ソードアート・オンラインーツインズー
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SAO編-白百合の刃-
SAO39-秘められた力の持ち主
「ハッ!」
スキルは使ってこないが、二刀流のスラッシュリザードマンにカタナスキル『幻月』で上下ランダムに斬りつけ、ポリゴンの欠片となって消滅した。
「次!」
足を止めることなく次のモンスターを倒すために足を動かし続ける。止まるのは余裕と多少の隙と終わった時だ。まだまだ動ける。
私達は裏層五十五層『ザトルース』にある大自然の迷路という森林ダンジョン攻略中に最初の難関を迎えてしまった。私達がそこに足を踏み込んだ時に大量のモンスターが発生するイベントのようで、次々とモンスターが私達をゲームオーバーにしようと襲ってくる。
幸いなことに、それだけで済まされている。今の私には何も問題はない、はず。
あの時の私も、今のように余裕があって強かったら、今ごとサチ達は……。
「っ!」
しまった。
蘇った過去に浸っている場合ではなかったのに、不意にも私は油断してしまい隙を作ってしまった。気がついた時には刺々しいイノシシ系のモンスター、ニードルボアが突進しくるのが映っていた。
一瞬の後悔。その一瞬だけで私は回避できる時間を失ってしまった。
まずい、反応が遅れた。回避できない、直撃するっ……!
「後ろに少し下がったほうがいいわよ」
「!」
狙撃者の声が聞こえた。
私は理解できなかったけど、咄嗟に反応して一歩分後ろに下がる。下がったところで私が食らうのは仕方がないと諦めていた瞬間、右からものすごい勢いと速さでニードルボアの横腹に激突して左側へ飛んで行った。
今のは……投剣? それにしては威力もスピードも格段に違っていた気がする。まるで弾丸のようだった。
右から物が飛んできたので、右へと視線を向ける。視界に映ったのは通常のモンスターとは違って、攻撃する時にスピードが加速するダッシュウルフの噛みつき攻撃を避け、にっこりと余裕な態度でブイサインをしている狙撃者だった。位置的にも声をかけたのも見れば、狙撃者が助けてくれたんだろう。
「どう? すごいでしょ?」
そう言うとダッシュウルフの突進、スピードが加速した噛みつき攻撃をしゃがんで回避する。同時に短剣を上投げだした。すると銃弾のような速さでダッシュウルフのお腹に激突して上空へと浮かばせた。
なんだあれは? 短剣スキルの一つなのか? 弾丸というか、ミサイルみたいに飛んで行った。短剣は投剣のように投げられる使用になっていたっけ? いや、それだったら他のみんなも使っているはずだ。便利すぎる。
となると……。
「白の剣士!」
「は、はい!」
「あとはよろしくね!」
「え?」
そういうと敬礼のポーズをしてその場から離れて行った。入れ替わると同時に、狙撃者を狙っていたモンスターがこっちに襲いかかってきた。
「ちょ、なんで!?」
ニードルボアが体を丸め、跳ねながら突進攻撃を避ける。背後に回って、カタナスキル『辻風』で居合いのかまえから一瞬で斬りつける。その直後に反撃を与えないようにカタナスキル『十文字』で右から左へ斬り払って上から下に、スキル名の通りに十字に斬りつけた。
続いてファイターゴブリンという、ボクシングスタイル体術スキルが特徴のゴブリンとスラッシュリザードマンが連携して攻撃をしかけてくる。
私は回避をしつつカタナを鞘に収め、ウインドウを操作する。武器をカタナから背中の長棍棒という、細長い棍棒に手をとり、二人かがりの連携攻撃を避けながら振るい攻撃をする、ヒットアンドウェイを繰り返していた。
そしてモンスターのHPがだいぶ減ってきたところで、棍棒スキル『スコール・ストライク』赤色のエフェクトを纏いながら9回連続で突いた後にとどめに強力な突きを放ち、スラッシュリザードマンの二刀の振りをかわしてから『スター・シューター』という輝く光を放ちながら、星の頂点を5連続突いた後に中心を狙って突きを放つ攻撃で倒して行った。
「まだ……いるのね」
周囲を見渡せば狙撃者が短剣でモンスターの攻撃を防ぎつつ、かわしてから投剣と威力のある短剣を飛ばしながら次々と倒していく。さっきから少々気になっていた爆発音はエックスが片手斧をトマホークのように投げて当たると爆発音が響いて、爆煙と共にモンスターを消している。
短剣も斧を投げるのは今まで見たことない。つまりは、あの二人は“私と同じく特殊なスキル”を持っている。いつのまにか手に入れていた唯一無二のスキルがここにもいるとは……すっごく頼りになる。
「でも、まぁ……ともかく、ここを抜け出さないことには……」
噛まれると状態が毒になる、ブラッドウルフが噛みついてくるが、ひらりと右回転して回避して『アクセル・バレット』で強力な突きをくらわせて飛ばした。
「なにも解決しないわね」
あの二人にはどうやって手に入れたのか聞きたいけど、スキルの詮索はマナー違反だし、諦めるとしよう。今は最初の難関を突破することだけを考えて、動いて切り抜けよう。
私は勢いのままブラッドウルフに攻撃の追撃をくらわせようと、長棍棒からカタナへ変えようとしていた時だった。
「あ……やべっ」
ニードルボアが勢い良くこちらに突進してきたのを不覚にも気がつかずにウインドウを操作してしまった。そんなわけで、今の私は隙だらけで相手にとっては絶好のチャンスとなっている。
HPが減る覚悟はしたので、ダメージを食らうことを受け入れ、反撃をしようとした瞬間、また横から突いてきてボアの横腹に刺さり、そのままボアは倒された。
「あ、あの、大丈夫でしたか」
助けてくれたのは、性格とは裏腹に全身ゴツイくてデザインが禍々しい鎧姿で、鎧と同様禍々しい片手槍とゴツゴツとした大きな盾を装備している鋼の騎士だった。言っちゃ悪いけど、一瞬新手の騎士系モンスターだと思った。
「あ、うん、大丈夫だよ。ありがとう」
お礼を言い、カタナを抜いてからの先ほど棍棒で突いたブラッドウルフを斬りつけた。
……先ほどボアを倒した時、狙撃者のように物を飛ばして助けてはくれたけど、鋼の騎士が飛ばしたのは槍の矛先、それが見えた。あれも私や赤の戦士、鋼の騎士と同様なスキルなんだろう。
ブラッドウルフを斬りつけ、相手の攻撃を回避しながら鋼の騎士を眺めていると、彼女は盾で防いで片手槍で突いた後に、追撃で槍の矛先が蛇のようにしなやかな動きで飛ばし、突いていた。
鞭のようにしなやか動きと速さで、槍の弱点である真横のモンスターに矛先でダメージを与えている。あんな槍を私は見たことも無い。
私や赤の戦士、鋼の騎士や狙撃者、そして漆黒も私達と同様に特殊なスキル。この世界で一つしかない――――ユニークスキル。
そう思うと本当に頼りになるし、自信が嫌でも付いちゃう。だって、それだけここにいる人達は強いってことだから。例え剛姫がユニークスキルを持ってなくても、私達なら今回の裏層攻略も何も問題なく突破できるはずだ。
でも、油断は絶対にしない。何があってもおかしくはないから。
「はああああっ!!」
カタナスキル『辻風』でブラッドウルフを倒し、周囲を見渡せば多すぎると嘆きそうな数がいたモンスターは跡形もなく姿が見受けられなかった。
「なんだ、おもったよりも少なかったなぁ……」
「う~ん……それもそうねぇ、短剣も思った以上に消費しなかったし……」
赤の戦士は期待がはずれたかのように気落ちし、狙撃者は短剣を手のひらで回しながらユニークスキルらしきものに関することを口にしながら背後に後ろ腰に収めていた。
確かに思っていたほど時間はかからなかった。モンスターの数が多く感じていただけで、いうほど多くはなかったか感はある。あるいは私達六人が強かったからか、そのどちらも、か……うん、どちらもだな。
みんな活々していて、まだまだ余裕ありそうな表情をしている。(一人、ヘルムをかぶっているからわからないけど疲労感の印象はない)これなら、普通に行けばボス以外は心配らないかもしれないな。
「まだまだ余裕って顔している?」
「剛姫」
「ちなみに、わたしは楽勝よ」
戦う前と変わらず、ニッコリと笑顔を見せる剛姫。
私もその笑顔を返すように笑った。
「私もまだまだ行けますよ」
「頼もしいわね。でも、ちょっと危ないところあったわよね?」
「ま、まぁ……結果良ければ、それで良し? みたいな……」
「白の剣士もまだまだね。フフッ」
うぐっ。狙撃者や鋼の騎士に助けられるところを見てしまったのね。うん、これは反省しよう。きっとさっきの状況で、助けてもらわなくても一回攻撃を受けても死にやしない。でも、一回の攻撃を食らって状況が変わるのなら、やはり油断とか隙とか作っちゃいけない。そう思うとやっぱり攻撃に当たらない方がシンプルで一番良い方法なんだよね。
何気にモンスターは強かった。裏層じゃなくても、ダンジョン攻略中にいきなり強いモンスターとエンカウントする時がいつかあるかもしれない。その時に、私の回避が通用しなくならないように、気を引き締めて回避率を上げよう。
「さて、第二ランドに入りましょうね……」
「え?」
「ん」
剛姫が剣の先端を向ける先を見ると、和服姿に左腰にカタナを装備したリザードマンが仁王立ちをしていた。
なるほど、第二ランドってそういうことね。
「ちっ、あいつもいるのかよ……」
「あちゃー、あれも倒さなければいけないのねぇ……めんどくさいわ~」
赤の戦士は苛立ちそうな仕草をしつつめんどくさそうな顔をする。狙撃者も同様に苛立ちはしないが仁王立ちをしているリザードマンにため息をついた。
「あれは……サムライドリザードマンですよね」
「鋼の騎士もやはりご存じで?」
「はい。噂でも聞きます。下手なボスよりも厄介なモンスターだと……」
サムライドリザードマン。侍の格好をしたカタナスキルをつかうリザードマン。攻略組では一番厄介かつ今のところボス級を除けば一、二を争う強いモンスターだ。
先ほどの剛姫と鋼の騎士との会話でもあいつの強さはプレイヤーが厄介だと思わせる強さ。集団戦にも単体戦にもめっぽう強く、隙があまり少ない技を連続で使用してくる捉えどころのないが厄介なところ。あと、流しが上手い。時代劇でのお約束である、主役がザコを一斉に斬りつけるように理不尽に強い。私も戦ったことあるけど、聞いていた以上に厄介だった。
「みんな積極的に行かない感じなの?」
剛姫はそう言うと。
「じゃあ、わたしが狩っても構わないよね?」
「はい?」
剛姫は片手剣を左手に持ち替え、うんと言わずに向かって行った。
「ちょ、剛姫!?」
剛姫はご機嫌に剣をぶんぶん回しながら余裕そうな態度で歩いて行った。まるでこれからデートが楽しみで仕方のない女の子のように見えた。
「大丈夫なのかよ、あいつ……」
赤の戦士の言う通り大丈夫なのだろうか。普通ならうんざりする相手なのに、それを楽しみが抑えきれないかのように剛姫は一人で討伐しに歩いて行っているのだ。余程、自分の力がどこまであるのか挑戦したい気分なのか、はたまた自分が強いから楽勝だと思っているのか……。
「……危なくなったら手助けすればいいんじゃない? そう簡単に一瞬でやられないと思うし」
「ケッ、どうだろうな。あいつが単にバカなだけかもしれねぇぞ」
あんたならともかく、剛姫はそうだと思わない……と思う。
「まぁ、いつでも助けられるようにと邪魔しないように待機することだね」
私がそう言うと漆黒を除いた三名は頷いた。でも漆黒は頷かなくてもわかっていると思っている。
先ほどのモンスター集団の戦闘中、たまに剛姫を一瞥したことがあった。それは自然な動作で優雅に決め、圧倒的な力を発揮していたように見えていた。一瞬だけでも他よりも飛び抜けていることを感じさせてしまうのはそれだけ強者の証が宿っているのか、または私の思い過ごしなのか。
本当は実験と称して、剛姫の強さを確認するために見学ではなく助太刀した方が良いに決まっているけど、最終的に裏層をクリアできれば何も問題はないはずだ。丁度見させてもらいますよ。
剛姫が前へ歩くにつれて、距離が縮まってくると仁王立ちをしていたサムライドリザードマンは鞘からカタナを抜き、空へ向けるように先端を向け、両手で構え始めた。いかにも時代劇の勝利BGMが流れそうな侍の構えをしている。
対する剛姫は右手でウインドウを開いてなにかを操作していた。ウインドウを閉じる仕草を終えると、剛姫の後ろ腰に片手用の斧が出現して、右手で片手斧を手に取った。
左手に剣、右手に斧。異なる武器を持つ剛姫はゆっくり距離を縮めていく。サムライドリザードマンは後ろに下がって、剛姫と距離を縮めないように保っている。剛姫が近づくと、サムライドリザードマンは後ろに下がり、剛姫が後ろに下がると、相手は前に進むのを繰り返し、モンスターが積極的に攻撃をしかけることはない。
そして剛姫が前へ一歩を踏み出した瞬間、一気に距離を縮めて左手の剣でサムライドリザードマンのカタナを抑えて、もう片方の斧で薙ぎ払うように攻撃を仕掛けた。
「おお!?」
始まった。
剛姫が左手を持つ剣の突きを仕掛けるとサムライドリザードマンはカタナで流しながら斬りついてきた。
サムライドリザードマンの戦法は基本的にカウンターと隙のない攻撃が多い。相手から攻撃してきたのを上手く流して確実に攻撃を与えてくる。それが多数相手でも十分にやっていけるから倒しにくい厄介なモンスター。そして少しでも隙を見せたら一瞬でダメージを与えるみみっちい隙のない攻撃を仕掛けてくる。
これ以上のボスモンスター意外で厄介なモンスターはいるのだろうか。ほとんどの人があのモンスターとはできるだけ戦いたくはないだろう。
だけど、
それでも、
剛姫には厄介という言葉なんか関係なかった。
「お、おう」
「へぇ~」
赤の戦士と狙撃者が関心の声を漏らしているようだ。私も彼女達と同様にしっかりと見ていたんだから。
サムライドリザードマンがカタナで流しつつ斬りかかろうとするも、流されていた左手を持つ片手剣を振り上げてカタナを弾いた。カウンターを阻止した隙に片手剣と片手斧が蒼色のライトエフェクトに包まれて、交互に左右上下に斬りかかり、計十回目でクロスするように剣と斧で斬りつけた。
間違いない。
剛姫も剣と斧を二刀流のように扱うユニークスキルのプレイヤーだ。
姫のように優雅に舞い振る舞い、剛の如く力強くモンスターを斬り、力を示すその姿はまさに剛の姫――剛姫に相応しいプレイヤーでもあった。
誰もが苦戦はするはずサムライドリザードマンをまるで出来そこないの弟子の稽古のような扱いをしているようにも見え、苦戦するどころか剛姫は戯れるように楽しんでいた。
剛姫が斧で斬り下ろすと、サムライドリザードマンはカタナで防ぎながら瞬時に受け流してカウンターをしかけるも、受け流された斧を強引に斬り下ろしてサムライドリザードマンが持つカタナごと叩き落とすようにカウンターを防ぐ。そして、とどめと言わんばかりに積極的に攻撃を仕掛けた。
赤い閃光が次々とサムライドリザードマンに斬り裂いていく。右の斧、左の剣を振る速さは加速していき容赦なくサムライドリザードマンのHPは削り続けている。
そして剛姫は右の斧で振り上げると、左手の片手剣で強烈な突きを放ってフィニッシュ。
サムライドリザードマンは後ろへ吹っ飛びながら、ポリゴンの欠片となって砕け散って行った。
「はい、終了」
そして剛姫は微笑ましい表情で帰ってくる姿は、違和感などないくらいに恐ろしくはなかった。剛姫がなにかを起こせば、希望にだってはなれるが絶望を与えることもできる。そんな強い人が一緒に裏層を攻略して行くんだ。
そう……思った。
剛姫がサムライドリザードマンを倒した数秒後に異変は起こった。それが今いる場所の安全エリアの解放だった。つまり、安全エリアはモンスター集団と戦い勝てば安全エリアが使える仕様になっていた。
私達は数分間休憩を入れた後、大自然の迷路の探索、マッピングを再開。特に苦労することもなく今日の一日目の攻略は終了した。
そう。
短剣を銃弾に飛ばす『狙撃者』
槍を蛇のように矛先が伸びる『鋼の騎士』
爆発音が響き鳴るトマホークを使う『赤の戦士』
そして、
剣と斧の二刀流かつ裏層攻略組では最強とも感じさせられる『剛姫』
血盟騎士団の『閃光』と対照する居合いつかいの『漆黒』
唯一のスキルを持つ五人と一緒に攻略をしていれば苦労なんて起こりもしなかった、一日目であった。
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