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万華鏡

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第二十七話 江田島その七

「それはしないわ」
「そうですか」
「そうなの、絶対にね」
 また言う。
「それはしないわ」
「メイクのこともあるんですね」
「まさか彼氏にすっぴんの顔を見せる訳にいかないでしょ」
「ですね、絶対に」
「素顔はそう簡単に見せられないのよ」
 いささか哲学的な言葉だった。
「女の素顔はね」
「女の、ですか」
「彼氏でもね、見せられないのよ」
「じゃあ誰に見せるんですか?」
 今度は里香が問うた。
「女の子の本当の顔は」
「両親か兄弟か」
 まずはかけがえのない肉親達だった。
「それか未来のね」
「旦那様ですか」
「そう、そうした人達にしか見せられないから」
「彼氏でも駄目なんですか」
「彼氏も大切な人よ」
 高見先輩もこのことは、と言う。だがそれでもだというのだ。
「それでも親や兄弟と比べたら」
「そうですよね、家族の絆って強いですからね」
 彼氏のそれよりもだというのだ。
「だからですか」
「そう、女の素顔は貴重なものなのよ」
「親しい人には見せられないんですね」
「今は別としてね」
 こうして女同士で風呂に入る時はまた別だというのだ。つまり素顔の話は男に向けられるものであるというのだ。
「彼氏でもよ」
「結婚する人じゃないと」
「素顔は見せないの、けれど」
「結婚したらですか」
「その時はね」
「見せるべきなんですね」
「心から決めた時なら」
 高見先輩は強い顔になって話す。
「むしろそうしないとね」
「駄目なんですか」
「心を開かないといけない相手もいるのよ」
 素顔はまさに心だというのだ。
「だからなのよ」
「そうですか」
 景子も話を聞いて頷く。
「そうした人がいるんですね」
「そうした相手を、男女問わずね」 
 つまり恋愛以外でのことでもだというのだ。
「見つけることも大事だから」
「心を開ける相手を」
「五人共もういるみたいだけれどね」
 ここでこうも言った高見先輩だった。
「幸いなことにね」
「っていうとまさか」
「私達がですか」
「うん、お互いにね」
 今度は宇野先輩が五人ににこりとした笑みで話す。
「そうだと思うわ」
「友達も、ですね」
「そうした心を開ける関係なんですね」
「親友はね」
 普通の友人関係ではなくさらに進めてのことだった、このことを話してそのうえである。宇野先輩は五人にこうも言った。
「そうしたものよ、旦那様と一緒でね」
「旦那様は一人ですよね」
 彩夏は常識のことから話した。
「けれど親友は」
「何人でもいてくれるわよ」
「そうですよね」
「どっちがより素晴らしいかわからないけれど」
 それでもだというのだ。 
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