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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic8-B神は言っている。魔法少女になる運命だと~The FooL~

†††Sideなのは†††

アリサちゃんとすずかちゃん、そして動物形態のセレネちゃんとエオスちゃんと一緒に、改めてお風呂に入りに来た。エオスちゃんの首には“レイジングハート”と似たような宝石が紐で提げられていて、聴けば“クレイオスソウル”っていうデバイスとのこと。“レイジングハート”と同じように古い遺跡でセレネちゃん達が発掘したって話を、念話でしながら脱衣場で服を脱いでいるところで、

「あ・・・!」『『これは、ジュエルシード!!』』

セレネちゃんとエオスちゃんも感じ取ったみたい。ジュエルシードが発動したことが。2人に念話でアリサちゃん達のことをお願いして、私はひとり浴衣を着直して脱衣場の出口に向かう。

「え、なのはちゃん!?」「ちょっとどこ行くのよ、なのは!」

「ごめん、ちょっと用事!」

浴衣はちょっと走りにくいかも。足を上げれば裾が捲れて、中が見えちゃうし。とにかく『ユーノ君!』お父さんやお兄ちゃんと一緒に男湯へ向かったユーノ君に念話を通す。

『うん、判ってる! すぐに合流しよう!』

『うんっ!』

旅館の出口へ向かう中でユーノ君と合流して、旅館外の林の中をひたすら走る。すると、「あの光は・・・!」ジュエルシードの輝きを見つけて、そっちの方へ走りつつ変身を終える。
そして、

「フェイトちゃん!?・・・って、あれ? アルフさんは・・?」

開けた場所に辿り着いた私たちが目にしたのは、フェイトちゃんと1頭のオレンジ色の大きな狼さん。それと、何かしらの気配を林の中から感じる。“レイジングハート”を強く握り締め直す。

『なのは。あの狼がきっとアルフだ。額の宝石、見えるよね。おそらく彼女は、使い魔だ』

『えっ、そうなの!?・・・ユーノ君やセレネちゃんとエオスちゃんとは違うの・・・?』

使い魔のことを聴く前に、林の中から大きくて黒い何かがものすごい速さで飛び出してきて、フェイトちゃんに襲いかかった。最初はテスタメントちゃんかと思ったけど、「お猿さん!?」だった。と言っても2mくらいの身長だけど。見た目はもはや身動きが素早いゴリラさん。フェイトちゃんを護るように狼姿のアルフさんが飛び掛かったけど、「ぐあっ!?」逆にお猿さんに殴り飛ばされて、樹に激突した。

「バルディッシュ!!」

――フォトンランサー・フルオートファイア――

“バルディッシュ”の先端から連射される魔力弾だけど、お猿さんは大きい体なのに簡単に避けて、雄叫びを上げながらフェイトちゃんに殴りかかった。でもフェイトちゃんは空に上がることでパンチを受けずに済んで、お猿さんはそのまま林の中に消えて行った。

「あ痛たた。すごいパンチだったよ、アイツ・・・って、あ、あんた達・・!」

「・・・君たちは・・・。君たちもジュエルシードを追って来たんだね」

口端から流れる血を前足で拭うアルフさんと、樹の枝の上に降り立ったフェイトちゃんの視線を受ける。でもすぐに私から林の中に移動していって、それに釣られて私もそっちへ振り向いた。その直後、≪マスター!≫っていう“レイジングハート”から警告。林の中からお猿さんが飛び出してきて、その大きな拳でのパンチを繰り出してきた。

(早い! ダメ、避けれない!)

≪Protection≫

ギリギリでプロテクションが張られたことで完全に防御、直撃はしなかった。けど、「きゃああああ!」その威力には逆らえずにプロテクションごと殴り飛ばされちゃった。背中から樹にぶつかって、「げほっげほっ!」苦しくてそのまま座り込む。苦しさと痛みで涙が出て、視界が滲んじゃう。
そんな中でもさっきのお猿さんが襲い掛かって来るのが見える。しかもその1匹だけじゃないのも判った。そしてフェイトちゃんとアルフさんは、別に現れた3匹のお猿さんを相手にして離れて行った。

「なのは!」

――サークルプロテクション――

ユーノ君が展開したのは半球状のバリアで、お猿さんの攻撃をちゃんと防いでくれてる。お礼を言おうと口を開いて・・・声を出すことが出来なかった。視界の端で信じたくないものが映ったから。首をゆっくり動かして林の中を――正確にはそこに佇む2匹のお猿さんの真っ赤に光る眼を見る。私と目が合ったことで、その2匹のお猿さんが一斉に襲いかかって来て、バリアを殴り始めた。

「ダメだっ、保たない!」

ユーノ君がそう叫んだ瞬間に私はユーノ君を肩に乗せて、飛び立つ準備。バリアが砕けたと同時に空に飛び上がって、砲撃魔法を撃つためのモードに変えた“レイジングハート”を、密集してる3匹のお猿さんに向ける。

「ディバイン・・・バスタァァァァーーーーーッッ!!」

すぐにディバインバスターを撃った。そのお猿さん達はディバインバスターの直撃を受けて、煙のように消えた。

「実体じゃなくて思念体!? なのは、本体を探さな――危ないっ!!」

≪Protection≫

倒したことで完全に油断してた。頭上から新しいお猿さんが降って来ていたことに気付かなかった。お猿さんはプロテクションに弾かれて林の中に落下。また“レイジングハート”に助けられた。ホッとするのも束の間、「ふえ!?」足を掴まれた感覚を得て、足元を見下ろす。

「ひっ・・・!」「この・・・!」

また別のお猿さんが樹のてっぺんから身を乗り出して私の右脚を掴んでいた。目が合うと、ニヤリって笑顔になった。恐い。ただそう思えてしまう、凶暴な笑み。でも恐がってばかりじゃいられない。“レイジングハート”の力を借りて、魔力スフィアを4基展開。ディバインシューターとして撃つ前に、

「きゃぁあああああああああッ!「うわぁぁああああああああッ!」

お猿さんが樹から飛び降りた。当然脚を掴まれてる私たちも一緒に落ちることに。地面までの数秒。

「シューット!」

ディバインシューターを放って、足を掴んでるお猿さんを倒す。地面に叩き付けられる前に空中で飛行魔法のフライアーフィンを発動して落下停止、態勢を整えていたところに、すぐ後ろに何か現れたことを肌で感じた。すぐに新手だってことが判った。トンッと肩から重みが消える。ユーノ君が飛び上がったんだ。

「なのはは僕が護る!!」

背後から聞こえたユーノ君の叫び。声を掛ける前に、止める前に、私が魔法を使う前に、ユーノ君が魔法を使う前に、ゴッと嫌な音が耳に届いた。ようやく振り返ることが出来て、それと同時に胸に飛び込んできたユーノ君を抱き止めた瞬間、私もお猿さんに殴り飛ばされた。

†††Sideなのは⇒アリサ†††

今日一日なのはの様子が変だったから、脱衣場から飛び出していったなのはの後を追いかけた。その先で待っていたのが、いま目の前に繰り広げられてるただひたすら信じられない光景だった。

「アリサ。あれが、あの姿が、あなたが恥ずかしいって言ってた魔導師の姿だよ・・・」

「あなたの友達、高町なのはは、私とエオスの幼馴染のユーノ・スクライアの力を借りて魔導師になって、ああしてジュエルシードを集めてる」

セレネとエオスの声が遠い。魔法だとか今はもうどうでもいい。あたしの目は、学校の制服のような白いワンピースを着て、機械のような杖を手に、黒くて大きな猿のような怪物と戦っているなのはに釘づけだった。

「え、どういう、こと?・・・アリサちゃん・・・なに、これ・・・? え? ハムスターとリスが喋って・・・あれ? ねえ、アリサちゃん・・・?」

あたしだけじゃない。ここにはついさっきまで何も知らなかったすずかまで居る。すずかは半泣き状態で、「なのはちゃん・・・ユーノ君・・・」って口を手で押さえて全身を震わせてる。前情報を持ってるあたしですらショックなんだから、すずかの受けたショックはもっとひどいものだと思う。なのはは空を飛びながら猿の怪物と戦っていて、怪物のパンチを膜のようなもので防いだりしていて、かなり危なっかしい。

「すずか。よく聴いて。セレネ、エオス。説明をお願い」

セレネとエオスに頼んで、この世界のことをすずかに簡単に説明してもらった。次元世界。魔法。魔法使い――正式には魔導師。なんかすごい宝石ジュエルシード。ジュエルシードを集めるために、この世界にやって来た異世界の人間であるセレネとエオス。そしてあたしもたった今知ったけど、ユーノも2人と同じで元が人間の魔導師。しかも2人とは幼馴染で、家族としてつい最近まで一緒に暮らしてたって。

「どうして・・・今まで教えてくれなかったの・・・?」

「どうしてって。まずコイツらに口止めされたこと。第2に、ファンタジー好きなすずかやなのはに話したとしても信じてもらえなくて、頭を疑われちゃ堪ったもんじゃないし」

想像してみて心が折れそうだったし。すずかはふるふる首を横に振って、「お友達の話を信じないわけないよ・・・!」って当たり前なことを言われたあたしは、自分の馬鹿さ加減に呆れ果てた。そうだ。どんな信じられないようなことであってもそれを信じるのが、親友としてのあたし達の絆なんだ。

「口外しないでって言っ――ふがふが!?」

今は水は差してほしくないからハムスター(セレネ)の顔を手で塞いで黙らせる。

「まずい! なのはがやられる!」

エオスが最悪なことを叫んだ。ハッとしてなのはの姿を空に探して、すぐに発見。樹のてっぺんに怪物が居て、宙に浮いてるなのはの右脚を掴んでた。怪物はその樹の上から飛び降りた。脚を掴まれてるから逃げられないなのはと、なのはの肩に乗ってるユーノが悲鳴を上げながら釣られて落下。

「なのはっ!」「なのはちゃん!」

最悪の事態、なのは達が地面に叩き付けられる光景が脳裏に過ぎって、すずかは両手で顔を覆い隠して、あたしはギュッと目を瞑り・・・たかったけど、なのはから目を逸らすことが出来なかった。けどそれで良かったのかも。
なのはは桜色の光の弾で怪物の腕や頭を潰して、逃れることが出来たのを確認できたから。あたしがホッと安堵したのが伝わったのかすずかは恐る恐る手を退けて、なのはの無事を確認して「よかった」って緊張を解いた。でも・・・・

「「「「あ・・・!!」」」」

新手の怪物が、煙のように突然なのはの後ろに現れた。ユーノが庇うように飛び出して、成すすべなく怪物に殴り飛ばされた。

「「ユーノッ!!」」

セレネとエオスが悲鳴を上げて、

「なのはっ!」「なのはちゃん!」

あたしとすずかもすぐに悲鳴を上げることに。ユーノを抱き止めたなのはへさらにパンチした怪物。今度は膜が張られる前にそのパンチの直撃を受けて、すごい勢いで地面に叩き付けられた。もう黙って見ていられない。けど、なんの力も無いあたし達が出てったところで足手まといになることくらい判る。だから、この中で一番頼りになる魔導師のセレネとエオスに詰め寄る。

「何とかしなさいよセレネ、エオス!!」

「セレネちゃん、エオスちゃん、お願い! なのはちゃんとユーノ君を助けてあげて!」

「「私たちだって戦えるなら今すぐ戦うよ!!」」

「でも無理なの!」

「今の私たちじゃまともに戦えるだけの魔法は使えないんだよ!」

そうだ。2人は戦いで傷ついて、魔力っていうのが回復するまで人間形態にも戻れないんだったわ。

「だったらあたしがなってやるわよっ、魔法使い! 前、セレネは言ってたわよね! 私たちと契約して、魔法少女になってよって! 契約でも何でもしてやるわ!」

今もこうしている間になのはとユーノがまずい状況になっていくわ。様子を窺えば、なのははユーノを抱えながらも杖から光の柱を撃って、怪物2匹を消し飛ばしてた。でも、また新しい怪物が出て来るし。いつやられてもおかしくない状況。もう恥ずかしいとか、そんなのは頭の中から吹き飛んだわ。

「わ、私もなる! アリサちゃんと一緒に魔法使いになるよっ!」

「すずか!? あんた、何言ってるのか解ってんの!?」

すずかまで魔法使いになるなんて言い出した。

「解ってる! 魔法使いになれば、なのはちゃん達を助けられるってことが!!」

こうなったすずかはもう折れない。それが判るからこそもう何も言わない。

「で? どうすればなれるのよっ? そのデバイスとかを使えばいいわけっ?」

エオスが首から提げてる宝石に手を伸ばそうとしたところで、セレネが「ごめん。あなた達はなれないんだよ」って呟いたのが聞こえた。

「どうしてよ?」「どうしてなの?」

「魔導師が魔法を扱うには、リンカーコアっていう器官が必要なの。なのはは管理外世界じゃ珍しくリンカーコアを持っていて、しかも総魔力量が桁違い。だから素人なのに、あれだけの魔法戦が出来る。けど、アリサとすずかには無いんだ、リンカーコア」

「えっと、あの契約の話、私なりのギャグのつもりだったんだよね・・・」

「「そんな・・・・」」

結局あたし達は、大切な親友なのはがボロボロにされるのを黙って見ていることしか出来ないわけ? なのはは光の弾を何発も撃って、怪物たちを寄せ付けないようにしてるけど、明らかに動きが鈍ってきてる。あたしはもう見ていられなくなって、宝石に手を伸ばして掴み取る。

「「アリサ・・・!?」」

「無理だろうがなんだろうがなってやるわっ!! あたしは魔法使いになって、なのは達を助けるんだから!!」

「私も魔法使いになります!!」

宝石を握ってるあたしの手に、すずかも手を添えてきた。すると宝石から強い光が発せられて、ビックリしてあたしとすずかは宝石から手を離す。

『その願い、叶えましょう』

「「「「え、なに!?」」」」

女の子の声のようなのが聞こえた気がした。辺りを見回しているとエオスの首から宝石が離れて、あたしとすずかの前にまで浮いて近づいてきた。宝石の中からまた別の青い宝石が出て来くると、セレネとエオスが「ジュエルシードが!」って驚きを見せる。そのジュエルシードの放つ光が光線みたいになって、あたしとすずかの胸に入り込んできた。

「「っ・・・!?」」

「アリサ、すずか!?」

「ちょっと大丈夫!?」

心配してくれるんだけど、今のあたしには答えられそうにない。すずかも胸を押さえて「熱い・・」って呻いてる。あたしもそう。体が焼けるように熱くて、声が出ない。でもすぐに治まって、何て言うか「体に力が溢れてる・・・?」そう感じだ。

「うそ・・・ジュエルシードが、アリサとすずかの願いを叶えた・・・!?」

「ジュエルシードの魔力が空っぽなんですけど!!」

2人はもう大混乱。けど、あたしとすずかは「これで助けに行ける!」それしか考えてない。すずかと一緒に地面に落ちてる宝石を手に取って、「どうすればいいの!?」2人に尋ねる。

「ああもう! すべてはイメージ。イメージをその宝石、クレイオスソウルに伝えるように!」

「起動用パスワード、衣服、自分が持ちたい杖のデザインをイメージ!!」

「「イメージ・・・」」

2人に言われた通りにイメージするために目を閉じてる。まずは起動用のパスワード。あんまり可愛らしいのは嫌かも。真っ先に思い浮かんだのは、習っているバイオリン。すずかをチラッと見ると目が合った。どうしてか判らないけど、同じことを考えてるって理解できる。だから、

「「デタッシュ・レガート・サルタート」」

バイオリン奏法のいくつかを組み合わせたパスワードを同時に唱えた。お互い顔を見合わせて苦笑い。考えてることがやっぱり同じだったわね。次に衣服と杖のデザイン。一瞬だけど想像したのは、なのはが着てるようなやつ。なのはには似合うと思うんだけど、あたしにはちょっと辛いものが。だから可愛いじゃなくて格好いい物をイメージ。杖だって別に見た目まで杖じゃなくてもいいと思うし。

「(よし、決めた!!)・・・って、すずかと同時にイメージしてるけど大丈夫なの!?」

「え? あ、そうか。どうしよう、私のイメージがアリサちゃんにも伝わったら・・・」

そんなあたし達の心配に対してセレネが「心配も問題もなし。だってクレイオスソウルっていうのは・・・」そこまで言いかけたところで、あたしとすずかの全身が光に包まれた。

†††Sideアリサ⇒なのは†††

樹の枝葉に隠れて一時休憩中な私。ユーノ君はお猿さんに殴られて気を失ってからまだ目を覚まさない。

「はぁはぁはぁはぁ・・・。数はやっと2匹、かぁ・・・」

ジュエルシードの本体を探そうにもお猿さんの包囲網が分厚すぎて抜け出せなかった。しかもジュエルシードの気配がお猿さん1匹1匹から感じられるから、どれが本体なのかも判らない。今使える魔法でなんとか凌いでいるけど、もう体力も魔力も限界に近いよ。今はなんとか新しいお猿さんが出るのが止まってるけど、残りの2匹のお猿さんが私を探してウロウロしてる。

(フェイトちゃんとアルフさんは・・・?)

遠くの方で雷が空に向かって放たれたり、空から降って来たりしてるから、今も戦ってるんだと思う。フェイトちゃん達でも苦戦してるとなると、私が苦戦してもおかしくないよね・・・。

≪マスター。一時撤退を提案します。体勢を整える必要があるかと思います≫

“レイジングハート”からも今の状況がかなりまずいことだって言われちゃった。確かに終わりの見えないお猿さん退治。このまま続けても一方的に弱るだけだってことは判ってる。

「でも・・・・え・・!?」

少し離れたところからジュエルシードが発動した気配。

「まさか2個目のジュエルシードが在ったの!?」

お猿さんが私からそっちの方に気を取られ始めた。攻撃するチャンスだけど、倒した後の新手に襲われるかと思うと、ちょっと考えさせられる。

(でも全然気付かなかった。あんな近くにジュエルシードが在ったなんて)

お猿さんがドスドス足音を鳴らしながら、ジュエルシードの方に向かって行く。迷いを振り払って“レイジングハート”をそっちに向ける。お猿さん撃破とジュエルシード封印を同時に行うために。あともうちょっとでお猿さんがジュエルシードに辿り着くというところで、

――フレイムウィップ――

「え!?」

そんなお猿さん2匹を炎の鞭が薙ぎ払って倒しちゃった。完全にそれは魔法で。一体誰が?って思いが私の頭の中を駆け巡る。呆けながら眺めていると、今日何度目かの混乱が私を襲った。

「アリサちゃん・・? すずかちゃん・・!?」

草陰から出て来たのは、バリアジャケットらしい服を着たアリサちゃんとすずかちゃんだった。

「なのはぁぁぁーーーーーッ!!」

「なのはちゃーーーーーん!!」

耳にしっかり届く、私の名前を呼ぶ声。頭の中がごちゃごちゃになって涙が溢れてきた。アリサちゃんは剣のようなデバイスをブンブン振っていて、すずかちゃんもグローブ?をはめた手を振ってくれてる。私は樹から飛び降りて、「アリサちゃん、すずかちゃん!」涙を拭うこともしないで2人に抱きついた。

「「きゃっ?」」

「どうして2人が!? あの、え!? その、魔法だよね!?」

アリサちゃんとすずかちゃんの体温を感じて、これが現実だって理解できるようになると、本格的に混乱が襲ってくる。

「説明は後よ! すずか!」

「うんっ! お願い、スノーホワイト!」

≪お任せくださいまし≫

すずかちゃんのデバイス、“スノーホワイト”が上品な言葉づかいで応えると、すずかちゃんの足元に紫色(あとですずかちゃんに聴いたら藤紫って色だった)の魔法陣が展開された。

――フィジカルヒール&ディバイドエナジー――

“スノーホワイト”の甲にあるクリスタル部分から“レイジングハート”のコアへの魔力が移動した。それだけじゃなくて私とユーノ君を包み込む優しい魔力が、負っていた傷を癒してくれた。

≪完了いたしましたわ、スズカ≫

「「「おお・・!」」」

みんなで感嘆する。私の時と違ってすずかちゃんはすぐに魔法を、しかも同時に発動させた。それにアリサちゃんも「新手ね。行くわよ、フレイムアイズ!」ってデバイスの名前を呼んで、柄元のところに有る鉄砲の引き金みたいなところを引いた。アリサちゃんの足元に夕焼けのような綺麗な茜色の魔法陣が展開されて、銃の機関部から薬きょうみたいのが飛び出すと刃から炎が噴き上がった。

≪おう! いっちょかましてやれっ、アリサ!≫

アリサちゃんのデバイス、“フレイムアイズ”はなんだか荒っぽいかも。

「うりゃぁぁぁああああああああッッ!!!」

――フレイムウィップ――

刀身から伸びる炎の鞭が新しく出て来たお猿さん3匹に向かっていくけど、学習されちゃったのかジャンプされて避けられた。

「セレネちゃん、エオスちゃん。ユーノ君をお願い」

「「うん!」」

傷は治っても気絶したままのユーノ君を、セレネちゃんとエオスちゃんに預ける。そしてすぐにすずかちゃんと“スノーホワイト”に「ありがとう!」お礼を言って、“レイジングハート”を空中に居るお猿さんに向けて、

「いけるよね、レイジングハート!」

≪All right. Divine Shooter≫

「シューット!」

シューター6発を発射。落下し始めたお猿さん1匹に対して2発のシューター。2匹のお猿さんは1回で倒せたけど、最後の1匹は体を捻って避けた。でも「甘いよ!」避けられて残った2発のシューターを操作して挟み撃ち、今度こそ倒す。

「やるじゃん、なのは♪」

「すごいよ、なのはちゃん!」

ハイタッチを求めて来たアリサちゃんとハイタッチして、すずかちゃんは両手で私の手を握って縦にブンブン振って褒めてくれた。

「アリサちゃんもすずかちゃんもすごいよ!と言うか、どうして魔導師になっちゃってるの!?」

ユーノ君の話だと、アリサちゃんとすずかちゃんにはリンカーコアは無いってことだったのに。

「あとでゆっくり説明してあげるわよ。ほら、ジュエルシードを集めるんでしょ!」

「私とアリサちゃんも手伝うから。ジュエルシード探し。習い事もあるし塾もあるから、いつも一緒ってわけにはいかないけど」

「ううん、気持ちだけでも嬉しい!・・・って、また出て来ちゃったよぉ・・・!」

アリサちゃんの言う通り、今はジュエルシードを封印するのが先決だよね。だけどそれには1つ問題があったりする。話を中断して、二列縦隊なお猿さん4匹を、私とアリサちゃんで迎え撃つ準備をする。

「レイジングハート!」

――ディバインシューター――

「フレイムアイズ!」

≪今度は外すなよ、アリサ!≫

「判ってるわよ!!」

――フレイムウィップ――

まずは私のシューター4発を先頭のお猿さん2匹に発射。バラバラに散って避けらたけど、そこにアリサちゃんのフレイムウィップが襲い掛かった。横一線に振り抜かれたその一撃に、1匹のお猿さんが直撃を受けて消滅。操作したシューターで残り3匹のお猿さんを追撃して、2匹のお猿さんを倒す。最後の1匹は、「おりゃぁぁぁああああああッ!」アリサちゃんが切り返したフレイムウィップで倒すことが出来た。

「ふぅ。さっきの続きなんだけど、ジュエルシードの気配がお猿さんそれぞれから感じて、どこに本体があるのか特定できないんだ・・・」

「う~ん、探してる最中にあの怪物が襲ってくるのも面倒よね」

今もこうしてる間に新手が出て来るかもだし、最悪フェイトちゃん達に取られちゃうかも。うんうん悩んでいると、エオスちゃんが「ちょっといい?」って前足を上げてきた。私とアリサちゃんで周囲を警戒しながら、エオスちゃんの話に耳を傾ける。

「すずか。あなたのデバイス、スノーホワイトの機能容量の大半は補助系なんだよ。だから、アリサのフレイムアイズより、そしてたぶんレイジングハートよりも索敵・探査能力が優れてる」

「そうなの? スノーホワイト」

≪ええ。すでに探査用の魔法を持っていますし、その精度にも自信を持っていますわ≫

「決まりね。すずか、スノーホワイト。ジュエルシードの本体の場所、探してくれる?」

「うんっ!」

そういうわけで“スノーホワイト”の力を借りて、すずかちゃんがジュエルシード本体を探索する魔法、広域探索を使った。精度がすごいらしくて、そんな時間もかけずに「あっちだよ!」すずかちゃんが林の奥を指差した。

「行くわよっ、なのは、すずか!」

「「うんっ!」」

すずかちゃんだけが持つ物が無いってことでユーノ君たちを抱えて、私たちは新手のお猿さんが出て来る前に本体の在るところへ走って向かう。

「あの、なのはちゃん」

「どうしたの? すずかちゃん」

「さっきの探索魔法で、ジュエルシードの本体の近くに別の魔力を2つ感じ取ったんだけど・・・」

「きっとフェイトちゃんとアルフさんだ。雷が光ってるのが見えていたと思うけど、アレを使ったフェイトちゃん達は、私たちと同じようにジュエルシードを集めているんだ」

この際に伝えておく。私とユーノ君、フェイトちゃんとアルフさん、そしてテスタメントちゃんって子が、ジュエルシードを巡って戦うことになってる事を。

「テスタメントってのも魔法使いだったわけね。で? どうしてなのはは、あたしをテスタメントだって思ったのよ?」

「テスタメントちゃんって、顔や頭を仮面とかフードで隠してて素顔が判らなくて」

「あー、そういうこと。魔法使いのセレネとエオスを連れていたから、あたしがテスタメント、もしくはその関係者だって思ったわけね」

「えっと、そういうわけです」

実際は違っていたけど。でも結局は魔導師になっちゃったアリサちゃん。しかもすずかちゃんまで。続きを話そうと思ったところで、ピカッと雷が落ちる時のような光が私たちを襲って、

「「「「「きゃっ!!?」」」」」

遅れてガァァン!!って体の奥まで震えるような爆音が目指す場所から聞こえた。正しく空から雷が落ちた。雷の魔法を使うフェイトちゃんの仕業で間違いない。走るスピードを上げて、やっと辿り着いた場所は、小川が流れる林道。小川を挟んだ向こう側の林の中には「フェイトちゃん!」が“バルディッシュ”を支えにしてようやく立っていられるって感じで佇んでいた。狼姿のアルフさんはフェイトちゃんの足元でぐったりと座り込んでて、私たちが来ても何も言わない。

「はぁはぁはぁ・・・。悪いけど、ジュエルシードは頂いていきます・・・」

息も絶え絶えでボロボロなフェイトちゃんの側には1つのジュエルシードが光り輝いて浮いていた。間に合わなかったんだ。すずかちゃんが抱えてるユーノ君に「ごめんね」って謝る。俯きそうになると、焼け焦げて崩れた橋の残骸が目に留まった。さっきの雷で壊れたんだ。

「ちょっとあんた! ジュエルシードはユーノのモノなんでしょうが! 返しなさいよ!」

「君たちは・・・?」

アリサちゃんとすずかちゃんを見て、ほんの少しだけど表情が曇ったように見えた。

「あたしはアリサ・バニングス! これからはあたしもジュエルシードの探索を手伝うわ、憶えておきなさい!」

「私は月村すずか! アリサちゃんと同じ、大切な友達の為にジュエルシードを集める!」

「っ!!・・・そう。だったら容赦しない。次に会ったら、覚悟して」

フェイトちゃんはそう言い捨てて、私たちに背を向けた。アリサちゃんが「待ちなさいよ!」って呼び止めるけど、フラフラながらフェイトちゃんについて行くアルフさんが「オオオオオオオオッ!!」雄叫びを上げた。
本能が告げてくる。今立ち向かったらダメだって。アリサちゃんも感じ取ったみたいで、今度こそ去って行こうとするフェイトちゃんとアルフさんを止めなかった。フェイトちゃん達の姿が完全に消えたところで、緊張の糸が切れた私たちはその場所に座り込んだ。

「・・・手負いの獣はヤバいっていうのがよく判ったわ」

「あはは、こ、怖かったね・・・」

「うん・・・。けど、本当にいいの? アリサちゃん、すずかちゃん。ジュエルシード探しを手伝うっていうの・・・」

ゆっくり落ち着いたところで改めて確認してみる。

「あたしはやるわよ。なのはのあんな姿を見て、もう無視なんて出来ないもの」

「私も放っておけないよ。なのはちゃんのこと、ユーノ君のこと、それにセレネちゃんやエオスちゃんのことも」

アリサちゃんとすずかちゃんの目は真っ直ぐで。だから私は「ありがとう」頭をきちんと下げてお礼を言う。2人はただ「うん♪」って笑って頷いてくれた。ありがとう、本当に。アリサちゃん、すずかちゃん。



 
 

 
後書き
ドヴロ・ウートロ。ドーバル・デン。ドーバル・ヴェチェル。
予想外の前後編となってしまって大慌てだった『神は言っている。魔法少女になる運命だと』。
今話より、アリサとすずかがなのはチームとしてジュエルシード争奪戦に参加します。
2人のバリアジャケットやデバイス、フレイムアイズ・スノーホワイトは、月刊コンプエースにて連載されている『魔法少女リリカルなのはINNOCENT』を参照してください。

 
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