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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第八十一話 ミラニ……恐ろしい子!

「とても気持ちの良い結末でしたね」


 フレンシアの言う通り、この闘いはとてもスッキリした最後を見せてくれた。
 初(しょ)っ端(ぱな)に相応しい闘いだったと誰もが感じた。


「予選二日目! 第一回戦を華々しく飾ってくれた両者に今一度大きな拍手をお願いしま~す!」


 ミラニとベニを称(たた)えるように観客達から盛大な拍手が届く。
 それを見ていたクィル達も同じように拍手をしている。


「す、素晴らしかったのです!」
「ええ! 熱くなるバトルだったわ!」


 ステリアが合いの手を入れる。


「ん~ミーちゃんはできる子よぉ~!」


 ニアも両手を合わせながら微笑んでいる。
 その場にいる誰もがミラニの勝利を祝福している。


「トーゴ様、ミラニが勝ちましたです!」


 嬉しそうに笑顔を向けてくる。


「そうだな、危ない面もあったけど、さすがはミラニだ」
「はいです!」


 その後は、モアの掛け声で第二回戦が始まる。
 そしてしばらくしてミラニがVIPルームにやって来る。
 その姿を発見した クィルがミラニに抱きつく。


「ク、クィル様!?」


 いきなりの抱擁(ほうよう)に慌てふためく。


「おめでとうなのです!」


 ミラニは頬を染めながら照れるように顔を伏せる。


「も、もったいないお言葉です」


 それでも嬉しそうにはにかむ。


「やったなミラニ」


 闘悟に声を掛けられ、軽く頷く。


「ああ。まあ、この剣のお蔭でもあるがな」
「いんや、それはただの武器だ。それを上手く扱って闘ったのはお前だ。勝てたのはお前の実力だよ」
「そ、そうか?」


 突然闘悟に褒められ目を逸らすミラニ。
 少しだけ頬が赤い。
 皆も口々にミラニの勝利を称える。
 ミラニは恥ずかしそうに頬を染めるが、内心ではとても嬉しく思っている。
 やはり勝って良かったと思った。


「あ、ところでよ、ミラニに聞きたいことがあんだけどさ?」
「何だ? 今なら何でも答えてやろう」


 余程気分が良いのかいつものように闘悟に軽口(かるくち)を叩こうとはしない。


「おう。あのよ、気になったんだけど、『花柄』って……」


 そう言葉にして闘悟は体を硬直させた。
 いや、これ以上は言葉を発しては駄目だと本能が言っているからだ。
 だってさ、いつの間にかオレの首元に剣が添えられてるからだ。
 ミラニは電光石火の勢いで闘悟の背後を取り、剣を闘悟の首元に当てている。
 不覚にも反応ができなかった。
 ミラニよ……強くなったんだな。
 そして、その強くなったミラニが静かに囁(ささや)く。


「『花柄』が……どうした?」


 うん、これは聞けないね。
 だって死にたく……いや、死なないんだけど痛いしね。
 それに何だか物凄く怖し!
 マジで怖し! 


「い、いやぁ……は、鼻が……ら、楽にかめないなぁ……っと。……風邪気味でさ」
「そうか、今夜は暖かくして寝るといい」
「そ、そうだな……」


 何とか話を違う方向に向かわせることができた。
 闘悟は思った。
 ミラニに『花柄』は禁句なのだと。
 恐らく彼女にはその言葉にただ事ではない想いを込めているのだろう。
 それが正か負かは分からないが……いや、負に間違いなさそうだけど。
 とにもかくにも、彼女には二度とその話題を振らないでおこうと決心する。





 大会は順調に進んでいった。
 ここまでは大番狂(おおばんくる)わせは起きず、有名な人物が勝利を収めていた。
 そして、いよいよカイバの出番だが、ここで驚くべきことが起こった。
 何と、カイバが勝ってしまったのだ。
 本人ですら驚いてはいたが、どうやらカイバの組は、似たり寄ったりの実力者しかいなかったみたいだ。
 中にはこういう組もできるとは思っていたが、まさかカイバの組だとは、彼は余程運がいいのだろうと思った。
 だが、確かにカイバは運がいい方だが、彼もギルド登録者であり、魔法学園の学生だ。
 それなりの実力は持っている。
 特に体捌(たいさば)きは見事といっても誤解を生まないほどの素早さを持っている。
 彼の使う剣術も特に型など無い感じで、相手はそれに苦労して結局は敗北を喫(きっ)してしまったみたいだ。
 闘悟はミラニとカイバの闘いを見て、その後は自分の番が来るまで、椅子で眠りこけていた。
 目が覚めた時、まだ自分の番まで時間があった。


「ん? ステリアとニア様は?」


 一緒にいたはずの二人の姿が見えなかったので、闘悟はどこに行ったか聞くために声を上げる。
 それに答えてくれたのはクィルだった。


「お母様とステリア様はお父様の所へ向かわれました」
「ふうん、そっか」


 向こうには父と兄がいるステリアだ。
 話でもしに行ったのだろう。
 ニアの場合は、むしろここにいることの方が変だ。
 本来なら国王であるギルバニアの傍にいる方が自然だ。
 彼女も各国の代表者達と話をしに行ったのだろう。


「今って何回戦?」
「もうすぐ第十七回戦が始まりますです」
「つうことはもうすぐオレの番か」


 闘悟はそう確認しながら舞台を見つめる。
 そして第十七回戦が始まる。
 ミラニ戦とは違って皆が一斉に動く。
 その中で一人気になる人物がいた。


 その人物はフルフェイスの兜と全身を覆う鎧を身に付けた人物だ。
 見た感じでは男か女かは分からないが、雰囲気から相当の実力者だと感じた。
 鎧の人物が魔法で次々と対戦者を倒していく。
 魔力も相当に高い。
 それに動きも俊敏である。
 他の対戦者も相手が只者ではないと感じたのか、警戒し始める。
 だが、鎧の人物は剣を抜かず、魔法を駆使して闘う。


 そして結果、鎧の人物が第十七回戦の勝利者となった。
 闘悟はその人物を見つめながら何者だろうと考える。
 実況の声を聞くと、名前はスレンと呼ぶそうだが、あのフレンシアでも見たことが無いとのことだ。
 ミラニの反応を見ても、どうやら知らないみたいだ。
 あの強さなら有名になっているとは思う。
 だが兜のせいで顔が確認できないので正体が分からない。
 ま、顔が分かったとしてもオレが知らない奴だろうけど。
 ミラニほど強者に通じているわけではないので、たとえ鎧の人物が有名人だとしても闘悟は恐らく知らない確率の方が高い。


 そのまま次の対戦も終わり、第十九回戦が始まりそうになった時、ステリアとニアが戻って来た。
 闘悟の思った通り、二人は各国の代表者に挨拶をしに行っていたらしい。
 向こうのVIPルームも、今までにないほどの大会の盛大さに熱を込めて観戦しているらしい。
 主にギルバニアが盛り上げているみたいだが。
 そしていよいよ、予選二日目最終戦が始まる。


「そんじゃ、ちょっくら行ってくっかな」


 そう言って大きく伸びをする。
 まるでそこらへんに散歩にでも行くような雰囲気に、周囲の者が呆気にとられる。
 緊張など少しもしていない。
 いつも通りの闘悟がそこにいる。


「あ、あのトーゴ様……気を付けて下さいです」


 相変わらずクィルは心配性だ。


「ま、心配はしてないけど、ケガはしないようにね」


 ステリアが気遣(きづか)ってくれる。


「トーちゃんなら優勝間違いなしよ!」


 ニアが微笑みを投げかけてくれる。


「ですが、無理はなさらないように」


 リアが軽く頷きながら微笑する。


「おお~トーゴならどっか~んだな!」


 ハロが意味の分からないエールを送ってくれる。


「……殺すなよ?」


 ミラニが忠告してくる。
 いや、殺さねえよ! 


「トーゴ……勝って……ね?」


 ヒナは可愛らしくお願いをしてくる。
 闘悟は皆に笑みを送ると一言だけ言う。


「ま、見ててくれ」


 闘悟は闘いの舞台に歩を進めた。


 
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