ジークフリート
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第三幕その八
第三幕その八
ジークフリートの剣が一閃された。それで終わりだった。
槍は柄のところで真っ二つになった。さすらい人はそれを手に力なくしゃがみ込んだ。
そうしてだった。彼は項垂れた声で言った。
「行くがいい」
「最初からこうすればよかったんだ」
「最早私に引き止めることはできない」
彼は空しく去った。まるで風が消える様に。そして後に残ったジークフリートは。
「炎を浴びに行く。炎の中に花嫁を見つけるんだ」
こう言ってその炎に向かう。険しい岩山を何なく登りそうしてであった。
「日の光の明るい荒野だ」
彼はそれを気に入っているのだった。
「果たして誰がいるのか」
そのことも考える。
「どんな女なのか」
炎は何なく通り過ぎた。しかし彼はここで気付いていなかった。その炎は実はジークフリートを見て自然に避けたことを。そして炎が彼を見ていたことを。
「来たか」
それはローゲの声だった。
「遂に彼が来たな」
こう言って笑っていた。
「人間の時代を切り開く若者が」
温かい声だった。その声で見ているのだった。
「彼女を目覚めさせるのか。なら私はもう」
「あれは」
ジークフリートはここで横たわっている者を見た。
「男か?」
「ふむ、まだわかっていないな」
ローゲはそんなジークフリートを見てまた言った。
「女というものが」
「まず兜を取るか」
言いながらその兜を取る。するとそこから出て来たのは。
「!?これは」
「わかったな、これで」
「何と美しい姿だ」
美女なのだ。それに気付いたのだ。
「これが女か」
「そう、女だ」
「輝く雲がうねりつつ明るい空を縁取っている」
その美女を見ながら驚いていた。
「胸が膨らんでいる」
今度は女の胸を見たのだった。
「何という豊かな夢なんだ」
「夢ではない」
「どうしたらいいんだ」
彼は躊躇した。
「僕はこの人に対して何をしたらいいんだ」
「そうか。ここでか」
「怖い・・・・・・」
今はじめてこの言葉を自分から言った。
「何をしたらいいのかわからない。鎧を断ち切るべきか」
「さて、恐れを知ったか」
ローゲはわかっていた。しかし彼に気付く者は今はいなかった。
「これでよし」
「瞼が開かないのか。若し開いたら」
その閉じられた目を見ての言葉である。
「僕はその光に耐えられるのか。辺りが浮かび揺れ動き」
言葉だけが出て来る。
「回っているかの様だ。切ない憧れに気が遠くなる」
「それが恐れだ」
「心が震える」
彼だけではどうしようもなくなっていた。
「これが恐れなのか」
そして言うのだった。
「この乙女を見て恐れる。恐れをなくすのには」
「さて、それはどうする?」
「勇気を出すにはどうするのか」
震えながらも何とか前に出ようとする。
「どうすればいいんだ」
「面白いものだ。竜で恐れを知らなかった若者が」
ローゲはそんな彼を見守り続けていた。
「これで知るのだからな」
「唇が美しい」
恐れの中で見ながら唇に気付いた。
「この花咲く口元を見ればどうするか」
また言う彼だった。
「甘い吐息のかぐわしさ。そうだ」
自然とそうしたのだった。
「この唇と僕の唇を会わせよう。そうしてみよう」
「よし、動いたな」
ローゲの言葉は微笑んでいた。
「いよいよだ」
ジークフリートはここで接吻した。その唇を重ね合わせる。するとだった。
彼女がゆっくりと目を開きだした。ローゲはここで姿を消した。炎はジークフリートに気付かれないように姿を消したのであった。
「さて、あとは最後の仕事だ」
こう言って姿を消すのだった。
「ブリュンヒルテ、その時を待っているぞ」
「私は」
そのブリュンヒルテが目を開いたのだった。
「目覚めたのね」
「目覚めたのか、今」
「私を起こしたのは誰なの?」
こう言うのだった。
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