八条学園怪異譚
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第二十七話 教会の赤マントその一
第二十七話 教会の赤マント
二人は大学の茶道部の部室で博士達と共にいた、そこでろく子が淹れてくれたお茶を飲みながらそのうえで博士に言った。
「ううん、 夏休みに入ったけれど」
「それでもね」
「んっ、ここの使用許可は得ておるぞ」
博士も茶を飲みながら二人に言う。
「ちゃんとな」
「いえ、そういうのじゃなくて」
「夏休みっていいますと」
二人が話すのは夏休み自体のことだった。
「もう滅茶苦茶暑くて」
「日差しが憎い位に強くて」
まさに夏である。
「それでうだって」
「もうたまらなくて」
それでだというのだ。
「お母さんがかき氷食べにお店に来ますよね」
「子供がアイスを買いに」
二人が言うのはこのことだった。
「それが最近今一つ暑くなくて」
「売れてないんですよ」
「涼しいとはならんか」
「はい、ならないです」
「お店的には」
二人はここでも家の店のことを念頭に置いていた、何処までも生粋の商売人の娘なのだ。
「暑くならないと本当に」
「売れないですから」
「お店の品物はかき氷やアイスだけではないじゃろ」
ぬらりひょんがお茶菓子の桃と白の饅頭を食べながら二人に問う。
「他にもあるじゃろ」
「あることはあるけれど」
「それでも夏で涼しいと」
二人はぬらりひょんに対しても口を尖らせて応える。
「お素麺も売れないですし」
「夏限定商品が振るわないんです」
「難しいですね、その辺りは」
夏でもスーツとズボン、色は草色のそれのろく子が言ってきた。今も首を楽しげに伸ばして頭を宙に漂わせている。
「暑いと困りますし涼しいとお店の商品が売れない」
「お店の中はクーラーがありますけれどね」
「それでも何ていうか」
「けれど他の商品の売れ行きはどうですか?」
「あっ、そっちはこれまで通りです」
「好調ですね」
いけているというのだ。
「トンカツ定食も生姜焼き定食も売れてます」
「ハムサンドも野菜サンドも」
「だからまだいいんですね」
「はい、ただ夏用メニューが不調なだけで」
「他は特になんです」
両方の店だった、このことは。
「とりあえず暑くなって欲しいです」
「そう思ってます」
「暑ければあれじゃからな」
ここでまた博士が言う。
「夏バテ防止だの夏だからこそ汗をかけと言ってな」
「そうそう、かえって熱いメニューも売れます」
「そうなるんですけれど」
聖花の店のパン屋の場合はボリュームがあるパンになる、パンも季節によって売れるパンと売れないパンがあるのだ。
「中途半端に涼しいですと」
「そうした宣伝も出来ませんから」
「では思いきり暑いのがよいな」
「夏はそうでないと」
「やっぱりお店の売れ行きにはよくないです」
そうだというのだ。
「カレーも暑い中でこれでもかと汗をかくといいですから」
「カツサンドはスタミナメニューで」
「まあそのうち暑くなるわ」
博士は自分の抹茶を飲みながら答えた。
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