傘下同然のコミュニティである〝エクリプス〟だとは思わなかったわ。最初は罠かと思ったもの」

 少年は率直な感想を、少女は皮肉を込めて言い放つ。他の二人はただ、自身の主である少女を守る為に、注意深く――それこそ穴が開くほどにこちらを観察していた。

「ま、過去の話はええやろ。とりあえず方針の最終確認といこう。こっちは当面は――表ではアンタ等を討伐する素振りを見せる。裏ではアンタ等に支援するけど――せいぜい、問題児様方には気を付けなはれ」

「・・・・・・? それってどういう――」

 少女の言葉の途中で激しい風が吹き、思わず目を瞑ってしまう。

 そして再び目を開けた時――そこには既に、あの糸の様に細い目をした少年は何処にも居なかった。

「マスター、俺達も明日の為に何処かで休もう。アイツの事は気になるが、今は体を休めるのが先だ」

「そうですよマスター。明日は全力でいけるように、今日はもう休みましょう」

 と、そこで初めて軍服を着た男が口を開くと、それに便乗して白装束の女も言葉を放つ。

「――そうね。今日はもう休みましょう」

 数秒考えて、少女もそれに賛同する。

 ――夕日が完全に沈み、町から太陽の光が消えた時、塔の頂上はまるでその空間だけを黒塗りしたように深い闇に覆われる。

 次に、そこがまともに視認出来るようになったときには――既に、その三人はそこには居なかった。

 ――後日。

 魔王のゲーム〝THE PIDE PIPER of HAMELIN〟が、開催された。


 
 

 
後書き
 今回は少し次回に繋ぐために矛盾点を残しておきました。

 そして今回のエクリプスの旗印、どうでしたか? それなりに的は射ていると思うのですが・・・・・・。

 とまあ、今回は〝エクリプス〟を中心に構成した話です。また、私こと二次創作者は飛鳥、耀、黒ウサギ、白夜叉を軸にした話も早く書きたく思っております。特に白夜叉中心の話は、早く執筆出来ないかな! と心待ちにしていたり。

 それでは、今回はこれで失礼いたします。

 皆様の感想、ご指摘、評価、辛口コメント、そして旗印の感想や意見、その他諸々を、心よりお待ちしております。

 
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