神葬世界×ゴスペル・デイ
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第一物語・後半-日来独立編-
第三十二章 辰の地、戦火は走る《3》
前書き
辰ノ大花側になにやら起こったよう。
気になるスタート!
三人の内、中央に立っている騎神の操縦者は黙っていた。
初めて御茶丸の荒れた言葉を耳にしたからだ。
待機室のなかには彼以外に二人の仲間がいるが、その二人は傍観していた。
彼らもまた、長の解放には反対だった者だ。
しかし、彼らなりの答えを出してこの場に立っている。そして自分達の友であり仲間である隊長は今、その時に直面している。
戦うも良し、戦わないのも良し。逃げるも良し、黄森を攻撃するもの良し。
どんな選択をしようと、彼が選ぶ答えに間違いは無い。
ただ世間から批判を浴びるか否か、それだけの違いだ。
沈黙を破りように、御茶丸は閉じていた口を開く。
映画面|《モニター》から漏れる声は、先程までの荒い言葉遣いではない。
『長は自身の役目を果たそうとしている。なら今、君がすることは何ですか? よく考えてみてください。黄森が気に食わないと理由だけで長の解放を失敗させ、後の神州瑞穂はどうなりますか? そこまで考え、どうにか出来ると思ったのなら君が選んだ答えにとやかく言いはしません』
しかし、
『ただ一時の感情で甘ったれた答えを出したのならば、僕は君を全速力で殴りに行きます』
空気が変わった。
戦場のではない。彼の空気が、だ。
映る御砂丸は口先を曲げ、怒りが沈んでいく彼を見た。
「……そうだよな」
自分は甘かった。
隊長になったことが嬉しくで、きっとどうにかしていたのだろう。
今、自分がなす役目は何なのか。
きっと、それは――
「俺達は長が消える場所を守るんじゃない、俺達は、長を守るんだ。例え長が消えることになったとしても、辰ノ大花は偉大だったと感じられるように――」
「「竜の如く荒々しく、されど可憐であれ」」
仲間の声が合わさった。
「駄目な隊長で悪かったな」
「熱いところがお前らしいんだよ」
「そうですよ。完璧じゃないから僕達がいるんじゃないですか」
どうやら冷静なったようだ。
彼は自身のことを“駄目な隊長”と言っていたが、短時間で平常心を取り戻すことはそう簡単なことではない。
つまりは隊長になるだけの素質が、彼にはあるということだ。
人間誰しも駄目なことろがある。無ければ人類、皆超人だ。
彼らを見て思うことは一つ。
彼女にも、自分の意志で動いてもらいたいところですかねえ。
責任感が人よりも強い彼女は、気付かぬ内に物事の流れで動くようになってしまった。
役目を意識し過ぎた、当たり前の結果だとも言える。
自分達では気の強い彼女をどうにも出来ない、だからそんな彼女とぶつかり合った日来の長ならばどうにか出来るかもしれない。
一人思い、それを心の底に秘める。
自分のやるべきことはそんなことを考えていることではなく、戦況を見定め戦術を練ることだ。
だから伝え損ねたことを、今の彼らに伝える。
『友情深まってるとこ悪いんですが、騎神の発進って出来ますかね? こちらと黄森の連携が上手く取れてなく、日来側と硬直してるんですよね』
「準備は出来てるさ、すぐにでも行けるぜ」
『それは嬉しい返答ですね。ではすぐに出撃してくださいね』
「了解。特に作戦は無いな」
『日来側を殺さなければ何でもいいです。指揮は隊長さんの方が良いでしょうし、任せますよ』
「なら暴れさせてもらうぜ」
そう言い、彼方との通信を切った。
よし、と言う言葉の後、三人は待機室から部屋の外へと出る。
目の前にすぐ見えるのは、青い塗装がなされた騎神・戦竜。
辰ノ大花が所有する騎神で、機動力重視なのが特徴だ。
視界には竜を思わせるような頭部が見え、下半身は加速機が備え付けられていた。
待機中の戦竜を見ながら、操縦席へと足を運んで行く。
歩いて騎神の背後。戦竜の背中から多数のケーブルが、外に設置されている一つのコックピットの役目を果たす先端が尖ったカプセル状の操縦席と繋がっている。
既にそこには出撃の準備のために、機械部の整備班が数名いた。
視線がこちらに向いたので、手を挙げ出撃することを伝える。
彼方はそれを確認して、慌ただしく作業の速度を上げた。
それを見ながら、
「長が消える前提で物事を進める。皮肉なものだな」
隊長である彼は、二人に愚痴を漏らすように言った。
すると三人のなかで最も弱そうに見える茶髪の少年が、
「ほんとですね。でも辰ノ大花の魂がこの身に有る限り、長は俺達と共にありますよ」
彼には似合わない言葉を言ったことで、同時に二人は彼を笑った。
「な、なんですか急に笑って。そんなに面白くありませんでしたよ」
「格好いい台詞はお前には似合わねえや」
茶髪の少年に向かって声を出す、染めたのか緑髪の少年は笑いを堪えて言う。
「何時も教室の席で一人、小説読んでる奴が言うとこんなに面白いのな」
「なんだよ! こんな時ぐらい格好付けてもいいだろ!」
「うるさいぞ、二人共」
「ごめん」
「あいよー」
同時に返ってきた。
「これから戦場となっている西貿易区域周辺に向かうわけだが、俺達は攻撃専門だ。日来側には騎神に対抗出来るものが限られているが、もしそれらに遭遇してしまったなら優先的にそれを潰せ」
「戦力を削ぐためですか」
「ああ、そう言うことだ。だが無理はせず、勝てないと判断した場合は待避しろ。いいな?」
「量産機のオレ達ならまだしも、隊長機のお前に限ってそれは無いだろ」
「そうだと願いたいものだな」
操縦席に近付く彼らの元に、整備班の者達が来る。
状況報告をしに来たのだ。
背後に部下である学勢を置き、長年辰ノ大花の騎神の整備を携わってきた爺さんが説明のため映画面を表示し、口を動かす。
「三機とも良好だ。空中戦使用にしてあるから燃料の残量には気を付けるんだぞ」
映画面には倉庫に収められた騎神の正面の姿が映し出されており、下半身である脚の部分を見ると人型騎神の特徴である人のような脚は無い。
代わりに流魔結晶を使った脚型加速機|《レッグスラスター》が備え付けられ、肩と腰回りを専用の機械で固定している状態だ。
爺さんは説明を続け、
「装備は流魔刀と実弾の短機関銃、流魔弾の長銃だ。装備してある流魔刀は流魔を注入しなければ短刀、すれば最大長さ十メートル越えの長刀になるぞ」
「他国との争いが何時起こるか分からない状態では、その程度の装備になることは仕方無いか」
「お前さんらは学勢のなかでも最も騎神の操縦に慣れている。実績もなかなかいいからな、準備万端とは言えないが戦えるだろ」
「他人事だな」
「俺が若かりし頃は――」
「爺さんの自慢話は帰ってから付き合うから、出撃前に疲れさせないでくれ」
一度話したら当分はその話を聞くことになる。
時間の無駄だし、まず今はそのために来たのではない。
三人は爺さんを越え、操縦席へと逃げるように足早に向かう。
「全く、人の話を聞かんとはまともな大人にならんぞお」
「そう言ってる爺さんは四六時中、機械のことばっか考えるじゃん。それがまともとも思えないんですよねー」
「俺は別だ、特別枠だ」
「なんだしょりゃあ」
無駄口を叩きながら、三人はカプセル状の操縦席を開き、中へと入る。
戦闘機よりも広い操縦席だが、中には騎神を操縦するようなものはない。
あるのは顔全体を覆うヘルメットだけだ。
それもそうだ。騎神・戦竜は同一式の騎神だ。
個別式の騎神はOSを持っており、操縦者が命令した通りに動く。そのため操縦者が騎神に寄り添うようにいるのが特徴だ。
そして同一式とは個別式の騎神とは違い、OSと呼ばれるものは持たない。ヘルメットにより意識を騎神へと送り込み、自身が騎神となり戦う。
操縦者の身体はその間、操縦席のなかで植物状態のまま生き続ける。
このため同一式は欠点があり、操縦席が破壊されると特別な処置を施さないと元の身体には帰れないこと。
それと元の身体を失うと、永久に人には戻れないこと。
更には長い間、同一式の騎神に意識を留めておくと元の身体に帰れない場合がある。しかし、そのようになるのは一ヶ月以上の月日が必要なため、なる可能性は無いに等しい。
またこれを利用して自身の意思を騎神に留め、半永久の命を得ようと考える者もいる。
生身が朽ち果てたとして、意識は消えないのか。と各国で議論が行われたが、どうやら消えないようである。
意思を伝える性質がある流魔の作用ではないか、と言うのが最も有力な説であるが詳しいことはまだ分からない。
自分達はこれからそんな騎神に意識を送り込むわけだが、当然自分達は騎神に意識を残そうなどとは思わない。
何時もと違う高さで世界が広がり、自由に空を飛べるあの感覚は何時体験しても胸を踊らせるが、それは地上で生きているからこそ得られるものだ。
その感覚はこれからも地上で生き続ければ味わえるのだから、留めようと考えること自体馬鹿らしいものである。
操縦席へと身を下ろし、ヘルメットを頭から被せる。
青く塗装された透明なアイシールドから外にいる整備班を見て、彼らに準備完了の合図を送る。
外から意識を騎神へと送り込む準備が始まり、操縦者の体調を確認、脈数や血圧など細やかなところを確認した後、
「これから意識を騎神へと送り込むが、心の準備は出来たか?」
肯定の意を、手を挙げることで示す。
外からそれを確信して、それを開始する。
「よし、それじゃあ行くぞ。五秒前、四、三、二、一」
零、と聞こえると同時に睡魔に襲われたような感覚を覚え、ゆっくりと視界が閉じていった。
抜け殻のような彼らを見て、意識は無事離れたことを確認した。後は騎神が起動すれば完了となる。
しばし間を置き、息を吹き返したように騎神が起動した。
唸るように機械音が鳴り、三機の騎神の頭部が動く。
『送り込み完了』
『こちらも完了です』
『おー、高い高い』
三人はそれぞれ視界を動かしたり、手を動かしたりする。
まだ機体は固定されているため、動きを確かめる範囲は限られているが出撃した時にでも確かめればいい。
「出撃体勢に入れ、さっさと行くぜ」
『機械心に火が点いたな』
二機は頷く。
ああなっては言うことを聞くのが一番だ。面倒事になる前に出撃体勢へと入るため、早々に脚型加速機を噴かす。
正面。倉庫の扉が開き、外の光に倉庫内が照らされる。
「固定装置解除。指定された位置まで移動しときな」
爺さんの声が届く頃には、騎神を固定していた装置が離れていた。
加速機により機体は浮いているため、初めは揺れるも姿勢を保つ。
次に腰装着型加速機|《ウエストスラスター》の出力を徐々に上げ、ゆっくりと前進し外へと出る。
日射しの下、滑走路に青の騎神が現れる。
体長機を中心とし、左右に一機ずつ量産機が並ぶ。
背には短機関銃と長銃、両腰には二本の流魔刀の柄が見える。
地を滑るように進み、赤のマークが見えるのでそこまで行き、そして留まる。
三機は横一列に並ぶように、滑走路の最先端まで引かれている二つ白線の間にそれぞれ並ぶ。
上下に揺れる身体を制御しながら、蒼天の空の下に青が光る。
『聞こえてるか。聞こえるなら応答しろ』
耳が音を捉らえたのと感覚と同じに、違和感無く声が届く。
機体の動作に異常は見られなかったのを確認し、すぐに応答する。
『聞こえている』
『よし、ならいい。これから順に出撃し、低空飛行のまま西貿易区域に向かえ』
『日来の者達に存在を伏せるためですか。しかし、すぐにバレると思うんですけど』
『熱探知なら幾らか潜めるけど、流魔探知やられたら普通にお仕舞いだな』
『そんなことは知ってるわ、ボケ。戦闘艦の邪魔になるからに決まってるだろうが』
『爺さんの機嫌が悪くなる前にさっさと出撃したいから、早くカウントを頼む』
整備班の者達にそう伝え、彼らは老人とは違いすぐ動いてくれた。
聴覚機器から爺さんの反抗の言葉が聞こえるが、無視してカウントの時を待つ。
先程まで吹いていた風が止み、時が止まったように思えた。
滑走路の向こう側を見ながら、
『これから出撃開始のカウントダウンを行います。本戦闘において隊長機をA1とし、量産機は右の順にA2、A3とします』
『オレってA3かよ。一番尻の方じゃねえか』
『じゃあ、変わりましょうか?』
『変えなくていい。呼び名など分かればそれでいい』
『それじゃ、今日からお前はナルシストクールガイな』
『……あ?』
『冗談だって、冗談に決まってるだろ。全く、それくらい見分けろって』
絶対に冗談ではなかった、と皆思ったが彼のためを思って口にはしなかった。
戸惑いながらも、
『カウント開始してもいいですか?』
『すまない、開始してくれ』
『了解。それでは加速機を噴かし、十秒前』
唸りを強くし、前屈みに身を倒す。
九、八、七、六、五と数え、零に近付くにつれ加速機の出力を上げて行く。
隊長機の騎神が右手を前に出し、機体を支えるように前に出した手の指を全て下に向ける。
この方が彼にしてみればバランスを取り易く、クラウチングスタートのようで出撃し易いからだ。
『四、三、二、一、零――!』
と同時に、加速機を爆発させる勢いで隊長機が行った。
滑走路を高速で行き、翼状の腰装着型加速機を少し開き更に加速する。
追いかけるように二機の量産機が続き、その二機も同じ動作を行う。
流魔光によって出来た青の軌跡が三本現れ、中央を先頭にし飛翔した。
辺りには、騎神の加速機による音だけが響いていた。
後書き
隊長さんがやる気を出し、戦場へと向かって行きましたね。
果たして言った通り、日来側とまともに戦ってくれるのでしょうか?
そ・れ・よ・り・も――!
騎神の登場じゃ――――!!
ロボットじゃ――――!!
ガン○――ム――――!!
男の方なら燃えてしまう、ロボットの登場です。
騎神。God of night, と言うべきでしょうか。
この騎神は各国が絶対持っておかなければいけなない、持っておかないといけないものです。
三次元戦闘を可能にし、量産機でもかなり活躍出来る品物です。
量産機はいわゆる雑魚ですが、この作品ではそんな扱いはさせたくありません。
経験を積んだ者が呆気なく撃沈されたら、自分はかなり涙目です。
だからよくロボットアニメでは敵側が好きになるので、むしろ敵をバンバン殺していく主人公が大嫌いです。
――以上、作者の好みの話でした。
各国にも騎神はあり、国が違えばそりゃあ違う騎神を造りますし、国内でも地域によっては独自の騎神を造っていたりします。
そう簡単に造れるわけではなく、騎神と言えども特に実戦機がかなり少ないです。
戦闘用だとしても、それは実戦機ではなく実戦訓練機としての役目の方が強いです。
まあ、つまり騎神は貴重なものだと言うことです。
次回は西貿易区域の戦闘から始まります。
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