東方小噺
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種族魔法使いと職業魔法使い
前書き
即興で書いた話。お題メーカー第三弾
「霧雨魔理沙」と「パチュリー・ノーレッジ」が「無駄話」するだけの話
小話っぽい量で終わって満足。いつもこれくらいにしたい
魔理沙の口調が不安定っぽいけど、まあ原作もこんなもんだしで放り投げるぜ
「眉根にシワ作ってどうしたのよ。私が怒られてるみたいでいい気はしない」
「怒らないわよ。まあ正直、泥棒はロクな奴じゃないと思っているわ」
図書館の片隅、魔道書に囲まれた空間の中でこの部屋の主、パチュリー・ノーレッジはそう言った。
カコン。ルークがポーンの首を掻き切るようにその駒を叩き落とす。
「偉く唐突だな。困り事なら相談に乗ろうか」
ビショップが動き代わりのポーンが奪われる。取ったばかりのポーンを指で回しながら魔理沙が言う。
パチュリーはその言葉に眉根を寄せ、本に落としていた視線を盤上へと向ける。ページを一つ捲り、自らのポーンへと手を伸ばす。
「言った私がバカだったわ」
「そうか。流石の私でもバカを治す薬は持ってない」
「そういう意味ではないのだけれどね……」
淡々と、怒りもせずパチュリーは呟く。盤上を難しい顔で眺めている魔理沙を一目見、本に視線を落とす。喉が渇いたので紅茶を飲み、温くなっていることに気づき手を叩く。
「誰か」
「はいはーい。今変えますねー」
この図書館に住み着いている小悪魔。小間使いとして使っているそれが新しいポットを持ってくる。それをそぎ直し、パチュリーは一口。蒸した茶葉の匂いと舌に感じる僅かな苦味、そして後から来る酸味と流れていく清涼感。喉を焼く熱さと湧き上がってくる芳醇な香り。レモンティー。熱いそれをふー、ふーと息をかけて一口、そして二口。熱気が眼鏡を曇らすのも気にせず。
「……」
頭を使っているからだろう、少し甘さが欲しくなりパチュリーは砂糖を落とす。ブロックを二つ。丁度いい、ではなく甘い、とハッキリ感じるくらいの方が頭に巡るのだ。
「そう言えば知ってるか。こないだその、あれだ、何とかって寺。あそこの風呂が吹っ飛んだらしい」
「ああ、話には聞いたわ。それと地底の主の妹が変態だとか」
「らしいな。文の奴もまだ見つからないし、全くどうなってるのかしらね、と!」
迫ったパチュリーのルークを魔理沙のナイトは躱す。さてどうするべきか。パチュリーは考える。魔理沙のナイトはパチュリーのルークを射程においた。回避してもいいが、そうすれば陣地の中に入ってきてしまう。
だがこれも既に読んでいた手だ。こちらのポーンを一歩前へ。ほうっておけば後二つでこのポーンは即席クイーンだ。
「げ。どうしようかしらこれ。頭は使いたくないぜ」
「パワーではどうしようもないわよ。そう言えば、こないだ言ってた魔術の方はどうなったの」
「うーん……ああ、あれは特に問題はないかな。その為に今日ここに来たわけだ」
「つまり、また盗りに来たのね」
「借りてくだけだぜ。私はちゃんと真正面から入ってきたお客さんだ、っと」
「戯言を。手が欲しいのならアリスの方にでも行きなさい。私は暇じゃない」
飲み終わり、二杯目のお茶を注ぐ。今度はミルクを少し。酸味が抑えられまろやかになったそれを一口啜り、読み終わった本を閉じる。眼鏡を外し、目元を揉む。最近すし詰めで体にも疲れがたまっている。機会があれば門番にでもマッサージをして貰おうか。もっとも、こないだ来たわけだから当分は来そうにないが。
「こないだ行ったとき紅茶を人形にかけちゃたんだ。それで怒って暫くは会うのが怖いわ」
「自業自得じゃない。だからってここに来ないで欲しいわね」
「魔術の相談ができて本があるのはあそことここくらいだからだ。簡単に入れたぜ。文句があるなら門番に行ったらどうなのよ? なんたって門番なんだ」
近くにいたキングを動かしをポーンを取りに魔理沙は動く。この好きにこちらはナイトは囲わせてもらうとしよう。
「あの子は弾幕が得意じゃないのよ。肉体技能なら任せられるんだけどね。得手不得手くらい弁えてるわ」
「だから怒らないってわけか。優しいのね」
「許してるわけじゃないわよ。文句は言うし怒ってるわ。いくら不得手だろうと仕事を全うできないのは本人の不始末。ただ、実質の上司であるレミィが罰を与えてるからね」
「吸血鬼の罰か。怖い怖い。私は怒られたくないわね」
ポーンを取ったキングがそのまま前へ進む。キングとクイーン、交互にパチュリーの陣地へと攻め入る。
それを交わしつつパチュリーはお茶請けのクッキーを一枚パクリ。こないだ本を借りに来た咲夜からの差し入れだ。全くもって完璧な出来で美味しいが、たまに明らかに砂糖でなく塩で作られたのが混ざっているから気が抜けない。わざとなのか、天然なのか。全く困ったものだ。
「本ってすごいよな。字がたくさん。辞典並みに厚いやつなんて書く奴を尊敬する」
「魔法の研究をしていれば、似たようなものになるんじゃないの」
「それはそうだけどさ。まあ凄いなって。あとパピルスって紙あるじゃないか、なんか動物みたいな名前よね」
「ああ、確かに知らなければそう思ってしまいそうではあるわね」
「パピは首長くてもふもふでルスはなんか小さそうだよな」
「そう?」
パチュリーとしてはパピは首の短い羊のような姿で、ルスは地を這っているイメージだった。
「ああ。あと和紙って凄い長持ちするんだな」
「ちゃんとしたものは千年以上劣化せず持つわよ。長く伝えるものには最適ではあるわ。まあ、魔術をかけた紙とどっちが保つかは術者によるでしょうけど」
「私なら百万年は持つぜ」
「三日と立たず無くすと思うわ。それかゴミに埋もれるか」
時間とともに盤上の駒が減っていく。既に半分近くの駒がその首を狩られていた。
既にこの勝負も参戦目だ。今のところ互いに一戦一敗。もっとも、パチュリーは本を読みながらだし魔理沙は気分で適当に。全力ではないただの遊びだ。
魔理沙もお茶と菓子を食べ、糖分を補給する。恐らくもう少しで決着はつくだろう。
コマを動かそうと伸ばしたパチュリーの腕。ふいにその時、魔理沙が身を乗り出しパチュリーのメガネを取る。
「ちょっと、返しなさいよ」
「いや、気になっててさ。どうなってるんだこれ」
取った眼鏡をかけて魔理沙は辺りを見る。慣れない世界に少し、魔理沙は視界が歪む。
「香霖のと何か感じが違うな」
「別段、目が悪いわけではないからね。疲れを抑えたり、後は魔力光を見たり。色々と処置がしてあるのよ」
「へーそりゃいい。よかったら貰ってやってもいいぜ」
「上げないわよ」
身を乗り出したパチュリーが眼鏡を奪い返す。
「そう怒るなよ。盗りゃしないって」
「怒ってないわよ」
ふと、そこで初めてパチュリーは自分から魔理沙へと話題を降る。
「怒るっていうのがどう言う意味を持つか、知ってる?」
「ん? 単純に悪いことをしたとか、ムカつくってことじゃないのか?」
「それはどちらかというと原因ね。怒るという動作や感情、そのモノの意味よ」
奪い返した眼鏡を見る。ついている指紋に軽くため息を吐き、服の袖で拭う。魔法で水を出して濡らし、もう一度。綺麗になったそれをかけ直す。
「怒られたらどう思う?」
「嫌だな。人にもよるけどさ。霊夢なんかだったらいつものことだから聞き流すけど、紫や聖とかは怖いわね。次からはしないように気をつけるさ」
「そう。ではもしあなたが怒る側だとして、小さな子供がイタズラをしたら本気で怒る?」
「流石にそんなことはしないぜ。そこまで大人気なくはない。ただ、もうしないように怒るは怒るけど」
「その通りよ」
本に目線を落としたまま、パチュリーは言う。
「次からはしないように、次は直すように。そういう思いがあるからこそ、怒るという行為はあるの」
「ああ、なるほど。確かにそういわれればそうかもしれないわね」
「事実、幼い子供には本気で怒らない。大人だから。子供だからしょうがない、そう思ってるから。でも、それでも次には直すようにと怒るは怒る。もうしないようになってくれると、期待するから」
どうでもよさそうに、パチュリーは続ける。
「つまりは「期待」の現れ。直ってくる、直してくれると信じる思い。でももし、ほんとうにどうでもよかったら。何度言っても直さず、もう駄目なのだと諦めたら。期待するに値しない、そう思ってしまえる相手がいたら、そんな仲だったら。きっと「怒る」何て事はしないでしょうね。疲れるだけだもの」
「仲がいいから言わないってこともあるんじゃないの?」
「それもあるわね。何しても許すという仲や、許容の心が広い人も、いるでしょうね。若しくは、それが相手の味だと思ったりとか」
「なるほどだな。勉強になりましたわよ。――チェック」
魔理沙が推し進めた駒を見て溜息をつく。確かに私のキングに王手がかけられている。だが
「キングでチェックをかける人がどこにいるのよ……ルール違反よ」
「私の王はいつでも全力全開なのさ」
そう言って魔理沙は立ち上がる。いつの間にかそのバッグには本が突っ込まれているのにパチュリーは気づく。その視線に魔理沙も気づきつつ箒にまたがる。魔力がこもり、いつでも飛び出せる状態になる。
「何してるの。帰るなら帰りなさい」
「……何も言わないのか? 取り返そうとして魔法を打つとか」
「魔力で守ってあるとはいえ、ここですれば本が散らばるわ。今更よ」
「そりゃ珍しい。今日は怒らないんだな。最初は怒り顔だったのに」
「怒る?」
そう言って、パチュリーはワラった。
「安心しなさい。そんなことしないわ。だって私とあなたの仲じゃない」
後書き
約4k。小噺なり
最後が微ホラーっぽくなってしまった。解釈はご自由に
パピルスと和紙ぐらいしか無駄話らしい無駄話じゃなくて書いたあとで後悔
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