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戦国異伝

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第百二十三話 拝領その四

「しがないものだった」
「だからこそですか」
「どうも銭は派手には使えぬ」
 それに極めて生真面目な性格だ、それが余計に信行の銭の使い方を制するものになってしまっているのだ。
「怖いわ」
「しかしここはです」
「思い切って使えというのじゃな」
「若し戸惑うことがあれば」
 その時はというと。
「我等にお任せ下さい」
「そして銭を使ってか」
「この度の話を成功させよと」
「失敗は許されぬからか」
「この度の話はそれだけ大きいので」
 だからこそだというのだ。
「その際は是非」
「わかった、ではな」
 信行は村井の言葉に頷いた、そうして彼もまた朝廷との折衷に加わった、織田家は都において蘭奢待拝領に大きく動いていた。
 近衛は明智からその話を聞き思わずその時飲んでいた茶を吹きだしそうになった、そのうえで明智にこう言い返した。
「明智殿、今何と言ったでおじゃるか」
「ですから蘭奢待の拝領を」
 明智はその近衛とは対象的に冷静に返す。
「それをお願いしたいのです」
「何と、あれをでおじゃるか」
「そうです」
「ううむ、それはまた」
 近衛は手にしている茶を動かせなくなっていた、そのうえで言うのだった。
「大きなことを」
「かなり驚いておられますな」
「当然じゃ。明智殿もあれは承知であろう」
「皇室の宝ですな」
「あれを見たことは麻呂もないでおじゃる」
 摂政として朝廷の第一人者である彼ですらだ。
「東大寺も滅多に外に出さぬものでおじゃる」
「そうですな」
「織田殿はそれを拝領したいというでおじゃるか」
「そしてそのことについてです」
 また言う明智だった。
「近衛様からもお力を」
「それはよいとしても」
 近衛にしても反対する理由はなかった、しかしだったのだ。
「あの蘭奢待をとな」
「そして一片を切り取りそれを帝にです」
 献上するというのだ。
「そう考えています」
「帝への献上というにはあまりにも大きなものでおじゃるな」 
 まだ驚きを隠せていない近衛だった。
「織田殿からの朝廷への贈りものはかなりのものとしても」
「大き過ぎますか」
「しかしそれだけ大きいとなると」
 これまで驚くばかりだった近衛の目が変わった、そしてだった。
 その目でこうも言ったのである。
「麻呂としてもな」
「ご協力して頂けますか」
「そうさせてもらう、是非共な」
「それではです」
 明智はそっとあるものを出した、それはというと。
 銭、それに茶器だった。それを近衛に差し出したのだった。
 近衛はその銭と茶器を受け取った、そして言うのである。
「かたじけないのう」
「いえ、織田殿からのお気持ちなので」
「そうでおじゃるか」
「では帝にもお話下さい」
「うむ、任せてもらう」
 近衛は笑みを浮かべて頷いた、そうしてだった。
 近衛は明智との話の後で山科とも話をした、山科もまた既に林から話を受けていてそして近衛に言うのだった。 
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