トーゴの異世界無双
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第百十四話 おいおい、このクジってまさか……
バンリドの勝利宣言を聞いて、再びモアが同じように締めくくる。
「二次予選! 第十回戦! 勝者は、トーゴ・スレンペアで~~~~す!」
その瞬間、拍手と歓声が闘武場に響く。
つい耳を押さえるほどの大きさに闘悟も顔を歪ませる。
「くっそぉ~~~っ!!! おい黒髪! 次は絶対に俺が勝つからなっての! それと!」
体も回復したのか、いつの間にか近くに来ていたウースイが指を差してくる。
「スレンっつたかっての! てめえにも借りがあるんだっての! 絶対に次は俺が倒すっての!」
スレンことステリアは声に出さず、小さく頷きを返す。
「だぁぁぁぁ! 最後くらい声出せっての!」
出して王女だとバレたら大変なことになるので、その要求は飲めない。
そのことを知っている闘悟はそんな二人を見て苦笑する。
すると闘悟にバンリドが握手を求めてきた。
「良い経験をさせてもらったんじゃ」
相変わらずの無邪気な笑顔を作る。
闘悟もその手を強く握り返す。
「ああ、楽しかったよ」
「俺もじゃ」
二人は互いに微笑む。
「本戦、楽しみじゃぞ?」
「まあ、見ててくれ」
「あ、賭けはどうするんじゃ?」
「あ……」
そういやそんな話をしていた気がする。
すっかり忘れていたが、ふと闘悟には思いついたことがある。
「そうだな、ちょっと耳貸してもらえるか?」
「ん?」
闘悟はバンリドに顔を寄せて何かを話している。
そんな二人を見て、間に入って来たウースイも怒鳴りながら言う。
「いいかっての! 俺らに勝ったんだから、絶対負けるんじゃねえっての!」
「はは、それはどっちに言ってんだ?」
闘悟は意地悪そうに聞く。
そう、確かに彼らに勝ったが闘悟一人ではない。
二人いるのだ。
どちらかは必ず負けるのだ。
すると、闘悟の言っている意味を把握したのか、「う~」と唸(うな)りながら言葉に詰まる。
「と、とにかく負けんなっての!」
あ、考えるの諦めたな。
顔真っ赤にして面白いからいいけど。
恥ずかしくなったのか、ウースイはその場から去って行く。
「そんじゃ、俺も行くとするかのう」
「さっきの話だけどな」
「おう、任せとき」
それだけを言うと、バンリドはもう一度挨拶をして去って行った。
ステリアが近くに来ていたので、闘悟は小声で会話をする。
「気持ちのいい奴らだったな」
「ええ、あのホウキ頭はうるさかったけどね」
「はは、違えねえ」
清々(すがすが)しいくらいあっさりとした奴らだった。
特にバンリドという人物には惹かれるものがあった。
『五色の統一者(カラーズモナーク)』は変わった奴らばかりだったが、バンリドに関して言えば、是非これからも付き合っていきたいと思わせてくれるほどの人物だった。
「ところでよ、お前本戦も出るつもりなのか?」
「ん~彼には申し訳ないけど、止めとくわ」
彼というのはウースイのことだ。
せっかく勝ったのに、出場を辞退しようと思っているとは、本人の目の前では言えない。
「そっか……ま、その方がいいかもな」
これからはもっと激しいバトルになる。
ステリアの腕では、顔を隠して闘い続けるのは難しい。
もし正体が明らかになってしまえば、支援してくれたニア王妃にも迷惑が掛かる。
そう思うと、ここで辞退しておいた方がいい。
「まあ、ニア様なら、たとえバレても笑って何とかしてくれそうだけどな」
「そうかもしれないわね。でも、十分楽しめたし、良いバトルもできたわ。だから、私の分も頑張りなさいトーゴ」
「おう、分かったよ」
「ホントはアンタに勝って、その褒美に国へ連れ帰ろうと思ってたんだけどな……」
そんなことを呟き声で言うので、闘悟には良く聞こえなかった。
「何?」
「な、何でもないわよ!」
いきなり赤くなった顔を背けたので不思議に思ったが、モアの声が聞こえたので、そちらに意識を奪われた。
「皆様お疲れ様でした!」
モアの労(ねぎら)いの声を聞き、観客達も満足したような表情をしていた。
この二次予選は、レベルが高い闘いが多かったせいか、十分に楽しめたのだと思う。
「それでは本戦出場を勝ち残った皆様方! どうぞ舞台の……あ、すみません! 舞台は消し飛んでしまっていましたね!」
本当にすみません!
舞台を吹き飛ばした張本人である闘悟は、心の中で謝罪した。
「では、舞台があったところまで来て下さい!」
大会の運営委員らしき人物が、またクジ引きが入っているのであろう箱を持って現れる。
するとステリアはその人物のもとに行き、何かを話した後、また闘悟の元へやって来た。
「今出場辞退を申し出てきたわ」
「そっか」
「それじゃ、一足先に戻るわ」
「ああ、後でな」
「ええ」
ステリアはそう言うとその場から姿を消した。
ステリアに辞退を申し出られた運営委員は、別の運営委員に話をしている。
恐らくステリアのことを伝えているのだろう。
しばらくして本戦に出場する者達が現れる。
ミラニにシャオニ、そしてヤーヴァスの姿も見える。
闘悟含めて合計八人がその場に集結する。
「皆様よろしいでしょうか? ここでお伝えすることがあります! 本戦出場者は本来十人の予定でした! しかし、カイバ選手とスレン選手は出場を辞退されました!」
その言葉を聞き、観客達からは溜め息が漏れる。
やはり人数が減ったことが不満なのだろう。
それにカイバもステリアも、熱い闘いを見せてくれた分、残念な思いが込み上がってくるのだ。
「ですので、本戦はこの八人で行いたいと思います!」
確かに人数が減って楽しみが少し削られたのも事実だが、ここまで残った面子(めんつ)を見て、観客達はまたも盛り上がる。
すると闘悟は自分に向けられる視線に気づく。
それは他の参加者達からの視線だった。
ミラニとシャオニは闘悟の近くに来ていたが、間違いなく彼女らに向けられているわけではない。
闘悟は自分自身に向けられている敵意や興味を正面から受けている。
ん~注目受けてんなぁ~。
まるで他人事のように心の中で言う。
他の参加者達からすれば、闘悟の存在は脅威の何ものでもないだろう。
これまで闘悟が大会で行ってきたことを知っているなら、警戒してもし足りないだろう。
異常な魔力、規格外な行動、奇抜(きばつ)な格好。
どれをとっても皆の注目を引きつけるのに十分な要素だ。
「見られているな」
ミラニのそんな言葉に頷きを返す。
「まあな、しょうがねえけどな」
闘悟自身、彼らの気持ちは分かる。
もし逆の立場ならそんな異質的な存在を放置することなどできない。
何とかして攻略しようと観察するだろう。
「フシシシ、でも他人事じゃないんだよねぇ。私達だって一応敵同士だよん?」
シャオニの言う通り、大会で優勝するのが一人しかいないのなら、必ずその地位を巡って争う必要がある。
「さて、この場にいる八人の方には今一度クジを引いて頂きます!」
大会運営委員が八人一人一人にクジを引いてもらうべく箱を持って近づいていく。
闘悟も箱から札を取る。
だが今までと違って札には何も書かれてはいなかった。
ただし、赤い色が塗られた札だ。
隣にいるミラニを見ると同じく赤色の札を持っていた。
「お前も赤か?」
「貴様もか?」
互いに確認するように札を見せ合う。
運営委員は一人一人の色を確認した後、紙に名前を記していった。
そしてその紙を実況席に持って行く。
「それではこれから本戦の説明をさせて頂きます!」
皆がモアに注目する。
「その前にですね、出場者の皆さんが引かれたクジの色を先に発表させて頂こうと思います!」
ん? 何でそんなことするんだ?
ああ、不正が行われないようにここにいるみんなを証人にさせるためかな。
「シャオニ選手・青色。レリーズ選手・青色。ヤーヴァス選手・黄色。ドーマ選手・黄色。ガシュー選手・緑色。ノーブル選手・緑色。ミラニ選手・赤色。トーゴ選手・赤色」
あれ? これってもしかして……?
モアはそこで言葉を一旦区切る。
そして十分に皆の視線を引きつけたから言葉を放つ。
「もう、お分かりですね?」
これは……大変なことになったな。
近くにいるシャオニも「あちゃ~」とか言ってこめかみを押さえている。
どうやら対戦相手に対して何か思うことがあるのだろうか?
「そう、同じ色同士の相手が、初戦で闘う相手なのです!!!」
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