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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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ALO編
  episode5 旅路、火妖精領2

 
前書き
 原作キャラが絡むと、書きやすさが段違いですね。 

 
 「何事だ?」

 聞こえた声は、太いが味のある、男らしい声。ゆっくりと歩んでくるその体は、重量級のアバターの多いサラマンダーの中でも更に一際大きい。巨人タイプの一歩手前、といったところか。今の俺とは、頭一つと言わないくらいの差があるだろう。ええい、妬ましい。

 そして、外見は特徴だけでなく力量も表す。

 一目で高級品と分かる巨大な黒い剣は、恐らく伝説級(レジェンダリー)。赤く輝く鎧に、たなびく流麗な刺繍の施されたマント。逆立った赤髪がさらけ出されているが、額を飾る額冠が恐らく兜の代わりの頭装備なのだろう、美しい輝きの中に魔力の雰囲気を感じる。装備だけ見ても、相当の手練だと分かるが、それだけではない。

 (……強え、な……)

 その堂々とした立ち姿。
 完璧にフルダイブ環境に習熟した者特有の、力みのない滑らかな歩行。

 何気ない一挙手一投足が、その男の力量を伝えてくる。直感で測るその力量は、俺よりも上……もしかしたらキリトやヒースクリフ、或いは|彼女(・・)に届くかもしれない。男は俺の方を油断なく見やったまま、ピク、と眉を動かす。

 「何だ、貴様は。ここはサラマンダー領の主都、ガタン。他種族の立ち入りは制限されている」

 問いかけながらも、その手は、いつでも剣を抜ける体勢だ。
 事を荒げるのは、まずいな。

 直感し、四神守家関係以外では滅多に使わない敬語で応える。

 「ええ、さっき知りましたよ。ガーディアンに斬りかかられましたから」
 「……ふむ。そして領内サラマンダーは基本的に他種族が来れば狩るように指示してある。それに加えてここに来るまでに、プレイヤーから何度も襲われただろう。わざわざ何故ここまで来た?」

 行商に、と応えるのは簡単だ。

 (……)

 だが、俺はこの男に、それ以上の何かを感じた。もしかしたらそれは、あの世界で俺を何度も助けた、エギルの言う俺の最大の武器である「危機察知能力とそれを回避する才能」ってやつだったのかもしれない。

 「……探し物が、ありまして。各地を回るついでなんですよ、行商は」

 その勘が、俺に告げさせる。

 正直、これは本気では無い……と、自分では思っている。ゲームの中で人探しというならまだしも、繋がってもいない……そしてこの世にもいないゲームの残り香を探すなんて、バカげた話だと頭では分かっているから。だが、心の底で、その思いがあることも、やはり否定は出来ないのだろう。

 その声は、随分と良く響いた。
 聞いた男は、また眉を一つ動かして俺を見、……口元だけで笑った。

 「面白い奴だな。単なる行商人なら斬って、首ごと荷物を置いていってもらうのだが。貴様は違うのだな。で、ここに入る当てはあるのか?」
 「いいえ。ですが丁度今、手段を知っているだろう人を見つけましたよ?」

 男の口元だけの笑いが、深まる。
 それをみて、俺の顔にも笑みが浮かぶ。

 「ほう。確かに俺はサラマンダーの『将軍』だ。《パス・メダリオン》も発行できる。……が、タダで、とはいかんな。貴様は俺に、何をしてくれるんだ?」
 「……俺の持つ、名鑑にない古代武具(エンシェント)級の重金属鎧でどうです? その鎧よりいいものだと自負していますが」

 実体化させる、紅の輝きを放つ金属鎧。影妖精(スプリガン)領で手に入れた、俺の持つ最高額防具。
 だが、それは逆効果だったようだ。

 男の顔が、獰猛に歪んで、笑いに凄味が加わる。

 「俺はアイテムにはそこまで執着は無い。……が、それは別に貴様を斬り捨てれば手には入る。であるならばそうだな、俺に勝ったら、《パス・メダリオン》を発行してやろう」
 「……勝ったら、ですか? ……五分逃げ切ったら、ではどうです?」
 「ふ……いいだろう。俺の名はユージーン……いくぞ」

 巨漢……ユージーンが、剣をすらりと抜きだす。
 それを見て、俺も笑う。

 相手が挑んでくるなら、問題ない。敬語を使う必要は、ないな。

 「軽返事、後悔させてやるよ。……シド、だ。こいよ。スピードには、自信があるぜ? 俺は」

 男の笑みが深まる。

 そのまま。
 デュエルの宣告すらなく、その戦士が俺へ向けて弾けるように突っ込んできた。





 突進。
 それに続く、斬撃。

 「……やるな!」
 「そっちこそ!」

 繰り出される剛毅な剣を、紙一重で回避する。

 強い、と感じた直感は、やはり間違ってはいなかった。その巨大な剣の重みを生かした強烈な剣戟はかつてのキリトの戦闘スタイルに似ているが、それに加えて巨体を生かした突進攻撃まで織り交ぜてくる。

 ―――間違いなく、キリトランクの実力者。

 全く、俺の勘は自分でも時々怖くなることがある。あの世界での二年間がこの力を俺に与えたのか、或いは代々伝わる四神守の血か。もしかしたら、親父の方の血かもな。まあ、今は別になんだっていい。使えるものは、使うだけだ。

 「ぬぅん!!!」

 再び振り抜かれる大剣を、大きく跳躍…バク宙して避ける。
 高々と宙を舞った俺を、素早く飛翔、追撃してきたのは流石だ。

 が、それも予測の範囲内。

 「あだっ!」

 空から俺達二人を眺めていたサラマンダーの男の胸鎧を足場に地面に急降下、再び戦場を地上へと無理矢理変える。空中戦は分が悪いが、完全な平面でも勝ち目はない。いやそもそも俺に勝ち目が無いのは分かりきっていた事だ。なんとか今辛うじて生きているのは、こちらから手を出さないでいい…その実攻撃に神経を割かなくていい分回避に専念できるという条件なためと、周囲がサラマンダーだらけでユージーンが魔法や剣が十分に振えないせいだ。

 「まだまだっ!!!」

 しかし敵もやはりなかなかのもので、観客を盾代わりに使う俺に対して巧みに同種族を避けながら大剣を向けてくる。しかしその、仲間を避けるための僅かな思考の隙間があれば、俺ならなんとかできる。避けるだけならこの体のリーチも関係ない。

 未だその剣は、俺の体を掠めるのみ。

 「おら、今四分! あと一分だぜ?」
 「……む、そうか。では」

 ユージーンが、一旦、その突進を止める。

 「遊んでいる時間はもうないな」

 含みを満たされた、声。
 そして構える剣は、横薙ぎの軌道。

 ―――正気か? これだけサラマンダーがいるのに?

 再度の突進に咄嗟に横っ跳び、観客の一人の大柄な男を盾にするべくその脇に隠れ、

 「っ、?」

 顔をゆがめる。
 みやった男……さっきまで話していた大柄な槍使いのその顔に、にやりとした笑みを見たから。

 瞬間、スローになる世界。
 振り抜かれるユージーンの巨剣。

 その剣が、吸い込まれるように槍使いの胴に入り。
 鎧の胴体を、剣が、『すり抜けた』。





 「ッ……!!?」

 男の腰の高さ…丁度、俺の、首の高さ。
 すり抜けた剣が、俺の首を。

 「くぉおおっ!!!」
 「……ほう、やるな」

 跳ね飛ばす直前、咄嗟に庇った腕を派手に斬りつけた。盾代わりに使った男が、大柄な戦士で良かった。胴体をすり抜けるのに時間がかかった分、ぎりぎりタイミングで防御が間に合った。

 だが。

 「っく……」

 それも「間に合った」、と言えるかどうかは微妙だ。

 咄嗟の動きはやはり、ほんの数週間で治る様なものでは無かったらしい。庇ったのは、左腕。本来ならこれはかわすべきだった。たとえ跳んだ直後であったとしても、頭を下げるなり転がるなりして回避することは決して不可能では無かった。

 それを、受け止めてしまった。

 (くそっ……)

 ありもしない、《フレアガントレット》を脳裏に描いて。

 小さく舌打ちして、疾走を開始する。雑踏を縫うように走って身をくらますが、敵は飛んでいる。上からなら俺の動きは丸見えだ。まだあと数十秒、逃げ切れない。一瞬だけ、ちらりと自分のステータスを見やる。

 (まずいな……)

 一気にHPが半分以上持っていかれた。イエローの注意域は、俺が次の一撃には耐えられないことを無情に告げている。あの巨剣が対象を透過する力をもつなら、このプレイヤーの雑踏は効果が無い。次の一撃は、完全に見切らなくてはならない。見切って、避けなければ。

 (できるのか……?)

 今の、俺に。

 あの世界の俺が見たら、笑ってしまうほどに弱くなってしまった俺に。

 ―――ドクン。

 瞬間、足が止まった。
 走り続けた、足が、止まった。

 命綱であった、俺の動きが、止まった。
 紛れもなく疑いもなく、愚の骨頂の行為。

 瞬間、響き渡る咆哮。

 見るまでも無い。ユージーンの空からの重突進攻撃だ。止まった隙を見逃すようなレベルの敵ではない。そして、止まってしまった俺に、それをかわす手段は無い。勝負、ありだ。俺はゆっくりと目を閉じた。

 感じる、轟音。
 衝撃。

 だがそれは、俺の体を吹き飛ばしただけだった。

 (は、はずれた……?いや、外した……?何故……?)

 答えは、直接もたらされた。

 「五分、だ。斬りたい気はあるが、……よかろう。楽しめた」

 吹き飛ばされて転がった俺を、剣を仕舞いながらユージーンが見下ろす。若干敬意らしい物が見えなくもないが、こんだけ見下ろしておいてはそれもないか。ちくしょー…と思わなくも無いが、顔には出さない。「へへっ、やってやったぜ」のサムズアップだけを出す。

 その様子を見て、ユージーンが口元だけで笑う。左手を操作して、出現した初めてみる巨大なメニュー画面を操作し……一つのアイテムを取りだした。放り投げられる小さなそれは、まぎれもない《パス・メダリオン》。

 ……俺は、とりあえず、目的を果たした。
 ただ、ここで『負けた』ことは、俺の心に、長く、長く影を落としたのだが。





 入るのに非常に、ひっじょーに苦労したガタンだったが、正直中身はうまみが全くなかった。全く、努力が報われるなんて嘘っぱちだ。報われるときには報われるし、報われんときは報われんもんだ。まあ、アイツらはこういう俺の姿勢は嫌いだったがな。

 とにかく。

 苦労して入って、苦労して探したが、異種族用クエストは重装防具だったり剣や槍といった俺達の旅には使わない武器だったり、地理的な特殊Mob用のテイムアイテムなんてケットシーでもない俺には使えない道具だったり。

 深いため息をつきつつ盛大に無駄骨を折った俺を中立村で迎えた二人(主にモモカ)の爆笑は、チョークスリーパーで応戦しておいた。保護コードぎりぎりの痛めつけなら、慣れたもんだからな。

 
 

 
後書き
 戦闘で四千字書くと、結構シークバーが長くなりますね。 
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