ワルキューレ
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第三幕その三
第三幕その三
「けれど私は自分の楯で彼を守ってその命に逆らったの」
「何故そんなことをしたの!?」
「どうして?」
ワルキューレ達は怪訝な顔になって問い返したのだった。
「そんなことをして」
「何を考えてるの?」
「けれど御父様は自らジークムントを倒して」
「そして貴女は何故」
「そのジークリンデを」
「私は彼女を守る為にここに来たの」
その為だというのだ。
「それでここに」
「それでなのね」
「それでここに」
「ええ、そうなの」
ブリュンヒルテは今すがるような目で姉妹達を見ていた。
「どうかこの人を」
「何てことをしたの?」
「御父様に逆らうなんて」
ワルキューレ達は彼女がしたことにその顔をさらに青くさせていた。
「そんなことをしたら本当に」
「あの嵐は荒れ狂っているわ」
黒い雲が今荒れ狂っていた。その中心に誰がいるかはもう言うまでもなかった。
「御父様が近付いてきている」
「どうするの?一体」
「御父様がこの人を見つけたら何もかもが終わるわ」
ジークリンデをその後ろに庇っている。
「ヴェルズングの血脈はもう」
「けれどどうするの?」
「その人を庇うって」
「この人を遠くに逃す為に」
ブリュンヒルテはそのすがる顔で姉妹達に告げる。
「どうか一番速い馬を」
「けれどそれは」
「御父様に逆らうことになるわ」
「そうよ。それは」
できないというのだ。彼女達は皆怯える顔になっている。
「私達まで」
「そんなことをしたら」
「ロスヴァイセ」
ブリュンヒルテは彼女にすがってきた。
「貴女の馬を」
「無理よ」
しかしロスヴァイセは首を横に振った。
「私の馬でも御父様のスレイプニルには追いつかれるわ」
「ヘルムヴィーデ」
「駄目よ」
彼女は駄目だと言った。
「私は御父様には逆らえないわ」
「グリムヒルテ!ゲルヒルデ!」
今度は彼女達に声をかける。
「貴女達は!?」
「私も。私の馬でも」
「御父様には」
「シュヴェルトライテ!ジークルーネ」
「駄目」
「私も」
二人も駄目なのだった。
「どうしてもあのスレイプニルには」
「御父様の怒りは」
「あの怒りに触れたら」
「どうにもならないわ」
「ワルトライテ、オルトリンデ」
最後の二人にも声をかける。
「貴女達もなの?」
「御免なさい」
「私達も」
彼女達も顔を俯けさせた。
「どうしてもそれは」
「御免なさい」
こう言うだけだった。姉妹達は誰も助けられなかった。
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