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戦国異伝

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第百二十三話 拝領その十二

「怪しい者はここにも殿のお傍にも」
「御主もそう言うか」
「ここは社、血の穢れは忌む場所です」
 このことは法度だ、何しろ場所が場所だ。
 しかしこの場を離れれば、だった。
「ですがそれでも」
「この社を離れればか」
「それがし、殿のお言葉とあらば」
「そう言うことはない。ここは聖なる場ではないか」
 信長は雪斎の言葉から言う。
「そうじゃな」
「それはその通りでありますが」
「聖なる場に怪しい者は来ることは出来ぬわ」 
 聖の前に怪は跳ね返されるというのだ。
「だからよいではないか」
「安心してよいと」
「そうじゃ」
 信長が言うにはそういうことだった。
「ここは別格じゃ、社の中でもな」
「それはその通りであります」
 雪斎もこう返す。
「拙僧、仏僧でありますがここの聖なるものはよく感じます」
「八百万の神々を感じるな」
「まさに」
 周囲のその木々や社、その間から見える空まで見ての言葉だ。
「こうしたものを感じるのはここでだけであります」
「ではじゃ」
 信長はあらためて言う。
「そこまで言う必要はない」
「では抑えよと」
「そういうことじゃ。伊勢の社は邪なるものを退ける」
 信長は言いながらこうも述べた。
「宮司もまたしっかりとしておるからな」
「宮司の方々も」
「戦国にあってよく今まで守ってくれたわ」
 この伊勢をだというのだ。
「苦労しながらもな」
「確かに。戦乱で見向きもされなかったというのに」
「よく持ち堪えてきましたな」
「そのことだけでも違いますな」
「見事でありますな」
「そうじゃ。ことをはじめることは実に難しい」
 所謂創業である、ことをはじめ立たせることは何につけても困難でそれは信長だけのことではなかった。
「鎌倉幕府や足利幕府もな」
「まずははじまりましたな」
 細川が応れる。
「しかしその後は」
「保つこともまた難しいのう」 
 守成である、それもまた厄介なものだというのだ。
「実にな」
「唐の太宗の話ですな」
「そうじゃ、魏徴が言っておったな」
 よく平手が例えられる諌臣だ、賢人としても知られている。
「どちらも同じだけ難しいとな」
「でしたな」
「社も同じじゃ」
 国だけではないというのだ。
「やはり潰さぬのは難しい」
「伊勢はそれが出来ていますか」
「そうじゃ、そしてそれをしたのが」
「宮司の方々でありますな」
「それでどうして悪いと言えよう」
 銭がない為せねばならぬが出来ないことが多く荒れはしていた、しかし潰さなかった彼等の功を見ての言葉だ。
「立派じゃ」
「その立派な宮司の方々がおられるからこそ」
「この社は邪なるものを退けるわ」
「左様でありますか」
「そうした者は最初から入られぬわ」
 信長は確かな声で述べていく。 
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