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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第七十三話 第一回戦決着したぜ!

 バトルは思った通りの進行になっていた。
 ヤーヴァスが最大の敵だと感じた参加者達は、まずヤーヴァスを倒そうと全員が敵意を向ける。


「これは危険ですヤーヴァス選手! あまりの強さに畏怖(いふ)を感じたのか、他の参加者達が一斉にヤーヴァス選手ににじり寄る!」
「それだけ『魔剣ドール』を持つヤーヴァスさんが危険だということですね」


 モアの実況にヒナの母であるフレンシアが解説を加える。


「ほうほう! フレンシア様もやはりヤーヴァス選手有利だと?」
「そうですね。確かに『魔剣』は強力です。ですが、幾ら強力な武器を持とうがそれを扱う者が未熟だと意味はありません」
「そうですねぇ~」
「ですが、ヤーヴァスさんはAランクのギルド登録者。周囲から恐怖とともに名付けられた『土波(つちなみ)』の名は伊達ではないでしょう」


 二人の会話に観客席の者達は頷きを返す。
 皆その解説に異論は無いようだ。


「おおっと! そうこうしてるうちに参加者達がヤーヴァス選手に迫っていく!!!」


 今度は十人程度が接近戦を試みる。
 手にした武器を構えてヤーヴァスに向かって走っていく。
 ヤーヴァスはその様子を見て目を細める。


「……無駄だ」


 そう言うと彼は地を斬るようにして剣を大きく振るう。
 すると斬りつけた地面がうねりを上げる。
 まるで波のように土の塊が向かって来る十人を襲う。
 波の高さは人を容易に超越(ちょうえつ)している。
 いきなりのことで対応できず、十人は土に飲み込まれていく。
 その様子を周りの者は黙って見ていることしかできない。


「す、すっご~い! 襲い掛かる土の波! まさに『土波』だぁぁぁぁっ!!!」


 十人を一気に再起不能にした実力は本物だった。
 『土波』という二つ名は伊達ではないということだ。


「相も変わらず凄まじい威力だな」


 ミラニは少し頬を引き攣(つ)らせている。
 もしかしたらミラニ自身も、あの技を受けたのかもしれない。


「だけど、あれまだ全力じゃねえだろ?」
「分かるのか?」
「まあな」


 闘悟はヤーヴァスを見つめながら言う。
 彼はまだまだ余裕がありそうだ。
 これで戦闘不能は十三人。
 場に立っているのは残り十七人。
 この中から一回戦の勝者が選ばれる。
 ヤーヴァスは怯(ひる)んでいる者達に素早く近づき、次々と気絶させていく。
 がむしゃらに魔法をぶつけてくる者がいるが、ヤーヴァスは軽く避け、時にはまた土の壁を作り防ぐ。
 そして残りは……七人。


「電光石火の動きで次々と対戦者を薙(な)ぎ倒していくヤーヴァス選手! 残った者達はどうやってヤーヴァス選手に立ち向かうのでしょうかぁ!?」


 モアの実況の熱に当てられ観客達も盛大に盛り上がる。
 そしてまたヤーヴァスは対戦者に向かって走る。


「……あと六人」


 ヤーヴァスは確認するように声を出す。


「……あと五人」


 そう言いながら数を減らしていく。
 いよいよ残り二人になる。
 場に立っているのは三人だ。
 ここまであっという間の出来事だった。
 観客の中にも、あまりの速さに口をポカンと開けている者もいる。


「さあ! いよいよ大詰(おおづ)めです! この三人の中から果たして誰が勝つのでしょうかぁ!!!」
「はい、ですが残りの二人はなかなかの実力者ですよ」


 モアの言葉に応えるように言ったのはフレンシアだ。


「それはどういうことでしょうか?」
「残りの二人。一人は『角のある妖精(フェアリーホーン)』の実力者と名高いロイさん。そしてもう一人は我が『ヴェルーナ魔法学園』の生徒であるカンクさんです」
「ほぅ、ロイ選手はともかく、そのカンク選手はそれほどの選手なのでしょうか?」
「分かりません」
「へ?」


 モアが呆けたようにポカンとする。

「あ、あの……ですが今、なかなかの実力者だと……?」
「まあ、一応カンクさんは貴族ですし、ここまで残ってるわけですから、それなりに強いのではないでしょうか?」
「……そんな理由ですか?」
「はい!」


 物凄い笑顔で肯定した。
 その声を聞いていた闘悟は溜め息を吐く。


「フレンシアさんっぽい発言だなぁ」


 あれでも三賢人なんだからホントビックリだぞ。


「ごめん……ね?」


 ヒナが申し訳ないような表情をする。


「え? はは、ヒナが謝る必要なんてねえよ。それに、面白いからいいんじゃねえかな」


 ニカッと笑いながらヒナに言う。


「……ん」


 コクコクと納得したように頷く。
 よし、ヒナには暗い顔は似合わないからな。
 それにしても、最初に攻撃を仕掛けた五人は、恐らくこのロイって奴を勝ち残らせるためにヤーヴァスに向かって行ったみたいだな。
 だが、その企みはヤーヴァスと言う強大な敵の前に、あっけなく瓦解(がかい)してしまったわけだ。





「さ、さすがは『土波』だな」


 そう声を出したのは、ヤーヴァスと対面しているロイだ。
 その額には大量の汗が滲(にじ)んでいる。
 もう一人のカンクは、息も絶え絶えのような感じで肩を上下している。
 だが、その瞳にはまだ諦めていない強さが現れている。
 すると、ヤーヴァスが静かに声を出す。


「この三人が残ったのは何かの縁だ。名を聞いておこうか」


 ヤーヴァスに声を掛けられ、意外そうに目を見開く彼らだが、睨(にら)みを利かせながら口を開く。


「俺は『角のある妖精(フェアリーホーン)』のロイだ」
「僕は『ヴェルーナ魔法学園』の第五学年『アンコンクェラブル』ルームリーダーのカンク・レイリントだ!」
「……私はヤーヴァスだ」


 三人は互いに視線を交わし距離を取る。
 そしてカッと目を見開いたロイが、すかさず間を詰めて、剣をそのままヤーヴァスに向けて投げる。
 その行為に少し意表をつかれる。


「むっ!」


 ヤーヴァスは飛んでくる剣をサッと避わす。
 だが、それを予期していたロイはニヤッと笑う。


「くらえっ! 『火の大矢(フレイムアロー)』っ!!!」


 大きな矢型の火がロイから放たれる。
 その大きさは普通の弓矢の十倍以上は超えている。
 ちなみに『火の矢(ファイアアロー)』の強力版である。
 複数の『火の矢(ファイアアロー)』を、一つに束ねて作る魔法である。
 ヤーヴァスは剣でそれを受ける。


「むぅっ!」


 チリチリと髪の毛が焦げる臭いが漂う。
 ロイがやったかと思った矢先、ヤーヴァスから声が届く。


「いい魔法だ。返すぞ」
「え?」


 ヤーヴァスは剣を力を込めて『火の大矢(フレイムアロー)』ごと押し返す。
 すると、逆に返された魔法はロイの足元に落ち爆発を起こし、彼を吹き飛ばす。
 地面に転がり意識を失う。


「……あと一人」


 そうしてカンクに視線をやり、眉を寄せる。
 カンクは驚くべき行動をしていたのだ。


「こ、これでどうだぁっ!!!」


 何とカンクの上空には大きな水の塊が浮かんでいた。


「『水暴の巨弾(アクアブレッド)』っっっ!!!」


 ヤーヴァスはその魔法を見て、ほんの少しだけ口角(こうかく)を上げる。
 そして剣を地面に刺し、一言だけ呟く。


「……答えよ」


 ドゴォォォォッ!!! 


「や、やりましたカンク選手! ロイ選手が攻めている間、彼はその時間を利用して詠唱を成功していたみたいです! 中級の水魔法をヤーヴァス選手にぶつけましたぁ! さあ、これで勝負は決まったのかぁ!」


 モアの実況に、周囲の者達は食い入るように着弾した場所を見つめる。


「あ、だ、大丈夫でしょうかヤーヴァスという方は……」


 クィルは不安そうにミラニを見つめる。
 彼の知り合いであるミラニを心配しているのかもしれない。
 だが、クィルの心配は無用のようで、ミラニは平然としている。


「彼があの程度でやられるわけはありません」
「そ、そうなのですか?」
「はい」


 水弾(すいだん)のせいで発生した霧のようなものが次第に晴れていく。


「なっ! ば、馬鹿なっ!?」


 カンクは目の前の光景を見て驚愕する。
 そして、そこに立っている人物を凝視(ぎょうし)する。


「……残念だったな」


 それは間違いなくヤーヴァスだ。
 無傷でその場所に立っている。
 だが、彼の目前にはまたも地面が盛り上がっている。
 ただ先ほどと違うのは、手のような形をしていることだ。
 まるで何かを握りつぶしたように拳を作っている。


「ぶ、無事だったぁっ!!! さすがは『魔剣』の使い手ヤーヴァス選手!!!」


 モアが言葉に熱を込める。


「あの手形の土で、水弾を防いだのでしょう」


 フレンシアが矢継(やつ)ぎ早(ばや)に解説をする。


「大地に水は効かない」
「く、くそっ!」
「お前はまだ若い。これからも励め」


 そう言うとヤーヴァスは一瞬で間を詰める。
 魔力で身体能力を強化する。
 その速さで、魔力の高さも窺(うかが)い知れる。
 そして、彼はカンクに一撃を与え眠らせる。
 剣を鞘に納めるとそれを確認したモアが声を張り上げる。


「き、き、決まったぁぁぁぁっ!!! 第一回戦の勝者はヤーヴァス選手です!」

 
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