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ジークフリート

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第一幕その四


第一幕その四

「それでも僕は御前のところに帰ってくる」
「わしのところにじゃな」
「そうだ。どうしてなんだ?」
 半分怒った声でミーメを問い詰めだしてきた。
「御前より森の動物達や鳥や小河の魚達の方が親しめるのにだ」
「ああ、それはじゃ」
「わかるのか?」
「そうだ、わかるぞ」
「ならすぐに教えろ」
 長身であった。それで完全にニーベルング族であるミーメを見下ろしていた。ミーメも顔をあげてそのうえで彼に対して応えていた。
「いいな。それはどうしてなんだ?」
「そは簡単じゃよ」
 ミーメはにこにことしてみせて彼に応えた。
「御前が本当はわしを好いておるからじゃ」
「ふざけるな!」
 今の言葉にははっきりと怒りを見せたジークフリートだった。
「僕は御前に我慢ができないんだぞ」
「そうは言ってもじゃよ」
 それでも言い返すミーメはさらにこう言ってみせた。
「その通りなのじゃからな」
「根拠は何だ、それの」
「まずは静かにするのじゃ」
 一旦ジークフリートを大人しくさせることにした。
「よいか、それでじゃ」
「聞いてやる、何だ?」
「御前は乱暴に過ぎる」 
 このことを嗜めるのだった。
「もう少し大人しくなってじゃ」
「それではなしを聞けというのか?」
「そうじゃ。それでじゃ」
「わかった。聞いてやる」
 とはいってもジークフリートの態度はぞんざいなままである。岩の上に腰をどっかりと下ろしてそのうえで肉と酒を口の中に入れながら話を聞くのだった。
「それでどうなんだ?」
「若者は悲しい時には古巣を恋しく思うものじゃ」
「古巣をか」
「そうじゃ。恋しく思うということは愛しているということじゃよ」
 優しい声をわざと出してみせている
「だから御前はわしのところに戻って来てじゃ」
「僕がか」
「そうじゃ。それで御前はわしを愛しているということになるのじゃ」
 こう話すのであった。
「いや、愛さなくてはいけないのじゃ」
「愛さなくては!?」
「わしは親なのじゃよ」
 このことを強調してみせるのだった。
「親鳥が巣の中で雛を養う様にわしは御前の面倒をずっと見てやったのじゃよ」
「よくそんなことが言えるものだ」
 ジークフリートはここまで聞いて如何にも不服そうに返した。
「何てずる賢い奴だ」
「ずる賢いというのか」
「そうだ。そのずる賢い御前にもう一つ聞きたいことがあるんだ」
「それは何じゃ?」
「春になると」
 こう前置きしてからの言葉だった。
「貼るには小鳥達は喜びに溢れてさえずっている」
「私達のことね」
「そうだね」
 その小鳥達が彼の話を聞いて言い合う。
「それを言うなんて」
「見てるわね、あの子」
「一羽の鳥がもう一羽を誘っている」
「それがどうしたのじゃ?」
「御前は僕にあれは雄と雌だと言ったな」
「その通りじゃ」
 このことは記憶にあったのですぐに答えられた。
「そんなことか」
「そんなことかじゃない」
 ジークフリートは食べながらさらに言う。
「とても愛し合いお互いに離れない。巣を作ってその中で卵を抱いている」
「それが営みじゃよ」
「じきに雛は羽根をはばたかせて飛び立つ」
 ジークフリートはさらに言う。
「つがいの小鳥達は一生懸命雛を育てる。それは鹿も同じだった」
「全ての動物じゃがな」
「そうだ。狐や狼も同じだ」
 彼等もだというのだ。
「雄は餌を巣に運んで雌は子供に乳を飲ませる」
「それがどうしたのじゃ」
「僕はそこでわかったんだ」
 ジークフリートのその声が強いものになった。
 
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