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ワルキューレ

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第二幕その四


第二幕その四

「さもなければ私達は嘲笑われ力を失い」
「滅亡するというのか」
「そうです」
 そうなるというのである。
「私達の為でもあります」
「我等の為にも」
「ヴェルズングは倒れるべきなのです」
 彼等のその栄光の為でもあるというのだ。
「だからこそ今誓いを」
「わかった。では誓おう」
 彼は止むを得なく答えた。
「今ここで」
「それではです」
 フリッカはここまで聞いてようやく頷いたのだった。
「御願いしますね」
「わかった」
「それでは」
 ここまで話してようやく立ち去るフリッカだった。彼女が姿を消すとヴォータンの横にブリュンヒルテが降り立ったのであった。
「あまりよくなったようですね」
「聞いていたのか」
「御父様のお顔から窺えることよ」
 だからわかると答えるブリュンヒルテだった。
「それはね」
「わかるか」
「義母様はとりあえず満足されているようだけれど」
「わしは自分自身の絆に囚われている」
 ヴォータンの声は苦いものだった。
「全ての者の中で最も不自由だ」
「どうされたのですか、一体」
 怪訝な顔で父に問うた。
「そこまで沈まれて」
「聖なる恥辱、恥ずべき悲嘆」
 ヴォータンは嘆いていた。
「神々の危機だ」
「私達のですか」
「そうだ、危機だ」
 それだというのだ。
「今はまさに」
「危機とは」
 ブリュンヒルテにはわからないことだった。
「一体何故」
「いや、言うにはだ」
 しかしヴォータンはここで止まるのだった。
「あまりにも辛いことだ」
「私は父上の娘です」
 ブリュンヒルテはそのヴォータンに真剣な顔で告げた。
「ですからお教え下さい。どうか」
「わしが誰にも告げないことはそのまま告げられなければいい」
「いいというのですか」
「だからだ」
 ここでこうも言うのだった。
「わしが自分に相談しているつもりで話そう」
「そのことをですね」
「青春の愛の歓楽がわしの前から消えた時」
 それは遥かな昔のことであった。
「わしは激しい欲望にかられ権力を欲し世界を手に入れた。そして不実も行った」
「私が生まれる前ですか」
「ローゲと共に様々なことを行った。権力を得ても愛を忘れはしなかった」
「愛をですか」
「夜が生んだアルプ、アルベリヒが愛をのろいラインの輝く黄金とそれがもたらす無限の権力を手に入れようとした」
 それもまた過去のことだった。
「あの指輪を謀によって手に入れたがラインの乙女達には返さなかった」
「それはどうしてですか?」
「その黄金でわしは巨人達が築いたヴァルハラへの支払いを済ませその城から世界を治めたのだ」
「それがこのヴァルハラだと」
「そうだ、この城がだ」
 天に浮かぶこの巨大な城こそがだというのだ。
「その中でわしに指輪を持つなと告げたエルダと会いそのうえであの者も妻とした」
「それが私達が生まれた」
「そうだ。それがはじまりなのだ」
 その時がだというのだ。
「その時に御前が生まれたのだ。御前達がだ」
「それでだったのですか」
「御前達ワルキューレにより神々の終末を、黄昏を避けようとした」
 神の長としてのことである。
「敵に対して戦う為に御前達に英雄達を集めさせているのだ。黄昏を避ける為にだ」
「では私はこれからも」
 ブリュンヒルテはさらに父に告げてきた。
 
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