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剣客

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第四章

「そして私を侮辱した者に決闘を挑み相討ちとなった」
「それは聞いていますが」
「それでこの顔ですか」
「陛下の為に」
「私はこの様な者だ」
 自嘲、そして歯痒くさが篭もった言葉だった。
「その私に。忠誠を誓ってくれ命まで賭してくれたのだ」
「だからですか」
「陛下は」
「この者の死を見送ろう」
 こう言ったのである。
「王として。この者の主として」
「左様ですか」
「そうされますか」
「誰にも何も言わせない」
 絶対のものさえ含めてだ。王は言った。
「この者への侮辱も許しはしない」
「わかりました。それでは」
「我々は」
「このうえない愛情を込めて」
 王は目を閉じている若者に告げた。
「そなたを見送ろう」
 こう告げたのである。そうして若者を見送るのだった。
 そしてそれからだ。王がいる荘重な式が行われるのだった。見送りの式が。
 そして若者達はだ。それからもだった。王の為にだ。
 命を捧げていった。彼等はまさに王の忠臣だった。
 だがその彼等がだ。いなくなった時にだ。王は彼等についてだ。こう廷臣達に話したのである。
「では私もだ」
「陛下も?」
「陛下もといいますと」
「私も彼等の下に行こう」
 こう話したのである。
「これからな」
「これからですか」
「そうされるのですか」
「そうだ。間も無くだ」
 行くと言うのだ。己の為に死んだ者の下にだ。
 そして即ちそれは何処か。廷臣達はすぐに察した。それで顔を曇らせて王に言うのだった。
「陛下、その様なことはです」
「不吉なことは仰るべきではありません」
「それは何としても」
「いや、そうなる」
 だが、だった。王はだ。彼等にこう返すのだった。
「私の為に命を捧げた彼等の下に行く運命なのだ」
「それがですか」
「陛下の運命だと」
「そう仰るのですか」
「そうだ。それではだ」
 それ故にだと述べてだ。王はだ。
 それから暫くは孤独に過ごした。そして遂に。
 刺客に襲われ深い傷を負った。最早死が近いことは明らかだった。
 だが鮮血の中でだ。王は微笑み言うのだった。
「これで私も彼等の下に生ける」
 そのことを期待する顔でだ。こう言ってだ。王は瞼を閉じたのである。
 これがヴァロワ朝最後の王アンリ三世の最後だ。この王については今も様々なことが言われている。だがこの王にも命を捧げた者が多くいた。このことは紛れもない事実だったことは歴史にある通りだ。


剣客   完


                          2011・12・24 
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