トーゴの異世界無双
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第八十四話 これは俗に言う死亡フラグなのでは!?
「あ、あ、あっという間の出来事です! 何と言うか、何と言えばいいのか分かりませんが、とにかくトーゴ選手の勝利です! 予選二日目、第二十回戦の勝者はトーゴ・アカジ選手で~すっ!!!」
勝ち名乗りを受けるが、あまりにも規格外の結果に観客達は言葉を失っている。
ほとんどの者がフービ優勢と思って最初から見ていた。
何故ならフービは全大会の実績があるからだ。
だが、事実は人外の魔力を持った少年が勝利を手にした。
それもあっさりと他の参加者達を跳ね除(の)けてだ。
自分の目を疑っても仕方の無いことかもしれない。
一瞬で三十八人を戦闘不能にした不可思議な攻撃も然(しか)り、優勝候補にも匹敵するほどの猛者(もさ)であるフービを、まるで赤子の手を捻(ひね)るように無傷で勝利したのを見て、信じられないのも無理は無かった。
観客達の思惑を歯牙(しが)にもかけな様子で闘悟はクィル達へピースサインを送っている。
闘悟のピースを見て安心したように息を吐くクィル。
「よ、良かったですぅ……」
フービの一撃を無防備に受けた時は息が止まったかと思った。
闘悟が強いのは知っているが、ああいうのはいつ見ても心配してしまい声を上げてしまう。
ミラニは平然と見ていたが、他の者はハラハラしていた。
特にステリアも、闘悟が一撃を当てられた時、「あのバカ!」と怒声を投げかけていた。
ヒナもキュッと服を掴んで試合を見ていた。
無表情に見えるが、内心は闘悟のことを気にかけていた。
『五色の統一者(カラーズモナーク)』のことを知っているなら、当然の心配である。
リアも同じような感じで見ていたのか、終わった後は軽く胸を撫で下ろした。
ハロは闘悟をキラキラした目で見つめていた。
殴られた時は、フービに「やめろぉ!」と叫んでいたが、今は素直に闘悟の勝利を喜んでいる。
ニアの姿が見えないので、彼女はどこかに出掛けているようだ。
「まったく、あんな心配させるような闘い方して! 帰って来たら文句言ってやるわ!」
ステリアが口をへの字にする。
だが、心ではやはり無事に闘いが終わったことに安堵(あんど)していた。
「はいです! おしおきなのです!」
「うん……心配させた……だめ……なの」
「にししし! わたしもおしおきするぞぉ~!」
口々に不満を言う。
闘悟の実力なら攻撃を受ける必要など無かったはずだ。
それなのに、相手の全力を最後まで見る癖(くせ)をいかんなく発揮して、彼女達を心配させた。
「ふふ、トーゴさん、後が怖いですね」
リアが楽しそうに笑う。
しかしその時、闘悟の今後が、さらに心配になるような声が届く。
「ねえ見てモアさん! あれがトーゴくんなのよ! カッコいいでしょ! しかもあんなに強いなんて、さすがは娘の婚約者だわぁ~」
空気がピシッと固まる。
フレンシアがとんでもないことをマイクごしに言う。
……え?
い、今何て言った?
いや、気のせいだ……気のせいのはずだ!
闘悟は一刻も早くこの場を立ち去った方がいい予感をひしひしと感じる。
「あ、あのフレンシア様? い、今娘の婚約者と聞こえたのですが?」
「そうよ! あのトーゴくんは私の愛しい娘、ヒナリリス・イクス・ヴァウスの婚約者なの!」
「ええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
モアが叫ぶ。観客が叫ぶ。
そして闘悟も同じように叫ぶ。
「ママ……ばか」
ヒナは小さく呟くように言うが、頬は真っ赤に染まっている。
その場にいるクィル達はと言うと、いきなりのフレンシアのカミングアウトにポカンとしている。
「えと……あの人って……そこのヒナリリスさんのお母さんなのよね……え? トーゴってホントにロリコンだったの……?」
自問自答しながらステリアは真剣に考える。
どうやら本気で闘悟の性癖を疑い始めたようだ。
「私はもう奴のことは幼女鬼畜としか呼びはしない」
ミラニが闘悟に睨みを利かせながら呟く。
不機嫌さを露わにしている。
「おぉ~こんやくしゃってなんだぁ? おいしいのかぁ?」
ハロにはまだ難しい話のようだ。
その場にいて、一番冷静なリアがヒナに聞く。
「ヒナリリスさん、本当のことですか?」
すると、ヒナは首を横に振ろうとすると、いきなりクィルが口を挟んでくる。
「いいではないですかリーお姉さま」
「クー?」
「どういうことか、トーゴ様にお聞きしますです」
「そ、そうね」
リアが言葉を詰まらせたのは、クィルが微笑を崩していなかったからだ。
ただ、その瞳は決して笑ってはいない。
「恐らく、トーゴ様のことですから、何か勘違いなさるような行為をなさったのでしょう。相変わらずなことなのです。それがどのようなものでしたのか、本人の口からお聞きしたいですね。ミラニも、ステリア様も、手伝って頂けますですか?」
「御意(ぎょい)に」
「任せなさい!」
こうして、闘悟の審判会議の参加者が決まった。
「これは驚きですが、何とトーゴ選手にはもう婚約者がいるとのことです! しかもその相手は三賢人であるフレンシア様のご息女(そくじょ)であるヒナリリス様のようです! まったくどこまでも驚かせてくれる選手です!」
いや違うから!
一番ビックリしてんのは間違いなくオレだから!
つうかホントに後が怖えから止めてくれ!
今も何故か悪寒が止まらねえんだよ!
闘悟は今さっき審判会議が決まった事実を知らない。
ただ冷や汗が止めどなく流れるのを不思議な気分で受け止めるしかないのだ。
「ちょぉっと待ちなさいっ!!!」
その時誰かの声が聞こえる。
マイクごしに聞こえるので実況席からの声なのだろう。
皆がそちらに注目する。
そこには何故かニアノエル王妃がいた。
「ずいぶん好き勝手言ってくれたじゃないフーちゃん」
「あらニア様! ご無沙汰です~」
フーちゃんことフレンシアは、いきなり登場したニアに驚きもせず声を上げる。
「ちょっとフーちゃん! さっきのは何?」
「さっきとは?」
「いつトーくんとヒーちゃんが婚約したのかしら?」
ニアはフレンシアに半目で詰め寄る。
「ん~だってもうトーゴくんは私の家に来て挨拶したのよ?」
ええ!? 挨拶した覚えなんてねえけど?
「それって……ただの挨拶でしょ? 食事したとは聞いたけど」
ああ、そういう挨拶か。
それなら自己紹介したし、挨拶は挨拶だよな。
闘悟は得心(とくしん)を得たように頷く。
「ともかく、婚約なんて認めないわ!」
「どうして?」
二人は親しそうにやり取りしている。
もうさっきからフレンシアは敬語を使ってはいない。
そこからも二人の新密度が窺(うかが)える。
「トーちゃんはね、もう私の息子同然なの! それに婚約者ならもう決まってるわ!」
嘘ぉぉぉっっっ!?
闘悟はもう何を驚いていいのか分からなくなっていた。
ニアも何故か対抗するように婚約者話を出してきた。
「だ、誰なの?」
「そ、それはね……私の娘達よ!」
ああもう止めてけろぉ!
おらは、おらは何も悪いことなんてしてねえだぁ!
我を忘れて取り乱すように頭を抱える闘悟。
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