『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第二十六話
前書き
非常に不味くなってきたようです。
「……さて、皇子殿下。貴方は先程、この女性を『門』の向こうから拐って来た生き残りと仰られましたがそれはつまり他にも拐って来た者がいるという事ですね?」
伊丹はニコニコしながらそう聞いた。それは「正直に答えないと殺す」というような暗示であった。
「ふ、ふん。無礼者に答える口などないわ」
ゾルザルはそう言い張るが、口は震えていた。余程、先程の光景が目に焼きついていたのだろう。
対する伊丹はニヤリと笑って栗山に視線を向けた。
「栗山、こいつが喋りたくなるように優しく痛めつけろ」
「了解です隊長殿ッ!!」
栗山はニヤリと笑って手をバキバキと鳴らしながらゾルザルの前に立った。
「な、何をするんだ貴様、俺を誰だと……ぎぃやぁぁぁッ!! そ、そこはやめ……ぐあぁぁァッ!! う、腕を折るな、勘弁して……ぎぃやぁぁぁァァァァァァァァァァァーーーッ!!!」
栗山のやり方にピニャと皇帝は目を背けてしまう。誰一人、ゾルザルを助けようとはしぬかった。
否、栗山に対する恐怖で助ける事が出来なかったのだ。皇帝は怒らせると危険な存在があることを初めて知ったりする。
ハミルトンは腰を抜かして樹の脚に抱きついて震えており、メイド達も壁際に固まってしゃがみ込んで互いに抱き合ってガタガタと震えていた。
そして漸くマルクス伯を始めとした大臣や将軍達や近衛兵達が到着したのである。
伊丹はやってきた近衛兵達に心の中で舌打ちをすると、懐からコルトM1903を取り出して銃口をゾルザルに突きつけて再び尋問を始める。
「皇子殿下、そろそろ答えてもらえませんかね?」
「………」
「聞いてます?」
ゾルザルが何か言おうとしたが、口や鼻から溢れる血液で人語が聞き取れず、ゾルザルの襟首をつかんで己の方へ引き寄せるともう一度尋ねた。
「殿下を殺さないで」
奴隷が一人、伊丹の方へ来てそう告げるが伊丹はそれを無視して質問を続ける。
「殿下、貴方は先程此方の女性を『門』の向こう拐ってきた『生き残り』と称しましたがそれはつまり他にも誰かを拐ってきたという事ですね?」
伊丹の質問にゾルザルはブンブンと繰り返して首を縦に振った。そして逃げようとするが伊丹は逃がさない。
「裕樹よ。裕樹はどうなったの? それにマックスやクリス、エイミィも返してッ!!」
「ノリコさん、その三人は誰ですか?」
伊丹は嫌な予感を覚えながらノリコに問う。
「マックスとクリスはアメリカ人、エミリアはドイツ人よ」
「……これは非常に不味い……」
菅原は小さく呟いた。
「クリスとエミリアはそこにいるわ」
ノリコはゾルザルの奴隷達に指差した。二人は手を振る。
樹が素早く駆け寄って二人の鎖を壊して解放した。
「……男達は奴隷市場に流した。後は知らん……」
力を振り絞ってそう答えたゾルザルは気絶するのであった。そして菅原は皇帝に視線を向けた。
「皇帝陛下、歓迎の宴を開いて下さるとのお話でしたがそれは我が国より誘拐された者達をお返しいただいてからといたしましょう。どのような神を信仰しているかは存じませんが彼等が生きている事を御祈り下さい。ピニャ殿下、後でその者達の消息と、どのように返していただけるかを聞かせていただけるものと期待しております」
菅原はそう告げると伊丹と視線を交わしてこの場から立ち去る事にした。
「そうはいかんッ!! 貴様らをみすみす逃しておけるかッ!!」
「……やれ富田」
伊丹の命令に富田はベ式機関短銃で叫んでいた将軍に一連射をした。撃たれた将軍は全身に弾丸を受けて床に倒れて絶命した。
その光景に近衛兵達は得物を落としてしまう。
「止めよッ!!」
皇帝は死体の山が築かれる前に戦闘を止めさせた。
「スガワラ殿、認めよう。確かにニホンの兵は強い。だが戦いに強いばかりでは戦争には勝てぬもの。貴国には大いなる弱点がある」
「ほぅ、何でしょうか?」
「民を愛しすぎる事よ、義に過ぎる事よ、その動きが手に取るように予測出来る。信に過ぎる事よ、大いに損をするであろう」
「それは分かりきっている事です。ですが信義を無くせば國は亡ぶ。そう理解しています。いっそのことお試しになられますか?」
菅原は皇帝にそう告げるのであった。
「そなた等に抗せるはずもなし。和平の交渉を始めるのが良いだろう」
「私達も充分に弁えているつもりです。平和とは戦の準備期間である事を。和平の交渉は今行われている戦を止める理由ではありません。我が国、我が世界は帝国を遥かに越える年月を血塗られた歴史の上に積み上げております。和平の交渉中に帝都を失う事を恐れていただきたい」
つまりは脅迫である。
「それでも其処許らは和平の呼び掛けを拒絶する事は出来ぬ。違うか?」
「さぁそれはどうでしょうか? 我が国は一度、他の国と和平の呼び掛けは対手とはしませんでしたからな。ですが虚言に下す鉄槌は凄まじいものとなる事を覚悟して下さい」
「信じておらぬのか。だが後で損をしなければ良いな?」
その時、余震が襲ってきた。
「行くぞ」
慌てる皇帝達には目もくれずに伊丹達は引き上げる。
「それではハミルトンさん。また」
「ぁ……」
樹がそうハミルトンに言った時、ハミルトンはビクリと震えた。
「………」
ハミルトンは樹を畏怖の対象で見ていた。樹は無言で敬礼をして伊丹達の後を追うのであった。
そして一行は皇宮を出たところで伊丹が叫んだ。
「不味ったァッ!! やってしまったよッ!!」
菅原も頭を抱えている。
「やってしまった……吉田大使にどう報告しよう……」
二人は頭を悩ませるのであった。
後書き
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