トーゴの異世界無双
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第百一話 油断したなミラニ
ミラニは早々に決着をつけようと考えたのか、先に動き距離を取る。
「させへんで!」
向かって来るタイセーを確認したミラニは、またも『火の矢(ファイアアロー)』を地面に放つ。
これは先程セイラが倒された時と同じ流れだ。
『火の矢(ファイアアロー)』で破壊された破片から身を守るためにタイセーは目を守る。
そこでセイラのようにミラニの姿を見失う。
それを見計らって彼女は上空に跳び上がる。
そこで階下(かいか)のタイセーを見つめる。
しかし、そこには彼の姿を発見できなかった。
「ん!?」
舞台の上を隈(くま)なく探したが見つからない。
「ど、どこに……?」
すると首筋の後ろにピリピリとした刺激を感じた。
振り向いたその先には、タイセーがいた。
彼は自分よりも高く上空に跳んでいたのだ。
「はあっ!」
タイセーは剣を抜いてミラニに斬りかかる。
ミラニは仕方無く剣を抜きガードする。
だが、上空にいるタイセーの方が有利だ。
彼はそのまま力を入れ、ミラニを体ごと下に叩きつけるように吹き飛ばす。
「どうや!」
タイセーはガッツポーズのように拳を作る。
ミラニは態勢を崩しながら舞台に向かって落ちる。
「くぅっ!」
受け身は取ったが、かなりの衝撃が体に走る。
タイセーはスタッと綺麗に着地する。
ミラニは立ち上がるが、それなりにダメージを受けたのは事実だ。
(ふぅ、さすがに二度は通じないか……)
それならどうするか考えてみる。
(力は恐らくタイセーの方が上だ。なら速さで攪乱(かくらん)して隙をつくか……)
タイセーはミラニを見つめてフッと口角(こうかく)を上げる。
「これ以上動かれんのは嫌やからな」
「ん?」
「それに、ウチの嫁はまだ負けてへんで?」
「何を……?」
ミラニは彼の言っている意味が分からず眉を寄せる。
するとタイセーは右手を高く上げて人差し指を立て、魔力を集中させる。
ビリビリッと音が聞こえてくる。
「退場してもらうでミラニちゃん?」
ミラニは身構えてタイセーに視線を送る。
「雷魔法か? だがそこからは届かないぞ!」
ミラニの言う通り二人の間には、それなりの距離がある。
仮にこちらに届いたとしても、十分避わせる距離だ。
だがタイセーはその言葉を聞いてまたフッと笑う。
「せやから言うてるやん。ウチの嫁は負けてへんて」
ミラニは未だ分からず思案顔をしていると、耳に声が届いてくる。
「団長ちゃん! 下見て!」
それはシャオニだった。
彼女の言葉に従い下を見てハッとなる。
そこには水浸しになっている舞台がある。
全身に衝撃が走ったかのように現状を理解する。
「跳んでっ!」
シャオニは叫ぶが、タイセーがそれを覆うように声を張り上げる。
「もう遅いっちゅうねん!」
タイセーの指先から電撃が迸(ほとばし)る。
それは地面に向かって伸びて、凄まじい速さで水を伝ってミラニを捕まえる。
「しまっ……っ!!!」
電撃は容赦なくミラニの体を流れる。
「ぐっ……があぁっ!!!」
あまりの激痛に叫びを上げてしまう。
「ああっ! ミラニが!」
クィルはミラニが電撃を受けたところを見て声を上げる。
「トーゴ様! ミラニが!」
不安顔を作り闘悟に向かって言う。
「ああ、油断したなアイツ」
闘悟も悔しそうに物を言う。
セイラを倒し、彼女との力の差を感じて、少し余裕を持ってタイセーを相手にしていたのが仇(あだ)となったようだ。
「でもやるわねあの人達」
そう声を発したのはステリアだ。
「確かにセイラって人はミラニに負けて退場になったけど、次のタイセーって人が有利に闘えるように、水を仕込んでいたのよ」
「そうみてえだな」
ステリアの判断に闘悟も肯定する。
セイラがタイセーに向かって、「手を打った」と言っていたのは、このことだったのだ。
ミラニの『斬(ざん)・一閃(いっせん)』を受ける瞬間、水が舞台全体に飛び散るように計算していたのだ。
仮に自分が受けたダメージが大きくて退場しなければならなくなっても、次のタイセーに繋げる補助ができればと思っていたのだ。
「パートナーの特性を理解してなきゃ、できねえ支援だな」
電撃が収まり、ミラニはそのまま膝をつく。
(くっ……油断していた!)
自分の不甲斐無さに悔しさを覚える。
ミラニは体を動かそうとして、フラフラしながらもその場で立ち上がる。
その様子を見てタイセーは感心する。
「さすがやなミラニちゃん。普通の奴ならその場で寝とるんやけどな」
ミラニは黙ってタイセーを見つめる。
(正直……かなり効いた。まだ全身が上手く動かせない)
タイセーに気づかれないように、細かに体の動きをチェックしていく。
(どうやら両手は完全に麻痺してるみたいだな)
拳を作れないだけでなく、感覚も完全に麻痺していた。
攻撃を受けた瞬間、剣を手放し地面に落としたが、これでは拾うことができない。
このままの状態が続けば、自分が両手を動かせないことを知られてしまう。
そうなったら一気に攻め込まれる。
(だがどうする……? 足は何とか動くが、このまま闘えるほどでは……)
ミラニは何とか表情には出さず、思考をフル回転させる。
この状況で自分にできることを必死に考える。
少し休めば麻痺も完全に回復してくれるとは思うが、それまでタイセーの攻撃から身を守るのは至難の業だ。
いや、足に重大な麻痺は無いとはいえ、軽い症状は残っている。
恐らくこの足で逃げ続けるのは不可能に近い。
いつまでも立ち尽くしているミラニの様子が気になり、じっくり観察していたタイセーがとうとう気づいてしまう。
「ミラニちゃん……もしかして拾えへんの?」
タイセーは半ば確信しながら問う。
(気づかれた!)
ミラニは仕方無く剣を拾わず一歩下がる。
とにかく少しでも距離を取り、逃げやすい状況を作る必要がある。
だがタイセーは、今のうちに戦闘不能にさせようと近づく。
(マズイな……!)
するといきなり声が届く。
「団長ちゃん! タッチだよ!」
そこで思い出す。
そうだ、これはタッグマッチだったと。
自分一人で闘っているのではなく、パートナーがいるのだとそこで気づかされた。
できることならこのまま闘いたかったが、無理をしてシャオニに迷惑を掛けるのも、自分の中では許されないことだった。
だからミラニは決断する。
今はシャオニと交代して体を休める場面だと。
ミラニは地面に置かれてある自分の剣を見て、足で柄を弾くように踏む。
すると、剣は弾かれたように少し宙に浮く。
そこを見計らってミラニは柄をまるでボールを飛ばすように蹴る。
剣はミラニの思い通りに、タイセーに向けて飛んでいく。
それを見てギョッとなるタイセーだが、足を止め、咄嗟(とっさ)に剣を抜きそれを弾く。
「危なっ!?」
その間にミラニはシャオニのもとに急ぐ。
「うわ! やられてもうたぁ!」
できれば、交代する機会を奪い、ミラニを倒しておきたかった。
ダメージを負ったミラニなら戦闘不能にできると思っていたが、どうやらミラニの方が一枚上手だったようだ。
まんまとパートナーのもとへの到着を許してしまった。
シャオニは近くに来たミラニの肩に手を置いた。
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