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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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黄巾の章
  第15話 「ねぇ、貴方……孫呉にこない?」

 
前書き
やっと出せました、ぺろぺろ様(暴言)
一部の人にはすごく人気あるんですよね…… 

 




  ―― 馬超 side 宛近郊 ――




 えへ、えへへ……えへへ……
 じゅんじぃ……えへへ……




  ―― 霞 side ――




 あかん。
 翠があかん。
 脳内がお花畑になっとるのが、見ているだけでわかる。
 ウチの目の前で盾二と、その横で顔が緩みっぱなしの翠がおる。

 最近、桃香達がまったくといっていいほど盾二の傍におらんから、ほとんど翠の独占のような感じになっとる。
 働かない桃香達の代わりに、その仕事は朱里と雛里がやっとるから、軍としての機能は問題ないんやけど……

「えへ……えへ……」
「ああああっ、もう! 翠、ええかげんにせんかいっ! 士気が、だださがるっちゅうねん!」
「うぉっ!? 霞? って翠、どうしたんだ?」

 盾二は、歩きながら読んどった竹簡から顔を上げる。
 ああ……まったく気付いとらんかったんかい!
 それはそれで不憫やぞ!

「え? な、なんでもないよ!? い、いや……その……」

 ……翠のモジモジする姿も、ええかげん見飽きてきたわ。
 なんか代わりに、ムショーに腹が立ってくんねん。

「盾二も歩きながら簡読むのやめえや。あぶないやろが」
「ああ……悪い。いや、桃香達があんなんだからさ……仕事が溜まっちゃって」
「……三人分を引き受けているんかいな? 桃香だけと思っとったら……」
「まあ、朱里や雛里は元々忙しいだろ? 軍のまとめは俺と馬正で何とかまわしているよ。馬正って、結構気が利くんだぜ? さすがに元武官だね」

 ほー……あのおっさん、そんなに役に立つんかい。

「元黄巾の義勇兵も遮二無二働いているよ。最近じゃ喧嘩もほとんどなくなってきたし……行軍速度もちょっとだけあがっているな」
「そらいいことやな……にしても、ほんま桃香達はどうしたもんか。このままじゃ戦闘なんぞ出来へんやろ」
「あー……まあ、そのときは俺が出るよ」

 あんさんも、頑張りすぎやで……

「ええんか? あんさんが桃香達に恩があるっちゅうんは聞いたけど……ほんまにそこまでする必要があるんか?」
「ああ……まあ、桃香達がなにかに苦しんでいるのはわかるからさ。でも、俺に相談しないって事は三人の問題なんだろう。だったら、ちゃんと結論が出るまではフォロー……代わりを務めるのも仲間ってことさ」
「あんさんも大概、お人よしやな……」

 この乱世のご時世に、そんな人の良いことを平然とまあ……

「あんさん、桃香のこと言われへんやろ」
「そうか? 俺は結構酷い男だぜ?」
「どの口がいうねん……」

 ウチがため息まじりにそう言うと、ポリポリと手に持つ竹簡で頭を掻いとる盾二。
 ああ、こら、自分のことなんもわかっとらん顔やな。

「しゃあないな。桃香達は後曲にしとくわ。右翼は翠、盾二と馬正は左翼、本陣はうちと朱里と雛里、それでええか?」
「ああ。ありがとう……夜にでも朱里たちには伝えておくよ。あ、そこの人。これ、輜重隊にいる雛里――鳳統に渡して」

 盾二は頷きながら、竹簡を伝令兵に渡しとる。
 ほんまに仕事熱心なやっちゃなー……

「んで、翠……ええかげんに戻ってこんかいっ!」
「うひゃ! ○×▼■#$%&……」

 だからそれ何語や!




  ―― 馬超 side ――




 あーびっくりした。
 いかんいかん……どうも最近、あたしは浮かれているみたいだ……
 盾二の傍にいるだけで、こう、顔、が……

 えへ……って!
 だめだ、だめだ!
 いい加減、まじめにしないと、うん。

「あー……うん。そ、それで、霞」
「やっと戻ってきたんやね、翠……なんや」

 う……そんなに変だった?

「宛って、そろそろだろ? 袁術に、使者を出さないでいいのか?」
「あんさんなぁ……」

 あ、あれ?
 なんでがっくりきてるの?
 あたしが、霞の様子にうろたえて盾二を見ると、盾二も苦笑していた。

「もう昨日のうちに使者は出しているよ。それで先程、その使者が帰ってきたところ」
「盾二がさっき読んどった竹簡があったやろが! あれは到着してからの人員と糧食の再編計画書や!」

 えっ!?

「ほんまに桃香といい、あんさんといい……この軍、大丈夫かいな?」
「うう……ごめん」

 どうやらあたしがボーっとしている間に、全部のやり取りは終わっていたみたいだ。
 あたしも桃香も副官なのに……なにやってるんだ、あたしらは。

「盾二ぃ……あんさん、副官になってくれへん?」
「ま、まあ、もう似たような状況だけどさ……名目上はそのまんまで、ひとつ」
「あんさんが名実ともに副官なら、ウチは何の心配もないんやがなあ……」

 うう……言い返したいけど……言い返せない。

「だ、大丈夫だよ。翠は(いくさ)となれば立派に働いてくれるさ。細々したことは俺がやっとくから、翠は軍のまとめを頑張ればいいんだよ」
「うう……盾二……その優しさが、今は堪えるよ……」

 あたしは、だーと涙を流しながらそう言うと、ポリポリと頭を掻き出す盾二。

「盾二も盾二やで? あんまり何でもやったら人が育たんやろが。ちゃんと躾なあかんよ」
「あー……うん。すまん」
「躾って……あたしは子供か?」

 子供……盾二のこど、も……

 ……
 …………
 ………………はっ!

 あ、あぶない。
 また変な妄想になるところだった。

「どうも俺は、女性に甘いところがあるな……気をつけるよ」

 盾二は、そう言って後方を見る。
 なにを……ああ、桃香のことか。

「……やっぱり、桃香が心配?」
「……じゃない、って言ったら嘘になるさ。けど、俺が声をかけたら全部ダメになる気がするんだ」
「…………」
「……今はそっとしておくんやな。桃香もあんさんに甘えるだけじゃ、この先栄達なんて無理やし」
「……ああ」

 霞の言うとおりだ。
 この黄巾の騒動からもわかるとおり、この後の世は誰が見ても荒れる。
 その中で立身を目指すのならば、相当な覚悟と力が要る。

(あたしも……もっと、しっかりしなきゃな)

 あたしが、パンッと自分の両頬を叩いて喝をいれる。
 よっし!
 あたしは錦馬超だ!




  ―― 袁術 side ――




 ぺろぺろ。ぺろぺろ。

「はぁぁぁ~……やっぱり蜂蜜水はうまいのじゃぁ……」
「よかったですね~……美羽様」

 そう言ってわらわの口元を拭いてくれる七乃。
 うん、うん。愛い奴じゃのぅ。

「それでなんじゃったかの?」
「はい~。都から美羽様に再度お呼びがかかっております」
「う? 前に断わったんじゃなかったのかや?」
「そうですね~。断わったんだけど、また来たんですよ~」
「む~……めんどくさいのう」

 ただでさえ篭城しているこーきん相手に、こんなところにずっといるんじゃぞ?
 この上、都まで足を伸ばすのかや?

「でもでもぉ、ここで断わっちゃうと、美羽様の太守の役職が解任されちゃうかもしれませんよ~? いいんですか~?」
「む? 『かいにん』されるとどうなるのかや?」
「そうですねぇ~……もう蜂蜜水は飲めなくなりますねぇ~」
「そ、それはいやなのじゃ! 七乃! すぐ、すぐ都に行くのじゃ!」

 は、蜂蜜水だけは、ずっと飲んでいたいのじゃ!

「はい~、わかりましたぁ。あ、でもでも、都から南陽黄巾軍に対する引継ぎの軍がもうすぐ到着しますので、その後になりますね~」
「何でもいいから、わかったのじゃ! 蜂蜜水だけは守るのじゃ!」
「いよっ、この我侭お子様めっ! 蜂蜜のためならなんでもしちゃう偉い方!」
「わーはははは! わらわは元から偉いのじゃー!」

 うわーはははは! うわーはははは!

「じゃあ、私は引継ぎの軍の方に挨拶してきますね~。あ、あと孫策さんも連れて行きますから、美羽様は蜂蜜水、おかわりしてもいいですよ」
「やったのじゃ! これ、すぐに蜂蜜水を持ってくるのじゃ!」




  ―― 孫策 side ――




「孫策様! 張勲将軍がお呼びです。すぐに本陣までお越しください」
「え~……」
「わかった。すぐに向かうとお伝えください」

 わたしの声を遮って、冥琳――周瑜が伝令にそう伝える。
 伝令兵は、すぐさま踵を返して本陣へと走っていった。

「めーりんー。わたし行きたくなーい」
「わがままいうな、雪蓮! 我らは名目上、袁術の客将なのだ。ここで断わっては角が立つ」
「もー……めんどうだなぁ。あーあ……早く独立したい……」
「その為にも今は雌伏のときだ。我慢してもらうしかない」

 わかってるけどー……

「恐らく先に触れがあった諸侯上洛のことだろう。同道するのか、ここで我々だけで包囲を続けよと言われるか……」
「うーん……今上洛しても、私達は客将扱い……着いていく旨味はあんまりなさそうねー」
「ではあるが、ここで否ともいえまい……どうなるかは相手次第。しっかり対応してきてくれないと」
「はーい……しょうがないなぁ」

 わたしは、その場を冥琳に任せて本陣へと馬を走らせる。
 ほどなく本陣に着き、天幕をくぐるとそこには、腰巾着の張勲がいた。

「きましたね~孫策さん」
「お呼びにより、孫策参上したわ……それで?」
「はい~。これから私達袁術軍は、洛陽に向けて出発することになります」
「……宛に篭城している黄巾はどうするのよ?」
「もちろん、孫策さんたちが相手するんですよぉ?」

 ……この女、いつか殺してやるわ。

「私達の軍だけで? 無茶言わないで。私達の兵力じゃ、包囲なんか出来ないわ。少なくとも後一万の兵は必要よ」
「名高い孫策さんでも無理ですかぁ?」
「無理ね。数は力よ。私達の兵だけじゃ蹂躙されるだけだわ。せいぜい誘き寄せて、数を減らすのが限界よ」
「あら~……でも、噂の天の御遣いだと、六千の兵で二万の黄巾を被害なく殲滅したそうですよ? 孫策さんならできるんじゃありませんかぁ?」

 天の御遣い?
 ……ああ。管輅とかいう、うさんくさい占い師が吹聴しているやつね。
 本当にそんな奴がいるのかしら?

「そんな話は初耳ね……いたら会ってみたいわ。そんなありもしない噂は、どうやったのかってね」
「そうですかぁ……じゃあ、直接聞いてくださいねぇ」

 は?

「さすがの私も孫策さんたちだけで、ここの黄巾の相手が出来ないのはわかっていますよぅ。都から董卓軍が援軍に来てくれるそうですので、その方たちと一緒にここを任せますねぇ」

 ……ほんとに殺したいわ。
 もったいぶって話をするんじゃないわよ。

「でぇ、その董卓軍に、噂の天の御遣いがいるそうですよ? しかも男の人だそうです。是非、話を聞いてみてくださいね。あーよかった。孫策さんが快く了承してくれたので、安心して私達は都に向かえます」

 ………………

「どうしたんですかぁ? そんなに力こめて手を握ると、血が出ちゃいますよ? 戦う前から怪我だけはしないでくださいねぇ」

 ……見てなさい。
 必ず殺してあげるわ。

「それじゃあ、もうすぐ董卓軍の将軍がいらっしゃるので、一緒にお出迎えしてくださいねぇ」




  ―― 張遼 side ――




「ウチは董卓軍の張遼や。帝の詔により、この地の黄巾軍はウチらが受け持つことになった。袁術殿は、すぐに参集せよとの帝のお言葉やで」
「は~い。袁術様に代わり、この張勲が承りました~」

 む?

「袁術殿はどないしたんや?」
「袁術様はぁ、今少し体調が優れないので休んでおいでです。私が全権を代行していますので、御下命は謹んでお受けいたします~」
「そうか、お大事にの。で、今はどんな状況なんや?」
「はい~それについては、うちの客将である孫策さんからお話されるかと~」
「ほう。江東の虎の娘かいな。どの人なん?」
「わたしよ」

 そう答えて歩み出る女性。
 ほう……なるほどなるほど。

「ウチは孫堅はんに会ったことあるけど、よう似とるわ……孫堅はんは残念やったな。お悔やみもうしあげるで」
「いえ……もったいなきお言葉です」

 一瞬、悔しそうな表情を見せつつ、頭を下げる孫策はん。
 ……そら悔しいやろな。
 孫堅はんが生きとったら、彼女は袁術の客将なんかになっとらんかったやろうに。

「董卓軍の方に全部お任せするのは失礼ですので……こちらからは孫策さんに、このままここに残ってもらいます~。董卓軍の指揮下でかまいませんので、よろしくお願いしますね~」

 なんや……ずいぶんな扱いやな。
 孫策はんも悔しそうな顔をしとる。
 ……もしかして、人質でもとられとるんかいな?

「ほんまにええんか?」
「はい~」
「…………」

 ウチは孫策はんに聞いたつもりやったんやけどな……
 張勲が答えて、孫策は黙っとる。
 まあ、ウチが関与する問題でもないか。

「わかったわ。詳しくは孫策はんから聞くとするわ。ほな、袁術殿にはよろしゅう伝えてんか。できるだけ早く出発するよう薦めるで」
「わかりました~」
「じゃあ、孫策はん。ウチらの陣で話をしてもらえるか? ウチの軍師や副官もおんねん」
「……わかったわ」

 ウチは孫策はんと一緒に天幕を出る。
 それから陣へ入るまで、孫策はんの表情は固いままやった。




  ―― 盾二 side ――




「というわけで……彼女が孫策はんや」
「姓は孫、名は策、字は伯符(はくふ)……よろしくお願いするわ」

 褐色の肌に桃色の髪、美しい顔なのに少し仏頂面(ぶっちょうづら)な女性が、頭を下げる。
 
(にしても……孫策だって?)

 確か、この頃は孫堅の代じゃなかったか?
 霞の話だと、すでに孫堅は死亡しているとのこと。

 ……どういうことだ?
 歴史にずれが出ているのか?
 
 もしや俺が歴史に関与したせいで……?

「そんでこっちが副官の馬超や」
「馬孟起だ。よろしくな」

 ……やはり、歴史介入は危険だったのだろうか?
 だが、まだ実行されていないはず……

「んでこっちが……」

 にもかかわらず、孫堅が死んだ歴史になっている……?

「……い、おーい、盾二! 盾二ってば!」
「……っは!?」

 あ、やば。

「紹介しとんのにぼーっとすんなや。すまんな、孫策はん。こいつが北郷盾二や。武将やけど、一応軍師筆頭でもある」
「し、失礼しました……北郷盾二です」
「…………」

 やばい。
 失礼なことしたので怒ってるのか?
 ……誤魔化したほうがいいかな?

「すまんなあ。失礼したならウチから謝るわ……あんさんも孫策はんに見惚れてでもおったんか?」
「いや……いえ、そうですね。すごく美人ですから」
「「なんや(だ)と!?」」

 なんで霞が……ついでに翠が驚くんだ?

「失礼しました……改めまして、北郷盾二です」
「……あなた、もしかして、天の御遣い?」

 げっ……こんなところまで噂が広まっているのか……

「い、いえ……い、一応この軍の皆からは、そう呼ばれることもありますが……俺は普通の男ですよ?」
「(ぼそ)普通ではないやろ……」
「んんっ! と、ともかく! 噂はあくまで噂ですよ」
「あら……黄巾二万を六千で、しかも被害なく倒したんですって?」
「は? えーと……ああ、二万じゃなく、一万弱でなら……二万のほうは霞たちの軍と合同でなので、こちらは一万五千でしたし」

 俺が思い出しながら答えると――突然、ガシッと手を握られる。
 な、なんだ?

「ねぇ、貴方……孫呉にこない?」
「は?」
「私達の夫になってくれないかしら?」

 ……はい?

「「な、なんだ(や)とーーーーーーーーっ!!」」

 霞と翠の大声が、陣内に響きわたった……
 
 

 
後書き
そういえば、袁術は荊州の太守、という記述が原作にありました。
荊州の太守って……荊州のどこの太守よ、とツッコミたくて仕方ありません。

とりあえず、歴史上では洛陽から荊州の南陽へ逃げ、長沙太守の孫堅が南陽太守を殺していたので、その後釜になったという記述があります。
ですので、『荊州にある南陽の太守』ということにしています。

ぶっちゃけ黄巾の時代では、孝廉に推挙され郎中に就任、官は河南尹から折衝校尉、虎賁中郎将になるかどうか、のあたりなはずです。
その後、霊帝崩御の後で大将軍の何進による宦官皆殺し計画に袁紹や曹操と共に参加。何進が殺された後に袁紹と一緒に宦官数千名を誅殺しています。

……このお子様がそんなことできるわけないよね。 
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