Fate/Last 第6次聖杯戦争
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8年後のある日
前書き
冬木の街に集う七人のマスターと、召喚される七騎のサーヴァント。
彼らは戦いの果てに現れる『聖杯』を求めて殺し合う。
生き残るのはただ一組。
人は其れを、『聖杯戦争』と呼んだ。
中東某国
吹き付ける砂塵は、無数の砂を散弾のように体に打ち付ける。
男は一人、小高い丘の上から市街地を見下ろす。町は死んでいるかのように静かだった。
「ふう」
男が小さく息を吐いた。この砂塵の中ではとてもではないが大きく吸ったり吐いたりはできない。こうして呼吸するのにも多少なりの技術が必要なのだ。
「銃声はやんだみたいね」
男の背後から赤い外套を纏った女が近づいてきた。女は二十代中盤と言ったところか。整った顔に長い黒髪を砂塵にさらしている。
「そうみたいだ。このまま両軍とも退いてくれると助かるんだが・・・」
男は少し悲しそうな眼をする。何かを憐れむような顔だ。
「弱気ね、士朗。そんな顔してたらアイツに怒られるわよ?」
「ははっ、そうだな・・・。そんなことアイツに行ったら首を飛ばされそうだな。凛」
力なく笑うと、彼は一つ息を吐いた。
衛宮士朗と遠坂凛は中東のとある国に訪れていた。この国ではおよそ三十年続いた一人の独裁者による政治が終焉を迎えようとしていた。もちろん、民主的にそれが行われるわけもなく、この国は内乱に突入した。
人民解放戦線と名乗った民衆側の軍勢は、瞬く間に地方一帯の政府側の軍を駆逐し、首都へと攻め上った。しかし、小心な独裁者にありがちな最強の切り札を手元に置くという習性から、正規軍の最精鋭と首都で激戦を繰り広げることになった。そして民兵側は首都でその半数近くを討たれ、逆に苦境に立たされてしまっている。士朗と凛がここにやってきたのは、首都の攻囲を民兵側が諦めようとしていた時であった。
士朗と凛は政府側の兵站を破壊した。現代戦では兵站の不十分さはすぐにそのまま敗北を意味する。政府側の軍勢は首都での攻防戦の放棄すら考えるようになり、民兵側は戦局を盛り返した。
士朗や凛は戦争の終結のためとはいえ、極力殺人などはしなかった。それではあの男と同じになってしまうからだ。かつて自分と殺し合い、そして、果てて行った一人の男と。
士郎と凛が紛争地帯や戦場を歩き始めてすでに七年になる。
十年前の聖杯戦争は彼らの運命を変えた。士郎は戦うことを、凛はそれに伴うことを、宿命づけられた。
しかし、二人は完全に油断していた。聖杯戦争はもう二度と起こることはないのだと。しかし、戦争とはすべからく繰り返されるものということを忘れてもいた。
戦闘が収拾してから二時間後の午前二時。凛と士郎は前線を監視するために用意した隠れ家の小屋の中にいた。結界を張り巡らしてあるので防御も万全である。
「いたっ」
凛が右腕をかばうように抑える。
「そんな・・・」
「どうしたんだ、遠坂!」
コーヒーを用意していた士郎が凛に駆け寄る。士郎は多少ばかりの魔術は可能になっていた。
「士郎・・・すぐに帰りましょう。セイバーに連絡して頂戴」
「・・・」
凛の右腕には紅蓮のようにきらめく三角の令呪が浮かんでいたのだ。
「嘘・・・だろ?」
「今はあれこれ考えてるべきじゃないわ。急いで飛行機のチケットを手配して帰りましょう」
「ああ・・・でも」
「でも?」
少しだけ士郎の顔がゆるむ。まるで、家族との再会を喜ぶかのような。
「桜にアル、元気かな」
その言葉に凛は一瞬だけ呆れた風な顔をしながらも、微笑み、そうね、と小さく聞こえないくらいの声で言った。しかし、すぐに険しい表情に変わって。
「行くわよ、士郎。あれが協会連中とかの手に渡ったんじゃ目も当てられないことになるわ」
「ああ」
その日電話が鳴ったのは、昼下がりだった。
アルトリアは子供たちに武道を教えるバイトが休みなので、お茶を飲みながら本を読んでいた。
けたたましくなるその音は今では姿を消しつつある黒電話のものだった。機械類に弱い凛がぎりぎり使えるらしいアンティークだ。
急いで受話器を取る。つい二、三年前までは、受話器を取るのさえうまくできなかったのだが、ようやく慣れてきた。
「はい。衛宮ですが」
『おお、アルか』
ずいぶんと久しぶりな声が受話器からした。こうして、機械から声がするというのも最初はおかしな気がしたが、それも慣れてきてしまった。慣れとは恐ろしいとアルトリアはつくづく思った。
それに士朗が自分のことをアルと呼ぶようになったのも今では慣れてしまった。
「シロウですか。どうしたのです?そちらの仕事はもう済んだのでしょうか」
『ああ。もう空港まで来てるんだ。どうだ?何か変わったことはあるか?』
どこか、士郎の声におかしなものがあるとセイバーは思った。こういうところは鈍ってはいない。
「いいえ。そんなことはないのですが・・・どうかしたのですか?」
『いや、そっちについてから言う。結界の状態を見ておいてくれ・・・ああ!もう十円玉がないのか!?ア、アル、悪いが切るぞ』
「わかりました。待っています。サクラに言えば、ごちそうを用意してくれるでしょう」
『ああ。じゃあな』
どこか引っかかるものはあったが、それは気にせずにセイバーは結界を見てこようと思った。自分は士朗のサーヴァントなのだ、命じられれば死んでさえ見せる。
「サクラ、士朗たちはどうやら今日にでも戻ってくるようです。食事は多めに用意しておいてください」
居間にいた桜を発見してセイバーは言った。桜は十年前とあまり変わってはいなかった。それがいいことなのか悪いことなのか自分には判断がつかないが、サーヴァントである身の自分は少なくとも老いは訪れることは無い。
「まぁ、そうですか。じゃあ何か作っておきます。それにしても遠坂先輩も少しは帰ってくるタイミングを考えてほしいです」
「そうですね」
士朗と凛が海外に赴いている間の遠坂の管轄区の面倒は基本的にアルトリアが見ていた。何度かフリーの魔術師がこの地を狙ってきたが、その時は自分で撃退した。サーヴァントは使い魔の中でも最高の部類であり、それでいてアルトリア自身の対魔力が非常に高いということもあり、撃退はさほど難しくはなかったのだ。それ以上に問題なのは地脈(俗に龍脈ともいわれ、大地の気の循環。遠坂家はこの地脈を利用して、資産を運用し財産を増やしている)の整備だった。凛は一か月以上家を空けることは極力しないが、空いてしまった場合はセイバーがすることは全て決められているのだが、それがまた難しいのだ。なにせ魔術の類はそれほど詳しくは無い。マーリンの知識を少しかじった程度なのだ。
「サクラ、私はちょっと出かけてきます。家は任せました」
彼女は高校を卒業してから教師として、士郎たちの通っていた高校に努めている。
「どこまでですか?」
「それほど遠くではないのですが、散歩と言ったところです」
「そうですか、いってらっしゃい。でも、気を付けてください。最近は行方不明者が何人か出ているらしくて、物騒ですから」
「わかっています」
最近ニュースでやっている連続行方不明者の事件はセイバーも知っていた。被害者に何の関係性もないことや何の遺留品もないことから警察の捜査はほとんど進んでないそうだ。
「では、行ってきます」
「はい」
桜は笑顔だった。
桜はいつも笑顔だ。それがセイバーには自然なものとは思えなかった。いつわりの貌、そう思えた。
外に出ると、柔らかい初夏の日差しが当たった。ブリテンよりも日差しは強いが、アルトリアはこの日本の気候が好きになってきていた。
車庫に向かうと、三人ほどの藤村組の若衆が洗車をしていた。
「アルトリアの姉さん。お疲れ様です」
「お疲れ様です。みなさん」
藤村組とは何年か前に喧嘩ともいえないようなことをしたが、それ以来、良好な関係が続いている。こうしてバイクの手入れなども藤村組の若衆がやってくれる。
「ハーレイを使いたいのですが」
「へい、整備できてやすよ」
スキンヘッドのいかにも堅気ではない若衆が言った。
「ありがとうございます」
バイクは十八年前と同じカスタマイズ・・・とはいかなかったが、シロウに言わせると、戦車のエンジン積んでるようなもんだ、とのことだった。
ヘルメットをかぶり、バイクに乗り込み、勢いよく出した。
アルトリアがこの街で衛宮士郎のサーヴァントとして召喚されてから八年が経過した。切嗣に召喚された時から計算すると、十八年になる。
アルトリアは最近、自分のことを考えることが増えた。王として選ばれ、戦いに明け暮れた毎日。剣を握らなかった日は思い出の中にはほとんどない。だが、この衛宮邸での日々はそれを忘れさせるようなものだ。幸福、という言葉がぴったりなのだ。ただただ、カムランの丘での傷による死という断罪を待っていたアルトリアにはそんな幸福は過ぎていた。自分はこのままでいいのだろうか、今すぐにでもこの身を切り裂き、サーヴァントとしての身を消滅させ、カムランの丘に戻りたいという衝動に駆られる。しかし、その時に浮かぶのはいつも士郎の傷だらけの手と、笑顔だった。自分が傷だらけというのに他人のことをそれでも助けようとする、不器用な正義の形。ただ、どうしようもなくそれがアルトリアは好きだった。どうすればいいのだろうか、自責の念と、いまさら自分に現れた人並みの幸せ。どちらをとればいいのだろうか。
ランスロットはこんな私を見てどう思うだろう。
そうして思いを巡らせながら、バイクを異常なスピードで走らせ、通常なら三十分のところを十分で埠頭の先端にまでやってきた。
ここ冬木市は山と海に囲まれており、自然がうまく調和しあい地脈にゆがみを発生させている。それが魔術師には大きなことなのだが、アルトリアにはあまりわからなかった。とにかく、埠頭にある灯台に冬木の地の防衛線の一角を占める遠坂家の支点を守ることが、この街の要なのだ。
「問題は無いか・・・」
確認を終えたところで、ここ最近アルトリアの「足」になっているハーレイに乗る。スカートではなく、ジーンズを穿いているので、ハーレイにまたがるのも楽だ。正直な話、馬よりもはるかにこちらの方が乗りやすいと思ってしまっている自分がひどく情けない。
もう一つの支点までは、ここから十分ほどバイクを走らせた先にある。
道すがら信号待ちをしていると、アルちゃん、と話しかけられた。見ると、それは竹刀を片手に持った藤村大河だった。
「どうしたのです、タイガ。まだ、三時を回ったくらいではありませんか、まさか職務放棄ですか?」
バイクを降りて聞いてみると大河は少し気まずそうな顔をして。
「いや~、ちょっとね。学校の子のひとりが行方不明になっちゃって、警察で話を聞いてきたのよ」
「なんと・・・」
大河は士郎たちも卒業した高校で教師をやっている。それを知らない人が大河の性格のことを聞くと、この世の終わりのような顔をして、日本の教育について心配するのだ。本人はそのことには気づいていないのが救いというべきか、なんというべきかセイバーにはよくわからない。
とはいえなんだかんだで、みんな慕っている、と士郎は言っていた。
「タイガ、私も手伝いたいのですが」
「う~ん、お願いしたいんだけど。学校の問題だしね。危ないし、アルちゃんには頼れないわ」
たまにこうして教師らしいことを言うので油断はできない。
「わかりました。何かあったら遠慮なくいってください。私はこれから柳洞寺に向かいます」
「分かったわ。アルちゃんも気を付けてね。いくら強くても女の子なんだから」
大河はまだアルトリアがこの世に魔術によって留まっている使い魔、サーヴァントだとは知らない。むろんアルトリアはこれからもそのことを話す気はない。まぁ、たとえセイバーがそうだと知っても大河は変わらずに付き合ってくれるだろうが。
アルトリアは大河にあいさつをし、そのまま柳洞寺へと向かった。
柳洞寺は冬木の地脈の要石であり、八年前に聖杯降臨の儀式が行われたのも柳洞寺の裏の池であった。柳洞寺での決戦後、凛は柳洞寺の地脈のゆがみを中心にすえてこの街全体の結界を強化することにした。それは大成功し、かつて凛の父親が作り上げていた結界をさらに強化しただけでなく、高感度の索敵までも可能にしたのだ。まさしくこの街は凛の体内ともいえる。ただ、それは凛がこの町にいる間だけで、役に立ったことはそれほど多くは無いのだが・・・。
そうこうしているうちに柳洞寺に到着したアルトリアは、あえて山門をくぐらず、そのまま結界の「核」のある裏山に行った。まさしく、獣道と言っていいほどに細く複雑な道を歩いて行く。
「・・・ん?」
異変に気付いたのはすぐだった。
「鳥がいない・・・」
今の季節なら鳥が森にいくらでもいてもおかしくないはずだ。なのに、まったくと言っていいほどその鳥がいない。いや、鳥どころか虫たちさえいない。
嫌な予感がする。
セイバーはそう思いつつも、道を行く。
ようやく目印になっている、大きなブナの木のもとにたどり着いたとき、セイバーは言葉を失った。
「ッ・・・」
たどり着いた先でセイバーが目にしたのは、無残に壊された結界の支柱に、いくつかの死体だった。しかもかなり腐食が進んでいる。おそらくは死後半年からそれ以上。
「これは・・・」
細心の注意を払って、アルトリアは近づいて行った。
死体は七つ。しかし、死体は見慣れているアルトリアが驚いたのは死体自体ではなく、その死体がまるで腹から何かが飛び出してきたかのように、裂けているのだ。
まずいことになったとアルトリアは思った。
普通の殺し方ならば、このような死に方はしない。間違いなく魔術的なものだろう。わざわざ、派手な殺し方を好むあたりはよほど好戦的な魔術師なのか、アルトリアのには判断はつかないが、凛との連絡を取った方がいいのは確かだろう。
「!?」
その時だった。背後に何かの気配を感じたのは。
「誰だっ」
瞬間的に剣を取り出す。獣の気配に、人間の気配を足して二で割ったかのようなそんなおかしな『何か』。
「・・・」
膠着は数十秒だったが、何の姿も見ないままにその気配は遠のいて行った。
振り向くと、死体はアルトリアを呑みこもうとしているように腹を開いたままだった。
久しぶりの我が家はやけに落ち着くものがある、と士郎は思った。凛に言わせれば心の贅肉とか言いそうだが、自分は久しぶりに家に着いた時のこの感覚を大事にしていたかった。
今、士郎は衛宮邸のリビングにあたる居間でお茶を飲んでいた。最近は部屋の大きさに合うように液晶テレビを買ったりしたので、凛はひどく文句を言っていた。(無論、機械音痴の凛は使えるようになるまでに次のテレビを買ってしまうのだろうが)
「そういえば、桜とセイバーはどうしたんだろ」
凛はテーブルの反対側で、触媒に使う予定の聖遺物を自分の親の仇のように睨みつけている。
「さあ、どうかしらね。セイバーのことだからハーレイを気に入って乗り回しているんでしょう」
凛は聖遺物を見る目のまま士郎を見てきたので士郎は軽く戦慄を覚えた。おそらく、聖遺物を手に入れるために寄ったロンドンで何かあったのだろう。
「凛、顔怖いぞ?」
「いつも通りよ」
すこぶる機嫌が悪そうなので士郎はテレビをつけようとした、その時。
「ん?」
外からバイクの排気音が聞こえたのに気付いた。
「凛、ちょっと見てくるぞ」
玄関まで行くと、ちょうどセイバーが玄関を開けるところだった。
「やぁ、セイバー、お帰り」
「あ・・・シロウ、お帰りなさい」
久しぶりに見たセイバーの顔色は優れない。
「どうしたんだ?セイバー」
「それが・・・」
「セイバーおかえり~」
奥から凛の声がした。たまに空気を読めないのが凛のうっかりからくるものだと最近、士郎は分かった。
「セイバー、奥に行って話すか」
「ええ」
セイバーの表情は相変わらず硬い。短い返事の中にはどこかアーサー王として、武将としての刺々しさのようなものがある。
居間では凛が大きな羊皮紙の上に魔方陣をしいていた。
「あら、アル、おかえりなさい」
「おかえりなさい、リン」
「・・・?なにかあったの?」
「そうだぞ、アル。話してくれ」
「はい」
「・・・」
アルトリアがついさっき起きたことについて話したのち、凛と士朗は凛の手にできた令呪について話し合っていた。
「状況は最悪ね。こちらは冬木の情報はアルの見た死体くらいだし。アル、あなたが見つけた死体はどうしたの?」
「何かあるとまずいと思ったので、簡易結界を張っておきました。リンが前にくれたやつです」
「そう・・・じゃあアルと士朗で現場を見て来て頂戴。私は準備しておくわ」
おそらく英霊召喚の準備のためだろうと士朗は思った。サーヴァントとして使役する英霊の召喚には触媒となる聖遺物が必要となる。それはその英霊の遺品であったりすることが多いが何であれ、その英霊とつながりがあれば狙った英霊は呼べる。ただ、つながりの薄いものであったりすると全く違うサーヴァントが呼び出されることもある。いつかの弓兵のように。
「わかった。でも藤ねぇと桜はどうしたんだ?」
久しぶりに会えると思っていたのだが、会えないことが士朗は気になっていた。特に桜は間桐家とのこともある。何年か前に士郎は間桐家がかつては大陸から渡ってきた魔術師の一族であることについて知った。桜も魔術師でないかと聞くと凛はすぐに否と答えた。その時凛は悲しい目をしていた。
「タイガは行方不明になっていた高校生を探すとかで、サクラは私が家を出るときにはいたのですが、タイガと一緒に探しに行ったのでしょうか」
桜は非常勤講師として大河と同じく士郎たちの母校に務めている。充実していると桜は言うが、士朗は最近桜と一緒にいる時間が長くはないのでよく分からない。多少は桜のことをわかっているつもりでも、実はよく分かってなどいないのではないかと最近では思っている。
「気になるわね。このまま聖杯戦争が再開したんじゃ二人に対しては最低限の配慮しかできなくなるし、一応は探してここに居てもらわないと」
冷静な物言いだが、その代わりに最期の言葉の辺りはどこか暖かい言い方だった。
「そうだな。何が起きるか分からないのが聖杯戦争だ」
「私も二人に同感です。このまま二人を放置しておくのは危ない。それにあの死体は腐っていなかった。この暑くなりだした季節にです。おそらくは何らかの能力で死んだのかと。このまま放っておけば犠牲者が増えます」
「わかってる。私は索敵と召喚準備をするから、二人は情報収集を兼ねて街のパトロールと結界の支点を見て来て」
「了解」
アルトリアが出て行くと凛がため息をついた。
「まったく・・・。帰ってきたら少しはゆっくりしたいわ」
「ああ。そのためにも、すぐに片付けよう」
「ええ」
凛の頭にポン、と手を置いて赤の聖骸布を羽織る。かつて、自分に生き様を示してくれた一人の弓兵のものと同じものだ。
士朗が家から出ると、八年前と同じ夜を感じた。ひりつくような緊張感だ。一瞬でその感覚は吹き飛んだ。アルトリアのバイクのライトが、士朗を少しばかり安心させた。
「どうしたのです?シロウ」
「なんでもない。出してくれ。アル」
「わかりました」
バイクが走り出す。
空は不気味なほど静かに、赤い月が登っていた。
後書き
最後まで目を通していただければ幸いです。
カメほどの更新速度になると思いますが、おつきあいください。
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