SAO─戦士達の物語
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GGO編
百十七話 The End
前書き
どうもです!鳩麦です!
最近更新が滞り気味となっていること、本当に申し訳ありません……
なんだかんだで大学って僕の予想よりもはるかに忙しいです……
さて、今回は……、まぁ、お分かりかと思いますw
ではどうぞ!!
「セェェェッ!」
「……!」
ヒュンッ!と音を立てて振るわれた鋼鉄の刃が、ザザのエストックと激突して火花を散らす。受け止めたザザとアイリは少しの間硬直していたが、筋力値は互いに同程度ながら、重めの武器を使っているアイリが一歩押している。やがて耐えかねたようにザザが飛びのくと、アイリはそのまま隙を窺うように剣を正眼に構えた。
「…………」
「…………」
ジリと小さな音を立ててすり足気味に隙を窺う。
そんなことをしながらも、アイリは思考を進めていた。
『生半可に攻め込んでも、防がれるだけ……決定打が欲しいけど……』
とは言えそんな隙は待っていても来ないだろう。リョウが援護をくれるかも知れぬと言う期待は……したいところだが、不確実な要素を予想される戦闘の展開に組み込む事など出来ない。となれば矢張り自分で決定打を撃つしか無いのだが……
「…………」
当ては……ある。
エストック相手では試したことなど無いが、少なくとも上手く行った経験も、初動さえ思う通りに行けば確実に決める自信もあった。
問題は……
『HPがなぁ……』
現時点で互いに残りHPは二割と言った所。対して画策しているのは少々無茶な技であり、これを失敗した場合……間違いなく自分は死ぬ。
恐らくは、本当の意味でだ。しかし……
『って、こんな風に悩むの、私らしく無いよね』
戦うならば、思い切りよく全力で行く。アイリにとってのモットーのような物であり、いつもそうしてきた事でもある。例え相手が何者で有ろうとも、少なくともそれは変わらない筈だ。ならば……
「ふぅ……」
一つ、小さく息を吐く。腹の傷が無ければ本来成立しないこの賭け。正面の死銃を警戒しつつも、徐々に息遣いを変えてゆく。
「ふっ……ふっ……ふっ……ふっ…ふっ…ふっ…ふっ、ふっ、ふっ、ふっふっふっふっふっふっふっ……」
息遣いを徐々に早く、細かくしてゆく程に脳内のアドレナリンの量を意図的に増加させていく。遺伝子レベルで刻まれているらしい興奮状態へのスイッチをオンにして、腹部にあった違和感を感覚ごと消し去る。細かく吐いていた息は荒々しさを持ち始め、次の瞬間、死銃は一瞬で目の前の女の持つ雰囲気が切り替わった事を察した。
「……!?」
『七、式……!』
切り替わった脳内で、興奮状態のまま、けれどもアイリは自分を制御していた。此方に来てからこれを使った事はまだ殆ど無いが、“向こう”では何度も使った。今更制御する程度の事は何でもない。
「ふーっ、ふーっ……!」
「何だ、それは」
途切れ途切れに聞こえる。死銃の言葉も、半ば意識の外へと追い出され、彼女の視界には倒すべき敵の姿だけが移っている。
「……!」
両手で持った金属刀を引きつけるように、全力で身体を捻る。身体の右側に切っ先を向けて担ぐような構えになったアイリは、左肩を死銃に見せ付けるような体制で彼の方に向けて重心を傾け、腰を落とす。どうやら警戒しているらしい死銃は、油断無くエストックの切っ先をアイリに向けたまま微動だにしない。
「っ!」
「!」
突如、ザシャッと乾いた音を立てたアイリか、凄まじいスピードで距離を詰めた。
彼女と死銃の間にあった間合いは、互いにゆっくりと離れて居た所為か七メートル程。それが瞬時に三メートルの距離まで詰められる。
さて、この時点で死銃には対応策は二つある。
一つはバックステップによって詰められた距離を再び取ること。もう一つは迎撃のための攻撃を彼が放って来る事だ。
尚、サイドステップの確率はかなり低い。何故なら彼等が居るのは砂の上。相手の攻撃が何であれ、自身の中心線上をその攻撃の軌道から外すほどの急なステップをするには、移動するにも制動するにも足場が悪過ぎる。
さて、死銃こと赤目のザザの場合、こういった状況にもなると、ほぼ必ず迎撃する方を選ぶ。
それは単純に、彼がエストックを使う際の自分の実力に絶対的な自信を持って居るからだ。あの体制から繰り出される技は、身体の使い方を見るに十中八九“突き”であろうと言うことは、彼も予想出来ていた。
そして突き技は本来、エストックが最も得意とする所。ザザとしても、その技で負けるのはプライドの高い彼には絶対的に容認出来ない技でもあった。だからこそ彼は……“全力で後ろに跳んだ”
確かに、負けたくはない。しかし相手の女……アイリが、妙なプライドや無駄な我執の為の動きで倒せる程甘い相手でない事は、癪ではあったが既にザザも理解していた。
故に、此処は安全策としてバックステップを行った。もし彼女が自分が突きを返してくる事を予想して突進してきたのだとしたら、距離をとられた今、彼女は一度立ち止まるないし再び距離を取ろうとするはずだ。
「……!」
ザザのこの読みに対してアイリはと言うと、一度驚いたように大きく目を見開く。そして……唇の端で、悪戯っぽく微笑んだ。
小さな体は、自身の身体に制動をかけることは無かった。それどころか一片の迷いもなく、その身体は加速する。
「っ!?」
ザザは考える。此方が距離を取ったのを見て加速した……!?いや、それは有り得ない。ならば此方が下がった時にほんの少しでも迷い、それによって動きが鈍るはずだ。そんなそぶりは一切無かった。だとしたら……
「……!」
ようやく、気付いた。
読まれていた。
一度警戒する事は既に此奴に読まれていたのだ。だからこそ初めから加速するつもりだった彼女は思考によるラグを一切作らずに突撃して来ている。
そしてそれを理解してしまった事によるほんの少しの動揺が、彼に一瞬行動までの遅延を作る。そしてその一瞬の間に、アイリは既に再び三メートルまで距離を詰めていた。スピードに乗っているアイリを前に既に行動までの猶予は無く、ザザは即座に何らかの対応を取らなければならない。
さて、そう言った場合、人間が反射的に取ってしまう行動は決まっている。即ち、自身の体に最も染みついている行動だ。そしてザザの場合それは……SAO時代、攻略組に味あわされた屈辱を果たすために執念で身に付けた、エストックと言う武器における攻撃の動きそのものだった。
「っ!」
反射的に起こしたとは思えない素晴らしくなめらかな動きで、ザザは自身の持つ刺剣を突きこむ。完璧なタイミングだった。ノーモーションから放たれたその銀閃は、瞬時にアイリの左肩へと迫り……その瞬間、それは起こった。
「真式……改!」
突きの軌道が、アイリから“逸れた”。いや、“逸らされた”と言うべきか。
アイリの左肩にエストックの尖端が突き刺さった……その瞬間、アイリが左足を軸にして、前に進むベクトルをそのままに、体を左に前進しながら回転させたのだ。左肩に尖端をしっかりと突き刺していたエストックは、急な横のベクトルの動きに耐えられずに、そのまま進路を大きく左側にずらす。
其処はアイリの左側、アイリの身体の中心線上からは、大きく外れた位置の直線状だった。“身体で攻撃を受け流す”という、普通ならあり得ない一手。しかしそれが、今この状況に置いては、いっそ気持ち良いくらいの最上の一手となる。
そして、ザザが突きこんだエストックとすれ違うように、アイリの右側で構えられていたアイリの剣が、回転した事によってその切っ先をザザに向ける。
後は、突き込むだけの状況。
思考を読み、行動を読み、瞬間的にザザが起こすであろう行動を読み切り、アイリはこの状況を作った。
アイリの賭けが成功した瞬間……否。
“アイリ”と言う剣士の力が、完全に、“赤目のザザ”たる殺人鬼の上を行った瞬間だった。
そうして、引き絞られたアイリの剣は……その運動エネルギーの全てを、正面のボロボロのマントの中心へと、爆発させた。
「逝っ……ちゃえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!」
────
「……お、ぉ」
胸の中心に突き刺さった鋼鉄の刃を掴もうとするかのように腕を上げて、ザザは声を上げた。地の底から沸き上がるようなその唸りは、恐らくは屈辱と悔しさから来るそれ。こんな結果は認めぬとばかりに、ゆっくりと腕が持ち上がって行く。しかしそれを待たずに……。
「…………」
アイリは刃を捻り、引き抜いた。
「…………!」
まるで正面に向けて腕を伸ばそうとするかのように伸ばしながら、ザザは既に動かず、喋れないアバターの中で言った。
『まだ……終わらない。終わらせ、ない……あの人は、必ず、お前達を……』
しかし、そんな内心の言葉すら切り裂くように、刃を一度ヒュンッ!と振ったアイリが、背を向けて呟く。
「The End(終わりだよ)」
砂の乾いた音を響かせながら、死銃こと、赤目のザザは地面へと倒れ込んだ。一度細かく点滅したスカルマスクの瞳が、フッとその光を消した。
――――
「はぁ……」
倒れた死銃が完全に動かなくなったのを確認してから、アイリは深い溜息をついた。地面に座り込みたくなるのをなんとか堪えながら、頭上で美しく輝く仮想の星々を見つめる。
この世界で星を見たのは、そう言えばこれが初めてだっけ。とアイリは感慨深い気持ちでそれらを見つめた。
かつて起こったと言う最終戦争の影響により、この世界の空は昼夜を問わず常にどんよりとした厚い雲に覆われている。
NPCの長老の話によれば、いつの日か時間の流れが世界に満ちる毒を浄化しきった時、砂は白く戻り、雲は晴れ、青空と星空が戻るのだそうだ。
もしかするとこの島は、そんな全てが終わった後に残るこの世界をイメージしているのかもしれない。そんな事をちらりと思った時だった。
「……お、流石、終わってたか」
「あ……!」
不意に背後から声が掛かり、一瞬ピクリと震えたアイリの体は勢いよく振りかえる。
「リョウ!」
「よっ、お疲れさん」
ピッ、と右手を上げたリョウに、アイリは輝くような笑顔を向けた後、えっへんと胸を張る。
「ふふふ、どう?ちゃんと勝てたでしょ!」
「まぁ、みてぇだな……お見事だ、アイリどの」
「えへへへ……」
一瞬呆れたように苦笑した物の、素直な感想としてアイリに称賛を贈るリョウに、アイリは照れたように笑う。
「さて……勝ったな」
呟くように言ったリョウにアイリはコクリと頷いて返す。
「うん……勝った」
しばらく二人の間に沈黙が続き、やがてリョウがアイテムウィンドウからM2を取り出して言う。
「……さて、来たぞ」
「あ、本当」
遠く、砂煙を巻き上げながら此方に向けて疾走してくるハンヴィーが見えた。あの中には、恐らくだがキリトとシノンが乗っている筈だ。
二人が洞窟を出る直前に、彼等は約束していた。互いの仕事が終わり、二組で両方とも欠員が出なかった時は……
「さぁ、そんじゃあやりますかぁ!?アイリさん!」
「うん!これでホントに、ラストバトル!!」
リョウがM2を構え、アイリが右手に持った鋼鉄の剣を再び正面に向けて構える。と、走り出す前に、アイリが言った。
「ねぇ、リョウ!」
「あ?」
「大会が終わったら、向こうで、一個だけ、私のお願い聞いてくれないかな?」
「はぁ?」
行き成りの意図の分からない発言に、リョウは戸惑ったように片眉を上げた。ふんっ、と鼻を鳴らして、彼は問う。
「……なんで」
「それは~……えっと……こ、この人に勝ったご褒美みたいな!」
「…………」
言いながらアイリは焦ったようにザザを指差す。リョウは一瞬呆れたように息を吐いたが、それだけだった。
「わぁったよ。無茶なもんじゃなきゃ、聞いてやる」
「ホント!?やった!!それじゃ……ぱぱっと勝つよ!!」
「へいへい!!」
丁度砂漠の向こうでは、止まったハンヴィーからキリトが降りて来る所だった。あの様子だと、既にシノンは何処かに潜んでいると見るべきだろう。さて……
「アイリ、突っ込め!止まんなよ、シノンに撃たれんぞ!」
「りょーかい!それじゃ……いっくよー!!」
散々待たせたギャラリーへのサービスとばかりに輝くような笑顔を浮かべて、アイリは真っ直ぐに走り出した。
タッグマッチの結果は……読者諸君の想像に、お任せするとしよう。
試合時間、三時間十七分五十二秒
第三回 バレット・オブ・バレッツ本大会バトルロイヤル終了。
リザルト── ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ──
Sixth story 《Kill or Be Killed》 完
後書き
はい!いかがでしたか!?
え?最後のタッグマッチとやらの行方まで書け?
あー、いやそのですね……こういう終わり方も、悪くは無いかぁ……と……
すみません、これ以外上手く終わらせる方法が見つからなかったんです……申し訳ありません……。
し、しかし!何はともあれ、これにてBoB編、完結です!
これでようやく連続戦闘描写終了……な、長かった……
さて、次回は勿論、リアルに帰ってからのごたごたとなります!
ではっ!
捕捉。
ちなみに、最後のstoryタイトルは、Kill or Be Killed=「殺るか、殺られるか」と訳して頂けたらと思います。
あってるかわかりませんがw
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